日本水産学会誌掲載報文要旨

鳥取県沿岸浅海域におけるヒラメ当歳魚の分布量,全長組成,摂餌状態および被食状態の季節的変化

古田晋平
(鳥取県大規模活性化プロジェクト推進室)

鳥取県沿岸浅海域においてヒラメ当歳魚の分布量,全長組成,摂餌状態および肥満度の季節的変化を調査した。また,同様にアミ類の分布量とヒラメ 1-2 歳魚の胃内容物も併せて調べた。5 月下旬から 6 月上旬まで大量に分布していたヒラメ当歳魚のうち,小型個体は 6 月中旬から下旬にかけて急激に減少した。これらの個体の全長組成は沖合に移動した大型個体には結びつかないことから,急激な減少は浅海成育場における減耗の結果と考えられた。この減少と同時期に,小型個体の主要な餌料であるアミ類の分布量が急激に減少して,小型個体の摂餌率と肥満度が低下し,ヒラメ 1-2 歳魚の胃内容物から当歳魚が出現する率が急激に上昇した。以上より,摂餌条件の悪化に起因する飢餓の進行が被食による大量減耗を誘発したと考えられた。

日水誌, 65 (2), 167-174 (1999)

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標識放流結果から推定した遠州灘におけるトラフグ成魚の移動・回遊

伊藤正木(西海水研),
安井 港(静岡県漁港課),
津久井文夫(静岡水試),多部田修(長大水)

遠州灘で索餌期に漁獲されるトラフグ成魚の移動・回遊を解明するため 1994〜96 年に遠州灘で索餌期に行われた成魚の標識放流結果を分析した。その結果,トラフグ成魚は,伊勢湾口から御前崎周辺を回遊範囲とし,4, 5 月に伊勢湾口へ産卵回遊すると推測された。特に,他の海域のトラフグより移動範囲が狭いことが特徴であった。この海域で行われた未成魚や産卵群の標識放流結果とあわせると,遠州灘に分布するトラフグは,この海域で生活史を完結する独立した群であると考えられる。

日水誌, 65 (2), 175-181(1999)

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マグロ魚肉の変色防止のための中枢神経破壊システム

矢田貞美,木村修平,藤田 清(東水大)

マグロの中枢神経破壊に必要な形態的な調査を行い,次に中枢神経を破壊する簡易装置を試作し,その性能について検討した。結果の概要は次のとおりである。
 1) 試作 2 号機において,中枢神経破壊装置用鋼線のドラムへ巻取り及び椎孔内への挿入の関係を調べたところ,線径 3 mm のステンレスワイヤロープ(S-1×19-3.0) が適当と考えられる。
 2) 試作 2 号機の中枢神経破壊装置では,出力電圧で繰出し速度を上げることにより高能率な中枢神経の破壊が可能である。
 3) 中枢神経の破壊時における全抵抗 Rt は,鋼線径,魚体長,脊髄径,鋼線挿入にかかる全経過時間,頭蓋骨内及び椎孔内の粘度に比例し,魚体長が最も影響する。

日水誌, 65 (2), 182-193(1999)

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鹿児島湾産オオメハタの年齢と成長

岩川敬樹(鹿大連合農),小澤貴和(鹿大水)

鹿児島湾産オオメハタの年齢と成長を耳石を用いて調べた。産卵期は,卵巣の外見熟度と熟度指数の月別変化から判断すると,9〜11 月と推測された。輪紋は,縁辺成長率の月別変化から判断して,7〜9 月に年 1 回形成された。加齢月は,産卵期と輪紋形成期が重複する 9 月と推測された。成長は年齢および実測体長の平均値で算出し,von Bertalanffy 成長式に最も合致した。成長は雌雄間では有意な差は認められず,両者を含めて Lt=178.170[1−exp {−0.219(t+0.952)}](Lt : 平均体長,t : 年齢)で示された。

日水誌, 65 (2), 194-199(1999)

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芸予諸島海域におけるマダイ標識放流個体の移動と潮汐流との関係

高場 稔(広島水試),森岡泰三(日栽協伯方島)

