日本水産学会誌掲載報文要旨

播磨灘・大阪湾産マコガレイの年齢と成長

反田 實,五利江重昭,中村行延,
岡本繁好(兵庫農水技総セ)

 播磨灘・大阪湾産マコガレイの年齢と成長の関係および調査年による成長の差異ならびに他海域の成長との比較を行った。また,Walford の定差図法と最小二乗法による成長推定結果の差異について検討した。最小二乗法で計算された成長式の方がより的確に本種の成長を表していると判断された。1986〜1989 年と 1998〜2001 年の比較では,雌雄とも後者の計算体長の方が大きく,両年代間における成長の変異が示唆された。また,当海域産マコガレイは隣接する紀伊水道北部産に比べて若齢期の成長が早く,極限体長が小さい傾向がみられた。

日水誌,74(1), 1-7 (2008)

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東京湾の小型底びき網におけるグリッドの選択性

大畑 聡(千葉水総研セ東京湾漁業研究所),
池上直也,仲村文夫(千葉水総研セ),
藤田 薫(水研セ水工研),松下吉樹(長大水)

 マアナゴの漁獲を維持しながらマコガレイ小型魚の混獲を防ぐために,小型底びき網のコッドエンド下部に,水平のバーを配列したグリッドを取り付けた漁具を開発した。そして,バー間隔 13, 15, 20, 24 mm で曳網試験を実施し,マコガレイとマアナゴに対するグリッドの選択性を調べた。両種に対するグリッドの選択性は,魚体の鉛直方向の厚みとバー間隔の比および魚のグリッドに対する反応という 2 つの要因を合わせることにより表現できた。また,マコガレイ小型魚がグリッドから逃避する割合は,バー間隔 15, 20 mm でそれぞれ 4 割,6 割と考えられた。

日水誌,74(1), 8-13 (2008)

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設置型魚類自動捕獲器のブルーギルに対する捕獲効果

片野 修,坂野博之(水研セ中央水研),
Boris Verkov(海洋大)

 ブルーギルに有効な設置型魚類自動捕獲器を開発した。この捕獲器は直径 10〜15 cm の入口 4 個とブルーギルを誘引する物質を入れるスペースを前面に備えている。実験池に設置したところ,在来魚であるモツゴよりも多くのブルーギルが捕獲された。また前面に中大型のブルーギルもしくは枯枝を入れたところ,枯枝のみが誘引効果をもつことが明らかになった。自動捕獲器にナマズを収容すると体重を増加させたので,ナマズは主にブルーギルを捕食し,自動的にブルーギルを減少させると考えられる。

日水誌,74(1), 14-19 (2008)

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シロギス雄の血中ビテロゲニン量に及ぼす雌魚の影響

堀田公明,渡辺剛幸,岸田智穂,
中村幸雄((財)海洋生物環境研究所),
井尻成保,足立伸次,山内晧平(北大院水)

 シロギス雄の血中ビテロゲニン(Vg)量に及ぼす成熟雌の影響を明らかにするために,産卵期のシロギスを用いて雌雄混合(混合区)と雄単独(単独区)の 2 群を設けて 3 週間飼育した後,各区の魚を 4 時間間隔で取り上げて,血清 Vg 濃度,生殖腺体指数(GSI),精巣組織を調べた。その結果,混合区の雄の血中 Vg 濃度は単独区よりも高かった。また両区の雄はともに活発な精子形成を行っていたが,混合区の雄の GSI は単独区よりも高かった。以上より,成熟雌の存在が雄の血中 Vg 濃度や GSI の上昇の要因になることが明らかとなった。

日水誌,74(1), 20-25 (2008)

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ウナギの人工種苗生産における採卵法が卵質に及ぼす影響(搾出媒精法と自発産卵法の比較)

堀江則行,宇藤朋子,三河直美,山田祥朗,
岡村明浩,田中 悟(いらご研究所),
塚本勝巳(いらご研究所,東大海洋研)

 人工催熟したウナギの採卵法の違いが,得られる卵仔魚の質に及ぼす影響を調べた。雌雄のペアリングによる昇温を伴う自発産卵法(n=12)と従来の水温一定の搾出媒精法(n=14)により得られた卵仔魚を比較したところ,受精率はそれぞれ 80±14%(平均±標準偏差)と 41±32%,孵化率は 62±23% と 31±29%,摂餌開始日齢の生残率は 54±22% と 27±25%,そして奇形率は 60±23% と 79±19%,と両者に有意差があった。昇温を伴う自発産卵法においては質の高い卵が得られるものと考えられた。

日水誌,74(1), 26-35 (2008)

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相模湾砂質浅海域における底魚群集の生物生産構造

片山知史,渡部諭史(水研セ中央水研),
福田雅明(水研セ北水研)

 相模湾砂質浅海域の底魚群集構造を明らかにするために,水深 10 m〜20 m において底魚類を採集した。種多様性と生物量は春〜夏に増加した。種組成に基づいてクラスター解析を行ったところ,約 80% の標本が,埋在性ベントスを摂食するササウシノシタが優占し,種数も生物量も少ない群集によって構成されていた。しかし,主に 5 月から 6 月にかけては,アミ類や表在性ベントスを摂食するサビハゼが優占する群集が出現した。この季節的な群集の変化を 30 年前のデータと比較したところ,生産構造に大きな変化がないことが示された。

