日本水産学会誌掲載報文要旨

ベニズワイガニ籠漁業における漁具の浸漬時間と漁獲

渡部俊広,山崎慎太郎(水工研)

隠岐諸島西方の水深約 1000 m の海域で籠漁具の試験操業を 1992 年と 1993 年に行い,浸漬時間と漁獲および雄と雌の漁獲の差異について検討した。現在漁業で使われている目合 15 cm の籠は,浸漬時間の増加とともに雌と甲幅 95 mm 未満の雄の漁獲が減少した。また,雌と雄では籠漁具に対する漁獲が異なり,多数の雌が少数の籠に集中して漁獲された。雌の甲幅は多くは 90 mm 以下のため,雌の混獲を減少し大型の雄を選択漁獲するには,浸漬時間を長くすることが操業上重要である。

日水誌, 65 (4), 642-649 (1999)

[戻る][水産学会HP]


マボヤの噴出運動(squirting) の日周性

片山知史(東北大農),
荒井永平(東北大農・海洋生物資源セ),
刈田啓史郎(東北大歯),星合愿一(宮城内水試),
星野善一郎(岩手大教)

本研究は,マボヤの噴出運動の生理生態学的特性を明らかにするために,体内圧測定法を用いて,噴出運動リズムの周期性の有無およびその周期性の要因を解明することを目的とした。自然光下では,大噴出に 4 個体中 1 個体の割合で弱い周期がみられるにすぎなかったが,小噴出には昼間に回数が増加するという明瞭な 24 時間周期のリズムが認められ,噴出運動に日周性が存在するものと判断された。しかし,暗条件では大小噴出ともに周期的なリズムが消失していた。さらに,明 8 時間暗 8 時間の条件下においては,大噴出に周期的なリズムが見られなくなり,小噴出には約 16 時間周期のリズムが認められた。したがって,マボヤにみられる噴出運動の日周性は,体内リズムによるのではなく,光に反応して小噴出の回数が増加するために生じる周期性であるものと推察された。

日水誌, 65 (4), 650-654 (1999)

[戻る][水産学会HP]


北海道東部沿岸域に産卵するニシン Clupea pallasii の系群判別

堀田卓朗(日栽協厚岸),
松石 隆,坂野博之,菅野泰次(北大水)

北海道東部沿岸域の野付湾,風蓮湖,厚岸湖(2 標本),湧洞沼に産卵する太平洋ニシンの標本を用い,体節的形質を用いた形態的方法およびアイソザイムを用いた遺伝的方法で系群を判別した。その結果,形態的にも遺伝的にも湧洞沼で産卵する標本群のみが他と異なった。これは湧洞沼での産卵時期が 4 月下旬から 5 月上旬と,他よりも約半月遅いことが要因となっているものと考えられた。湧洞沼以外の標本群間での形質の差違は,厚岸湖の 2 標本間の差違と同程度であったため,同一系群であることが示唆された。

日水誌, 65 (4), 655-660 (1999)

[戻る][水産学会HP]


ヨシエビ幼生から分離した卵菌類の希釈海水中における感染率の低下

泉川晃一,尾田 正,山野井英夫(岡山水試),畑井喜司雄(日獣大)

ヨシエビ幼生から分離した Haliphthoros milfordensis および Halocrusticida panulirata を用いて希釈海水における遊走子の産生能について検討するとともに,ヨシエビ幼生に対する人為感染実験を行った。両菌とも 2/3 海水(塩分 21.3〜21.7‰) と比較して 2 オーダー程度遊走子の産生が抑制された。感染実験からゾエア期およびミシス期幼生とも両菌に感受性を示したが,ポストラーバ期幼生は感受性を示さなかった。海水中ではミシス期よりゾエア期幼生の方が死亡率が高かったが,これらの発育ステージでは 3/4 海水(塩分 24.4〜25.1‰) 以下ではほとんど死亡は確認されなかった。

日水誌, 65 (4), 661-664 (1999)

[戻る][水産学会HP]


播磨灘南西域における Chattonella antiqua の高密度発生と水質,気象要因等との関係

小野知足,吉松定昭(香川赤潮研),
吉田陽一(水産環微研)