瀬戸内海の芸予諸島海域の瀬戸田,加島の 2 カ所で,それぞれ産地の異なる 2 群のマダイ人工種苗 0 歳魚と漂流ハガキを同時に放流し,マダイの移動と流れの関係を検討した。放流マダイの産地による再捕率の差は認められなかった。瀬戸田,加島ともマダイは南西方向に移動した。瀬戸田放流群の移動速度は 0.34 km/day であり,放流後 10 日間ごとの分布域の大きさはその中心から 10 km でほぼ一定であった。加島放流群の移動速度は瀬戸田放流群に比べて遅かった。瀬戸田の漂流ハガキの移動速度は 1.29 km/day,加島のそれは 1.36 km/day であった。ハガキの移動速度はマダイの移動速度の約 4〜5 倍と異なるが,移動方位は一致した。このことは,マダイ 0 歳魚の移動の要因の一つとして流れが関与していることを示唆する。

日水誌, 65 (2), 200-208(1999)

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東京湾におけるイシガレイの成熟とそれに伴う肥満度,摂餌強度等の変化

上原伸二(南西水研高知),
清水 誠(日大生物資源)

東京湾のイシガレイの成熟とそれに伴う肥満度,摂餌強度等の変化を調べた。生殖腺指数の季節変化から産卵期は 12-2, 3 月であると推定された。標本中の最小成熟体長は雄で 130 mm,雌で 183 mm であった。0 歳の成熟個体の出現率は雄では 69.1% であったが,雌では 4.5% と低かった。1 歳以上の出現率は雌雄ともほぼ 100% であった。成魚の肥満度と肝量指数は冬季に最低となることが明らかとなった。その後,肥満度と肝量指数は摂餌強度のピークから 1, 2 ヶ月遅れて春季に最高となり,夏季から冬季にかけて低下した。産卵期には特に成熟の進んだ個体で摂餌強度が低かった。主な餌料生物は多毛類,二枚貝類,甲殻類,クモヒトデ類であった。

日水誌, 65 (2), 209-215(1999)

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北海道南西部沿岸の磯焼け海域におけるホソメコンブ群落の形成要因について

道津光生,野村浩貴,太田雅隆(海生研),
岩倉祐二(エコニクス)

北海道南西部の盃沿岸は海底地形が複雑で,マウンド状に盛り上がった場所にホソメコンブ群落が形成されていた。盃沿岸の水温・塩分,栄養塩,光,波浪の季節変化を近傍の磯焼け域である泊沿岸と比較した。その結果,波浪のみに両沿岸に差が認められた。盃は泊に比べて波浪が強く,特に冬季に強くなることが明らかになった。盃のマウンド上のキタムラサキウニの密度は秋〜冬にかけて波浪が強くなるとともに減少し,冬〜春にはほとんど生息しない状態となった。一方,マウンド周辺のコンブ群落外のウニの密度は年間を通してほぼ一定の値で推移した。波浪の強さの変化に関連したウニの季節的移動により,冬〜春にかけてマウンド上のウニの密度が減少し,コンブの新規加入群に対するウニの摂食圧が減少することによってコンブが繁殖するのではないかと推定した。

日水誌, 65 (2), 216-222(1999)

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北海道南西部における秋季のスケトウダラの分布と成熟

亀井佳彦,高津哲也,高木省吾,中谷敏邦,
高橋豊美,前田辰昭(北大水)

スケトウダラ成魚の水平分布様式と成熟度との関係を解明するために,1989〜1994 年の 10 月に北海道南西部沖合においてオッタートロール網による標本採集を行った。1994 年を除いて,スケトウダラの CPUE 値は沖合域より沿岸域の方が有意に高かった。また,雄個体の占める割合も 1993 年と 1994 年を除いて沿岸域で有意に高かった。多くの雄は完熟に近く,水域間で生殖腺重量指数の差は認められなかった。雌においては沖合域よりも沿岸域でより成熟した個体が出現した。体長の地理的変化は雌雄ともに明瞭ではなかった。本種のこの時期の水平分布は雌雄間の繁殖行動および成熟度の差に起因するものと考えられた。

日水誌, 65 (2), 223-229(1999)

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愛媛県室手湾における天然マダイ稚魚と人工種苗マダイの分布と行動

工藤孝也(愛媛大連農),末友浩一(高知大農),
山岡耕作(高知大海洋研セ)

