Fisheries Science掲載報文要旨

アカイカ型アオリイカの飼育下における発生と産卵

宮崎多恵子,星野昂大,鈴木仁美,笠岡祝安,
春日井隆,中嶋清徳,森 有平

 種子島沖の人工産卵礁(水深約40 m)から採取したアオリイカsp. 1(アカイカ型)の卵嚢塊を19, 23,及び26℃の水温で飼育した。孵化日数は高水温ほど短く,それぞれ42, 19,及び17日であった。23℃における発生は25℃で飼育されたsp. 2シロイカ型より早く進み,孵化も早かった。23℃で継続飼育されたメスは外套長約170 mm(孵化後約204日)で初回産卵し,産卵した日のうちにオスを共食いした。メスはその後5回産卵して孵化後259日目に死亡した。メスが産んだ卵嚢内の卵数(0-4個)は自然界で知られている数(平均9個)よりも少なかった。アオリイカsp. 1は天然では250 mmでも未成熟であることから,飼育下では小型で早熟であることが示唆された。

88(5), 531-538 (2022)
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rDNAメタバーコーディングを用いたアオブダイおよびブダイの餌生物の比較

本間千穂,井口大輝,中村洋平,大西浩平,
舩木 紘,山口晴生,足立真佐雄

 アオブダイは食中毒を起こすことが報告されており,その原因毒はその餌生物に由来すると考えられている一方,ブダイによる食中毒は殆ど報告されていない。そこで,両魚種の消化管内容物を,rDNAに基づくメタバーコーディングに供して,網羅的に比較した。その結果,アオブダイではブダイに比べて,紅藻や渦鞭毛藻数種が高い割合で検出されること,さらにスギノリ目の紅藻をはじめとして,アオブダイからのみ検出される生物を明らかにした。以上のことから,アオブダイの毒化原因生物を解明する上で,基盤的な知見を得ることが出来た。

88(5), 539-553 (2022)
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耐陰性コンブ目アナメの光合成・呼吸特性

坂西芳彦,葛西広海,田中次郎

 北海道東部沿岸に生育するアナメ(生育水深5-16 m)の光合成・呼吸特性を明らかにするため,浅所側に生育するガッガラコンブ(生育水深1-10 m)と光合成-光曲線のパラメータを比較した。アナメはガッガラコンブに比べ暗呼吸速度と光補償点の値が低く,呼吸量を低く抑えることで低光量環境での炭素収支を維持し,より深い水深帯での生育を可能にしていると考えられた。生育現場の光環境データと光合成-光曲線のパラメータから求めた日光合成・呼吸量の推定結果も同様の傾向を示した。

88(5), 555-563 (2022)
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De novo RNAシーケンスによるSilurus lanzhouensis筋肉組織における成長関連遺伝子の同定

Wei Xiao, Zong-Qiang Lian, Jian-Ping Wu,
Xu-Dong Wu, Zhao-Xi Yu, Qing-Yun Sai

 Silurus lanzhouensisの成長に関する発現遺伝子情報を得るため,de novo RNAシークエンスにより,S. lanzhouensisの同家系から体重が最も重い3個体と最も軽い3個体の筋肉を解析した。両群間で843個の発現変動遺伝子(DEG)が同定され,糖代謝,システインとメチオニン代謝,および心筋収縮に関連するDEGが成長の違いに寄与することが示された。また,Hex-t2, Fbp2, Pepckが成長の違いを説明する最も有力な候補遺伝子であった。これら結果は,魚類の成長形質の理解および養殖魚の選抜マーカーの同定に有用と考えられる。
(文責 木下滋晴)

88(5), 565-580 (2022)
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低温および高温で乾燥処理した濃縮ジャガイモタンパクのカンパチ飼料における魚粉代替原料としての利用性

高桑史明,硯 圭之介,神子高弘彪,山田伸一,
ビッシャシュ・アマル,田中秀樹

 加工方法の異なる2種類の濃縮ジャガイモタンパク(PPC)について,カンパチ稚魚におけるin vitroタンパク質消化率は同等であったが,消化速度は低温加工品(LT-PPC)で高温加工品(HT-PPC)よりも有意に速かった。さらに,飼料中の魚粉を2種のPPCで20および40%代替してカンパチ稚魚に8週間給与したところ,終了時の魚体重,成長率および飼料摂取量について,HT-PPCでは20%代替区で,LT-PPCでは40%代替区で対照区との間に有意差がなかった。以上より,高温乾燥から低温乾燥に変更することで,カンパチ稚魚飼料におけるPPCの利用性を改善できることがわかった。

88(5), 581-592 (2022)
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マガキCrassostrea gigasの幼生輸送の短期予測手法の開発

筧 茂穂

 マガキの幼生輸送の短期予測を実現するために,松島湾において,潮流と残差流の予測値を用いた粒子追跡モデルを開発した。中型幼生の水平分布を実測し,粒子追跡モデルの初期幼生分布として与えた。粒子追跡モデルによる予測計算は,中型幼生が付着前段階まで成長すると仮定し,3日間実施した。中型幼生の採集から3日後に観察された付着前幼生の分布により,予測された幼生の分布の妥当性を確認した。パラメータの値を変えたケーススタディから,幼生の浮遊深度は1.75 m,死亡率は0.430day-1と見積もった。我々はこの粒子追跡モデルをルーチン的に運用し,幼生分布予測を提供することを目指している。

