日本水産学会誌掲載報文要旨

触刺激に対する ζ ポイントと網目に遭遇した魚の前進行動への影響

Martasuganda Sulaeman(鹿大連合農),
小倉芳子,松岡達郎,川村軍蔵(鹿大水)

触刺激に対する ζ ポイント,ζt が網地に遭遇した魚の前進行動の継続に与える影響を調べるため,失明させたコイ,ニジマス,ティラピア,ブルーギルを用いた水槽実験を行った。供試種では,魚体の長さ方向での接触位置により前進後退行動が入れ替わり,ζt ポイントの存在を確認できた。ζt ポイントの位置は種固有で種間で異なる。網地に遭遇した魚の前進継続率は,目合い,縮結によって異なり,ζt ポイントに基づく前進後退行動の分岐モデルに基づいて計算した前進継続確率でよく説明できた。刺網の漁獲過程で網地に遭遇した魚が網目に進入する確率は,ζt ポイントの位置,魚体の大きさと形状,目合いと縮結に影響されると結論した。

日水誌, 65 (6), 991-997 (1999)

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ガザミ幼生の脱皮率に及ぼす EPA と DHA の影響

竹内俊郎,佐藤敦一(東水大),
関谷幸生,清水智仁(日栽協),
渡邉 武(東水大)

n-3 高度不飽和酸(n-3HUFA) であるエイコサペンタエン酸(EPA) とドコサヘキサエン酸(DHA) のガザミ幼生の脱皮および変態に及ぼす影響を明らかにすることを目的に,脱皮・変態率の推移や齢期所要日数,さらに使用した餌料中の脂肪酸含量等を検討した。その結果,ガザミ幼生は EPA と DHA の要求性が異なり,EPA は生残維持に,DHA は成長を速めたり,第 1 齢稚ガニの全甲幅を大きくすることに機能すると推察され,第 3 齢ゾエアに与える餌料中の EPA と DHA の割合がガザミ幼生の大量減耗の防除に重要であることが示唆された。

日水誌, 65 (6), 998-1004 (1999)

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絶滅危惧種ウシモツゴ集団に見られた mtDNA D ループ領域の著しい単型性

大仲知樹(岐阜県魚苗センター),
佐々木裕之(北大水研),
長井健生(碧南海浜水族館),
沼知健一(東海大)

絶滅危惧種であるウシモツゴの mtDNA D ループ領域の制限酵素切断多型(RFLPs) 検出を行った。材料とした愛知県と岐阜県産の飼育標本群ならびに自然標本群で,3 種類のゲノム型だけが検出され,すべての標本群が著しく単型的であり,ゲノム型の分布は水系あるいは地域とほぼ一致していた。これらの結果から,飼育標本群の親が採集されたときは既にそれぞれの水系や地域で単型化していた可能性が示唆された。
また,本亜種の保全には,様々な条件を満たした環境で,3 種類のゲノム型を導入し,型による適応値の違いを調査するような試みがあってよいと考えた。

日水誌, 65 (6), 1005-1009(1999)

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日本海能登半島近海産ホッコクアカエビの成長

貞方 勉(石川県水産課)

卓越年級群の頭胸甲長組成の追跡および産卵周期の解明によって本種の成長を実証的に明らかとした。本種の多くは 5 歳から 6 歳の間で雄から雌に性転換する。雌期では,隔年で 3 回以上の産卵をおこない,7 歳で初めての幼生ふ出をおこなうことから,寿命は 11 歳以上と推定された。この結果は,従来の知見よりも成長は遅く,寿命は長い。成長式として lt=34.15[1−exp {−0.252(t+0.016)}] を得た。ただし,lt は年齢 t の頭胸甲長(mm) である。日本海は本種の分布の最南端に位置するが,成長は世界的にみて最も遅い。これは生息場が日本海固有水の影響を受けるためである。

日水誌, 65 (6), 1010-1022 (1999)

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若狭湾西部海域におけるヒラメの成熟

竹野功璽,濱中雄一(京都海洋セ),
木下 泉(京大農),宮嶋俊明(京都海洋セ)

1992〜1998 年に若狭湾西部海域で漁獲されたヒラメを試料とし,生殖腺の成熟度と GSI から成熟の年齢およびサイズと産卵期を検討した。年齢別の成熟割合は,雌では 2 歳 で 5 %,3 歳以上で 75% 以上,雄では 1 歳 で 5 % 未満,2 歳で 50%,3 歳以上で 80% 以上と推定された。成熟最小全長は,雌 43 cm,雄 32 cm で,雌は 47 cm,雄は 36 cm をそれぞれ超えると 50% 以上が成熟すると推定された。産卵期は,概ね 2 月下旬から 6 月上旬であり,その盛期は 4〜5 月と推察された。

