日本水産学会誌掲載報分要旨

周期的変動環境下における漁獲係数一定の管理方式の数学的性質

田中栄次(海洋大)

 環境収容力が一定期間ごとに入れ代るモデルを導入した余剰生産モデルを用い,平均漁獲量や最小漁獲量などを最大化する漁獲係数を求め,最大持続生産量を与える漁獲係数(FMSY)とともに,平均漁獲量や漁獲量の変動等を比較した。FMSY はあるパラメータを持つ一般化平均を最大化すること,平均漁獲量を最大化する漁獲係数は一般には FMSY と一致しないことなどがわかった。このモデルをマイワシとマサバの太平洋系群の推定値に応用した。結果の解釈やモデルの拡張等について議論した。

日水誌, 83 (4), 566-573 (2017)

[戻る][水産学会HP][論文を読む]


広島県三津大川におけるシロウオの遡上および産卵場の環境特性

長谷川拓也,小路 淳(広大院生物圏科)

 シロウオの遡上実態と産卵場の環境特性を広島県三津大川において調査した。2016 年の漁期は 2 月下旬〜4 月下旬であり,漁獲量は大潮の時期に多く小潮の時期に少ない傾向を示した。卵塊分布密度が最高となった地点は,河口から約 350 m 上流側であった。その地点の塩分は,小潮期には終日ほぼ 0 であったが,大潮期の満潮時には約 25 に上昇した。既往知見に比べて高い塩分にさらされる場所においても本種の産卵が確認され,一定期間は淡水及び汽水にさらされる環境であることが産卵場の形成要因として重要である可能性が示唆された。

日水誌, 83 (4), 574-579 (2017)

[戻る][水産学会HP][論文を読む]


アカガレイ卵・仔稚魚期の比重変化および卵発生速度と水温の関係

鈴木孝太(北大院水),中屋光裕(北大水),
柳 海均(韓国国立水産科学院),
松田泰平(道栽水試),髙津哲也(北大院水)

 アカガレイ卵・仔魚の輸送過程を明らかにする端緒として,飼育実験で,卵・仔稚魚の発生・発育に伴う比重変化の測定および卵発生速度と水温(1-12℃)の関係を調べた。卵の比重は,生息域である噴火湾の海水密度より常に低く,浮上したが,卵黄嚢仔魚では逆転した。屈曲前前期の仔魚の比重は海水密度とほぼ同等になり,それ以降は発育とともに再び高比重になった。水温 1-12℃ において,卵および卵黄嚢仔魚期の日数は高水温ほど短かった。水温や生息水深別の流向・流速の年較差が卵・仔魚の輸送過程を変化させている可能性が示唆された。

日水誌, 83 (4), 580-588 (2017)

[戻る][水産学会HP][論文を読む]


大阪湾で麻痺性貝毒により毒化したアカガイ,トリガイにおける毒量および毒成分の経時変化と種間の差異

山本圭吾(地独大阪環農水研),
及川 寛(水産機構中央水研)

 2013-2015 年に麻痺性貝毒原因種の出現とアカガイ,トリガイの毒量,毒成分変化を調査した。確認有毒種は Alexandrium tamarenseA. catenella で,主毒化原因種は前者であった。アカガイは毒化,減毒が遅く通年毒が検出されたのに対し,トリガイは,原因種終息後は毒が検出されなくなった。毒成分は前者が強毒の GTX2, 3 主体で,後半 STX が増加した一方,後者は C1, C2 主体であった。両種とも原因種増殖期に GTX1, 4 が増加したが,トリガイでは毒が速やかに排出されたと推察された。

日水誌, 83 (4), 589-598 (2017)

[戻る][水産学会HP][論文を読む]


三重県早田浦におけるガンガゼ除去に伴う海藻植生の変化

石川達也(三重大院生資・尾鷲市役所),
戸瀨太貴(串本古座高校),
阿部真比古(水産機構水大校),
岩尾豊紀(鳥羽市水研),
森田晃央,前川行幸,倉島 彰(三重大院生資)

 2010 年からガンガゼ類除去による藻場再生が行われている三重県早田浦に 10 調査地点を設け,1999 年,2004 年,2014 年の計 3 回,海藻植生を素潜りによって広域的に調査した。湾奥部は,1999 年にはガンガゼ類が優占する磯焼け域であったが,ガンガゼ類除去後の 2014 年には磯焼けから藻場の再生が認められ,ホンダワラ類や小型海藻の種数が大きく増加した。一方,湾口部では調査期間を通して藻場ガラモ場や一年生コンブ目藻場が維持され,海藻種数に大きな変化は見られなかった。

日水誌, 83 (4), 599-606 (2017)

