Fisheries Science 掲載報文要旨

東シナ海における空間的分布情報を用いた水産資源評価への多変量自己回帰状態空間(MARSS)モデルの利用

朱 夢瑶,山川 卓(東大院農),
依田真里,安田十也,黒田啓行(水産機構西海水研),
大下誠二(水産機構国際水研),
福若雅章(水産機構北水研)

 資源量指数は一般に,漁区別 CPUE を漁区面積で重みづけ合計して計算される。しかし,操業漁場の経年変化に伴って CPUE データの欠損値が多く存在すると,評価値に偏りが生じうる。本研究では,東シナ海の以西底びき網漁業によるキダイとタチウオの漁区別 CPUE の長期データに多変量自己回帰状態空間(MARSS)モデルを適用して欠損値の補間推定を行い,資源量指数を導出する現実的手法を提示した。本手法では,欠損値の増加した 2000 年代でも信頼区間を伴った妥当な評価を行えたが,従来法では評価結果に偏りが生じた。

83(4), 499-513 (2017)
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バラマンディの IIB 型アクチビン受容体遺伝子における一塩基多型を検出する方法の確立,およびその多型と体成長との関連についての予備的解析

Sirithorn Janpoom(NSTDA),
Pornthip Sawatpanich(チュラロンコン大),
Sirawut Klinbunga(NSTDA),
Piamsak Menasveta(チュラロンコン大),
Bavornlak Khamnamtong(NSTDA,タイ)

 本研究では,アカメ科魚の一種であるバラマンディ Lates calcarifer の IIB 型アクチビン受容体遺伝子に存在する一塩基多型(SNP)を同定し,SNP と体成長との関連を解析した。解析の結果,同遺伝子中に三つの SNP が同定され,そのうちの一つが体成長に関わるパラメーター(体重,全長,肝臓重量)に有意な関連を示した。また,ゲルを用いた bi-allelic PCR amplification of specific alleles(Bi-PASA),およびリアルタイム PCR を用いた PASA によって,その SNP を簡便,迅速,かつ正確に検出する方法を確立した。
(文責 大久保範聡)

83(4), 515-522 (2017)
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水産有用魚種にとってのサンゴ礁礁斜面の重要性:フィリピンの海洋保護区デザインのための示唆

本多健太郎(北大フィールド科セ),
Wilfredo H. Uy, Darwin I. Baslot, Allyn Duvin
S. Pantallano(ミンダナオ州立大,フィリピン),
佐藤允昭(北大フィールド科セ),
中村洋平(高知大院黒潮),
仲岡雅裕(北大フィールド科セ)

 フィリピン共和国ミンダナオ島の海洋保護区境界線上の礁斜面における水産上有用魚種の深度別出現パターンを超音波テレメトリーにより調べた。5 種 21 個体に対して調べたところ,ゴマアイゴは主に海洋保護区内の浅場(10 m 以浅)に出現したのに対して,ゴマフエダイ,イッテンフエダイ,イソフエフキ,タテシマフエフキは主に礁斜面に出現し,前 3 種はその浅場だけでなく海洋保護区外の礁斜面の深場(20 m 以深)にも出現した。以上の結果から,礁斜面全体を海洋保護区に含めることが魚類資源保全の上で重要であることが示された。

83(4), 523-535 (2017)
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Ontogeny of phototaxis in early life stages of Pacific bluefin tuna Thunnus orientalis
クロマグロ仔稚魚における光走性の個体発生

伊奈佳晃(水産機構西海水研),阪倉良孝(長大院水環),
田中庸介(水産機構西海水研),山田敏之(長崎水試),
久門一紀,江場岳史,橋本 博,小西淳平,高志利宣,
玄浩一郎(水産機構西海水研)

