日本水産学会誌掲載報文要旨

閉鎖循環式泡沫分離・硝化システムを用いたヒラメの飼育における飼育水水質と物質収支

鈴木祥広,丸山俊朗,佐藤大輔(宮大工),
神田 猛,道下 保(宮大農)

気液接触・泡沫分離処理,硝化・固液分離処理,および pH ・ 水温調整のプロセスを組み合わせた閉鎖循環式の魚類飼育システム(泡沫分離・硝化システム)を用いて,90 日間にわたってヒラメの飼育実験を行い,飼育水の水質変化と炭素(C),窒素(N),リン(P) の物質収支を求めた。飼育水の DO 飽和度は平均 96%(範囲 88〜99%),濁度 3.1 TU (0.4〜11.5 TU) であった。NH4-N は 1 mg/l 以下に維持されたが,NO3-N は給餌量の累積に伴って増加した。総給餌量に含まれる C の 63% は CO2 として放出され,N の 28% は NO3-N として飼育水に蓄積し,P の 66% は懸濁物として硝化槽に沈殿した。

日水誌, 66(1), 1-9 (2000)

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フレーム型中層トロールによる浮魚類仔稚魚の採集

青木一郎(東大農),三浦汀介(北大水),
今井信幸(泰東製綱),小松輝久(東大海洋研)

網口面積 16 m2 を持つフレーム型中層トロールを製作し,1996 年と 1997 年の夏季に伊豆諸島〜東北沖合海域において浮魚類仔稚魚の採集を行った。ORI ネットでは採集が困難な全長 30 mm 以上の浮魚仔稚魚が採集された。全体に,カタクチイワシが卓越して出現した。多い場合では,全長 30 mm 以上のカタクチイワシ仔稚魚密度は約 70 個体/1,000 m3 と推定された。採集された仔稚魚の最大全長は,カタクチイワシが 80 mm,マイワシが 37 mm,マサバが 82 mm,マアジが 48 mm であった。

日水誌, 66(1), 10-17(2000)

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日本海能登半島近海産ホッコクアカエビの繁殖生態

貞方 勉(石川県水産課)

海深別に採集した個体の経月的解析から以下のことが明らかとなった。本種は 3-4 月に産卵,約 10 ケ月の抱卵期間後の 1-2 月に幼生をふ出し隔年産卵をおこなう。抱卵期間と産卵周期には,生息場水温の低い海域に生息・分布する群に共通する繁殖生態がある。本種は成長が遅く,さらに産卵開始年齢が高いが,産卵数の多いことが再生産に有利となっている。

日水誌, 66(1), 18-24(2000)

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対馬暖流域におけるマダイ耳石のストロンチウム濃度変動

戸嶋 孝(京都海洋セ),荒井修亮(京大情報)

対馬暖流域 5 漁場におけるマダイ 1 歳魚の耳石断面のストロンチウム濃度を,波長分散型 EPMA で分析した。その結果,耳石断面のストロンチウムの相対的な濃度の変動には,変動幅が小さくほぼ一定の値で推移する場合と,耳石の成長過程において一時的に顕著な増加を示す場合の概ね 2 つのパターンが確認された。長崎県沿岸では,前者の変動パターンを持つマダイのみが確認されたが,秋田県沿岸のマダイでは,両方の変動パターンがそれぞれ同数出現した。さらに後者の変動パターンについては,秋田県沿岸だけでなく,京都府沿岸や石川県沿岸で漁獲されたマダイでも確認された。

日水誌, 66(1), 25-32(2000)

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苫小牧沿岸域における底生魚類群集の食性とマクロベントス

西川 潤,園田 武(北大水),
櫻井 泉,瀬戸雅文(道中央水試),
中尾 繁(北大水)

北海道苫小牧沿岸域において採集された 32 種の魚類の胃内容物から,カレイ類を含む底生魚類群集の食性を調べ,さらに魚類群集にとって主な餌生物であるマクロベントスの季節的変動との関係について検討した。その結果,カレイ類は調査期間を通して多毛類のカナブツイソメを専ら利用していた。その他の主要な魚類は 6, 8 月においては稚仔魚類を,8, 9 月においては多毛類のカナブツイソメを,12 月にはアミ類やエビ類を主に補食しており,季節によって異なった餌生物を利用していた。これらの結果は,底生魚類が餌生物を選択するうえで,季節的な餌生物の豊度やサイズによる利用可能性に強く影響を受けていることを示している。特にカナブツイソメの加入の見られる夏期においてカナブツイソメが多くの魚類の重要な餌資源となっていた。