[戻る][水産学会HP][論文を読む]


ツチクジラ赤肉の成分ならびにメタノール抽出液の抗酸化性・ACE 阻害活性

藤野嵩大(東洋大・宇都宮大院),
塩田健太朗,根本友里香(東洋大),
小櫛滿里子(相模女子大),吉江由美子(東洋大)

 2014年に房総半島沖で捕獲したツチクジラの食用赤肉の一般成分,無機質,脂肪酸組成を測定し,遊離アミノ酸,イミダゾールジペプチドを分析した。一般成分・脂肪酸組成に雌雄による差はなく,オレイン酸が主な脂肪酸であった。無機質の Ca, Zn, Mn,遊離アミノ酸の Asp, Ser, Glu, Met, His はオスにメスよりも有意に多かった。バレニンは乾物100 g 当りオスに3170 mg,メスに2980 mg 検出された。メタノール抽出液の抗酸化性,ACE 阻害活性に雌雄による差はなく,他の畜肉に比べて低かった。

日水誌, 83 (4), 607-615 (2017)

[戻る][水産学会HP][論文を読む]


塩漬したヤナギムシガレイ筋肉中の呈味成分と筋原繊維タンパク質の変化に及ぼす乾燥温度の影響

平田三春,松川雅仁,奈須亮耶(福井県大海洋生資)

 若狭カレイの品質に及ぼす低温乾燥の重要性を検証する目的で,塩漬したヤナギムシガレイの乾燥歩留まりの低下に伴う筋肉中の水分と呈味成分および筋原繊維タンパク質(Mf)の変化を検討した。その結果,温度にかかわらず水分の蒸発は主に魚体表面で起こり,それに比べて筋肉中の水分の低下は非常に少なかった。また 20℃ 以下の乾燥は筋肉中の IMP の分解と Mf の変性を抑制した。さらに歩留まり 85% まで乾燥した場合の筋肉の保水性は 4℃ 乾燥が最も高く,これには食塩の浸透による Mf の NaCl 溶解性の低下が寄与した。

日水誌, 83 (4), 616-624 (2017)

[戻る][水産学会HP][論文を読む]


海苔微粉末加熱物が食事脂質吸収に及ぼす影響

友寄博子,大田黒香織(熊本県大環境共生),
近藤昌次((特非)熊本県産業促進協会),
嶋田浩美,外村彩夏(熊本県大環境共生),
浅川牧夫((特非)植物資源の力)

 スサビノリは食用として広く利用されており,様々な健康機能性について報告されている。本研究では,これまで検討されていない脂質吸収に及ぼす海苔の影響を海苔微粉末ならびに海苔微粉末加熱物を用いてラットで検討した。その結果,油と加熱した海苔微粉末を投与した群で有意に血中脂質濃度が高い値を示した。この作用を明らかにするために,海苔抽出物の膵リパーゼ活性への影響,海苔試料の粘性が脂質吸収に及ぼす影響,海苔試料の脂肪球サイズ比較について検討したが,作用を説明できる結果は得られなかった。

日水誌, 83 (4), 625-630 (2017)

[戻る][水産学会HP][論文を読む]


フィリピン共和国パナイ島バタン湾産水産物の国内流通と主体間関係

中原尚知(海洋大),
神山龍太郎,宮田 勉(水産機構中央水研)

 本稿の目的は,フィリピン共和国パナイ島バタン湾産水産物をめぐる流通実態および主体間関係の解明である。流通のステークホルダーに対し,調査票を用いた面接調査を行った。国内で完結する生鮮魚介類フードシステムにおける主体間関係の検討より,一部の流通業者による独占や寡占といった状態は形成されていないと判断できた。そして,流通業者の調達・販売の困難さが増しており,集荷競争が激化していた。旺盛な需要が資源減少を招き,さらに集荷競争激化により資源減少が強まる可能性が示唆された。

日水誌, 83 (4), 631-638 (2017)

[戻る][水産学会HP][論文を読む]


チャネルキャットフィッシュの日周活動性と LED 照明による捕食抑制効果(短報)

松田圭史(水産機構中央水研)

 チャネルキャットフィッシュの日周活動性と LED 照明による捕食抑制効果について調べた。本種は昼間は隠れ場からほとんど動かないが,日没後から活動を始め,夜間に活発に行動した。本種によるヤマメの捕食数の平均値は,自然日長区で 3.25 尾,常時 LED 照明点灯区で 0.29 尾であり,常時照明することにより捕食が抑制された。チャネルキャットフィッシュによる在来有用魚種の食害は,夜間に周囲を明るくすることで軽減できる可能性が示唆された。

日水誌, 83 (4), 639-641 (2017)

[戻る][水産学会HP][論文を読む]