日水誌, 65 (6), 1023-1029

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天然スズキ親魚の成熟および排卵促進のためのホルモン投与方法の検討

牧野 直(千葉栽培セ),
内山雅史,岩波重之,遠山忠次(千葉水試)

捕獲直後のスズキ成魚の腹腔内にヒト胎盤性性腺刺激ホルモン(HCG) とハクレン脳下垂体抽出物(SP) を注射し,排卵誘発効果を通常の人工採卵や水槽内自然産卵との比較により検討した。その結果,HCG と SP を複合投与した場合に良い結果が認められた。また,HCG とシロサケ脳下垂体抽出物(CP) の複合投与実験を行ったところ,採卵 1 回当たりの浮上卵量およびふ化仔魚数は,HCG と SP を複合投与した場合を上回った。これらの結果は,HCG やプベローゲンを単独投与して人工受精卵が得られた過去 7 年間の中で最も良好な年度の結果を有意に上回った。以上のことから,本種の排卵誘導には上記のホルモン剤を複合投与することが有効であると考えられる。

日水誌, 65 (6), 1030-1041

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HCG およびシロサケ脳下垂体投与による天然スズキ親魚の成熟と排卵過程

牧野 直(千葉栽培セ),金子信一(千葉水試),
小島英二(千葉栽培セ),遠山忠次(千葉水試)

捕獲直後のスズキ雌成魚にヒト胎盤性性腺刺激ホルモン(HCG : 139-506 IU/kg 体重)とシロサケ脳下垂体の抽出物(CP : 3.4-26.5 mg/kg 体重)を投与した後,卵巣卵の一部を経時的にカニューラにより採取し,それらの性状を観察するとともに投与前後の魚体重の変化を調べた。それらをもとに排卵時期やホルモン投与量などに検討を加えた。その結果,卵巣卵が第 2 次卵黄球期〜成熟期にある時期にホルモンを投与すると,所要日数は 1〜4 日と変異するものの,排卵まで到達した。また,排卵後 1 日以内に媒精した場合に良好な結果が得られた。投与量はこれまでの試験を総合した結果,HCG 500 IU/kg 前後と CP 20 mg/kg 前後が妥当と推定された。

日水誌, 65 (6), 1042-1053

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中国から輸入された養殖ナメラダマシ Takifugu pseudommus の分類学的検討

原田禎顕(西日本フグ研)

1994 年から 97 年の間に福岡空港に輸入された中国産養殖フグを調べた。供試した 70 尾の,外部形質,骨学的諸形質を,天然フグのそれと比較した。臀ひれの色調は,トラフグ及びナメラダマシと大差なかった。胸ひれ後方の大黒紋の後方に 1 ないし数個の黒斑が一部に認められたが,トラフグ様の不規則黒斑がなく,額骨縦走隆起線の内湾が強くカラスにも似るが,頭蓋骨のプロポーション,腹椎骨数,臀ひれの色調がカラスとは異なるので,ナメラダマシと同定された。

日水誌, 65 (6), 1054-1061

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筑後川河口域におけるカイアシ類群集とスズキ仔稚魚の摂餌

日比野学(京大農),
上田拓史(愛媛大沿環研セ),
田中 克(京大農)

筑後川河口域のスズキ仔稚魚にみられる河川遡上の生態的背景を探るために,仔稚魚の摂餌状態と環境中のカイアシ類の分布を調べた。環境の塩分によって摂餌されていたカイアシ類の種および環境中の優占種は顕著に変化した。特に低塩分域に出現した Sinocalanus sinensis は,環境中の密度が最も高く,かつ摂餌されていた量も多かった。本水域の低塩分域にのみに分布する本種の存在は,遡上したスズキ仔稚魚の生残や成長に重要な役割を果たしていると考えられた。

日水誌, 65 (6), 1062-1068

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フリッカー光刺激に対するヒラメ in situ 網膜 S 電位の周波数応答特性

古瀬正浩,袋谷賢吉(富山大工)

フリッカー光を用い,ヒラメの in situ 網膜における L 型 S 電位の周波数応答特性を調べた。S 電位応答の変動成分は,フリッカー光強度が弱いときには,周波数が高くなると単調に減少した。一方,フリッカー光強度が強いときには 20〜30 Hz 付近にサブピークが現れた。これは,フリッカー光強度が増すと網膜平均照度が上がり,網膜の明順応が進んだ結果生じた共鳴現象と思われる。また,S 電位はこれまで低い周波数でしか応答できないと考えられてきたが,in situ 網膜では 60 Hz 以上でも応答することが示された。

日水誌, 65 (6), 1069-1077

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標識放流から推定される太平洋岸におけるマルソウダの回遊

新谷淑生(土佐清水漁業指導所)