 クロマグロ仔稚魚期(1-26 日齢)の発生に伴う光走性の発現開始時期と発育段階による変化を明らかにするため,水平的に照度勾配を付けた水槽内の供試魚の分布を調べた。2 日齢まで供試魚は水槽内で一様に分布していたが,目が黒化した 3 日齢(3.7±0.1 mm)から最も照度の高い区画(7.0×104 lx)に分布する尾数が有意に増加した。さらに稚魚期に移行した 22 日齢以降も仔魚期と同様の結果を示した。以上により,クロマグロの光走性は眼が黒化する 3 日齢から発現し,稚魚期まで正の光走性を持つことが明らかとなった。

83(4), 537-542 (2017)
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NaF はメジナ Girella punctate のウロコの破骨細胞を抑制することにより血液中のカルシウム濃度に影響を与える

佐藤将之,谷内口孝二(金沢大),
本橋慶一,矢口行雄(東京農大),田渕圭章(富山大),
木谷洋一郎,五十里雄大,小木曽正造,関口俊男(金沢大),
Tran Ngoc Hai, Do Thi Thanh Huong(カントー大,ベトナム),
Nguyen Viet Hoang(カマウ省研究所,ベトナム),
浦田 慎(能登里海教育研究所),
三島弘幸(高知学園短期大),
服部淳彦(東京医科歯科大),鈴木信雄(金沢大)

 メジナ(海産魚)に NaF(5 μg/g body weight)(体内濃度約 10-4 M)を投与すると,ウロコの骨芽細胞の活性を上げ,破骨細胞の活性を下げることにより,血液中カルシウム濃度が低下した。この結果は,ウロコの in vitro の培養系において,破骨細胞のマーカー遺伝子の発現解析においても確認された。さらにイシダイにおいても,メジナと同様に,NaF を投与すると血中カルシウム濃度が低下した。したがって,海水中に多量 (10-5-10-4 M) に存在するフッ素は,海産魚のカルシウム代謝に生理的な役割を果たしているかもしれない。

83(4), 543-550 (2017)
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テナガエビ科 Exopalaemon carinicauda の ANT の cDNA クローニング,および体成長と脱皮に伴う発現変動

Huan Gao, Bei Xue, Lian Zhao, Xiaofang Lai, Binlun Yan, Hanliang Cheng(淮海工学院),
Qian Pan(浙江省淡水水産研究所,中国)

 テナガエビ科 Exopalaemon carinicauda の adenine nucleotide translocase (ANT) の cDNA をクローニングした。その後の発現解析によって,E. carinicauda の ANT は主として筋肉で発現していること,その発現は体成長に伴って増加傾向を示すことが明らかとなった。また,脱皮に伴って発現が一過性に上昇することも明らかとなった。これらの結果は,ANT が E. carinicauda の体成長に深く関わることを示唆している。
(文責 大久保範聡)

83(4), 553-561 (2017)
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マイクロサテライトに基づく中国沿岸のアカニシ Rapana venosa の遺伝的多様性と個体群構造

Dong-Xiu Xue, Tao Zhang, Yu-Long, Jin-Xian Liu(中国科学院海洋研,中国)

 東アジアで重要な水産資源であるアカニシ Rapana venosa の中国における遺伝的多様性と個体群構造を,11 個のマイクロサテライト座を用いて調べた。11 個の個体群全てで,高いレベルの遺伝的多様性が見られた。有意な遺伝的多様性がこれらの個体群の間で検出され,中国沿岸のアカニシが 2 つの地理的に分かれたグループであることを示唆している。距離による有意な隔離(r=0.412,P=0.012)が見られ,地理的距離による隔離が個体群の相違に重要な役割を果たしている可能性を示している。これらの結果はアカニシの漁業管理の有用な遺伝的情報を提供する。
(文責 平松一彦)

83(4), 563-572 (2017)
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バイオテレメトリーによる松川浦に放流したホシガレイ稚魚の移動・移出過程の解明

和田敏裕(福島大),神山享一(福島県水産課),
三田村啓理(京大院情報),
荒井修亮(京大フィールド研セ)