浅海砂底域において夏期に天然・放流マダイ稚魚を潜水観察した。天然魚はなわばりを形成する単独型と群がりが認められたが,前者が一般的であった。単独型個体は平均約 3 m2 のなわばりを形成し,同種・他種を区別した。放流後数日,人工魚は群がりを形成していたが,次第に単独型の生活様式に移行した。単独型の人工魚も天然魚同様になわばり行動を示した。横臥行動の強弱と定着との間に明確な関係は認められず,本行動を種苗性の良否の指標として使用することには,再考が必要であると考えられた。

日水誌, 65 (2), 230-240(1999)

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外套膜片移植および同居飼育によるアコヤガイ Pinctada fucata martensii の閉殻筋の赤変化を伴う疾病の人為的感染

黒川忠英,鈴木 徹,岡内正典(養殖研),
三輪 理(養殖研;現・中央水研),
永井清仁(ミキモト真珠研),
中村弘二(中央水研),本城凡夫(九州大),
中島員洋,芦田勝朗,船越将二(養殖研)

アコヤガイの閉殻筋の赤変化を伴う大量へい死現象の人為的再現手法と,その病理組織学的診断手法の開発を行った。赤変異常貝の外套膜片の健常貝への移植および健常貝と赤変異常貝との同居飼育により,赤変異常が再現された。よって,赤変異常は感染症による可能性が極めて強い。また,外套膜と閉殻筋の病変が,その病理組織学的診断指標として有効と判断された。

日水誌, 65 (2), 241-251(1999)

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スケトウダラの音響資源調査における面積後方散乱係数の昼夜変動

安部幸樹,飯田浩二,向井 徹(北大水)

スケトウダラの音響資源調査において日周鉛直移動が資源量推定値におよぼす影響を調べた。実験は北海道西部日本海武蔵堆と積丹半島沖において,計量魚探 EK500 を用いてスケトウダラ魚群の面積後方散乱係数 SA とターゲットストレングス TS の昼夜変動を測定した。夜間の SA は昼間より,武蔵堆で約 3 倍,積丹沖では約 1.4 倍大きかった。一方,TS には昼夜変動は認められず,SA の昼夜変動は,昼間の海底上魚群の計測不能による過小評価が原因と考えられた。

日水誌, 65 (2), 252-259(1999)

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韓国におけるあなご筒かご水抜き孔のマアナゴ漁獲選択性

鄭 義哲(国立水産振興院),
金 三坤(釜慶大学),
朴 倉斗,辛 鍾根(国立水産振興院),
東海 正(東水大)

韓国でマアナゴ漁獲量の半分以上を占めるあなご筒かごについて,その水抜き孔によるマアナゴに対する漁獲選択性を調べた。水抜き孔直径の異なる筒かご 6 種類(直径 6, 9, 12, 15, 18, 21 mm) を作製して釜山沿岸で操業試験を行った。得られた資料を SELECT モデルにより解析した。SELECT モデルのうちで Estimated split model よりも小さな AIC を示した Equal split model を適切なモデルとして採用した。選択性曲線は水抜き孔の直径が大きいほど右側に位置し,水抜き孔の直径が大きいほど大きなマアナゴが筒かごの水抜き孔から抜けた。マアナゴの 50% 選択全長は筒かごの水抜き孔の直径が 9, 12, 15 および 18 mm でそれぞれ 181, 244, 298 および 350 mm であった。

日水誌, 65 (2), 260-267(1999)

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スズキ卵の発生に伴う複数油球の消長

牧野 直(千葉栽培セ),
内山雅史,岩波重之,遠山忠次(千葉水試),
田中 克(京大農)

自然産出したスズキの複数油球卵の油球体積を胞胚期からふ化直前まで測定し,複数油球の消長過程とそれらをもつ仔魚の形態を観察した。複数油球の大半は,眼胞形成期から始まる油球の融合により,ふ化直前には単一油球卵になった。その油球体積は,胞胚期の個々の油球体積を加算した値にほぼ一致した。複数油球卵から生まれた仔魚の中には体形が異常であり,卵黄中の油球の吸収後にも体腔内に油球をもつ変形魚がわずかに見られたが,その出現率は約 5 % と低い値であった。ふ化率も比較的高いことなどから,本種の自然産出による複数油球卵は種苗生産に使用できる可能性が示された。

日水誌, 65 (2), 268-277(1999)

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混獲防御装置(SURF-BRD) 付トロールの魚種分離とサイズ分離

梶川和武(東水大),
藤石昭生,永松公明(水大校),
東海 正,松田 皎(東水大)

