Fisheries Science 掲載報文要旨

アマゾン南西部マデイラ中流域における小規模漁業に対する水力発電所の影響の時空間分析

Igor H. Lourenço, Carolina R. C. Doria, Marcelo R. Anjos

 本研究では,サント・アントニオ水力発電所の設置前後における漁獲量の特徴を明らかにし,南アマゾナス州フマイタ市における漁業動態への影響を分析する。分析は,2009−2010年のダム稼働前と,2018年5月から2019年4月のダム後を対象とした。その結果,ダム稼働によって,いくつかの魚種で漁期・漁場が変わり,漁業者は漁期・漁場を探す必要が生じるなど漁業動態に悪影響を与えたことがわかった。アマゾンではこのような工事が増加傾向にある。影響を評価するために,精緻な魚類モニタリング・プログラムを拡大することが不可欠である。
(文責 松石 隆)

90(1), 1−14 (2024)
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自由遊泳で測定したマサバの実用的なターゲットストレングス

朱 妍卉,伊藤慶造,水谷行佑,南 憲吏,
白川北斗,川内陽平,岩原由佳,名畑公晴,
佐藤信彦,関 恭佑,黒田充樹,宮下和士
 マサバは日本周辺に広く分布する回遊魚であり,重要な漁業資源として利用されている。しかし,マサバのTS測定例が少なく,尾叉長との関係も十分に解明されていない。そのため,マサバの資源量推定には,実用的なTSと尾叉長の関係が強く求められている。本研究では,尾叉長とともにTSが増加する傾向にあり,多くの個体のTSヒストグラムは二峰性であった。平均TSと尾叉長の関係では,係数αを20に固定した場合, TScmは38 kHzで−67.9 dB (γ2=0.70),120 kHzで−69.2 dB(γ2=0.45)であった。また,遊泳角は0°付近をピークに平均−1.23°であり,平均遊泳速度は0.16 FL/sであった。

90(1), 15−27 (2024)
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イサザにおける産卵回遊時期と死亡率の性差

竹中剛志,石崎大介,幡野真隆,
藤岡康弘,甲斐嘉晃,亀甲武志
 イサザは琵琶湖に生息する固有のハゼ科魚類であり,琵琶湖漁業の重要な水産資源である。イサザはIUCNにより絶滅危惧種に指定されているにも関わらず,産卵保護など資源管理は取り組まれていない。冬季から夏季にかけて底曳網や小型定置網で漁獲されたイサザの性比や成熟状況などを調査した。その結果,イサザの雄は琵琶湖の沖合から産卵場である沿岸へ雌よりも早く回遊すること,産卵時期に雌よりも雄の死亡率が高いことが示唆された。これらの結果は,イサザの保全や資源管理を行う上で重要な知見となる。

90(1), 29−39 (2024)
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排卵期のチョウザメ類卵濾胞におけるプロテアーゼ遺伝子のmRNA発現プロファイル

駿河谷諒平,長谷川祐也,東坂和樹,足立伸次,井尻成保
 チョウザメは,養殖下ではホルモン投与により産卵を誘導しているが,卵成熟はしても排卵に至らない場合がある。本研究では,RNA-seq解析・定量PCRにより,排卵/未排卵個体における卵濾胞中のプロテアーゼ遺伝子mRNA量を比較した。その結果,mmp16, adam23, adamts9, timp2が排卵個体のみで有意に高値を示した。また,卵濾胞をホルモン存在下で生体外培養し,これら4遺伝子の発現動態も調べたところ,特にadamts9は17α-hydroxyprogesteroneにより発現が誘導された。

90(1), 41−51 (2024)
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日本に生息する国外外来種カラドジョウを判別する反復配列DNAマーカーの開発

黒田真道,東 典子,藤本貴史,荒井克俊
 カラドジョウは日本では国外由来の外来種であり,交雑による在来ドジョウへの遺伝子移入が懸念される。カラドジョウのゲノムDNAを制限酵素DraIで消化すると反復配列(PdaDra)が得られた。この反復配列領域を増幅するプライマーを用いてPCRを行うと,カラドジョウは低分子側でラダー状,高分子側でスメアー状の電気泳動パターンを示した。一方,ドジョウではPCR増幅が確認されず,カラドジョウとドジョウの識別が可能であることが確かめられた。さらに,既存のドジョウDNAマーカーとの併用で,カラドジョウとドジョウの雑種第一代(F1)の検出も可能であることが確かめられた。

90(1), 53−64 (2024)
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ブリ稚魚期における血清中抗体の動態解析

