家戸敬太郎 |
日本の養殖業で重要であるマダイにおいて3つの育種研究が行われてきた。第一は選抜育種で近畿大学水産研究所は1960年代前半から現在に至る集団選抜によって高成長マダイの品種を確立した。第二は,染色体操作と性統御による育種で,雌性発生二倍体を交配してクローンが作出され,性転換誘導により雌の割合が高められた。3つ目は,遺伝子操作による育種で,マイクロインジェクション法を用いたゲノム編集により可食部比率を高めることに成功した。ゲノム編集などの技術と既存育種法の組み合わせにより迅速で効果的な育種が期待される。
Vladimir A. Shelekhov, Vladimir V. Panchenko |
ベロは,日本海北西部の沿岸浅海域に生息する種であり,その研究はわずかである。2018年から2022年にかけて日本海のピョートル大帝湾,ルースキー島,パリス湾,ジトコフ湾で漁獲された個体の成長・成熟観察と耳石の構造解析から,本種の寿命,成長パターン,成熟年齢を初めて評価した。寿命はメス47か月,オス40か月と推定された。一般にオスはメスよりも成長が早いが,オスで,成熟期に成長の遅い集団と成長の早い集団が形成される。雌雄ともに 2 歳で初めて成熟し繁殖する。von Bertalanffyの成長曲線を用いて計算したところ(Lt =t時点[年齢時]の推定体長,L∞=最大到達体長,t0=体長が 0 となる時の年齢,k=成長係数),以下の値を得た:オス:L∞=176.294, k=0.033436, t0=-2.3394, R=0.95;メス,L∞=118.389, k=0.0536, t0=-2.3464, R=0.94 (R=耳石の半径)。
(文責 矢澤良輔)
黒田 寛 |
海洋生態系を適切に理解・管理するために,現実的な海洋循環モデルに基づく粒子追跡シミュレーションは学際的なアプローチを可能にする最も基礎的でかつ不可欠な数値計算技術の一つである。本研究では,日本周辺海域における海洋生物を対象とする粒子追跡シミュレーションの沿革と現行を総説し,例えば,対象生物,利用された海洋モデル,粒子追跡モデルの設計や時間規模,関連する生物データなどを俯瞰することで,将来にわたり維持すべき研究資源と今後解決すべきいくつかの課題を提示する。
劉 景,Burak Saygili,岩佐 晃, 山本那津生,今泉智人,甘糟和男 |
高速フーリエ変換窓サイズ(WS)はターゲットストレングス(TS)スペクトルの計算に重要なパラメータだが,WSの影響は十分に調べられていない。そこで魚のエコーを研究する前に,タングステンカーバイド(WC)球のエコーに注目した。Simrad EK80により直径の異なるWC球のエコーを収録した。様々なWSでTSスペクトルを計算し,理論値と比較した。WSが狭いほど理論値との差が大きくなり,約0.5 m以上のWSでは差が安定した。検討した全てのケースにおいて,0.6 mのWSが妥当との結論に至った。
泉水彩花,深田陽久 |
7 日間の絶食後および飽食量給餌の 3 時間後にそれぞれ 6 匹のブリから嗅球,終脳,視床下部,視蓋,下垂体,小脳体,小脳稜,延髄を採取し,NPY, AgRP1, AgRP2, MCH1, MCH2, CART1b, 2a, 2b, 3a, 3bの遺伝子発現量を測定した。下垂体および小脳体のCART2bを除き,すべての食欲関連ホルモン遺伝子が 8 か所の脳部位で発現していた。すべての食欲関連ホルモン遺伝子発現量が小脳稜を除くいずれかの脳部位において絶食に応答したことから,視床下部以外の脳部位も食欲に関わる可能性が示唆された。
倉島 彰,景山由紀⼦,⽯堂幹夫,阿部真比古 |
単為生殖を⾏うハバノリの生長と成熟に及ぼす温度と光周期の影響を調べた。配偶⼦から培養した発芽体の生長速度は25℃で最も高かった。長日/中日条件での生長速度に差はなかったが,短日条件では低かった。発芽体は10–15℃で葉状体を形成した。発芽体の保存株を培養した場合は日長に関係なく葉状体を形成したが,配偶子から培養した発芽体は短日条件では葉状体を形成しなかった。葉状体の生長速度は15℃で最も高く,成熟率は10–20℃で100%,25℃では0%であった。単為生殖株を用いることで,養殖の簡略化が期待できる。
竹内一郎,水口雅貴,石橋弘志,高山弘太郎,山城秀之 |
コユビミドリイシAcropora digitiferaを実験室内で29, 30, 31, 32℃に14日間暴露し高水温耐性を検討した。サンゴ体色はRGB値等で評価した。29・30℃区のサンゴ体色は実験期間中僅かに黒色方向へ変動し光合成収率(ΔF/Fm′)も安定していた。31℃区では,体色は白化方向にわずかに変化したが,14日間後でもサンゴ白化は見られなかった。一方,32℃区ではサンゴは約 3 日で白化したが,ΔF/Fm′は当初より減少するものの,増減が認められた。よって,コユビミドリイシ,31℃で 2 週間は白化しないこと,32℃では白化後も基礎生産の場としての機能があることが示唆された。
深田陽久,矢吹 洋,三浦智恵美,三浦 猛,家戸敬太郎 |