高知県水産試験場が 1970 年から 1994 年に実施した 17 回,12,925 尾のマルソウダの標識放流結果から日本の太平洋岸における回遊について推定した。本種は冬季から春季は大きな移動はせず,潮岬以南の海域で滞留したのち,水温の上昇と共に夏期には,房総半島以北まで北上する。秋期になると水温の低下と共に,潮岬以南の海域へ南下する。標識放流結果から推定される回遊は,漁況および体長頻度分布から推定された回遊についての報告と一致した。

日水誌, 65 (6), 1078-1083

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二倍体-四倍体モザイクアマゴの子孫

山木 勝(宇和島水高),
佐藤治平(佐藤養魚),
谷浦 興(広大生物生産),
荒井克俊(広大生物生産)

高水圧処理法を用いた第 1 卵割阻止から生じた最大核小体数 4 を示す四倍体候補のアマゴと通常二倍体アマゴを交配した。これら子孫の正常発眼胚の最大核小体数および核 DNA 量を調査したところ,赤血球 DNA 量から二倍体と判定された雌の子孫に二倍体と三倍体が生じることから,この雌は半数体と二倍体の卵を産むことが判った。赤血球サイズおよび DNA 量から二倍体-四倍体モザイクと判じられた雄の精子で交配した子孫はすべて二倍体であった。従って,第 1 卵割阻止から生じる個体には体細胞が二倍体であっても生殖細胞に四倍体を含むモザイクあるいは,体細胞に四倍体が含まれても生殖細胞は二倍体のみのモザイクがいることが判った。

日水誌, 65 (6), 1084-1089

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乾燥コンブからのクロロフィルの抽出と光照射による色調の改良

形浦宏一,小関聡美,小川裕子,山崎史人,
立野芳明(東和化成・富士研)

コンブエキスの緑色の色調を改良する目的で,乾燥コンブからエタノールでクロロフィルを抽出する条件について検討したところ,2 倍量の無水エタノールを使用し,かつ,試料の粉砕粒度を小さくする(100 メッシュ)方が抽出量が多いことが認められた。また,このエタノ−ル抽出液を光照射すると緑色が強まるが,これにはクロロフィル a の分解やアロメリ化が関与していることが示唆された。なお,これを調味用コンブエキスに配合すると緑色の色調が改善された。

日水誌, 65 (6), 1090-1095

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マイワシ筋肉ペプシン消化物からの活性酸素消去能を有するオクタペプチドの分離同定およびその活性

末綱邦男(水大校),受田浩之(高知大農)

マイワシ筋肉のペプシン消化物を,透析後,Dowex 50 W (H+), Sephadex G-25,および SP-Sephadex C-25 (H) カラムクロマトグラフィーで分画し,スーパーオキシド消去活性の強いペプチド画分を得た。さらに,本画分を逆相液体クロマトグラフィーで精製したところ,活性酸素消去能を有するオクタペプチド Leu-Gln-Pro-Gly-Gln-Gly-Gln-Gln が得られた。テトラゾリウム塩 XTT 法を用いたスーパーオキシド消去活性は,IC50 465 μM であり,一方 ESR を用いたヒドロキシルラジカル消去活性は,IC50 24.6 μM であった。

日水誌, 65 (6), 1096-1099

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ソウギョの網膜 S 電位のスペクトル応答特性(短報)

古瀬正浩,大久保篤志,三日市政司,袋谷賢吉(富山大工)

ソウギョの明順応網膜における S 電位のスペクトル応答特性を調べ,それらを 4 つの型(1 相性,2 相性,3 相性,4 相性)に分類した。特に,3 相性 S 電位は,主として紫外錐体からの直接入力により構成されるものと推定した。

日水誌, 65 (6), 1100-1101

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ブリ組織中の L-アスコルビン酸-2-モノリン酸マグネシウム塩分解酵素活性(短報)

境  正,前津晋也,村田 寿(宮崎大農),
宇川正治(丸紅飼料)

ブリ組織における L-アスコルビン酸-2-モノリン酸マグネシウム塩(APM) の代謝の基礎的知見を得るため,ブリの胃,幽門垂,腸管および肝臓中の APM 分解酵素活性の最適 pH,組織 1 g 当たりの活性値,Km 値およびリン酸阻害について検討した。
各組織中の APM 分解酵素の最適 pH は酸性側では 3.7 付近にあり,アルカリ性側では 8.5 付近にあった。腸管および肝臓で APM 分解酵素活性は高かった。各組織の APM 分解酵素の Km 値は酸性,アルカリ性ともに腸管が最も低かった。また,各組織の酵素はリン酸による阻害を受けた。この阻害は腸管において特に高かった。

日水誌, 65 (6), 1102-1103

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