日本水産学会誌掲載報文要旨

中層・底層定置網を対象とした剛構造型海亀脱出装置の閉扉力

塩澤舞香,塩出大輔,胡 夫祥,東海 正(海洋大)

 海亀脱出装置の脱出口を覆う扉の閉扉力を静水下と流水下で調べ,流水下においても海亀が脱出可能で,海亀の脱出後に自律的に閉鎖する扉の仕様を検討した。閉扉力は,土台ネットと扉枠との重ね合わせ幅と,扉の水中重量が大きいほど大きかった。重ね合わせ幅が関与するモーメントは扉の開放角度の増加に伴って増加し,水中重量が関与するモーメントは減少した。開放側から 0.8 ノットの流れを受けても自律的に閉鎖する扉枠直径 6.0 mm,重ね合わせ幅 0.2 m の扉は,同様の流れを支点側から受けた場合でも海亀が脱出可能な仕様であった。
日水誌, 85 (3), 297-304 (2019)

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魚道設置後のサクラマス資源の増加過程

下田和孝,卜部浩一,川村洋司(道さけます内水試)

 魚道の設置がサクラマス個体群に及ぼす効果を明らかにするため,魚道設置の前後計 10 年間,幼魚の生息密度や体サイズ,産卵床の分布や数の変化を調べた。魚道の設置以前は,魚止めの落差工よりも下流に産卵床が集中的に分布し,幼魚の生息密度は高く低成長であった。魚道設置後は産卵域が上流へと拡大し,下流域での幼魚の高密度状態が解消して成長率が上昇し,秋期に尾叉長 8 cm 以上のスモルト候補サイズに達する個体の割合が高まった。魚道設置から 3 世代目に当たる年級の産卵床数は,1 世代目と比べて平均で 2.8 倍に増加した。

日水誌, 85 (3), 305-313 (2019)

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多眼ステレオ画像計測による養魚体測システムの精度向上

田中達也,米山和良(北大院水),鳥澤眞介(近大農),
山口武治,浅海 茂(古野電気),高木 力(北大院水)

 養殖生簀内を遊泳する養魚の尾叉長を非接触で正確に計測するため,4 機のカメラを同時に使用する多眼ステレオ計測を行い,一般的に使用される 2 眼ステレオ計測と比較し性能を検証した。金属製フレームに 4 機のカメラを固定したステレオカメラで画像較正,既知とする 3 次元位置の推定,既知の魚体の尾叉長計測を行った。計算に使用するカメラの機数を変更して DLT 法で 3 次元位置を計算し,真値との誤差を求めた結果,いずれの実験においても 4 眼ステレオ計測で最も誤差が小さくなり,多眼ステレオ計測の有用性が明らかになった。

日水誌, 85 (3), 314-320 (2019)

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スケトウダラの卵から初回産卵期に至る飼育手法の検討と産卵数および卵サイズに及ぼす給餌量の影響

中川 亨,田中寛繁,千村昌之,山下夕帆,
横田高士(水産機構北水研)

 スケトウダラを卵から成魚まで屋内で飼育し,成育履歴を把握した人工生産魚を親魚に用いて給餌量が産卵数や卵サイズに及ぼす影響を検討した。人工生産魚の初回産卵は満 2 歳となった直後に確認された。人工生産魚を 2 群用意し,初回産卵期の 8 か月前から異なる給餌量で飼育したところ,雌単位体重あたりの産卵数には群間で差は認められなかったが,高給餌群由来の卵は低給餌群由来の卵よりも大型であった。人工生産魚を用いた飼育実験により,本種の親魚が産出する卵の量的,質的特性と親魚の状態との関連性が追究可能となった。

日水誌, 85 (3), 321-330 (2019)

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セリが産地卸売市場価格に与える影響に関する研究―三重県外湾漁協におけるイセエビ価格を事例に―

木下祐希,八木信行(東大院農),
阪井裕太郎(アリゾナ州立大,米国)

 産地卸売市場における水産物価格形成メカニズムの一端を解明することを目的として,日本の漁港におけるデータを基にセリの形式の差異が水産物価格に与える影響の有無とその傾向を分析した。具体的には,三重外湾漁協を対象にセリに関する質問票調査と,イセエビの日毎の漁獲量と落札価格のデータをもとに,統計分析を行った。その結果,価格が高い傾向にあるセリの運営方法として,落札額だけではなく各仲買人の入札額まで公開していること,仲買人の人数が多いこと,1 回のセリ毎のイセエビの取引重量が大きいこと,などが見出された。

日水誌, 85 (3), 331-339 (2019)

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4 種のアユ病原細菌を同時に検出するマルチプレックス PCR 法(短報)

鈴木究真(群馬水試),泉 庄太郎(群馬水試・東海大海洋),
熊川真二(長野水試佐久),坂井貴光,中易千早(水産機構増養殖研)

 アユに病原性を示す 3 種の細菌 Flavobacterium psychrophilum, Pseudomonas plecoglossicida および Vibrio anguillarum を同時に検出できる既報のマルチプレックス PCR (M-PCR)法を改良し,Edwardsiella ictaluri も検出できる新たな M-PCR 法の開発を試みた。gyrB 領域を標的とした M-PCR 法は,陽性対照から目的とする PCR 増幅産物のみが得られ,各細菌の検出限界値は 10-100 fg/PCR tube であった。また,E. ictaluri 感染実験魚組織からも検出が可能であった。このように,主要なアユ病原細菌 4 種を同時に検出できる M-PCR 法が開発できた。

日水誌, 85 (3), 340-342 (2019)

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小型水槽内でクルマエビ Marsupenaeus japonicus の交尾が行われる飼育条件の検討(短報)

宮島(多賀)悠子,伏屋玲子(水産機構水工研)

 近年,クルマエビ漁獲量の減少に伴い,種苗生産に使用する親エビの確保が難しくなっている。そのため,水槽で飼育した親エビを用いた採卵技術の確立が求められているが,交尾が十分に行われないことが問題となっている。そこで,水槽内で交尾が行われる条件を明らかにするため,水槽サイズ,底質,曝気による音と振動,水槽壁の衝撃吸収性と交尾との関係を調査した。その結果,前二者は交尾に影響を与え,アンスラサイトを底質に用いた場合には底面積が 0.75 m2 以上で交尾が行われた。一方,後二者は交尾に影響を及ぼさなかった。

日水誌, 85 (3), 343-345 (2019)

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