松浦雄太,嶋原佳子,嶋田幸典,
山本一毅,高野倫一,松山知正
 免疫グロブリン(抗体)は,病原体など外来抗原に対する宿主の獲得免疫を担う分子である。魚類においては血液中IgMが全身性の液性免疫に特に重要であることが知られているが,IgMが血液中に出現する時期は不明である。本研究では,ブリ稚魚における血清IgM量の動態を解析した。孵化後72日(体重5.73±0.38 g,標準体長[S.L.]72.2±1.94 mm)までは低値であった血清IgM濃度は,79日以降で顕著に上昇し85日後(体重14.05±0.92 g, S.L. 101.1±2.07 mm)には84.76±9.23 μg/mLに達した。これら結果は,幼若ブリにおいてIgMによる全身性の免疫応答が部分的にしか成熟していないことを示唆する。

90(1), 65−74 (2024)
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Integrated multi-trophic aquaculture(IMTA)システムの水質および飼育水の細菌叢に及ぼすクルマエビ Penaeus japonicus 飼育密度の影響

Shuo Kong, Zhao Chen, Abdallah Ghonimy, Fazhen Zhao, Jian Li
 本研究は,マナマコ,クルマエビ,ガザミ,およびカラアカシタビラメを用いたIMTAシステムにおいて,クルマエビ飼育密度が水質および飼育水の細菌叢に及ぼす影響を解析した。異なる飼養密度でクルマエビを飼育した場合,細菌叢と水質の各種パラメーターの間に相関関係が見られた。とくに,亜硝酸態窒素量は,細菌叢の多様度に最も大きな影響を与えた。脱窒過程において重要な役割を果たす細菌は,クルマエビの飼育密度が低い場合に多くなることが示された。
(文責 近藤秀裕)

90(1), 75−91 (2024)
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エドワジエラ菌に感染したアユおよびマダイ飼育水中のエドワジエラ菌および魚体由来物質の環境DNA分析による定量

竹内久登,川上秀昌,間野伸宏,山中裕樹,清水園子
 アユおよびマダイに対するエドワジエラ菌(EB)の人為感染試験を行い,飼育水中のEBと魚体由来物質濃度を環境DNA分析により定量した。全ての試験で感染魚飼育水中のEBおよび魚類環境DNA濃度は増加する傾向を示し,また魚類環境DNA濃度は非感染魚飼育水より有意に高くなった。さらにEBと魚類環境DNA濃度は有意な正の相関を示し,またマダイの試験ではマダイ環境DNA濃度は感染魚飼育水中のマダイ表皮細胞様細胞数とも正の相関を示した。以上の結果から,感染魚からのEBおよび魚体由来物質の放出量は感染の進行に伴い増加するものと考えられた。

90(1), 93−103 (2024)
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サケ Oncorhynchus keta の嗅覚器官および脳でのシナプトソーム関連タンパク25遺伝子発現における海洋生物由来n-3系不飽和脂肪酸の短期間経口投与の効果

漆山明日美,虎尾 充,阿部嵩志,渡辺智治,
宮腰靖之,上田 宏,工藤秀明
 放流前に相当するサケ幼稚魚にDHA高含有魚油を短期間経口投与し,記憶形成や神経可塑性に関わるシナプトソーム関連タンパク25(SNAP25)のmRNA発現と臨界遊泳速度を解析した。脳前部(嗅球+終脳)での snap25b 発現量が等熱量対照のオリーブ油投与群より同魚油投与群で高値を示し,DHAが同部位で snap25b 発現を上方制御したと考えられた。運動中枢(小脳+延髄)を含む脳後部で snap25a 発現量と臨界遊泳速度が同魚油投与群で高く,DHAが中枢を介して運動能の向上に関与する可能性が示された。

90(1), 105−114 (2024)
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プレバイオティクス1-kestoseとプロバイオティクス Lactiplantibacillus plantarum FM8によるニホンウナギへのシンバイオティクス経口投与は,飼料効率を改善しEdwardsiella レベルを有意に低下させた

藤井 匡,吉川昌之,近藤修啓,山川早紀,
舩坂好平,廣岡芳樹,栃尾 巧
 細菌感染,特に Edwardsiella 感染はウナギの養殖において重要な懸念事項である。フラクトオリゴ糖1−ケストースと発酵食品由来乳酸菌 Lactiplantibacillus plantarum FM8からなるシンバイオティクスをニホンウナギ Anguilla japonica に1か月間経口投与した結果,腸内酢酸濃度が有意に上昇し,飼料効率が20%以上改善した。16S rRNA遺伝子アンプリコンシークエンシングの結果,シンバイオティクス群では腸内の Romboutsia 属相対存在量が有意に高く,Edwardsiella 相対存在量が有意に低かった。我々のシンバイオティクスがウナギの病気の発生を減少させ,養殖の生産性を向上させる可能性があることを強く示唆した。

90(1), 115−122 (2024)
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