 ホシガレイ稚魚の成育場内での移動や外海への移出過程を解明するため,超音波発信機を腹腔内に装着した 0 歳魚種苗 10 個体(全長 17.0-19.7 cm)を 2009 年 11 月に松川浦中央部に放流し,浦内外の 10 か所に設置した受信機で 5 か月間追跡した。12 月から翌 3 月に 8 個体が放流地点から移動し,うち 3 個体が 1 月および 3 月に浦外に移出した。浦内の稚魚は,12 月から翌 1 月に越冬のため移動を開始するが,水温が最も低い 2 月には移動を休止し,水温が上昇する 3 月(≥6℃)に移動を再開すると考えられた。稚魚は夜間を中心に徐々に浦内を移動し,外海へ移出した。

83(4), 573-585 (2017)
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絶滅危惧種ミカドチョウザメの自然倍数体

Miloš Havelka(北大院水・南ボヘミア大),
He Zhou(大連海洋大),萩原聖士(北大院水),
市村政樹(標津サーモン科学館),
藤本貴史(北大院水),山羽悦郎(北大フィールド科セ),
足立伸次,荒井克俊(北大院水)

 多型的マイクロサテライト DNA(MS)5 座における雌あるいは雄親魚個体に特異的なアレルの出現頻度から,四倍性の種とされるミカドチョウザメ雌雄間および本種雌と同じく四倍性種ダウリアチョウザメ雄間の人工受精交配群において高頻度で出現した自然倍数体(六倍性)は,第二極体放出阻止に起因することが判明した。併せて 9MS 座とミトコンドリア DNA 調節領域塩基配列の分析から,交配に使用した親魚はいずれも,雑種の可能性はなく,純粋な種であることが判明した。

83(4), 587-595 (2017)
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淡水性アフリカナマズ Clarias gariepinus 仔魚の共食いを減少させる塩分

川村軍蔵,Annita Seok Kian Yong, Pei Wen Sao,
Leong Seng Lim,瀬尾重治(サバ大海洋研,マレーシア),
Teodora Bagarinao(AQD, SEAFDEC,フィリピン)

 アフリカナマズ Clarias gariepinus の仔魚初期からの激しい共食い行動が,養殖場の経済的損失の原因になっている。本研究では仔魚(日齢 4,中央値 7.8 mm TL, 2.8 mg BW)を淡水(0 ppt)と 1-7 ppt の異なる塩分で 21 日間飼育して共食い,生残率,成長を調べた。仔魚の成長には塩分の有意な影響は見られなかった。生残率は 0, 1, 3, 7 ppt で低く(24-31%),2, 4, 5, 6 ppt では有意に高かった(49-55%)。共食い率は 4-6 ppt で 15-30%,0-3 ppt と 7 ppt で 40-50% であった。アフリカナマズ仔魚の飼育には淡水より塩分 4~6 ppt が適しており,この塩分が仔魚のストレスを軽減して共食いを減少させると考えられた。

83(4), 597-605 (2017)
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マグロ加工残渣油を用いた養殖ブリの高 DHA 化

品川純兵,森野はる香,益本俊郎,深田陽久(高知大農)

 飼料脂質源にドコサヘキサエン酸(DHA)が豊富なマグロ加工残渣オイル(TO)を用い,ブリの成長と脂肪酸組成にもたらされる影響を調べた。市販 EP 飼料(油脂未添加)にタラ肝油のみを加えた飼料(対照)と,タラ肝油の 15,30,60% を TO で置換した飼料を与え,16 週間飼育した。その結果,飼料中 TO 量の増加に伴い,成長が向上する傾向が見られた。全魚体およびフィレの脂質中 DHA 量は飼料中の TO 量に依存して増加した。TO を用いて飼料中 DHA 含量を高めることで,養殖ブリの高 DHA 化が可能であった。

83(4), 607-617 (2017)
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アカガイ稚貝の生残と成長に及ぼす水温,塩分の影響

Qingzhi Wang, Xi Xie, Ming Zhang, Weiming Teng(遼寧海洋水産科学研),
Miao Liang(国家海洋局海洋環境観測中心),
Ning Kong(大連海洋大),
Chao Wang, Zunchun Zhou(遼寧海洋水産科学研,中国)

