Fisheries Science 掲載報文要旨

環境要因が中国長江河口におけるシラスウナギの加入に及ぼす影響

Hongyi Guo,Xuguang Zhang,Ya Zhang,
Wenqiao Tang,Jiamin Wu(上海海洋大,中国)

 2012-2016年の5年間に亘って,中国の長江河口においてニホンウナギAnguilla japonicaの稚魚であるシラスウナギの加入パターンを調べたところ,各年の冬季1, 2月と春季3, 4月に大きな加入ピークがあった。一般化加法モデルによると,1日あたりの漁獲量は水温と潮位幅に部分的影響を受けることがわかった。冬季に低水温による閾値効果が認められ,2つの加入ピークにおける最適水温は,冬季6-8℃,春季10.5-12℃であった。漁獲量に対する潮位幅の影響は複雑であるが,全体としては正の相関を示した。シラスウナギの漁獲量には大きな年変動がみられたが,概して有意な減少傾向はなかった。
(文責 黒木真理)

83(3), 333-341 (2017)
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韓国のタチウオ釣り漁業におけるLED漁灯の漁獲性能と燃料油消費

安 永一(江原道立大,韓国),
何 平国(マサチューセッツ・ダートマス大,米国),
有元貴文(海洋大),張 雄貞(江原道立大)

 韓国近海でのタチウオTrichiurus lepturusを対象とした釣り漁業で使われているメタルハライド(MH)灯をLED漁灯に替えた場合の漁獲性能と燃料油消費について,2012-2013年冬漁期に済州島沖合で操業試験を実施した。21.6kWのLED灯を使った場合の漁獲量は45-84kWのMH灯漁船と同様の結果であり,LED灯漁船の光源出力当たりの漁獲量(kg/kW)はMH灯漁船よりも高い結果となった。MH灯に替えてLED灯を導入するための経費の採算性,並びにCO2排出量削減効果について考察した。

83(3), 343-352 (2017)
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資源へのアクセスが制限された状況を考慮したプロダクションモデル

中山新一朗(水産機構中央水研),
秋元清治(神奈川水試),
市野川桃子,岡村 寛(水産機構中央水研)

 資源の一部が漁獲の対象とならない場合,漁獲量の時系列からその資源の状態を評価するのは非常に困難である。我々はプロダクションモデルに「隠れ資源」を導入することでこの問題に対処した。シミュレーションの結果,十分に長い時系列が利用できる場合にはこのモデルで正確な推定を行うことができた。時系列長が短い場合でも,増加率の情報を予め与えることで正確な推定を行うことができた。このモデルを7年分のマナマコ局所個体群の時系列に適用し,現在の資源量や漁獲圧が管理基準値を超す確率を計算し,資源状態を評価した。結果,この資源への漁獲圧は管理基準値を超す状態にあり,将来的に適正な資源量を下回る可能性が高いことが示された。

83(3), 353-365 (2017)
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マナマコApostichopus japonicusへのスパゲティタグの非貫通装着は保持率が高い

藤野 匠(京大院情報),澤田英樹(京大舞鶴水産),
三田村啓理(京大院情報),益田玲爾(京大舞鶴水産),
荒井修亮,山下 洋(京大フィールド研)

 マナマコApostichopus japonicus 40個体に対し4種類のタグ装着を試みた。タグ装着後13日間,水槽でそれぞれのタグの保持期間の差を調べた。スパゲティタグを非貫通で装着する手法のタグ保持率が最も高かった。さらにマナマコ10個体に対してスパゲティタグの非貫通装着の保持期間を最大約6ヵ月(174日間)調べた。56日後に保持率が50%以下になったが,174日間タグが脱落しない個体もいた。スパゲティタグの非貫通装着は保持率が高く,容易かつ速やかに取り付けができるため,マナマコへのタグ装着方法として適していると考えられる。

83(3), 367-372 (2017)
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冬季の瀬戸内海における仔魚の体サイズの東西変異

重松勇也(広大院生物圏科),
越智雄一郎,山口修平,中口和光(広大生物生産),
坂井陽一(広大院生物圏科),
柴田淳也,西嶋 渉(広大環境安全セ),
冨山 毅(広大院生物圏科)

 2014年1月および2015年1月に,瀬戸内海21定点において口径1.3mのネットを用いて魚類仔魚の採集を行った。最も優占した魚種はイカナゴであり,個体数で全体の82%を占めた。イカナゴの採集個体数は瀬戸内海の東側で多く,体サイズも西から東にかけて大きくなった。このような東大西小の傾向はメバル類やカサゴにおいても共通してみられた。水温は東ほど低く,体サイズの変異は異なる水温環境による産卵期,産仔期の違いに由来している可能性が示唆された。

83(3), 373-382 (2017)
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鱗相を使った判別分析に基づくオホーツク海および日本海沿岸におけるサケ親魚Oncorhynchus ketaの起源推定

斎藤寿彦(水産機構北水研)