ブリの0歳魚と1歳魚において,2 種類の脂質代謝関連酵素の活性の変化を測定した。その結果,脂質異化に関わる酵素は夏季に,脂質同化に関わる酵素は冬季に高い活性を示した。また,これら酵素の活性が水温と日長のいずれによって調整されているかを,海面生け簀と屋内水槽の飼育下で日照時間を変化させることで調べた。その結果,いずれの飼育条件でも脂質代謝関連酵素の活性は水温に強く依存して変化することが示唆された。
内田基晴,石樋由香,渡部諭史,辻野 睦, 手塚尚明,高田宣武,丹羽健太郎 |
小山寛喜,神谷栞奈,佐々木友花,山川 鈴, 国吉久人,Sanit Piyapattanakorn,渡部終五 |
エビ類の環境塩分変化に伴うグルタミン蓄積量変化のメカニズムを調べるため,クルマエビからグルタミンシンセターゼ(GS)遺伝子のクローニングを行った。GSは2種類存在することが明らかとなり,既報および新規のGSをそれぞれGS1およびGS2 と名付けた。GS1 およびGS2 遺伝子はそれぞれ肝膵臓および腹部屈筋でおもに発現しており,GS2 遺伝子においては環境塩分の増加に伴ってその発現量も増加した。したがって,環境塩分変化に伴うクルマエビ腹部屈筋のグルタミン蓄積量変化にはGS2 が関与していることが示唆された。
ファイルズ・ナウワー,土井 航,大富 潤 |
鹿児島湾は半閉鎖的内湾でありながら深海部分を有する特異的な海である。フタホシイシガニは同湾における十脚類の優占種の一つであり,近年水産上の重要性が高まっている。本種の加入と成長を調べるために,湾中央部と水道部において,のべ4年間にわたって3回の時系列のサンプリングを行った。雌雄ともに加入は9–11月に見られ,産卵盛期の2–4か月後であった。雌雄の成長曲線を比較したところ,雄は雌よりも成長率が低く,最大到達サイズが大きかった。一部を除き,雌雄の成長曲線に年代・場所による有意差は見られなかった。
Yue Liu, Qiaosi Liu, Qinglu Bai, Liang Wang, Cheng Li, Ying Li, Bingnan Liu |
低温耐性プロバイオティクス菌Bacillus baekryungensis MS1株がマナマコApostichopus japonicusの成長,体壁構成成分,消化,および免疫に与える影響を調べた。本菌を飼料に添加し60日間給餌飼育したところ,菌添加飼料区の成長パラメーターは対象区のものと比べて有意に高かった。また,菌添加飼料区において,ナマコ体壁の総アミノおよび多価不飽和脂肪酸の含有量が有意に増加した。さらに,同区において消化および免疫に関与する各種酵素の活性が高く,病原微生物を用いた感染試験において菌添加飼料区の死亡率は対照区に比べ有意に低かった。
(文責 近藤秀裕)
柿本真幸,高谷直己,細川雅史,別府史章 |
エーテル脂質であるmonoalkyldiacylglycerol(MADG)の構造に起因する脂質代謝制御機能について,深海性のドスイカからMADG高含有脂質(MNB)を調製し,肥満/糖尿病KK-Ayマウスを用いて検討した。マウスは大豆油(コントロール群),MNB,魚油をそれぞれ混合した飼料で4週間飼育した。各種分析の結果,MNB群では魚油群よりも有意に強い血中脂質低下効果が認められ,その要因としてMADGによるリポタンパク合成/分泌機構への影響が示唆された。
ウルファ・アマリア,清水 裕,趙 佳賢,佐伯宏樹 |
インドネシア産テラシ(伝統的エビ発酵調味ペースト,ICT)20種類について,トロポミオシン(TM)のアレルギー誘発性を調査した。エビ筋肉タンパク質の加水分解は全ICTで観察され,抗TM IgGの特異反応は検知されなかった。一方,エビアレルギー患者血清を用いたELISAでは,特異的IgE反応性の顕著な低下が見られたが,血中IgEとの結合能は全ICTで残存していた。以上の結果は,ICTが低アレルギー性水産加工食品と評価できるものの,エビアレルギーの原因食品となりうることを示唆している。
橋本加奈子,山下倫明 |
ゴマサバとマサバにおいて凍結解凍後の筋肉の品質の季節変化を調べ,両種を比較し,品質に影響を及ぼす要因を調べた。両種とも産卵期にドリップ量増加と筋肉軟化が確認され,さらにpHも低下する傾向があった。また両種の品質を比較したところ,ゴマサバよりもマサバの方がドリップ量は少なく筋肉が硬いことが確認された。ドリップ量の増加の要因は筋肉に含まれる水分量が多いこととpHの低下が影響することが示唆された。また,筋肉の軟化もpHの低下が影響することが示唆された。
古田 歩,谷本昌太 |
加熱条件の違いがマダイのテクスチャー,タンパク質組成,呈味成分変化に及ぼす影響を検討した。85℃ 90秒間,75℃ 60秒間加熱と比較して63℃ 30分間加熱でやわらかく,筋収縮も抑えられており,これは主にアクチンの変性度に起因すると推察された。イノシン酸や遊離アミノ酸は,一部を除き変化がなかった。官能評価では,85℃ 90秒間の試料で最も味を感じ,好ましいと評価された。以上より,マダイにおいては,嗜好性を高める適切な加熱条件設定が必要であること,評価ではテクスチャーよりも味などの要素が重要であることが示唆された。