 アカガイ Anadara broughtonii 種苗生産稚貝の成長,生残に水温,塩分が及ぼす影響を,水温(23, 26, 29, 32℃)と塩分(15, 18, 21, 24, 27, 30 PSU)を組み合わせた飼育区を設け,25 日間の斃死率,殻長,殻高の変化を観察して検討した。その結果,生残率は全ての実験区で 98% 以上となり統計学的有意差はなかった。殻長,殻高の絶対成長と比成長速度は水温,塩分により統計学的に有意な差が生じ塩分 30 PSU,水温 26℃ で最高となり,比成長速度は殻長,殻高それぞれ 4.64±0.04,4.76±0.11% day-1 となった。これによりアカガイ稚貝育成に好適な環境条件が明らかになった。
(文責 淡路雅彦)

83(4), 619-624 (2017)
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バラマンディ Lates calcarifer におけるトリカインメタンスルフォナート(MS-222)の鎮静濃度とその筋肉への残留

Yi-Jing Xue, Chih-Cheng Chang, Jyh-Mirn Lai(国立嘉義大,台湾)

 トリカインメタンスルフォナート(MS-222)は魚を沈静化させる為に広く使用されているが,汽水に生息するシーバスに対する用量の基準はない。本研究では,MS-222 について体内残留・排泄時間を基に鎮静に適した濃度の設定を目的とした。魚に MS-222 を 0, 30, 50, 60, 70 および 90 mg/L の濃度に曝露してその作用を調べた。また 90 mg/L で麻酔し,生理食塩水を注射した結果,72 時間で魚は完全に回復したが,麻酔処理をしなかった区では 10 尾中 3 尾が死亡した。さらに 30 および 60 mg/L の濃度で麻酔し 8 時間輸送模擬実験を行った。輸送中および後で魚に異常はなかったが,対照区では 3 日以内に 10 尾全部が死亡した。HPLC による MS-222 の残留を分析した結果,生物学的半減期は 5.54, 5.27 h(30 mg/L)および 8.72, 7.15 h(60 mg/L)であり,消失時間は 4.5 日(30 mg/L)および 7.5 日(60 mg/L)であった。
(文責 大嶋雄治)

83(4), 625-633 (2017)
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養魚場水域の沈降粒子,再懸濁可能粒子,底泥堆積物中における微生物群の有機物分解過程

吉川 尚,金又健一,中瀬玄徳,江口 充(近大農)

 田辺湾の養魚場水域における有機物の加水分解及び無機化活性は,単位体積・細菌細胞当たりのいずれにおいても,再懸濁可能粒子や底泥堆積物に比べて,沈降粒子で高かった。加水分解活性は,底泥堆積物に比べて再懸濁可能粒子で高かったのに対し,無機化活性では同程度で有意な差はなかった。また,冬季に加水分解及び無機化活性は水柱全体で高くなる傾向を示した。これらの結果は,特に水柱の鉛直混合が起こる冬季に,大気からの酸素溶入や底泥の再懸濁が微生物群の有機物分解を促進していた可能性を示唆する。

83(4), 635-647 (2017)
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クマエビへのポリエチレン銀ナノコンポジット包材からの銀ナノ粒子放出量の測定

Raheleh Hosseini, Hamed Ahari, Peyman Mahasti, Saeed Paidari (Islamic Azad Univ.,イラン)

 ナノコンポジットからの銀ナノ粒子の放出量を測定した。走査型電顕観察によると銀ナノ粒子の平均サイズは 30-48 nm であった。阻止円法によって抗菌活性を評価したところ,銀ナノコンポジットには十分な活性が認められた。また,titration 法の方が migration 法より感度が高かった。銀ナノコンポジット包装は抗菌性を有し,クマエビのシェルフライフを延長するものと考えられた。
(文責 潮 秀樹)

83(4), 649-659 (2017)
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