日本水産学会誌掲載報分要旨

海亀の前肢のはばたきと推進力について

塩澤舞香,塩出大輔,胡 夫祥,東海 正(海洋大),
小林真人(水産機構西海水研)

 中層・底層定置網の箱網用海亀脱出装置における扉の設計のために,アオウミガメ(標準直甲長 0.39-0.72 m)とアカウミガメ(同 0.63-0.84 m)の前肢のはばたきによって生じる推進力を屋外水槽で計測し,はばたきの周波数をビデオ映像より求めた。推進力とはばたきの周波数,一連のはばたきの回数は時間経過とともに減少したが,30 分経過後でも海亀脱出装置の扉を押し開けるのに必要な 40 N より大きな推進力が得られた。入網した海亀は,現在考案されている海亀脱出装置の扉を押し開けることが可能であると考えられた。

日水誌,82(4), 550-558 (2016)

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温度・餌環境が異なる河川に放流されたサケ稚魚の成長比較

高橋 悟,長谷川 功,伊藤洋満,伴 真俊,
宮内康行(水産機構北水研)

 サケ稚魚の河川内での成長と温度・餌環境との関係を調べるために,これらの環境条件が異なる千歳川本流とその支流ママチ川に放流を行った。その結果,ママチ川に放流した稚魚の方が胃充満度は高く,高成長だった。水温はママチ川の方が高かったため,ママチ川の方が高成長だった理由として,第一に高水温による採餌活性上昇が考えられた。餌料生物密度は千歳川の方が高密度だと推測された。ただし,餌料生物をめぐる競合個体の密度を定量化できなかったため,餌料生物密度の成長への影響については言及できなかった。

日水誌,82(4), 559-568 (2016)

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房総半島内房の開放的な砂浜海岸と保護的な砂浜海岸における魚類群集構造の比較

青木友寛,碓井星二,金井貴弘,青木 茂,
岡本 研,佐野光彦(東大院農)

 2014 年 12 月,2015 年 3, 7, 9 月に,房総半島内房の開放的な砂浜海岸と保護的な砂浜海岸において,物理・生物的環境と魚類群集の構造を調べ,砂浜海岸間で比較した。物理的環境(波高と濁度)は砂浜海岸間で異なっていたが,生物的環境(魚類の餌となる浮遊性,表在性,埋在性無脊椎動物の個体数)と魚類群集構造(種数,総個体数,種組成,主要な食性グループの種数と個体数,優占種の個体数,体長組成)には砂浜海岸間でほとんど違いは認められなかった。ただし,ボラの個体数には差がみられ,保護的な砂浜海岸で多かった。

日水誌,82(4), 569-580 (2016)

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サクラマス雄の生活史型と産卵環境および発眼率の関係

佐藤正人(秋田水振セ),菊地賢一(阿仁川漁協),
坪井潤一(水産機構増養殖研)

 秋田県米代川において,サクラマス降海型雌に対するペア雄の生活史型と,産卵環境および産着卵の発眼率の関係について調査した。ペア雄が残留型(ヤマメ)であった場合の産卵床の水深,流速,礫径およびカバー(隠れ場所)の利用割合は,ペア雄が降海型の場合と有意差が認められなかった。産着卵の発眼率についても有意差が認められなかった。体サイズが小型の残留型雄でも再生産効率が低下しなかったため,サクラマスの資源増殖を図るためには,降海型のみならず残留型についても適切な資源管理を行っていく必要性が示唆された。

日水誌,82(4), 581-586 (2016)

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体積後方散乱強度の周波数差を利用した北海道噴火湾周辺におけるオキアミ類とカイアシ類の識別

金 銀好,向井 徹,飯田浩二(北大院水)

 北海道噴火湾周辺海域において,周波数 38, 120, 200 kHz の計量魚群探知機を用いて音響散乱層の特徴を調べ,その構成生物であるオキアミ類とカイアシ類の識別方法を検討した。生物の確認は,直径 80 cm のリングネットによる垂直曳網で行った。オキアミ類とカイアシ類は,周波数 38 kHz よりも 120 kHz と 200 kHz でより強い音響散乱を示し,さらにこれら 2 周波数の SV 差は,オキアミ類で−1.5〜1.3 dB,カイアシ類で 2.2-3.7 dB となり,この SV 差を利用して両種を識別する可能性が示された。

日水誌,82(4), 587-600 (2016)

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ブリ卵の小型容器を用いた高塩分孵化管理方法の開発

嶋田幸典,石川 卓,名古屋博之,
薄 浩則(水産機構増養殖研),
堀田卓朗,吉田一範,藤浪祐一郎(水産機構西海水研),
岡本裕之(水産機構増養殖研)

