日本水産学会誌掲載報文要旨

甲幅組成から推定された富山湾における若齢ベニズワイの成長

前田経雄,辻本 良(富山水試)

 2000〜2006 年の富山湾中央部(水深約 1,000〜1,250 m)において,ソリネットを用いて採集されたベニズワイの甲幅組成(甲幅約 5〜40 mm)から,6 つの齢群の甲幅平均値(雄:6.4, 9.2, 13.3, 18.0, 25.4 および 33.7 mm,雌:6.5, 9.0, 12.7, 17.9, 24.3 ならびに 32.6 mm)を推定した。これらは第 3〜8 齢に該当すると考えられ,夏季には第 4 および 6 齢が,冬季には第 5 齢が多く出現する傾向が認められた。

日水誌,74(4), 592-597 (2008)

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渦鞭毛藻 Akashiwo sanguinea に対する中心目珪藻類による増殖抑制作用

松原 賢(九大院農),長副 聡(水研セ瀬水研),
山崎康裕,紫加田知幸,島崎洋平,大嶋雄治,
本城凡夫(九大院農)

 博多湾箱崎港での 4 年間の植物プランクトン調査で,Akashiwo sanguineaSkeletonema costatumChaetoceros 属などの珪藻類が衰退する晩秋にブルームを形成する傾向にあった。室内でこれら珪藻類と混合培養すると,本種の増殖は強く抑制された。さらに,珪藻類の培養ろ液で本種の増殖はかなり抑制された。以上の結果より,珪藻類のアレロパシーが増殖に好適な春から夏に本種の増殖を抑えたひとつの大きな要因であり,珪藻類が減少した晩秋に本種はブルームを形成することが示唆された。

日水誌,74(4), 598-606 (2008)

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霞ヶ浦におけるコイ養殖漁場底泥中の形態別リン分布の特徴

石井裕一,小松伸行,渡邊圭司,根岸正美
(茨城県霞ケ浦環境科学セ),
張替 慧(千葉工大工),矢部 徹(国立環境研),
岩崎 順(茨城内水試)

 湖内リン濃度の経年的上昇が続く霞ヶ浦において,水質変動に及ぼすコイ養殖の影響解明の一助として,底泥中のリン存在形態からコイ養殖漁場底泥の特徴を検討した。コイ養殖漁場底泥では HCl-RP (reactive phosphorus) および CDB (citrate-dithionite-bicarbonate)-RP が非養殖漁場底泥に比べ過剰に含有されていた。主成分分析の結果,養殖漁場底泥は非養殖漁場底泥に HCl-RP が付加された地域と解釈され,飼料(魚粉)および排泄物の網生簀直下への堆積が示唆された。

日水誌,74(4), 607-614 (2008)

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標識放流実験に基づくコブシメふ化放流効果の検討

團 重樹(水研セ西海水研),浜崎活幸(海洋大),
山下貴示(水研セ瀬水研),
岡 雅一(水研セ本部),北田修一(海洋大)

 アリザリンレッド S で甲を標識したコブシメのふ化イカ 2.5〜6.2 万個体を石垣島の浦底湾と川平湾に放流し,各湾に設置された小型定置網の漁獲個体と石垣島の 5 カ所の海岸および魚市場で甲を収集し,標識の有無を調べた。放流個体は放流年の秋から翌々年の春にかけて放流点近海で漁獲され,小型定置網での混獲率は 4.5〜18.0% に達した。また,標識甲は放流点近辺の海岸で発見された。これらの結果から,回収率は 0.02〜0.08%,Yield per release は 0.24〜1.28 g と推定された。

日水誌,74(4), 615-624 (2008)

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シオミズツボワムシ培養水温がヒラメ仔魚飼育に及ぼす影響

友田 努,小磯雅彦,島 康洋(水研セ能登島セ)

 ヒラメ飼育に適したシオミズツボワムシの培養水温を検討するため,異なる水温(18, 23, 28℃)で培養したワムシを栄養強化してヒラメ仔魚に与えた。23, 28℃ 培養ワムシは若齢個体の割合が高く,栄養強化後の活性が劣った。また,ふ化後 15〜20 日齢のヒラメ仔魚において,培養水温の高いワムシを与えた群ほど成長と発育が劣った。これら 20 日齢仔魚の飢餓耐性を比較したところ,28℃ ワムシ給餌群は生残が有意に劣った。以上のことから,ワムシ培養と仔魚飼育の水温差は飼育成績に影響を及ぼすことが明らかになった。

