日本水産学会誌掲載報文要旨

PCR-制限断片多型法を用いたウナギ種簡易 DNA 鑑定

若尾卓成,疋田雄一,常吉俊宏,
梶 眞壽(静岡理工大),
久保田裕明,久保田隆之((株) あつみ)

日本種シラスウナギの減少に伴い,種を偽ったシラスが取り引きされている。この不正防止のため,各種ウナギ DNA 塩基配列データを基に種の DNA 鑑定法を開発した。各試料から DNA を抽出,ミトコンドリア・チトクロム b 遺伝子の PCR 産物を種特有塩基配列を認識する制限酵素で消化し,電気泳動で判定した。日本種か否かの判別と共に,代表 6 種につき種を判定した。各形状の微量試料から所要 8 時間,試薬コスト 500 円の簡易・迅速・安価な種鑑定法を開発した。

日水誌, 65 (3), 391-399 (1999)

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中層トロール用キャンバスカイトの形状と流体特性

石崎宗周,不破 茂(鹿大水)

 キャンバスカイトの流体特性を明らかにするために,形状の異なる 5 種類のキャンバスカイトの模型を用いて,0.2 から 0.5 までの 4 段階の異なるキャンバーと迎角 30°から 130°の範囲で水槽実験を行った。実験で得られた揚力と抗力から求めた最大揚力係数と最大揚抗比は,I 型の反り比 0.2 と迎角度 50°で,それぞれ 1.37 と 2.00 であった。また,簡単な構造の拡網装置としてキャンバスカイトを用いるには,I 型が最適形状であるといえた。

日水誌, 65 (3), 400-407

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水槽内におけるマツカワの自然産卵と卵の発生状況から推定した産卵時刻

渡辺研一,鈴木重則(日栽協)

 水槽内での自然産卵による受精卵の確保を目的として,マツカワ親魚を低密度で飼育し,産卵状況を調査した。天然由来の成魚を 0.24-0.26 尾/m2 の密度で飼育したところ,約 1 ヶ月にわたって産卵が確認され,雌 1 尾あたり 8.5〜40.6 万粒の受精卵が得られた。産出された卵の受精率およびふ化率は,人工授精の場合と同程度の高い値を示し,本飼育法で良質の受精卵が得られることが示された。人工授精した卵の発生状況を経時的に観察し,親魚水槽より採取した卵の発生段階をもとに産卵時刻を推定した結果,夜間 22 時から 4 時にかけて産卵することが示唆された。

日水誌, 65 (3), 408-413

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スプリットビーム計量魚探機によるマアジのターゲットストレングス指向性パターンの測定

山中有一,藤枝 繁,長野多計志,
F. E. Kaparang,松野保久(鹿大水)

 スプリットビーム計量魚探機を用いて制御法によるマアジのターゲットストレングス(TS) の水槽実験を行った。背方向入射の姿勢に保持したターゲットがビームを横切る形で移動するトラバース法を考案し,TS 指向性パターンを測定した。その結果背方向付近の姿勢角で急激な落ち込みが観測され,その前後で位置角測定誤差が大きくなる現象が見られた。これはエコー波形の位相の変化によるものであり,魚体内部の鰾や他の反射要素からの反射波の干渉が原因と考えられる。そこで単体魚の超音波反射における干渉について検討した。

日水誌, 65 (3), 414-418

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フグかご入口におけるサバフグ類の行動と漁獲機構

平山 完,不破 茂,石崎宗周(鹿大水),
今井健彦(元鹿大水)

 かご入口におけるサバフグの行動を,海中および水槽で観察しフグかごの漁獲機構を検討した。観察から得られた映像から,観察視野内での漁獲確率は 2 % 以下であった。かご入口内部でのサバフグの姿勢は,逃出した場合においては吻端は常に下向きであった。漁獲された場合においては吻端を下向きにして摂餌を行い,急速に吻端を上向きに変化させ前進遊泳を行った。フグかごの漁獲の可否は,かご入口に体長の 0.4〜0.6 倍サバフグが進入したとき時に決定することが考えられた。

日水誌, 65 (3), 419-426

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鬼怒川上流におけるイワナ,ヤマメの産卵床の立地条件の比較

中村智幸(栃木水試那珂川分場)

 1991, 1996 年に利根川水系鬼怒川上流においてイワナとヤマメの産卵床の立地条件を調査した。産卵床の水深と底質は種間で差はなかった。しかし,ヤマメは淵尻や平瀬,早瀬の流速の大きな順流部で産卵するのに対して,イワナはそのような場所だけでなく,淵の岸寄りや淵・瀬の物陰の流速の小さな渦流部でも産卵しており,流速,河床形態の組成ともに種間で有意に異なっていた。淵脇や物陰でも産卵するというイワナの広い産卵場所選択性は,河床勾配が急な源流域や支流における本種の個体群維持に重要な役割を果たしていると考えられる。また,イワナとヤマメの異なる産卵場所選択性は,混生域における両種の共存を可能にしている要因のひとつになっていると考えられる。

