日本水産学会誌掲載報分要旨

資源管理スケジュールが管理効果に及ぼす影響

依田真里(水産機構西海水研),
渡邊千夏子,由上龍嗣(水産機構中央水研),
福若雅章(水産機構北水研)

 資源管理スケジュールが管理効果に与える影響について検討するために,仮想的な資源動態モデルを作成し,シミュレーションを行った。現在,資源評価は毎年行われており,前年までのデータを用いて翌年の生物学的許容漁獲量(ABC)を算定している。若齢魚が漁獲の主体となるマアジでは ABC 算定の対象となる資源量に占める予測加入量の割合が高くなるため,資源管理の時間遅れの影響が大きいと予想されるが,資源評価の見直しを適切に行うことや加入量推定精度の向上によって資源管理の失敗によるリスクを軽減する効果が期待された。

日水誌,82(5), 676-685 (2016)

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小型いか釣り漁業データを用いたスルメイカ冬季発生系群の CPUE の標準化

岡本 俊,山下紀生,加賀敏樹(水産機構北水研)

 本研究では 1979-2013 年の宮城県以北の太平洋側での小型いか釣り漁業データを使用し,スルメイカ冬季発生系群の CPUE 標準化を目的とした。年,月,水揚港,それらの交互作用を説明変数とした一般化線形混合モデルを適用し,赤池情報量規準(AIC)およびベイズ情報量規準によって候補モデルを 2 つに絞った。交差検証の結果,予測精度が良かったのは AIC で選択された最も複雑なモデルであった。そのモデルを用いて標準化 CPUE を推定した結果,従来の CPUE による相対資源量の過大・過小評価を修正できたと考えられた。

日水誌,82(5), 686-698 (2016)

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日本海の舞鶴湾におけるアサリ資源の再生産および減耗要因の検討

高橋宏司,澤田英樹,益田玲爾(京大フィールド研セ)

 アサリ資源が壊滅的な舞鶴湾において,再生産の有無および減耗要因,捕食生物について検討した。湾内に垂下した採苗器からは,採苗器一つあたり 5-60 個の稚貝の加入が確認された。これらを沿岸部に設置したコンテナ中に放流し,夏季の生残状況を追跡すると,被食が減耗の主要因であることが示された。水槽実験では,5 mm 未満の稚貝は多数の魚種に捕食され,生活史を通じてイシガニに捕食されることが明らかとなった。

日水誌,82(5), 699-705 (2016)

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イシガニによるアサリ捕食のメカニズムとその対策

高橋宏司,澤田英樹,益田玲爾(京大フィールド研セ)

 イシガニは一部の海域においてアサリの強力な捕食者であり,これへの捕食対策を立てることは資源回復に有効な手段になりうる。本研究では,まず水槽実験によってイシガニのアサリ索餌メカニズムを検討した。イシガニにアサリの視覚情報または嗅覚情報を提示した実験から,イシガニは匂いを頼りにアサリを探索することが明らかとなった。水槽実験では,視覚・嗅覚情報の撹乱や遮蔽物等で被食の軽減は成立しなかった。一方,舞鶴湾奥の天然海域における実験では,被覆網および転石散布により,アサリの生残率が向上した。

日水誌,82(5), 706-711 (2016)

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ミトコンドリア DNA の調節領域と ND2 遺伝子のタイピングによるヒラメ集団中のハプロタイプ鑑定精度の向上

安藤大樹,池田 実(東北大フィールド研セ),
關野正志(水産機構中央水研),
菅谷琢磨(水産機構瀬水研百島),
片町太輔(水産機構瀬水研),
與世田兼三(水産機構本部),
木島明博(東北大フィールド研セ)

 ヒラメ集団における mtDNA のハプロタイピングは,置換速度が速い調節領域前半部の塩基配列を用いて行われることが多い。一方でホモプラシーによる過誤の懸念もある。本研究は,やや置換速度の遅い ND2 や ND5 遺伝子の配列を加え,ハプロタイピングの精度を向上させることを検討した。その結果,調節領域前半部に ND2 遺伝子の配列を連結してハプロタイピングを行うことで,ハプロタイプ数やハプロタイプ多様度が増加することが示された。この方法は,本種の遺伝的多様性モニタリングや放流種苗の追跡に有用であると考えられた。