 サケの地域起源を線形判別分析で推定した。供試魚はオホーツク海~日本海沿岸の12河川集団から採集した。鱗1年目年輪の半径をi等分し,各等分に位置するサーキュリー数で除して各個体の鱗相をi個の変数とし,他に5つの形態計測値を加えて予測変数とした。正答率はiの増加に伴い改善したが,ある一定値に漸近した。線形判別式の予測変数を使い直接最尤法で各河川集団を分類した結果,平均97.2%の正答率で北海道と本州の識別が可能であった。本研究は,サケ鱗相が少なくとも北海道と本州の識別に有効であることを明らかにした。

83(3), 383-400 (2017)
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トラフグ稚魚のフグ毒の知覚と中枢神経作用に関するトランスクリプトーム解析

沖田光玄(長大院水環),
陳 盈光,佐藤根妃奈,木下滋晴,浅川修一(東大院農),
小島大輔,山崎英樹(水産機構瀬水研),
崎山一孝(水産機構日水研),
高谷智裕,荒川 修,萩原篤志,阪倉良孝(長大院水環)

 トラフグ稚魚のフグ毒の知覚と中枢神経作用を明らかにするため,フグ毒を感知または蓄積させた無毒人工種苗について,嗅覚器(皮膚および嗅上皮)と脳の遺伝子発現をトランスクリプトーム解析により網羅的に調べた。トラフグ稚魚はフグ毒を感知・蓄積すると,それぞれ21種・81種の既知遺伝子が対照よりも有意な発現変動を示した。これらのうち脳より摂食調節と報酬系関連遺伝子の発現変動が検出されたことから,トラフグ稚魚はフグ毒を報酬と知覚し,摂食中枢を介してフグ毒の摂取を調節する可能性がある。

83(3), 401-412 (2017)
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サケの脊椎骨数における遺伝率の推定

安藤大成(道水研本部),室岡瑞恵(道さけます内水試),
下田和孝(道さけます内水試道南),
隼野寛史(道さけます内水試道東),
佐々木義隆,宮腰靖之(道さけます内水試),
中嶋正道(東北大院農)

 北海道の千歳川と敷生川において,サケの脊椎骨数における遺伝率を推定した。総当たり交配により合計70家系を作出した。遺伝率は2つの手法(分散分析と親子回帰)から0.26-1.91と推定され,両手法で計算した値には相関が見られた。母親成分から推定した遺伝率は父親成分からの推定値に比べ高い値を示し,母性効果の影響が考えられた。また,敷生川の集団の遺伝率は千歳川の集団よりも高値であった。これよりサケの脊椎骨数の遺伝率は高く,脊椎骨数の決定には遺伝要因が強く関与していることが示唆された。

83(3), 413-423 (2017)
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DNAバーコーディング法を用いたバフンウニの摂餌海藻の同定手法の開発

仲野大地,神谷充伸,富永 修(福井県大海洋生資)

 バフンウニの胃内容物内の海藻断片からrbcL遺伝子を増幅して塩基配列を決定し,種を同定する手法を開発した。2014年春に福井県若狭町で採取したウニの胃内容物には,褐藻類のイソモクの断片が多く含まれていたが,調査海域の優占種ではなく,ウニの摂餌に選択性がある可能性が示唆された。紅藻ではエゴノリとサンゴモ科の着生藻が検出された。本手法は,顕微鏡観察と組み合わせることによって客観性のある種判定が可能となるだけでなく,着生藻の餌としての利用の可能性についても検証でき,ウニ資源の増養殖に役立つ情報が得られる。

83(3), 425-432 (2017)
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クロホシマンジュウダイScatophagus argusの主要組織適合複合体クラスⅠα遺伝子のゲノム構造,多型並びに発現の解析

Xiaobing Wang(上海海洋大),
Yanmei Liu(上海徐匯中央病院),
Zhizhi Liu,Tianrui Zhang,Qiang Li,
Junbin Zhang(上海海洋大,中国)

 クロホシマンジュウダイの主要組織適合複合体(MHC)クラスⅠα遺伝子のイントロン構造,多型および組織における発現を調べた。遺伝子は全長2,020塩基(ORF 1,068塩基)で7つのエクソンと6つのイントロンからなり,4番目のイントロンには塩基数が異なる2つのタイプがあった。42個体から20の対立遺伝子が見つかり,高い多型性を示した。本遺伝子の発現は,肝臓,脾臓,腎臓で高く,胃,腸管,筋肉で低かった。予測アミノ酸配列の系統樹解析では,本遺伝子はヨーロッパヘダイやヨーロピアンシーバスといったスズキ目魚類と近縁であった。
(文責 佐野元彦)

83(3), 433-446 (2017)
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キジハタ人工種苗の鰾の開腔状況が項部陥没異常に及ぼす影響

岩崎隆志,照屋和久(水産機構西海水研),
水田 翔,浜崎活幸(海洋大)