日水誌, 65 (3), 427-433

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人工産卵場におけるイワナの産卵と産着卵のふ化

中村智幸(栃木水試那珂川分場)

1996 年 10 月から 1997 年 3 月にかけて,利根川水系鬼怒川の小支流において,イワナの人工産卵場の造成と産卵状況調査を行った。10 月中旬に,丸太,石,礫を材料に,幅 2 m,長さ 6 m と 9 m の産卵場を早瀬に 1 カ所ずつ造成した。造成の翌日から 11 月中旬にかけて,人工産卵場と自然の産卵場でイワナの産卵行動が観察された。1 月初旬に産卵場を掘り返し,2 カ所の人工産卵場で計 51 卵室と 8101 粒の卵,10 カ所の自然の産卵場で 12 卵室と 2119 粒の卵をそれぞれ確認した。発眼率の平均値は人工産卵場 78.0%,自然の産卵場 60.1% で,人工産卵場のほうが有意に高かった。3 月中旬には人工産卵場,自然の産卵場ともにふ化仔魚を確認した。以上の結果から,イワナの増殖に対して人工産卵場の造成は有効な手段のひとつになると考えられた。

日水誌, 65 (3), 434-440

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底曳網の網目選択性に及ぼす魚体横断面形状の影響

梁 振林,堀川博史,時村宗春(西海水研),
東海 正(東水大)

 体長の代わりに相対胴周長を用いて網目選択性を求めた東海の結論(網目選択はほぼ相対胴周長 0.5〜1.0 の間で行われる)を,以西底曳網漁業 20 魚種の網目選択性データを用いて検証し,さらに魚体横断面形状と網目形状の相対的関係が網目選択性に及ぼす影響を検討した。東海の結論は特殊な魚種を除いたほぼ全てに適合した。また 50% 相対胴周長と魚体横断面係数の間には,魚体横断面と最も合う網目の縦横比をモードとするドーム型の関係があり,選択性レンジは最大胴周長を示す魚体部位の堅さなどに関わることが示された。この関係を考慮したマスターカーブから,網目選択性曲線をより精度良く推定できる。また,菱目と角目の選択性を理論的に比較して,魚体横断面が丸い魚種では角目で,扁平な魚種では菱目で網目を抜けやすいとの示唆を得た。

日水誌, 65 (3), 441-447

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未孵化生残卵の生理学的および組織学的考察

三村 元,長瀬俊哉,片山泰人(荏原実業),
難波憲二(広大生物生産)

 OPO (ozone-produced oxidants) に曝露したヒラメの卵の組織学的および生理学的観察を行った。孵化酵素顆粒と推定される好エオシン染色性顆粒は,対照区および OPO 曝露区でも観察された。卵膜の変性は,光学顕微鏡,走査および透過電子顕微鏡で確認できた。また正常な卵は孵化直前に卵膜の一部が膨れ孵化がおこなわれるが,OPO 曝露卵では観察されなかった。以上,卵膜の変性と卵膜の膨脹過程の欠如が未孵化生残卵発生の原因と推定される。

日水誌, 65 (3), 448-456

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漕ぎ刺網で漁獲されたシロギスの血中コルチゾール濃度を指標としたストレス測定

角田篤弘,Ari Purbayanto,秋山清二,
有元貴文(東水大)

漕ぎ刺網の漁獲過程でシロギス Sillago japonica が受けるストレスについて,漁獲個体の飼育実験によって血中コルチゾール濃度を指標とした定量的な検討を試みた。漁獲後,コルチゾール濃度は 24 時間後まで増加した後,72 時間後には減少していた。漁獲状態別では,刺さり漁獲で同様の傾向を示し,袋がかり漁獲では 12 時間後をピークとして,それ以降減少した。また刺さり漁獲後に網糸を切断して取りはずした場合も,通常の刺さり漁獲と同じ傾向を示した。一方,釣りによって漁獲された個体ではコルチゾール濃度は全体に低く,漁獲後の時間経過による変動も僅かであった。以上より,漁獲過程で受けるストレスとして,網糸と魚体との強い接触によって最も影響されることが示唆された。

日水誌, 65 (3), 457-463

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イセエビ漁業における若齢個体の漁獲管理

對木英幹(東大農),山川 卓(三重水技),
青木一郎,谷内 透(東大農)

 若齢イセエビの漁獲管理に有効な操業方法を検討するため,漁獲モデルを作成し,三重県和具における操業記録と市場価格を基に,若齢個体が主に分布する浅海域での操業時期及び隻数配分を変更した操業パターンを複数設定して水揚げ金額を比較した。その結果,浅海域での操業を遅らせた場合に水揚げ金額は増加した。また,出漁隻数を漁期末に重点配分した場合,漁獲尾数は上記の場合とほぼ同じでも水揚げ金額がさらに増加した。

日水誌, 65 (3), 464-472

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九州南部八房川におけるミナミテナガエビの成熟と産卵

大富 潤,中林直行(鹿大水)