 ブリ Seriola quinqueradiata では有用経済形質を有する系統を作出するため,ゲノム編集技術のための顕微注入試験等が行われている。しかし,小型容器での孵化管理では通気による水の攪拌が困難で沈降死を防げず,孵化率が著しく低い。本研究はブリ受精卵の卵比重の変化を把握し,塩分調整により卵の沈降を抑制することで小型容器での孵化管理を試みた。塩分 35 psu の海水では,顕微注入卵でも 56.7% の正常孵化率を得ることができたことから,小型容器の孵化管理における高塩分海水飼育の有用性が示された。

日水誌,82(4), 601-607 (2016)

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真珠養殖廃棄物のコンポスト化とその有効活用

樋口恵太,永井清仁(ミキモト真珠研),
服部文弘,前山 薫(御木本製薬),
瀬川 進(東京農大生物産業),
本城凡夫(ミキモト博多真珠養殖・香川大瀬戸内研セ)

 真珠収穫後のアコヤガイ貝肉を主原料とし,海事作業から発生する貝掃除屑を加えてコンポスト化試験を行った。その結果,アコヤガイ貝肉は約 45 日の処理でコンポスト化が可能である事が分かった。また,貝掃除屑はコンポスト材料の通気性向上や,コンポストの肥料成分を増加させる効果が認められた。完熟したコンポストは,塩分を含むが,コマツナに対して肥料効果を示した。以上より,真珠養殖過程で廃棄される貝肉および貝掃除屑は,農業資材として有効活用できる事が示され,真珠養殖による環境負荷の低減につながると期待された。

日水誌,82(4), 608-618 (2016)

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近海延縄漁業で水揚げされるヨシキリザメの鮮度と臭気成分について

大村裕治,木宮 隆,今村伸太朗,
鈴木道子(水産機構中央水研)

 近海延縄漁船が気仙沼に水揚げするヨシキリザメ肉を臭気抑制して正肉加工原料化するための基盤的知見を得ることを目的として冬期および夏期の水揚げ魚の鮮度と臭気成分を調べた。K 値は漁獲から水揚げまでの日数が長いほど上昇し,両者の間に強い直線的相関関係が認められた。一方,アンモニア含量は航海中の漁獲時期にかかわらず低かったが個体間のばらつきは航海前期漁獲魚の方が大きかった。水揚げ後の市場静置中に K 値,アンモニア含量ともほとんど増加しなかった。以上の結果から正肉加工品には航海後期漁獲魚が適すると考えられた。

日水誌,82(4), 619-627 (2016)

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虹色素胞による青い光沢を有するメダカの体色変異体(短報)

塩出雄亮(めだかの学校岡山),
中田和義(岡山大院環境)

 観賞魚の“幹之メダカ”は,背部の光沢のある青い体色を特徴とするミナミメダカの自然変異体である。幹之メダカの背部体表色を解明するため,電子顕微鏡を用いた組織学的検討を行った。幹之メダカでは真皮深層に規則的に重層配列した反射小板を含む虹色素胞を認めた。一方,野生型メダカでは虹色素胞は確認できなかった。幹之メダカの金属様光沢は虹色素胞によるものであることが確認できた。また,規則的な反射小板の配列が青色の構造色を発現していることが示唆された。

日水誌,82(4), 628-630 (2016)

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亜熱帯藻場構成植物に対するアイゴ幼魚の摂食選択性評価(短報)

山田秀秋(水産機構東北水研),
島袋寛盛(水産機構瀬戸内水研),
早川 淳,中本健太,河村知彦(東大大気海洋研),
今 孝悦(筑波大下田)

 アイゴ幼魚による亜熱帯藻場構成植物 7 種の摂食減少率(重量減少比)を飼育条件下で調べた結果,リュウキュウスガモおよびマクリで低い値となった。一方,カサノリ,ホソカゴメノリ,オキナワモズク,カズノイバラおよびイトクズグサで高い値が得られた。これら小型海藻 5 種はいずれもアイゴが浅海域に出現しない時期に繁茂することから,その分布・消長には,アイゴの摂食活動も影響している可能性が示唆された。

日水誌,82(4), 631-633 (2016)

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単船型まき網漁船のエネルギー消費の特徴(短報)

松田圭史,伏島一平,大島達樹(水産機構開発セ),
長谷川勝男,溝口弘泰(水産機構水工研)

 単船型まき網漁船において,航海や操業など日ごとの行動別に,主機関および補機関の燃油消費量の特徴を流量計で調べ,合わせて積算電力量計で補機関から供給される電力の消費について特徴を調べた。1 日当たりの補機関燃油消費量の割合は,港に停泊して主機関が稼働しなかった日を除くと,平均で主機関の 29.1% であった。1 日当たりの補機関から供給される電力の消費量と補機関での燃油消費量は正の相関関係を示した。試験期間で補機関から供給された電力量の積算値は,漁獲物の冷凍処理に関わる機器で全体の 62.0% を占めていた。

日水誌,82(4), 634-636 (2016)

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