播磨灘の Chattonella antiqua(ラフィド藻)による赤潮発生の原因を明らかにするために,1986, 1987,および 1988 年の播磨灘南西域における調査資料を用いて,同種の高密度発生と水質,気象要因との関係について調べた。C. antiqua は 1987 年 8 月上旬の DIN (溶存無機態窒素),DIP (溶存無機態リン),DIN×DIP 等が低く,DIN : DIP 比が高い水域で高密度で出現した。また同年の 7 月中旬は比較的低温で降雨が多く,また下旬は高温で日照時間の長い日が持続した。これらの同種の高密度発生時における水質,および気象諸要因の特徴は,同種のシストの発芽や栄養塩の利用性等の生理学的特性と密接な関連のあることが示唆された。

日水誌, 65 (4), 665-672 (1999)

[戻る][水産学会HP]


沿岸底曳網漁業における混獲防除ウインドーを備えた 2 階式コッドエンドの開発

松下吉樹,井上喜洋(水工研),
信太雅博,野島幸治(千葉水試)

外房海域を漁場とする沿岸底曳網漁業において,混獲の防除を目的として,2 つの袋網を上下に重ねた構造で,上部袋網の天井網の一部に目合を拡大した網地パネル(混獲防除ウインドー)を備える底曳網漁具の開発を行った。操業試験の結果,上部袋網で水揚げ対象となる生物を重量比で 90% 以上保持しながら,下部袋網にゴミ類を約 50% 分離することができた。混獲物防除ウインドーは水揚げ対象であるサルエビの漁獲の減少を抑えながら,チダイなど特定種の小型個体の混獲を減少できた。これは,混獲防除ウインドーに生物が遭遇する確率の種による違いに起因するものと考えられる。

日水誌, 65 (4), 673-679 (1999)

[戻る][水産学会HP]


九州北西岸におけるツクシトビウオの成熟と産卵

一丸俊雄(長崎水試),中園明信(九大農)

ツクシトビウオの成熟と産卵の実態を明らかにする目的で,定置網,まき網,船曳網の漁獲物について性比,GSI,卵径の測定,卵巣の組織観察等を行った。
岸側の漁獲物では漁期初めに雌の割合が低く,その割合は徐々に高まった。沖側では漁期を通じて約 80% が雌であった。
GSI は岸側で低く,沖側で高かった。卵巣内には今後排卵されると思われる卵群の他に発達するであろうと考えられる卵群の分離が見られた。また,最大の卵径は岸で小さく,沖で大きい傾向を示し,岸側の卵巣では 97% の高い比率で排卵後濾胞が認められた。
ツクシトビウオは産卵期に雌雄別群として来遊し,最初雄が接岸し,後から成熟した雌が接岸して産卵が行わると考えられ,1 産卵期中に複数回産卵を行っていると推察された。

日水誌, 65 (4), 680-688 (1999)

[戻る][水産学会HP]


トラフグ Takifugu rubripes 親魚の瀬戸内海・布刈瀬戸の産卵場への回帰性

佐藤良三(養殖研),
鈴木伸洋,柴田玲奈(瀬戸内水研),
山本正直(吉和漁協)

瀬戸内海・布刈瀬戸の産卵場周辺の三原市幸崎沖で,ディスク標識を装着した 197 尾のトラフグ親魚を 1994 年と 1995 年の 5 月中旬に放流した。瀬戸内海では放流後 6 カ月以内に計 14 尾が再捕されたが,多くは放流直後に周辺海域で再捕され,以後西方の海域へ移動した。外海域では放流 1〜22 カ月後に 11 尾が玄界灘〜黄海,志布志湾などで再捕された。翌年の産卵期に布刈瀬戸の産卵場周辺海域で計 10 尾が再捕され,走島沖の 2 尾を除き,他の産卵場と関係した再捕報告はなかった。この 2 尾が備讃瀬戸へ回遊した可能性はあるが,布刈瀬戸への回帰性も否定できない。以上の結果から,トラフグは産卵場への回帰性を有すると判断された。

日水誌, 65 (4), 689-694

[戻る][水産学会HP]


1 日当たり総産卵量によるマサバの資源量推定

渡辺千夏子(中央水研),
花井孝之(静岡水試),目黒清美(千葉水試),
荻野隆太(神奈川県庁),木村 量(中央水研)

マサバ太平洋系群の産卵資源量を 1日当り総産卵量に基づいて推定した。伊豆諸島海域において 1996年 4〜6 月に親魚 451 個体を採集し親魚パラメータを推定した。4〜6 月の産卵頻度は 9%, 47% および 47% であった。バッチ産卵数はそれぞれ 1 個体当り 31.1×103, 27.6×103, 21.5×103 粒であった。産卵資源量は,産卵量が最も多くマサバの産卵が活発に行われた 6 月の結果から 3.5 万トンと推定された。