日水誌,82(5), 712-719 (2016)

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飼育塩分がクロダイ幼魚の成長,魚体成分および耳石 Sr:Ca 比に及ぼす影響

甲田和也,津行篤士,海野徹也(広大院生物圏科),
竹下直彦(水産機構水大校),辻村浩隆(大阪環境水研)

 クロダイ幼魚を塩分 5, 10, 17, 34 PSU の飼育水で 60 日間飼育した。飼育塩分の違いは幼魚の成長,生残,耳石 Sr:Ca 比に影響を及ぼさなかった。ただし,飼育塩分が低いほど肝重量や筋肉中の脂質含量が低下する傾向がみられた。淡水馴致飼育試験では幼魚の死亡率が高く,成長が低下した。クロダイは幅広い塩分に順応可能であるが,天然クロダイにとって河口などの汽水域や淡水域は必ずしも好適環境でない可能性もある。

日水誌,82(5), 720-726 (2016)

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アコヤガイ真珠養殖におけるマイクロサテライト DNA 解析による遺伝的多様性と成長,生残率および真珠品質への影響

森 拓也,小田原和史(愛媛水研セ),
尾野裕基(愛媛大院農),
本宮麻紀,高木基裕(愛媛大南水研セ)

 アコヤガイ真珠養殖の選抜形質における遺伝的多様性の影響を評価するため,1 対 1 交配の 8 組の家系をつくり,成長,真珠生産およびマイクロサテライト DNA 解析による遺伝的多様度を比較した。全湿重量とヘテロ接合体率の期待値(He)には強い正の相関が見られ,生残率の最も低い区は He が他の試験区より低い傾向にあり,近交弱勢が示唆された。真珠生産で真珠採取率の低い試験区は He が最も低い傾向であったが,品質に明確な差は示されなかった。今後のアコヤガイ真珠養殖には遺伝的多様性指標の導入も重要であることが示唆された。

日水誌,82(5), 727-736 (2016)

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英虞湾に発生した渦鞭毛藻 Karenia mikimotoi 赤潮のアコヤガイへの影響

郷 譲治,永井清仁(ミキモト真珠研),
瀬川 進(東京農大生物産業),
本城凡夫(香川大瀬戸内研セ)

 近年,三重県英虞湾で Karenia mikimotoi 赤潮が発生し,アコヤガイ真珠養殖への被害が懸念されている。K. mikimotoi がアコヤガイに及ぼす影響を調べるため赤潮海水による曝露試験を行った。アコヤガイ稚貝は本種の細胞密度 1×104 cells/mL で 36 時間までに 7.5%,6×104 cells/mL では 24 時間までに 100% がへい死した。成貝は 0.5×103 cells/mL から殻体開閉の頻度が高くなり,3×103 cells/mL で頻繁な開閉運動を示した。

日水誌,82(5), 737-742 (2016)

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インピーダンスを用いたブリおよびマアジの脂肪量の非破壊測定

久保久美子(長崎水試,長大院水環),
松本欣弘,桑原浩一(長崎水試),
岡部修一(大和製衡(株)),
谷山茂人,橘 勝康,村田昌一(長大院水環)

 インピーダンス(電気抵抗)を用いて非破壊で鮮魚の脂肪量を推定する機器開発を目指した。周波数には 5, 20, 50, 100 kHz を用いた。どの周波数でも死後の経過時間により電気抵抗は変動したが,100 kHz の電気抵抗と脂肪量との相関が高かった。温度変化により電気抵抗の変動を確認し,魚体サイズに応じた電極幅にすることで精度の向上が図られたため,脂肪量推定には魚体温と取上げからの経過時間を統一し,魚体サイズに応じた電極幅にすることで脂肪量を推定できると考えられた。

日水誌,82(5), 743-752 (2016)

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近赤外分光分析法による養殖クロマグロの脂質含量測定

広瀬あかり,吉武政広(マルハニチロ(株)),
小野寺純((有)奄美養魚),大場邦夫((有)熊野養魚),
榊原卓哉((株)串本マリンファーム),
伊藤 暁(マルハニチロ(株)),
芦田慎也,椎名康彦(マルハニチロ(株))