日水誌,74(4), 625-635 (2008)

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1980〜2005 年の瀬戸内海におけるカタクチイワシの産卵量分布

河野悌昌,銭谷 弘(水研セ瀬水研)

 1980〜2005 年の瀬戸内海におけるカタクチイワシの産卵量を月別海域別に推定した。瀬戸内海の年間産卵量は 1993 年の 153 兆粒から 2002 年の 1,146 兆粒の間で変動し,主産卵期は 5〜9 月であった。年間産卵量は伊予灘で最も多く,単位面積当たりの年間産卵量は大阪湾で最も多かった。カタクチイワシ卵は表層水温 7.9〜31.7℃ の調査点で採集されたが,16.0〜28.9℃ の調査点においてより高い頻度で採集された。5〜9 月における平均表層水温と合計産卵量の間には有意な正の相関関係が認められた。

日水誌,74(4), 636-644 (2008)

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光周期がマハタ仔魚の生残,成長および摂餌に及ぼす影響

照屋和久(水研セ養殖研),
與世田兼三(水研セ西海水研),岡 雅一(水研セ本部),
西岡豊弘(水研セ養殖研),中野昌次(水研セ屋島セ),
森 広一郎,菅谷琢磨(水研セ養殖研),
浜崎活幸(海洋大)

 明期(L):暗期(D)の時間が 24L:0D, 12L:12D, 6L:6D:6L:6D, 0L:24D の条件で,500 L 水槽を用いてマハタ仔魚を 8 日齢まで飼育し,生残,成長および摂餌を調べた。また,100 kL 水槽で自然日長と 24L:0D で 10 日齢まで飼育した。その結果,小型水槽では 24L 区の生残と成長が最良で,大型水槽では 24L 区の生残が改善される傾向があった。24L 区では,他区の暗期にあたる時間帯にも仔魚の摂餌がみられたことから,この摂餌時間の延長が生残と成長が改善された要因と考えられた。

日水誌,74(4), 645-652 (2008)

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オキシダント海水およびポビドンヨード剤がヒラメ Paralichthys olivaceus 卵のふ化率に及ぼす影響

太田健吾(水研セ瀬水研),有瀧真人(水研セ宮古セ),
渡辺研一(水研セ養殖研)

 オキシダント海水およびポビドンヨード剤が,ヒラメ卵のふ化率に及ぼす影響を調査した。5 月と 6 月に採卵した桑実期の受精卵を,オキシダント濃度 0.1〜1.0 mg/L または有効ヨウ素濃度 25〜75 mg/L の海水に,1〜15 分浸漬した。6 月の卵では,5 月の卵と比較して薬剤濃度が同じでも,短時間の浸漬でふ化率が低下し,産卵時期によって異なることが示唆された。対照区のふ化率と有意差が認められない安全な浸漬条件はオキシダント濃度 0.5 mg/L で 5 分,有効ヨウ素濃度 50 mg/L で 15 分と考えられる。

日水誌,74(4), 653-659 (2008)

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2005 年 2 月に播磨灘から備讃瀬戸に至る香川県沿岸域で発生した大型珪藻 Chaetoceros densus のブルーム:発生期の環境特性とノリ養殖への影響

大山憲一,吉松定昭,本田恵二(香川赤潮研),
安部享利,藤沢節茂(香川水試)

 2005 年 2 月に播磨灘から備讃瀬戸に至る香川県沿岸域で大型珪藻 Chaetoceros densus のブルームが形成され,2 月中旬には播磨灘で最高細胞密度 9 万 cells/L を記録した。本種の急激な増殖に伴い海域の栄養塩が急減し,播磨灘のノリ漁場を中心に,本種の増殖によるノリ色落ち被害が日本で初めて確認された。ブルーム形成期の塩分は平年より著しく低く,栄養塩はブルーム形成まで平年並みか平年より高かった。従来報告されていた以外の種でも,ノリ色落ちの原因藻となりうる可能性があり,ブルームの予測にはプランクトンの注意深いモニタリングが必要である。

日水誌,74(4), 660-670 (2008)

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湯通し塩蔵ワカメおよびコンブの高速塩漬方法の開発

小野寺宗仲(海洋大,岩手水技セ),
吉江由美子,鈴木 健(海洋大)