日水誌, 65 (4), 695-702

[戻る][水産学会HP]


Coded Wire Tag で標識されたガザミ種苗の生残,成長と標識残存率

岡本一利(静岡水試浜名湖)

Coded Wire Tag のガザミ種苗体内への標識装着方法と,標識としての有効性を検討した。20 日間の飼育実験における種苗の成長,生残,標識残存率から,全甲幅 10 mm (C3 サイズ)以上の種苗の遊泳脚基部に 2 個のタグまでは装着可能と示唆された。種苗の遊泳脚基部に標識 1 個を装着し,3-4 ヶ月間飼育し全甲幅 110 mm 以上の漁獲物サイズに達した時の標識残存率は,C3 サイズに装着した場合約 1 割であったが,C5 サイズ以上に装着した場合約 9 割であることが判明し標識の有効性を確認した。

日水誌, 65 (4), 703-708

[戻る][水産学会HP]


キンギョの初期発生過程

山羽悦郎,水野寿朗,松下 健,長谷部優(北大水)

キンギョの胚操作の指標となる嚢胚期以前の発生段階を,組織学的,細胞学的,発生遺伝学的な視点から検討を加えた。20° の培養下で同調卵割から非同調卵割への移行(中期胞胚期遷移)は,9 回の同調卵割の後の受精約 6 時間に起こり,この時期以降を中期胞胚期と定めた。中胚葉分化の指標となる goosecoid と no tail の発現は受精後 8 時間に観察され,この時期以降を後期胞胚期と定めた。胚盤周囲の卵黄多核層の形成と深層細胞の運動は中期胞胚期に,胚盤中央部の卵黄多核層の形成と深層細胞の自律的な混合は,被いかぶせ運動以前の後期胞胚期に観察された。

日水誌, 65 (4), 709-717

[戻る][水産学会HP]


庄川におけるアユ降下仔魚量の推定

田子泰彦(富山水試)

庄川下流域を降下するアユ仔魚量の推定を,1992〜1996 年に行った。アユ仔魚の主な降下時期は,10 月上旬から 12 月上旬にあり,同期間では 1 日の降下量の 57.9% を 18 : 00〜22 : 00 が占めた。年間の降下量は,3〜29 億尾と推定され,1994 年を除き,全体の 5〜15% が湖産系に由来すると推測された。降下仔魚量は産卵開始時期前後の河川水温と流量に影響されると考えられた。

日水誌, 65 (4), 718-727

[戻る][水産学会HP]


マダイの視軸に関する行動実験

塩原 泰,有元貴文(東水大)

マダイの視野と視軸について,摂餌行動を指標とした実験をもとに検討した。実験魚に対して等距離で方向の異なる 33 箇所の給餌場所を提示し,餌の提示位置による摂餌所要時間の差異を比較検討した。その結果,実験魚は魚体の正面を原点とした 22.5 度の同心円の範囲内と,左右下方の 67.5 度までの範囲に提示された餌に対しては直行して摂餌することが確認された。また,網膜構造から推定された前下方という視軸の方向について,吻端直下では直行摂餌の頻度は比較的低いものとなった。眼球瞳孔面の体軸に対する傾斜を考慮すると,直行摂餌の分布はマダイの両眼視野と死角を反映したものと考えられ,視野全体のなかでのマダイの視軸を検証することができた。

日水誌, 65 (4), 728-731

[戻る][水産学会HP]


マルソウダの脂質および脂肪酸組成の季節変動

森岡克司,堺 周平,竹上千恵,小畠 渥(高知大農)

マルソウダ加工処理残滓の有効利用のための基礎的知見を得ることを目的として,高知県沖で漁獲されたマルソウダの脂質および脂肪酸組成の季節変動を調べた。残滓の約 42% を占める頭部および眼窩組織の脂質含量は,一年を通じてそれぞれ 5.2〜11.6% および 7.0〜17.9% の間で変動した。両組織の全脂質の脂肪酸では,22 : 6n-3 (DHA) の組成比が通年最も高く,頭部で 22.7% 以上,眼窩組織で 24.5% 以上を占めていた。以上の結果から,マルソウダ加工処理残滓のうち,眼窩組織を含む頭部は DHA の供給源として利用できる可能性が確認された。

