日本水産学会誌掲載報文要旨

日本海能登半島近海産ホッコクアカエビの海深別の分布と移動

貞方 勉(石川県水産課)

産卵期と幼生ふ出期およびその間の海深別の採集個体の年齢群を解析することにより,ホッコクアカエビの着底以降の海深別の分布と移動を調べ,これまでに得られた知見と合わせて本種の生活史を明らかにした。本種は浮遊幼生期を経て着底後,成長にしたがって海深の深い方へ移動する。海深 400-600 m が交尾・産卵海域で,主群は雄では 3, 4, 5 歳,雌では 6, 8, 10 歳である。3-4 月に産卵した抱卵個体は,約 10 ヶ月の抱卵期間後の 1-2 月に海深 200-300 m に移動して幼生ふ出をおこなう。

日水誌, 66 (6) , 969-976(2000)

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高 DIN : DIP 比または低 DIN : DIP 比水域における Microcystis 属の高密度出現

吉田陽一(水産環微研),中原紘之,藤田裕子(京大農)

Microcystis 属 4 種(M. aeruginosa, M. wesenbergii, M. viridis,および M. ichithyoblabe) によるアオコの発生がみられた,琵琶湖沿岸の水域や各地の池沼等,21 水域(延 56 例)について,アオコの発生水域と同水域の水質諸要因との関係について調べた。前記 4 種が高密度に出現する水域の水質諸要因の特徴は,いずれも DIN : DIP 比が 40 以下の低 DIN : DIP 比水域に出現するグループと,同比が 40 以上の高 DIN : DIP 比水域に出現するグループとに大別され,前者は後者に比し,DIN, (NO2-N+NO3-N) : NH4-N, DIN : DIP,や TN : TP 比が低く,DIP や DOP が高いという傾向が強かった。また,同一グループの 4 種の間でも出現水域の特徴に若干の差異がみられ,特に低 DIN : DIP 比水域に出現する M. aeruginosa は,両グループの内でも,WT, DON, TN, DIP, DOP, TP, TN×TP 等が高く,(NO2-N+NO3-N) : NH4-N や DIN : DIP 比が低い水域に出現する傾向が強かった。

日水誌, 66 (6) , 977-983(2000)

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ノコギリガザミ幼生におけるアルテミアの必要性と適正給餌時期の検討

竹内俊郎,小林孝幸(東水大),清水智仁,関谷幸生(日栽協)

ノコギリガザミ幼生におけるアルテミアの必要性と適正給餌時期および成長に及ぼすワムシとアルテミアに対する栄養強化の効果の違いについて,各齢期の生残率,各齢期への平均到達日数,第 1 齢稚ガニの全甲幅長および餌料中の脂肪酸含量等から検討した。その結果,ノコギリガザミ幼生に,第 2 齢もしくは第 3 齢ゾエア期からアルテミアを与えるのが望ましいと判断された。生残率および第 1 齢稚ガニの全甲幅長は,ワムシとアルテミアへの n-3 高度不飽和酸(n-3HUFA) の栄養強化が影響していることが明らかになった。

日水誌, 66 (6) , 984-992(2000)

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播磨灘産大型珪藻 Coscinodiscus wailesii の増殖に及ぼす水温,塩分の影響

西川哲也(兵庫水試),宮原一隆(兵庫県水産課),長井 敏(兵庫但馬水産事務)

室内培養実験の結果,Coscinodiscus wailesii は広範囲の温度,塩分条件で増殖が可能であり,増殖速度は,温度 20〜25℃,塩分 20〜30 の範囲で高い値を示し,最大値は供試株4株の平均値で 1.02 divisions d−1 であった。播磨灘における塩分の変動範囲では,本種は高い増殖速度を維持できると考えられた。また,本種の増殖速度が高い値を示す温度の範囲は,本種の秋季の増殖ピークである 10, 11 月の現場海域の水温とよく一致した。しかし本種の増殖速度は,5〜10℃ の範囲で最大値の 1/2 以下に低下することから,水温が 10℃ 以下に低下する 2〜3 月には,水温が増殖の制限因子として大きく作用していることが示唆された。

日水誌, 66 (6) , 993-998(2000)

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2 種の網状構造物による人工生息場所に対する放流種苗マダイの蝟集

澤 一雅(高知大農),工藤孝也(愛媛大連農),山岡耕作(高知大農)

2 種類の人工生息場所への放流種苗マダイの蝟集状況を潜水調査した。A タイプは幅 50 cm,高さ 15 cm の黒色の長方形の網 3 枚から,B タイプは A タイプの長方形の網 1 枚と,底を覆うように設置した 50 cm 四方の網 2 枚より構成される。1998 年 7 月 21 日に第一次放流として約 3000 個体(平均全長 25.6 mm) を,7 月 28 日に第二次放流として約 1700 個体(平均全長 69.7 mm) を放流した。放流個体は,特に放流直後に人工生息場所周辺に蝟集し,B タイプを A タイプよりも多くの個体が利用した。これらの傾向は一次放流された小型個体で顕著であった。第二次放流個体に対しては,B タイプはなわばり形成の基点の機能もはたした。