日水誌, 66(1), 33-43(2000)

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神通川と庄川におけるサクラマス親魚の遡上生態

田子泰彦(富山水試)

北陸地方の神通川と庄川において,サクラマス親魚の河川への遡上と滞留状況を 1991〜1995 年に調べた。神通川への遡上は 2〜6 月であり,その盛期は 5 月にあった。遡上親魚の大きさは尾叉長 58.5±4.9 cm,体重 2.8 kg±0.8 kg で,遡上親魚の 74.7% を雌が占めた。庄川中流域における流し網による親魚の捕獲調査では,96.4% の個体が淵で捕獲された。神通川で 4〜6 月に漁獲された個体の 80.2% が空胃であった。これらのことから,サクラマスは河川に遡上後は中流域の淵に滞留し,ほとんど摂餌せずに越夏するものと推測された。サクラマス資源の効率的な増大のためには,淵の保全・復元が極めて重要であると考えられた。

日水誌, 66(1), 44-49(2000)

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ブリにおける実験的細菌性溶血性黄疸と酸化ストレス

伊東尚史(鹿大連農研),毛良明夫(宮崎水試),
村田 寿,吉田照豊,境  正,
山内 清,山崎義弘(宮崎大農),
山口登喜夫(東京医科歯科大),
宇川正治(丸紅飼料)

ブリの細菌性溶血性黄疸と酸化ストレスとの係わりを明らかにするため,ブリに原因菌を接種後,肝臓および血漿の脂質過酸化の程度を調べた。その結果,著しい溶血と黄疸を引き起こした病魚は,対照区と比較して脂質過酸化が顕著に進行していた。すなわち,黄疸ブリは過酷な酸化ストレスを受けていた。したがって,ブリの細菌性溶血性黄疸は,溶血による酸化ストレスの増加により発症すると考えられる。

日水誌, 66 (1), 50-54 (2000)

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アユ精子の運動開始を導くイオン環境の変化

辻 将治(三重大生物資源),
池田和夫,太田博巳(養殖研)

アユ精子の運動開始がどのような要因により起こるのかを調べる目的で,種々の組成の等張溶液で精液を希釈し,希釈直後の運動精子比を測定した。精漿や人工精漿ではほとんどの精子が運動を行わなかった。mannitol 等張溶液では精子は活発な運動を行ったが,これに KCl 又は NaCl を添加すると濃度に依存して運動開始が抑制された。一方,Ca イオンは K や Na イオンの抑制作用に対して拮抗的に働き,20 mM の濃度では精子の運動率は 94.5% に達した。また人工精漿の酸性化(pH 6.0) によっても高い運動率が導かれた(76.3%)。以上の結果から,アユ精子の運動は,精漿中では高濃度の K と Na イオン,低濃度の Ca と水素イオンといった種々の要因により抑制されていることが明らかとなった。

日水誌, 66 (1), 55-61(2000)

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天然産着卵ふ化情報および飼育幼魚のアイソザイム分析から推定された伊勢湾口トラフグの産卵集団構造

佐藤良三(養殖研日光支所),
鈴木伸洋(瀬戸内海水研),
神谷直明(三重県庁),
辻ヶ堂 諦(三重水技セ),
岡田一宏(三重栽培セ)

1993 年 4 月中・下旬に伊勢湾口産卵場でソリネットにより天然産着卵を採集し,11 曳網地点(St.) の分布,7 St. の産卵指数,4 St. の飼育幼魚の筋肉中 PGM および 2 St. の肝臓中 IDH アイソザイム分析から産卵集団構造を推定した。天然産着卵の一様分布はなく,各 St. の産卵期間は平均 7 日間であり,親魚数の多さが示唆された。PGM-c および IDH-N 遺伝子頻度は東西の海域間で約 0.200, 0.170 の違いから 2 群の存在が示唆されたが,2 系群とするにはさらに検討が必要であろう。稀に出現する遺伝子型および遺伝子頻度から,天然産着卵関与の親魚数が少なくとも 61〜233 尾と推定された。これら遺伝解析の結果は天然産着卵の分布やふ化情報から得られた知見からも裏付けられた。