 キジハタ種苗生産において項部陥没異常が問題となっており,この異常は内部骨格的には第1-4背鰭担鰭骨および第1-4椎体の神経棘の変形や挿入位置の異常として確認される。本研究では,本種の鰾の開腔状況が項部陥没異常に及ぼす影響を調査した結果,開腔個体は未開腔個体に比べて,本異常の出現頻度が有意に高くなった。本種の鰾は第1-5椎体および第1-5背鰭棘の直下に出現し,この位置は項部陥没異常の出現位置と近接する。以上の結果から,飼育下では鰾の開腔が項部陥没異常のリスクを高めるものと考えられた。

83(3), 447-454 (2017)
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雌ガザミPortunus trituberculatusの血液化学,脂肪酸組成,ビテロゲニンおよび脂肪酸結合タンパク質遺伝子発現に及ぼす絶食の影響

Liyun Ding(寧波大・江西水研),
Huiyun Fu(江西水研),
Yingmei Hou,Min Jin,Peng Sun,
Qicun Zhou(寧波大,中国)

 絶食が雌ガザミPortunus trituberculatusの生殖腺発達,血液化学,脂肪酸組成,ビテロゲニン(Vtg)および脂肪酸結合タンパク質(FABP)遺伝子発現に及ぼす影響を調べた。給餌区ガザミと比較して,絶食区ガザミの生殖腺体指数,血清グルコースおよびコレステロール濃度は有意に低下したが,血清総タンパク質濃度は有意に増加した。また,絶食区ガザミ卵巣では18:0, 16:1n-7, 20:1n-9脂肪酸の減少,20:4n-6, 22:6n-3, 18:1n-9, 20:5n-3脂肪酸の増加傾向がみられた。絶食区および給餌区ガザミ肝膵臓のVtg遺伝子発現に差はなかったが,卵巣のVtg遺伝子発現については絶食区ガザミで有意な低下が認められ,絶食による生殖腺発達の抑制が考えられた。
(文責 柿沼 誠)

83(3), 455-464 (2017)
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中国広東省沿岸の養殖海域における微生物群集の代謝および系統的特性

Xiaojuan Hu(中国水産科学研究院),
Guoliang Wen,Yucheng Cao,Yingxue Gong(曁南大),
Zhuojia Li(中国水産科学研究院,中国),
Zhili He(オクラホマ大,米国),
Yufeng Yang(曁南大,中国)

 Nan'ao島(中国の広東省沿岸の養殖場の密集する地域)の白沙湾の微生物群集の系統および代謝特徴を調べた。大型海藻(セイヨウオゴノリ)養殖海域(LZ),魚類海域(FZ)および対照海域(CZ)の比較を行った。微生物群集解析においては,CZとLZのシャノン多様性は,FZよりも優位に高かった(P<0.05)。FZ海域においては,塩分,COD,全リンなどの環境要因の影響を受けやすいこともわかった。一方,LZ海域においては海藻と密接に関わりのある固有の微生物群集が形成され,環境要因の影響を比較的受けにくいことがわかった。
(文責 木村 凡)

83(3), 465-477 (2017)
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誘引活性測定法の確立およびウスエダミドリイシに含まれる褐虫藻誘引因子の特性

竹内亮太,神保 充,谷本典加,田中千瑛(北里大海洋),
波利井佐紀,中野義勝(琉球大熱研セ),
安元 剛,渡部終五(北里大海洋)

 サンゴは共生相手の褐虫藻を環境中から獲得するために褐虫藻を誘引していると思われる。そこで,我々はサンゴが誘引物質を持っているか検討するために誘引活性測定法を確立し,ウスエダミドリイシの褐虫藻誘引物質は水溶性の熱に弱い高分子成分であることを見出した。誘引活性はN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)により阻害されたことから,GlcNAc結合レクチンが誘引に関与していると推定される。GlcNAc結合レクチンを分離し誘引活性を測定したところ,本レクチンが粗抽出液に含まれる誘引活性の主要成分であった。

83(3), 479-487 (2017)
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細菌の接種によって誘導されるアコヤガイ中の抗菌性タンパク質の探索

林 海生(海洋大・広東海洋大,中国),
石崎松一郎,長島裕二(海洋大),
永井清仁(ミキモト真珠研),
前山 薫(御木本製薬),渡部終五(北里大海洋)

 本研究で対象とするアコヤガイは,日本において重要な養殖真珠の母貝として用いられる二枚貝である。腸炎ビブリオをアコヤガイ閉殻筋に直接接種したところ,鰓から得られた酸抽出物に,非接種の対照よりも強い抗菌活性を示す成分が存在することを見出した。酸抽出物はグラム陽性菌および陰性菌に抗菌活性を示し,とくにビブリオ属に強く作用した。鰓より2種の抗菌タンパク質APg-1(分子量約210 kDa)およびAPg-2(分子量約30 kDa)を分離し,これらはMALDI-TOF MS分析により,新規の抗菌タンパク質である可能性が推察された。

83(3), 489-498 (2017)
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