 九州南部を流れる八房川において,ミナミテナガエビ(テナガエビ科)の成熟と産卵に関する研究を行った。抱卵雌は 5〜9 月に出現した。産卵期の早い時期に初回の産卵を行った個体は外卵の発生に伴って再び生殖腺指数が上昇し,同一産卵期中に複数回産卵すると推察された。また,雌は 6〜7 月に下流に移動して下流域〜河口付近で幼生を放出した後,再び遡上せずに下流域に滞留するものと思われた。本研究で得られた結果を琉球列島産のものと比較したところ,抱卵雌の最大サイズと出現期間,卵サイズにおいて違いがみられた。

日水誌, 65 (3), 473-479

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魚介類筋肉におけるカルシウムの含量と分布

讃岐 斉,秦 正弘,竹内昌昭(東北大農)

 魚類 21 種の普通肉および無脊椎動物 9 種の筋肉中のカルシウム含量はそれぞれ 2.2-39.0 mg/100 g, 5.9-45.5 mg/100 g であった。魚類普通肉では白色筋のカルシウム含量は赤色筋のそれよりも高かった。小型魚の普通肉の含量は大型魚のそれよりも高かった。
 マサバ,カツオ,ビンナガおよびヨシキリザメを除く 9 種では,水可溶性画分中のカルシウム含量は水不溶性画分よりも高かった。総カルシウム含量の高い魚種では水可溶性画分中のカルシウム含量およびその画分中のタンパク質当たりの含量も高く,カルシウム結合タンパク質含量も高いことが認められた。海産無脊椎動物では魚類に認められた関係はみられなかった。

日水誌, 65 (3), 480-487

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魚卵水溶性画分の PC リポソームに対する抗酸化活性

宮下和夫,犬飼信子,太田 亨(北大水),
佐々木茂文,太田智樹(道食加研)

 サケ卵,マス卵,サメ卵,ニシン卵の魚卵から抽出した水溶性成分の抗酸化活性を,サケ卵ホスファチジルコリン(PC) と大豆 PC から調製したリポソームの酸化安定性試験に基づいて評価した。その結果,いずれの魚卵から得た水溶性抽出物も,両 PC リポソームに対して抗酸化活性を示した。また,マス卵水溶性抽出物を,高分子成分と低分子成分とに分け,それぞれの活性を比較したところ,低分子成分の方がより強い比活性を示した。これらの結果より,魚卵脂質の抗酸化において水溶性の物質が重要な役割を担っていることが推測された。

日水誌, 65 (3), 488-494

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マサバ筋肉の死後変化に及ぼす致死後の貯蔵温度の影響

望月 聡,上野洋子(大分大・教育),
佐藤公一(大分県海水研),樋田宣英(大分県産技セ)

 冬期および夏期に漁獲されたマサバを用い,死後変化に対する貯蔵温度の影響を検討した。魚体が完全硬直に達するまでの時間は,冬期夏期ともに 5° で貯蔵したときが最も長かった。背肉中の ATP, IMP,イノシン,およびクレアチンリン酸の含量の変化は冬期では 5° で貯蔵したときに最も遅く,夏期では 0° で貯蔵したときに比較して 5° および 10° で貯蔵したときの方が遅かった。K 値は冬期夏期ともに 10° で貯蔵したときの上昇速度が速かった。筋肉破断強度の経時変化は冬期は顕著に,夏期はわずかではあるが 5° で貯蔵したときに高い値を維持した。以上の結果から,マサバの死後変化を遅くするための貯蔵温度は,漁期を問わず 5° 程度が適当であると考えられた。

日水誌, 65 (3), 495-500

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人工種苗マダイの鼻孔隔皮形成過程(短報)

安樂和彦,舛田知子,川村軍蔵,
Ralph R. Mana(鹿大水)

 人工種苗のマダイの鼻孔形態をふ化から 63 日間観察し,鼻孔隔離皮の形成過程を明らかにした。ふ化後 26 日以降では観察した全個体に鼻孔隔皮形成組織が出現したがその発達過程は個体によって異なった。最終的に 4 割の個体が鼻孔隔皮を形成し前・後鼻孔を完成した。その他の個体では隔皮形成組織に発達が認められないため,鼻孔異常は隔皮形成組織の発達不良によると考えられた。ふ化後 40 日以降では鼻孔隔皮形成個体と未形成個体の出現頻度はほぼ一定するので,この段階で将来とも正常鼻孔または異常鼻孔個体となるかを識別できると考えられた。

日水誌, 65 (3), 501-502

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曳航式深海用ビデオカメラによるベニズワイガニの分布観察(短報)

渡部俊広,山崎慎太郎(水工研)

 曳航式深海用ビデオカメラによって,ベニズワイガニの分布を観察し,生息密度観察法として本装置が有効な機能を有することを確認した。本装置は,バッテリーを内蔵し,タイマーによって作動する水中ビデオカメラ部とライト部,およびソリ型曳航台から構成される。ベニズワイガニの観察を隠岐諸島西側の水深約 1000 m の海域で,1997 年 11 月に 2 回行った。映像記録から観察されたベニズワイガニは,それぞれ 25 尾,33 尾であった。また,ベニズワイガニの行動に与える照明光の影響は少ないと推察した。

日水誌, 65 (3), 503-504

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