日水誌,74(1), 36-44 (2008)

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大阪湾の人工護岸における高密度に生息するウニ類の摂食による海藻群落の生産量の増大

米田佳弘(関空調査会),藤田種美(関西空港),
中原紘之(京大院農),金子健司,豊原哲彦(日海生研)

 大阪湾の人工護岸上の高密度にウニ類が生息している藻場において,3 年間にわたりウニ類の密度を人為的に調節した実験区で海藻群落の年間生産量を推定した。ウニ類の現存量が大きくなるほど海藻の全生産量も大きくなり,現在のウニ生息量の約 2 倍(2000 g 湿重/m2,60 個体/m2)でも海藻群落は維持された。このことから,大阪湾の人工護岸上の藻場では,ウニ類の摂食圧が増大すると海藻の生産量も同時に増大し,磯焼けとはならずに,海藻群落を維持しながらウニ類が高密度で共存できることが明らかとなった。

日水誌,74(1), 45-54 (2008)

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皮および骨を含む魚肉のエクストルージョン・クッキングによる組織化と加工過程におけるアミノ酸および脂肪酸組成の変化

北川雅彦,飯田訓之,信太茂春(釧路水試),
岸村栄毅,佐伯宏樹(北大院水)

 皮と骨を含むシロサケとカツオの凍結粉砕筋肉と濃縮大豆タンパクを,70:30 の比率で混合して 2 軸型エクストルーダー(TSE)に供した。TSE の内部温度を 170°C,スクリュー回転数を 50 rpm とした運転条件で,明瞭な繊維構造を有する組織化物が製造できた。製造段階でタウリン,メチオニン,ヒスチジンがわずかに減少したが,その他のアミノ酸と全アミノ酸総量に顕著な変化は見られず,脂肪酸組成も大きな影響を受けなかった。これらの結果より,皮と骨を含む魚肉でも,栄養価を損なわずにエクストルージョン・クッキングの原料にできると判断した。

日水誌,74(1), 55-60 (2008)

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昆布に含まれる γ-オリザノール

長阪玲子,篠田 明,潮 秀樹,大島敏明(海洋大)

 我々は,昆布の三次機能に着目し,γ-オリザノールについて調査した。4 種の市販乾燥昆布から Bligh & Dyer 法にて全脂質を抽出し,HPLC によってヒドロキシ桂皮酸誘導体を分析するとともに,EI-MS によって構造解析を行った。その結果,市販昆布の中でも利尻昆布に γ-オリザノールが多く含まれていることが確認され,中でも stigmasteryl ferulate が主成分であることが明らかとなった。

日水誌,74(1), 61-65 (2008)

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イカ乾製品の褐変を促進するスルメイカ水溶性成分

大村裕治,渡辺真由,木宮 隆,山下由美子,
岡崎恵美子(水研セ中央水研),
山澤正勝(名古屋文理短大),渡部終五(東大院農)

 80℃で 20 分間煮熟して凍結乾燥後,粉砕したスルメイカ外套膜筋肉から水溶性成分を除去した標品では,35℃ 貯蔵中の褐変はほとんど認められなかったが,クロロホルム-メタノール混液(1:1)で脂溶性成分を除去した標品は著しく褐変した。過塩素酸処理した水溶性成分が単独で強く褐変したことから,原因物質は水溶性低分子成分と推定された。主要な低分子水溶性成分の還元糖とアミノ酸類を添加する実験で,グルコース 6-リン酸とリボースは著しく褐変を促進したが,イカ乾製品に特徴的な褐変を促進したのはリボースであった。

日水誌,74(1), 66-74 (2008)

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垣網の大目化と端口の遮断網による定置網におけるエチゼンクラゲ対策(短報)

後藤友明(岩手水技セ),中嶋久吉(越喜来漁協),
吉田 孝(アサヤ)

 エチゼンクラゲの定置網への入網数減少を目的として,垣網の大目化と端口への遮断網設置による漁具改良を行った。エチゼンクラゲの入網は漁具改良後もみられたが,入網数の増加は認められなかった。一方,主要な漁獲物では漁獲量の減少傾向も認められなかった。従って,垣網の大目化は魚群の身網への誘導機能を維持したままエチゼンクラゲの入網数増加を抑制する効果が認められたが,入網数の減少効果は低いと考えられた。また,遮断網を用いたエチゼンクラゲの入網阻止は困難であると考えられた。

日水誌,74(1), 75-77 (2008)

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麻痺性貝毒により毒化したマガキのろ過海水中での蓄養による減毒(短報)

高田久美代(広島保環セ),高辻英之(広島水海技セ),
妹尾正登(広島保環セ)

 麻痺性貝毒により毒化した養殖マガキの無毒化を目的として,貝毒原因プランクトン Alexandrium tamarense によって毒化したマガキ(26〜30 MU/g)を,ろ過して貝毒原因プランクトンを除去した海水を流下させた水槽で垂下蓄養し,毒の減少過程を調べた。供試したマガキの毒力は,5 日後には規制値(4 MU/g)以下となり,毒化したマガキを,ろ過海水中で数日間飼育することで,毒力が規制値以下となって生鮮貝としての出荷が可能となることが示された。

日水誌,74(1), 78-80 (2008)

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