日水誌, 66 (1), 62-69(2000)

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相模湾における栄養塩類の分布と消長

鎌谷明善,奥  修,辻 久恵,
前田 勝(東水大),山田佳昭(神奈川水総研)

相模湾におけるケイ酸,リン酸,硝酸の鉛直分布と季節変化について 1993 年から 1994 年にかけて調査した。栄養元素の相互の関係を調べてみると,一つの直線(N : P) あるいは曲線(Si : N, Si : P) で回帰できた。これらの関係を過去の資料(15 年前)と比較すると,いずれの成分の濃度範囲もまた組成比においても良い一致が見られた。このように変化が認められなかったことは,湾内の水の滞留時間の短いことに由来するものと判断された。成層が発達している時期の有光層内の栄養塩濃度が,プランクトンの増殖の制限因子として働くまでに低下することもしばしば観測されたが,珪藻の増殖にとって必須なケイ酸が他の元素よりも著しく低下することはなかった。従って現在も,相模湾は珪藻生態系の存続・維持に適した状況にあるといえる。

日水誌, 66 (1), 70-79(2000)

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カタクチイワシ本州太平洋系群の再生産関係

岡田行親,和田時夫(中央水研)

カタクチイワシ本州太平洋系群の 1978〜1994 年級の再生産関係を検討した。親の量は太平洋岸の潮岬以東の観測された産卵量,子の量は子世代が生涯産んだ推定産卵量とした。子の量は潮岬以東の産卵量を過去の研究から推定した体重 1 g あたりの年間産卵量と年別成魚漁獲量の比率で分割して求めた。その再生産関係は 1989 年級を境に異なった。1978〜1988 年級群では親の量は低水準で年々の親と子の量はほぼ同量であったが,1990〜1994 年級では親の量は高水準で年々の親と子の量の関係は大きく変動した。

日水誌, 66 (1), 80-87(2000)

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アマゴ精子の冷蔵保存用希釈液と媒精溶液の検討

太田博巳,鵜沼辰哉,名古屋博之(養殖研)

精子の冷蔵保存用希釈溶液と保存精子の運動開始を導くための溶液の組成について検討した。保存用希釈液の K 濃度は 30 mM が最も高い運動能を維持し,これは希釈時の運動開始を抑制する濃度と一致していた。また,希釈液には K に加えて Ca の添加と pH の調整が不可欠であった。保存した精子の運動開始率を DW (pH 8.0) と 120 mM NaHCO3 液で比較したところ,ほぼ全ての保存条件で NaHCO3 液の方が高い値を示した。この運動率の高さは同濃度の NaCl 液,人工体腔液でも認められ,3 者に有意な差は認められなかった。NaHCO3 液の濃度を変えて比較したところ,運動開始率の向上には 30 mM 以上が,運動の持続には 60 mM 以上の濃度が有効であった。

日水誌, 66 (1), 88-96(2000)

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湾曲板の揚抗力特性に及ぼす縦横比の影響

福田賢吾,胡 夫祥,東海 正,
松田 皎(東水大)

湾曲板の縦横比と揚抗力特性との関係を解明するため,反り比 15%,縦横比 0.5〜6.0 の 9 種類の湾曲板の揚抗力を計測した。その結果,最大揚力係数は縦横比 1.0 で最大値の 1.783 を示したが,縦横比 1.0 から 3.0 までは減少し,縦横比 3.0 以上になると再び増加の傾向を示した。揚抗比は縦横比とともに増加した。この傾向は,Zimmerman による Clark Y 型の揚抗力特性に及ぼす縦横比の影響に関する実験結果とも一致した。航空機と異なり,オッターボードの場合は揚抗比よりも,最大揚力係数の値が重要な指標となる。今回の実験で,最も大きな最大揚力係数を示した縦横比 1.0 の湾曲板について,今後実用性を検討する余地が示唆された。

日水誌, 66 (1), 97-103(2000)

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塩蔵コンブからエタノール抽出したクロロフィル関連化合物の性状とコンブエキスへの利用

形浦宏一,小関聡美,小川裕子,
山崎史人,立野芳明(東和化成・富士研)