88(5), 593-608 (2022)
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焼成カキ殻の硫化水素に対する物理・化学的特性および反応性の変化

山本民次,中島朋大,浅岡 聡

 養殖カキの糞は底質に対する有機物負荷であり,底質中での硫化水素発生の一因である。本研究は,カキ殻を用いて硫化水素の発生を効率的に抑制することを目的とする。カキ殻の主成分はCaCO3であり,500℃以上の温度でCaOに変化した。カキ殻の比表面積は100-500℃で平均0.69 m2/gで変化が無く,600℃で0.36 m2/g,700℃で0.21 m2/gとなった。硫化水素の抑制は,焼成無しのカキ殻で1.7 mg S/gであったが,400℃では3.3 mg S/gに増加した。硫化水素の低減は吸着が大きく,次いで酸化であった。400℃での焼成が底質での硫化水素の発生抑制には最も効率が良いと結論された。

88(5), 609-616 (2022)
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岩手県越喜来湾での籠飼育による養殖クサフグ稚魚の毒化

天野勝文,久保田尚孝,山森邦夫

 フグの毒化機構の解明のために,岩手県越喜来湾での籠飼育による無毒養殖クサフグ稚魚の毒化を調べた。実験魚をメッシュのある籠に収容し,越喜来湾の2地点(鬼沢漁港,袖の沢)に垂下し,2-4週間ごとに魚を入れ替えて飼育した。その結果,鬼沢漁港では特定の時期(7月下旬~9月上旬)に毒化したが,袖の沢では実験期間を通じて毒化しなかった。天然クサフグ稚魚の毒性は9月上旬に高値を示し,10月下旬にかけて減少した。以上より,クサフグ稚魚は鬼沢漁港において特定の時期に毒化することが示された。

88(5), 617-624 (2022)
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沖縄のサンゴ礁域に生息するホヤ類から単離された海洋細菌Pseudovibrio sp.が生成するMg高含有カルサイト顆粒

廣瀬(安元)美奈,安元 剛,飯島真理子,
西野智彦,池本英子,西島美由紀,沼子千弥,
松山東平,志津里芳一,木暮一啓,渡部終五

 海洋細菌がCaを含む人工海水でカルサイトの顆粒を生成することが知られているが,このCaCO3顆粒の構造を詳細に解析した例は少ない。本研究ではサンゴ礁海域で採取したホヤから分離したPseudovibrio sp. 01OK105-5-5が,Caを含む人工培地でCaCO3の顆粒を細胞外に多量に生成することを示した。さらに,種々の化学分析により,この細胞外顆粒がMg高含有のカルサイト結晶であることを明らかにし,Mg高含有のカルサイトの形成機構の有望な材料であることを示した。

88(5), 625-634 (2022)
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キジハタ血液に含まれる抗菌性L-アミノ酸オキシダーゼの基質について

木谷洋一郎

 キジハタEpinephelus akaara血液中にはL-アミノ酸オキシダーゼ(EaLAO)が存在し,L-アミノ酸を基質として生じた過酸化水素が抗菌活性を示す。このEaLAOは海水との混合により活性化することで体内での過酸化水素産生を制御している。本研究でキジハタ血漿を海水と混合したところ過酸化水素の産生が認められた。アミノ酸分析では血漿にEaLAOの基質となりうる遊離アミノ酸類が確認された。血漿と海水を混合後にアミノ酸量を評価したところ主としてアラニンが減少し,これが血漿中のEaLAO基質として機能すると推測された。

88(5), 635-643 (2022)
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ダルスPalmariapalmataに含まれる光合成関連成分の抽出性と抗炎症機能に及ぼす乾燥処理の影響,および乾燥藻体からの効率的な回収

杉田大地,趙 佳賢,増岡雅文,小西靖之,佐伯宏樹

 乾燥による減容化は,効率的な海藻利用の基本要件である。凍結したダルスを30℃または60℃で熱風乾燥したところ,抗炎症機能をもつフィコビリタンパク質とクロロフィル関連成分(P+C)の水抽出性は著しく低下した。しかし,LPS刺激したマクロファージを用いたP+Cの抗炎症機能調査では,凍結・熱風乾燥の影響は見られなかった。さらに,硬化した細胞壁の酵素分解によってP+Cの回収量が回復するとともに,得られたP+Cは強い抗炎症機能を示した。以上の結果は,ダルス由来抗炎症成分の回収と活用に,熱風乾燥藻体が利用できることを示している。

88(5), 645-652 (2022)
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ツノナシオキアミ漁業のバリューチェーン分析

若松宏樹,呂 昱姮,桟敷孝浩

 本稿は,聞き取り調査を基にツノナシオキアミ漁業の生産地から消費地までの構造を明らかにした。当該漁業は東日本沿岸で行われており,主に冷凍で釣り餌,少量が乾燥で食用に仕向けられる。本稿では聞き取り調査を行い,生産から流通,小売までの産業構造を把握し,バリューチェーン分析を行った。その結果,ツノナシオキアミは消費者である遊漁者の需要に基づいたマーケットメカニズムによって競争的に各流通段階の付加価値が決定されていることが示唆された。聞き取りおよびバリューチェーン分析から,生産者余剰改善のために,価格戦略と市場拡大策が可能な政策として導き出され,その中でも市場拡大策が持続可能なツノナシオキアミ漁業に資する策と推察された。

88(5), 653-661 (2022)
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