コロンブス以来、4世紀以上にわたってなぞのままだった 魚の毒の正体が、日本の研究者によって明らかにされたのじゃ。 毒の名前はシガトキシン。その全容解明までのドラマを紹介しよう!
コロンブスが航海を始めた15世紀から、 船乗りのあいだにはある言い伝えがあったそうじゃ。 それが「サンゴ礁に船が座礁すると、 そこに住む魚が毒をもつ」というものだ。
つまり、それまでは毒をもっていなかったのに、 船が座礁したら毒を持つようになるっていうことなの?
その通り。この言い伝えについては かの有名なクック船長の日記にも登場する。 「ふだんは無毒のはずの魚をたべ、奇妙な中毒を起こす船員がいる」と 書かれているんじゃ。
ええ〜、どうしてなんだろ? 不思議だねえ! 中毒って、どんなふうになるの?
下痢や吐き気のほかに、温度を感じる感覚に異常がおきる。 水や金属にさわると、まるでドライアイスをさわったように、 激しい痛みを感じる。冷たすぎて痛い、と感じるんじゃな。
それじゃあ、顔も洗えないよ!
水にさわると痛くてたまらない。 魚をとって生活している人々にとっては、大問題じゃな。 この症状は数日から数ヶ月でおさまっていく。 死ぬことはないが、あまりに奇妙な中毒じゃのう。
ガンビエ−ル諸島最大の島 マンガレバ島/写真提供 安元健
タヒチだって!いいなぁ。サンゴ礁のきれいな、美しい島だよね。
その通りじゃが、先生は遊びに行ったのではないぞ。 タヒチはもともとシガテラ中毒の多発地帯だ。 WHO(世界保健機構)から頼まれて、 安元先生はここでシガテラ毒の研究を始めたのじゃ。
左が安元先生。当時45歳 写真提供 安元健
死んだサンゴにはえている石灰藻/写真提供 安元健
集団中毒のおきたガンビエール諸島の海では、 大型船を通すために、海底をけずる工事が行われていた。 けずられた部分ではサンゴが死んでしまい、 そのあとに、環境の変化に強い、石灰藻が増えていた。 この石灰藻に、魚のおなかの中で見た新種の藻が、大量にくっついていたんだ。
石灰藻についたガンビエールディスカス 写真提供 安元健
これがガンビエールディスカスだ! 写真提供 安元健
それを人間が食べると、中毒を起こすわけだね!
その後安元先生は、10年かけてこのシガトキシンがどんな構造の物質なのか、 その全てを分析して明らかにした。 なんとこの毒は、60個もの炭素原子からなる、とても複雑な化合物だったのじゃ! 毒の強さは、フグ毒の200倍。0.05ミリの小さな藻が、 自然の中でこんな複雑な物質を作るのだから、ほんとうにビックリだね。