日水誌, 66 (6) , 999-1005(2000)

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アルテミア摂餌期におけるノコギリガザミ幼生への EPA と DHA の給餌適正量

小林孝幸,竹内俊郎(東水大),荒井大介,関谷幸生(日栽協)

アルテミア摂餌期におけるノコギリガザミ幼生へのエイコサペンタエン酸(EPA) とドコサヘキサエン酸(DHA) の給餌適正量を明らかにすることを目的に,各齢期の生残率,平均到達日数,第 1 齢稚ガニの全甲幅長および餌料中の脂肪酸含量等を検討した。その結果,ノコギリガザミ幼生は生残に対して EPA を強く要求し,乾燥重量当り 1.3〜2.5% 程度必要であるものと推察された。また,DHA は第 1 齢稚ガニの全甲幅長を大きくすることに機能するが,0.46% 以上強化するとメガロパ幼生への変態に際し,脱皮失敗によるへい死率の増加がみられることが明らかとなった。

日水誌, 66 (6) , 1006-1013(2000)

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富山湾におけるカイアシ類 Metridia pacifica のバイオマスモデル

角南靖夫(呉大社会情報),平川和正(養殖研究所)

富山湾における主要カイアシ類 Metridia pacifica の季節変動を予測するためにシミュレーションモデルを再構築した。富山湾における M. pacifica の成長速度,孵化・発育時間と生息水温の測定値等を使用し,本種の従来の成長モデルを改良した。さらに本種と同じカラノイダ目の Acartia clausi の既往資料を基に,個体数に関するパラメータについての設定方法を検討して,個体数モデルも改良した。これらの成長モデルと個体数モデルとの組み合わせから,本種個体群現存量の季節変動をモデル化することを目的とした。M. pacifica のコペポダイトV期およびVI期(成体)は魚介類による捕食圧が高いと考え,それらの生残率を半分にすると,本モデルは 4 月始めの本種の現存量(湿重量)のピークを再現することがわかった。

日水誌, 66 (6) , 1014-1019(2000)

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流水式海水電解装置の魚類病原細菌およびウイルスに対する殺菌効果

笠井久会,石川麻美,堀友花(北大院水),渡辺研一(日栽協厚岸),
吉水 守(北大院水)

流水式海水電解装置を用い,魚類病原細菌あるいはウイルスを懸濁した 3 % 食塩水を直接電気分解して生成した次亜塩素酸による殺菌・不活化効果を検討すると共に飼育用水の殺菌効果も検討した。次亜塩素酸濃度 0.07〜0.14 mg/l, 1 分間の処理で供試細菌が 99.9% 以上,0.49〜0.58 mg/l, 1 分間の処理で供試ウイルスが 99.99% 以上不活化され,市販の次亜塩素酸より高い殺菌効果を示し,試薬特級 NaCl を電解した場合,最も殺菌効果が高かった。飼育用濾過海水については 1 mg/l, 1 分間の処理で 99.99% 以上の殺菌効果が得られた。

日水誌, 66 (6) , 1020-1025(2000)

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マルソウダ加工残滓から調製した魚醤油と数種アジア産魚醤油との呈味成分の比較

舩津保浩(富山食品研),小長谷史郎(國学院短大),加藤一郎,
竹島文雄,川崎賢一(富山食品研),井野慎吾(富山水試)

マルソウダ冷凍すり身を製造する際の加工残滓から調製した魚醤油(WS) と,その落し身から同様に調製した魚醤油(MMS) およびアジア産魚醤油の呈味成分を比較した。その結果,遊離アミノ酸とペプチドの組成は試料によりかなり異なっていた。いずれの試料にも AMP, IMP および GMP は検出されなかった。また,WS と MMS は乳酸が,魚露は酢酸が多かった。WS と MMS は他の試料よりも P が多く,Mg が少なかった。WS と MMS にはエリスリトール,アラビトール,マンニトールが,ナンプラとニョクマムにはスクロースが検出された。官能評価では,魚露は塩味のみが強い不快な味と感じられたが,WS, MMS およびニョクマムは,まろやかで味のバランスが調和されていた。

日水誌, 66 (6) , 1026-1035(2000)

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醤油麹を用いて製造したマルソウダ魚醤油と国内産魚醤油および大豆こいくち醤油との呈味成分の比較

舩津保浩(富山食品研),砂子良治(砂子商店),小長谷史郎(國学院短大),
今井 徹(食総研),川崎賢一,竹島文雄(富山食品研)

マルソウダから調製した魚醤油(FMS) の呈味成分を,国内産魚醤油(しょっつる(S),いかいしる,いわしいしる(IS)) および大豆こいくち醤油(SS) と比較した。その結果,FMS は遊離アミノ酸やオリゴペプチド態アミノ酸総量が,比較した全試料の中で最も多く,SS のそれらよりも多かった。全試料で,AMP, IMP および GMP は検出されなかった。FMS と SS で有機酸の総量は極めて高いが,その大部分は乳酸であった。FMS と SS は K と P 含量が高く,Na が比較的少なかった。官能評価では,S と IS では塩味が強いが,FMS と SS では,塩味は強いとは感じられず,まろやかで味のバランスがとれていた。