 海藻塩蔵品の水分活性と塩分/水分の比は負の相関を示し,水分活性の測定のみで塩分の過不足を判断できた。規定の製法による湯通し塩蔵ワカメの水分活性 0.76 以下,塩分 18.0% 以上を目指して,飽和食塩水中での塩漬を検討したところ,水分活性が 0.75〜0.76 となるまでにワカメで 48 時間,コンブで 18 時間を要した。これに攪拌操作を加えることによって,水分活性が 0.75 に低下するまでに 1 時間となった。ゆえに飽和食塩水中での攪拌塩漬法は,短い加工時間で保存性に優れ,均一な海藻製品を得ることができると考えた。

日水誌,74(4), 671-677 (2008)

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干潟および沿岸海底における脱窒と窒素固定

清木 徹(茨城大教育)

 干潟及び沿岸海底の脱窒と窒素固定が環境水中での N 収支に果たす役割を調べる目的で,それらの現場速度や環境因子との関係を検討した。定期的に調査した島しょ部の干潟では両プロセスの物質収支が N ソースとなっていたが,不定期測定を行った他の干潟では N シンクのものの方が多く,干潟により両速度の相対的関係は異なっていた。一方,湾海底は全地点シンク作用を示した。また,両速度とも水温と有意な相関が認められ,脱窒速度は水温以外に水中の硝酸濃度及び底泥中のベントス現存量とも有意な相関を示した。脱窒速度とベントスとの関係は,底泥に棲息しているベントスが脱窒菌に何らかの影響を及ぼし脱窒活性を高めている事を示唆していた。

日水誌,74(4), 678-687 (2008)

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海藻ペーストを用いた浚渫用凝集剤の開発―アルギン酸抽出を伴わないワカメペーストの調製とその泥水凝集性能―

榎 牧子(海洋大),佐藤道佑(東洋建設),
金田航大,関山亮太(海洋大),
中川明子(筑波大院生命環境),
浦木康光(北大院農),兼廣春之(海洋大)

 褐藻類を用いて,浚渫工程で水と土砂の分離に用いる新たな凝集剤の開発を検討した。破砕したワカメを炭酸ナトリウム水溶液に浸漬することで海藻ペーストが調製でき,泥水にこのペーストと架橋剤となる塩化カルシウムを添加することで,泥水中の土砂が凝集することを見出した。特に,70℃ で 5 分間浸漬して調製した海藻ペーストは,泥水の濃度に依存せずに良好な凝集効果を発揮した。海藻ペースト添加量,塩化カルシウム添加量,泥水へ添加後の撹拌時間などが凝集効果に影響を与える重要な因子であることが示された。

日水誌,74(4), 688-693 (2008)

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人工種苗メバル,クロソイおよびカサゴにおける鼻孔隔皮欠損の出現状況(短報)

松岡正信(水研セ瀬水研)

 重要栽培漁業対象魚種における鼻孔隔皮欠損の出現状況を把握する一環として,胎生魚 3 種の人工稚魚について検討した。メバルの鼻孔隔皮欠損率は 80.0% であり,他に前鼻孔の欠損が 0.9% みられた。クロソイの鼻孔隔皮欠損率は 33.3% であった。カサゴについては 4 つの種苗生産機関の稚魚を観察した結果,10.0%, 38.3%, 69.0% および 70.5% と種苗生産機関によって大きく異なっていた。本結果から,メバルおよびカサゴについては鼻孔隔皮欠損を放流種苗の標識として用いられる可能性が示唆された。

日水誌,74(4), 694-696 (2008)

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アカイカ釣りにおける釣り落としと船体動揺との関係(短報)

山下秀幸,黒坂浩平,越智洋介,
小河道生(水研セ開発セ)

 アカイカ釣り漁業における釣り落とし(脱落)の削減を図るためには,その発生要因の究明が不可欠である。本研究では,今後の諸検討の礎として,いか釣り調査結果を基に,ロジスティック回帰分析を行い,釣機の設置位置等が釣り落としに及ぼす影響を検討した。AIC によるモデル選択の結果,釣機が船首尾に近いほど脱落が少なく,釣機に付属するナガシは長い方が脱落が少なかったことから,船体動揺が大きいほど脱落が少ないことが示唆された。釣機の制御等により,漁具にある程度の動揺を与えることで,脱落を抑制し得る可能性がある。

日水誌,74(4), 697-699 (2008)

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