エタノールに溶解したクロロフィル a は,光照射すると緑色を呈する数種の成分を生成することを既に報じた。本研究では,好ましい緑色のクロロフィル関連化合物を含む原料を捜すため,塩蔵コンブなど数種の植物原料について,クロロフィル抽出液の収量,色調,臭いなどを比較検討した。その結果,塩蔵コンブからエタノールで抽出したクロロフィル関連化合物が緑色の色調と特有の臭いを付与する上で,コンブエキスに配合するのに好ましいこと,またこの抽出液中には,クロロフィル分子のアロマー化生成物と推定される数成分が含まれていることを知った。

日水誌, 66 (1), 104-109(2000)

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マアジ一夜干しの焼臭成分

笠原賀代子,大澤知恵子(ノートルダム清女大)

塩干品焼臭成分の特徴と生成機構を明らかにするため,マアジの一夜干しを中心に各種試料の揮発性成分を同定した。その結果,干物の主要焼臭成分として同定した 2-メチルプロパナール,2-メチルおよび 3-メチルブタナールはアミノ-カルボニル反応によって生成し,香ばしい焼臭に関与しており,乾燥工程中の脂質酸化の影響を受けていないことが明らかとなった。また,このカルボニル成分の起源物質と考えられるアミノ酸の添加により脂質の酸化は抑制されないものの,増加したカルボニル成分が酸化臭をマスクすることが認められた。

日水誌, 66 (1), 110-117(2000)

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播磨灘南部におけるギムノディニウムおよびシャットネラの潮流による集積(短報)

小野知足,吉松定昭,松岡 聡(香川県赤潮研究所),
吉田陽一(水産環境微生物研究所)

播磨灘南部において大規模に発生した 1987 年の Chattonella antiqua 赤潮および 1995 年の Gymnodinium mikimotoi 赤潮について,潮流等による集積への影響を調べた。両種赤潮共に浮上時間帯の潮流が播磨灘南部に向かう上げ潮時間のピークの時期(小潮に相当)に高密度出現のピークがみられ,潮流が逆向きの下げ潮時間のピークの時期(大潮に相当)に急減がみられた。このような両種の急増および急減の一因として,上げ潮期においては播磨灘南部に向かう潮流の表層水の収束,沈降域で,これらの鞭毛藻類が沈降流に抗して浮上,集積し,また下げ潮期においては集積したプランクトンが比較的流れの速い北流,北東流,または東流にのって灘南部の集積域から移動したことが示唆された。

日水誌, 66 (1), 118-119(2000)

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タイリクバラタナゴ精子の凍結保存(短報)

福田拓己(宇大教),黒倉 寿(東大農),上田高嘉(宇大教)

精子の凍結保存は種々の魚種で可能になっているが,小型魚については報告例は極めて少ない。全長約 5 cm のタイリクバラタナゴから精巣を取り出し,凍結保護物質として DMSO を含む希釈液中に入れ,はさみで刻み穏やかに撹拌した後,ゆっくりとした温度降下で凍結し,液体窒素中で保存した。2 日後および 30 日後に解凍し媒精を行ったところ,受精卵が得られた。採精量の少ない小型魚では,精巣内精子を用いることが精子の凍結保存の有効な一手法と成り得ることが示唆された。

日水誌, 66 (1), 120-121(2000)

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ブリの実験的細菌性溶血性黄疸とその肝臓トリグリセリドヒドロペルオキシド含量(短報)

伊東尚史(鹿大連農研),毛良明夫(宮崎水試),
村田 寿,吉田照豊,境  正,
山内 清,山崎義弘(宮崎大農),山口登喜夫(東医歯大),宇川正治(丸紅飼料)

細菌感染によるブリの黄疸発症と酸化ストレスとの係わりをより明らかにするため,ブリに黄疸原因菌を接種した。その結果,著しい溶血,肝臓および脾臓の肥大,血漿ビリルビン含量の増加がみられ,黄疸が発症した。その発症魚の肝臓トリグリセリドヒドロペルオキシド(TGOOH) 含量は,フォスファチジルコリンヒドロペルオキシド(PCOOH) 含量と同様に,対照(原因菌非接種)区と比べ有意に増加した。すなわち,黄疸発症魚の肝臓ではフォスファチジルコリンと同様に,トリグリセリドも過酸化が進行したことから,細菌感染によるブリの黄疸発症と酸化ストレスとの係わりがより明確となった。

日水誌, 66 (1), 122-123(2000)

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