底曳網で,小型エビ類を漁獲しつつ稚仔魚や小型カニ類の混獲を防御する装置 SURF-BRD を開発した。本装置は山型状の角目網地 2 枚(フロントパネル FP とリアパネル RP,脚長 40 mm) とその両脇の逃避口から成り,底曳網の網口下部に設置される。RP を覆う菱目網地(リアカバー RC,目合 27.5 mm) を加えた 3 種類の網地構成の操業実験から,コッドエンドに入る 3 つの過程(1) FP 上部を通過する。2) FP を抜けずにコッドエンドに至る。3) FP と RP を抜ける。)と,FP を抜けた後に網から逃避する過程を魚種別,サイズ別に検討した。

日水誌, 65 (2), 278-287(1999)

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京都府周辺海域の雌ズワイガニの Spawning Per Recruit 解析

勝川俊雄,李雅玲,松宮義晴(東大海洋研)

Spawning Per Recruit (SPR) 解析は,乱獲を回避するための漁獲率の決定法として世界中で広く利用されている。本研究では,京都府周辺海域のズワイガニの利用状態を SPR 解析により診断した。保護区による管理が導入される以前にはズワイガニの SPR は漁獲がない場合の 1.1% まで減少していた。保護区の管理によって,SPR は 4.2% まで改善された。さらに漁具を現行の底曳網からカニカゴへと移行させて未成体の混獲死亡を減少させると,SPR を 13.8% まで改善できることがわかった。これらの結果を基に,資源の持続に最低限必要な 20%SPR,さらには最適水準の 35%SPR を達成するための方策について検討した。

日水誌, 65 (2), 288-293(1999)

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養殖アコヤガイの糖代謝酵素活性および体成分の季節変化

四宮陽一,岩永俊介,河野啓介,
山口知也(宇和島水種開セ)

アコヤガイの閉殻筋と内臓部における一般成分や糖代謝酵素活性の季節変化を調べた。閉殻筋グリコーゲン含量は夏季に最大で,植物色素量と類似した季節変化を示し,解糖活性の増大に伴って低下した。内臓部のリポゲニック酵素活性は,粗脂肪絶対量の増大と性成熟が進行した冬季から春季に高く,脂肪酸やステロイドホルモンの生合成への関与が示唆された。以上の結果から,アコヤガイの糖代謝酵素活性や一般成分は餌生物量や性成熟に関連して変動すると推察された。

日水誌, 65 (2), 294-299(1999)

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マダイ幼稚仔保育場近辺における SCUBA と ROV による魚類観察結果の比較(短報)

岡本一利(静岡水試浜名湖),柳瀬良介(静岡水試伊東)

静岡県沼津市内浦湾沿岸の 6 地点において,SCUBA と ROV による魚類観察結果を比較した。両者で観察された魚種は合計 34 種類であった。魚種数,魚数ともに ROV の観察結果は SCUBA の 2, 3 割であった。マダイに関しては ROV では 1 才魚は観察されず,ROV で観察された 0 才魚数は SCUBA の観察値の約 3 割であり,ROV の観察結果を補正することにより 0 才魚の計数は可能であると示唆された。

日水誌, 65 (2), 300-301(1999)

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異なる温度条件下におけるスジアオノリのクローン藻体の成長と成熟(短報)

平岡雅規(マリン・グリーンズ),
團 昭紀,萩平 将(徳島水試),
大野正夫(高知大海生セ)

スジアオノリ Enteromorpha prolifera の 1 個体から得られた胞子を白色蛍光灯 25 μmol/s/m2,明期/暗期=12 時間/12 時間,明期 6 時〜18 時の光条件,10, 15, 20, 25, 30°の 5 段階の温度下で培養し,藻体の成長と成熟を観察した。初期の成長は 30°下で最も早かったが,成熟は最も早く起こり,成熟による藻体先端部分の流失量が多く藻体長は短かく保たれた。25°および 20°下も 30°下と同様に成熟したが,成熟による流出量が少ないため,30°下よりも大きい藻体で保たれた。15°下では成熟による藻体先端からの流失量より成長量が多いため藻体長は増加し続けた。10°下では成熟せず成長速度は遅く,ゆっくりと藻体長が増加した。この結果は自然条件下でスジアオノリ藻体が 15°前後で最も繁茂することとよく一致することが分かった。

日水誌, 65 (2), 302-303(1999)

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