 養殖クロマグロの脂のりを非破壊で評価するため,近赤外分光分析法による脂質測定法を開発した。近赤外透過深度の検討結果から腹部後方を測定部位とし,この部位で測定した近赤外スペクトルと脂質含量の実測値で重回帰分析を行い,脂質含量測定用の検量線を作成した。この検量線を用いて 2008 年から 2015 年にかけて,3000 尾以上の養殖クロマグロの脂質含量を測定した結果,3 歳魚から 6 歳魚の間では魚体年齢による脂質含量に大きな違いは認められず,養殖クロマグロの脂質含量に最も大きな影響を及ぼす要因は飼育水温であった。

日水誌,82(5), 753-762 (2016)

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アジの糠味噌炊きによるにおいの改善

宮崎泰幸,河邉真也,山下翔大,小島綾夏,
臼井将勝(水産機構水大校)

 くさみを抑制するとされる郷土料理の一つ,魚の糠味噌炊きの効果を検証することを目的とし,マアジの水煮調理の際糠あるいは糠味噌を添加して,においの改善効果を調べた。糠あるいは糠味噌を加えると調理時のトリメチルアミンの生成を抑え,保蔵時の脂質酸化で生じるアルデヒドなどのカルボニル化合物の増加を抑制した。官能検査では,魚臭さの低減が糠炊きで有意となった。しかし糠味噌炊きの風味は,糠床漬け物を食した経験のない多くのパネルには嫌われた。

日水誌,82(5), 763-770 (2016)

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ヒラメ Paralichthys olivaceus 成魚からの筋肉生検による粘液胞子虫ナナホシクドア Kudoa septempunctata の新検査法(短報)

井上誠章,佐藤 純(水産機構増養殖研上浦庁舎),
米加田徹(水産機構増養殖研南伊勢庁舎),
西岡豊弘(水産機構増養殖研上浦庁舎),
森広一郎(水産機構増養殖研南伊勢庁舎)

 近年,ヒラメ Paralichthys olivaceus の魚体に寄生したナナホシクドア Kudoa septempunctata が生食による食中毒の原因となることが明らかにされた。これにより,現在は養殖現場でも出荷前のヒラメにおけるナナホシクドア感染検査の実施が求められている。本研究では,魚を生かしたまま行うことができ,魚体への負荷が少ない簡易的なナナホシクドア感染の検査法として筋肉生検による方法を開発した。

日水誌,82(5), 771-773 (2016)

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ワカサギにおける放射性セシウムの生物学的半減期の推定(短報)

鈴木究真,小野関(湯浅)由美,田中英樹,
松岡栄一,久下敏宏(群馬水試),
角田欣一,相澤省一,森 勝伸(群馬大),
野原精一(国環研),藥袋佳孝(武蔵大),
岡田往子(都市大),長尾誠也(金沢大)

 群馬県赤城大沼で釣獲した放射性セシウムを含むワカサギを用いた飼育実験により,放射性セシウムの減衰過程を経時的に測定して生物学的半減期(Tbio)を算出した。その結果,実験期間を通じたワカサギの Tbio は 350-366 日と推定された。また,2012 年 3-4 月に繁殖行動が確認されたことから繁殖期前後で Tbio を算出したところ,繁殖期前で 181-195 日,繁殖期後で 389-440 日となり,明らかな差異が認められた。このことは,繁殖期前後で放射性セシウムの代謝速度が変化していることを示唆した。

日水誌,82(5), 774-776 (2016)

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ノリの色落ち原因珪藻 Asteroplanus karianus のブルームピーク時期の予察(短報)

松原 賢,三根崇幸,伊藤史郎(佐賀有明水振セ)

 ノリの色落ち原因珪藻 Asteroplanus karianus のブルームピーク時期の予察法を開発するため,2008 年度から 2013 年度の毎年 12 月から翌年 1 月までの期間,有明海奥部塩田川河口域において A. karianus の細胞密度,溶存態無機窒素および水温の変動を調査した。また,有明海奥部における潮位データも解析に加えた。その結果,A. karianus のブルームピークは塩田川河口域の昼間満潮時の表層水温が 10℃ を下回った後の初めての大潮期に続く小潮期に確認される傾向が見出された。

日水誌,82(5), 777-779 (2016)

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