水産学奨励賞 |
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塩出大輔氏 「まぐろ延縄漁業における海亀類の混獲回避に関する研究」
近年,世界的に問題となっているまぐろ延縄漁業における海亀類の混獲に対して,受賞候補者は,漁具を改良することでこれを避ける独自の方法を提案し,その改良の基本となる理論式の導出,ならびに実験によってその有効性を評価する研究を行った。受賞候補者は,こうした混獲問題の解決に漁具の側からアプローチする世界でも数少ない研究者であり,国際機関から専門家として招聘されるとともに,著名な雑誌に掲載された総説の著者としても名を連ねるなど,我が国でもこの分野を先導しており,将来のさらなる発展が期待される。 |
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末武弘章氏 「魚類の分子免疫学的研究」
耐病性育種や魚病対策の確立といった水産上の重要課題を解決するためには,病気から身を守る仕組み,すなわち免疫系の理解が必須であるが,魚類免疫学はリンパ球の分類でさえまともにできないほどに初歩的な段階にあった.それを全ゲノムが解読されたトラフグを用いることで大きく進展させたのが末武氏である.免疫応答を中心的に制御するリンパ球であるヘルパーT細胞の同定を魚類で初めて可能にした.さらに,サイトカイン類や抗原提示細胞など主要な免疫関連分子・細胞も次々と明らかにした.そしてそれらを基に免疫応答の核心部分を解き明かそうとしている.これらのことから末武氏が奨励賞にふさわしい将来が楽しみな逸材であるものと認めた |
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平松尚志氏 「魚類の卵形成に関与する卵黄前駆物質およびその受容体に関する研究」
受賞候補者は、魚類の卵形成機構について生化学および分子生物学的なアプローチから先駆的な研究を行い、多くの重要な基礎的知見を得ている。それらの知見は、水産増養殖技術の発展のみならず環境問題への正確な対処にも繋がると考えられ、基礎学問にとどまらず広く応用面での貢献が期待されるものである。受賞候補者は、筆頭著者として英文の総説を専門書に執筆するなど国際的にも高く評価されており、我が国のみならず世界をリードする新進気鋭の研究者として、今後とも一層の発展が期待される。 |
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吉永龍起氏 「初期餌料生物シオミズツボワムシの個体数変動に関する研究」
シオミズツボワムシが養殖種苗の初期餌料として重要な水産生物であることは言を待たない。シオミズツボワムシについては従来から多くの研究の蓄積があるが、産業的な重要性からその研究の多くは、大量培養、増殖不良原因、耐久卵獲得のための両性生殖誘導要因など、応用的な研究が主体であった。こうした中にあって、環境に応じて個体群の変動を繰り返すという、シオミズツボワムシの生物的な特性に注目して、いわばモデル実験生物としてシオミズツボワムシを捉え、その生活史的な変化から個体群の変動機構を明らかにしようと試みたことを評価した。こうした研究が盛んになることによって、基礎と応用を同時に見据えた新しい水産学の発展がもたらされることを期待する。 |