日水誌, 65 (4), 732-738

[戻る][水産学会HP]


イトマキヒトデ幽門盲のうホスホリパーゼ A2 の精製と性質

岸村栄毅,林 賢治(北大水)

イトマキヒトデ幽門盲のうのクロロホルム−メタノール脱脂粉末から,標記酵素を SDS-PAGE においてほぼ単一に精製した。本酵素(分子量:約20,000) は,1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリンから主にオレイン酸を遊離させた。本酵素は Ca2+ により活性化され,その活性の最適 pH および最適温度はそれぞれ pH 9.0, 50ェ 付近にあった。また,本酵素はホスファチジルエタノールアミンに比べてホスファチジルコリン(PC) をよく加水分解した。さらに,本酵素はスルメイカ外とう膜筋肉の PC 加水分解において,基質の脂肪酸特異性を示さなかった。

日水誌, 65 (4), 739-746

[戻る][水産学会HP]


インタラクタンス方式の光ファイバーを用いた近赤外分光法による冷凍カツオ粗脂肪量の非破壊測定

山内 悟,澤田敏雄(静岡水試),河野澄夫(食総研)

インタラクタンス方式の光ファイバープローブを用いて,冷凍カツオの脂肪含量を非破壊的に測定する方法を検討した。スペクトル(400-1100 nm) と脂肪含量化学分析値(範囲 1-55%) を基に重回帰分析を行い,表皮から 5 mm の深さまでの魚肉の化学分析値とスペクトルデータとの間で最も良い結果が得られた。脂肪の吸収バンドである 926 nm を第 1 波長とする検量線において良好な結果が得られ,この場合の相関係数は 0.91, SEC は 5.8% であった。検量線評価用試料により得られた検量線の精度を確認した結果,SEP は 6.4%,バイアスは −1.0% であった。魚体の解凍に伴い,表皮に発生する水により推定値に誤差が生じたが,凍結状態であれば本測定方式は有効であると判断された。

日水誌, 65 (4), 747-752

[戻る][水産学会HP]


九州北東部の今川・長峡川河口域におけるアオギス仔稚魚の出現(短報)

伊元九弥,松井誠一,鬼倉徳雄,荒木恵利加(九大農)

福岡県今川・長峡川河口域においてアオギス仔稚魚の採集を行ない,477 個体(全長 3.0〜121.2 mm) を採集した。採集された時の表層塩分は,各鰭条が未発達な浮遊期にある全長 10 mm 未満の仔魚では 26.0〜32.8 ppt,各鰭条数が定数に達した全長 10 mm 以上の稚魚では 10.5〜33.2 ppt であった。さらに長峡川河口から約 2 km 上流の地点(6.6〜21.8 ppt) で全長 109 mm 以上の当歳魚が採集され,成長に伴って河川感潮域にも出現する傾向が見られた。
 以上の結果から,今川・長峡川河口域周辺部は本種の成育場になっていることが示唆された。

日水誌, 65 (4), 753-754

[戻る][水産学会HP]


1997 年本州中部太平洋沿岸に発生した Ceratium furca の赤潮(短報)

町田益己(静岡県栽培セ),
藤富正毅(茨城水試),
長谷川健一(千葉水試富津分場),
工藤孝浩(神奈川水総研),
甲斐正信(愛知水試),
小林智彦(三重水技セ),
上出貴士(和歌山水試)

1997 年に発生した渦鞭毛藻,Ceratium furca の赤潮は,和歌山県から茨城県にかけての太平洋沿岸において極めて広い範囲で認められ,その発生期間は 3 月下旬から 7 月下旬までの約 4 ヶ月間に及んだ。特に,遠州灘から駿河湾にかけての海域に赤潮が約 2 ヶ月間継続し,水産業に多大な影響を与えた。赤潮被害は伊豆半島東部の静岡県網代地区で 5 月 23〜24 日に強い低気圧の通過にともなう北東風によって本種細胞が集積し,養殖していたブリ,マダイ,カンパチ等が斃死する事故が発生した。斃死の原因は細胞の集積とその後の死滅にともなう低酸素化現象と考えられた。本赤潮は発生範囲の規模と持続期間を考えれば,過去に例のない大規模で特異的な現象であった。

日水誌, 65 (4), 755-756

[戻る][水産学会HP]