日水誌, 66 (6) , 1036-1045(2000)

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塩蔵コンブ中に含まれているクロロフィル分子のアロマー

形浦宏一,小宮真一,小関聡美,布施雅昭,立野芳明(東和化成)

前報で,優れた緑色の抽出液が得られるクロロフィル原料として塩蔵コンブが優れていることを示すとともに,その抽出液中に 2 つの緑色成分を見出し,クロロフィル分子のアロマーと推測した。本研究では,まず予測されるアロマーを合成し,塩蔵コンブからの 2 成分と HPLC で比較した。次に,単離した 2 成分と合成品の NMR,および CD スペクトルを比較した。その結果,上記の 2 成分は 10-ヒドロキシクロロフィル α とその立体異性体と決定した。

日水誌, 66 (6) , 1046-1050(2000)

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マサバへしこ製造工程中の一般成分ならびにエキス成分の変化

伊藤光史,赤羽義章(福井県大生物資源)

マサバを 1 週間塩漬にした後,7 ヶ月間糠床に漬けてへしこを製造し,工程中の一般成分とエキス成分の変化を調べた。塩漬では,食塩の急速な浸透に伴い,魚肉は強く脱水した。この間に一部のタンパク質が流出したが,脂質は保持,濃縮された。糠漬中に,魚肉の水分,灰分,脂質はやや減少したが,タンパク質はほとんど減少しなかった。塩漬と糠漬中にヒスチジンは激減したが,他の遊離アミノ酸と低分子ペプチドが著増し,このことはへしこ特有の呈味に寄与すると考えられた。イノシン酸などのヌクレオチドは塩漬で激減し,糠漬の初期にはほぼ消失した。有機酸は糠漬の初期まで減少し,その後大きく増加し,それに伴い魚肉の pH が大きく低下した。

日水誌, 66 (6) , 1051-1058(2000)

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ビンナガの脂肪分布と近赤外分光法による脂肪含量の非破壊測定

嶌本淳司,長谷川薫(静岡水試),藤井大樹(東海大海洋),河野澄夫(食総研)

ビンナガの脂肪分布の従来法による測定,および近赤外分光法による魚体全体の脂肪の非破壊測定を行った。魚体中央の脂肪含量は,魚体全体のそれと高い相関を有した。魚体中央部でインタラクタンス方式により測定したスペクトルの 2 次微分値と魚体全体の脂肪含量を基に重回帰分析を行った結果,第 1 波長として 926 nm の脂肪の吸収バンドを含む良好な検量線が得られた。その RPD 値は 2.2 であった。近赤外分光法は,インタラクタンスプローブ用いて,魚体中央部のスペクトルを測定することにより,ビンナガ(全体)の脂肪含量を測定する可能性を有していると結論づけられた。
* (注) RPD とは検量線評価用試料の対象成分値の標準偏差の SEP に対する比である。

日水誌, 66 (6) , 1059-1065(2000)

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ウイルス性神経壊死症原因ウイルスに汚染したマツカワ受精卵のオゾン処理海水による消毒(短報)

渡辺研一(日栽協),吉水 守(北大水)

マツカワ受精卵の効果的で安全な消毒法について検討した。有効ヨウ素濃度 50 mg/l のヨード液で受精卵を 15 分間消毒しても,ふ化仔魚から PCR により VNN ウイルス遺伝子が検出されたが,0.5 mg/l 濃度のオキシダントを含むオゾン処理海水で 5 分間消毒した場合は検出されなかった。受精卵の発生段階ごとにオゾン処理海水に対する感受性を比較した。モルラ期から嚢胚期では高いふ化率が得られ,モルラ期に 0.5 mg/l 濃度のオキシダント海水に 10 分間浸漬する方法が,マツカワ受精卵の VNN ウイルス対策に有効な消毒法と考えられた。

日水誌, 66 (6) , 1066-1067(2000)

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人工生産したマツカワの孕卵数(短報)

渡辺研一(日栽協),南 卓志(日水研)

人工授精および水槽内における自然産卵によって得られた受精卵から,仔魚を経て成熟に至るまで水槽内で飼育したマツカワ 40 尾を用いて孕卵数を推定した。有眼側および無眼側の卵巣の単位重量当たりの卵数は,それぞれ 2,189 粒/g, 2,331 粒/g であり,1 個体当たりの孕卵数は 326,000〜1,247,000 粒(平均 578,000 粒)と推定された。1 尾当たりの孕卵数と全長との間には指数関数関係が認められ,全長 470〜665 mm の範囲では,全長が大きいほど孕卵数が多いという結果が得られた。

日水誌, 66 (6) , 1068-1069(2000)

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