日本水産学会誌掲載報分要旨

以西底びき網漁業における超高分子量ポリエチレン繊維(ダイニーマ)製漁網が燃油消費量,水揚量および操作性に与える影響

門田 立(水研セ西海水研),松下吉樹(長大院水環),
星野浩一,皆川 惠(水研セ西海水研),
溝口弘泰(水研セ水工研)

 以西底びき網漁業の省エネルギー化を図るため,超高分子量ポリエチレン繊維(ダイニーマ)網地を袖網と身網に使用した低抵抗網を作製し,その燃油消費量,水揚量,および操作性を以西底びき網漁業で通常使用される従来網と比較した。低抵抗網は水揚魚の総水揚量および主要魚種(キダイやイボダイ等)の水揚量を減少させることなく(p>0.05),曳網中の燃油消費量を 4.4% 減少できた。一方で低抵抗網は,ダイニーマを使用した身網部分に漁獲物が引掛り,船上作業の手間が増える等の操作上の問題点が明らかとなった。

日水誌,81(3), 400-407 (2015)

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マサバ太平洋系群と北東大西洋のタイセイヨウサバの資源評価・管理の比較

小川太輝,平松一彦(東大大気海洋研)

 マサバ太平洋系群と北東大西洋のタイセイヨウサバの漁獲物の年齢組成は大きく異なり,前者は 0-2 歳が主であるのに対し,後者は 3 歳以上が主である。この差が生じる原因を,生物学的特性値,資源動態,資源量推定方法,資源管理,漁業管理の観点から検討した。マサバ太平洋系群はタイセイヨウサバと比べ,自然死亡係数が大きくまた同一年齢での体重が重い。この差が,漁獲物年齢組成の差の要因となっていることが示された。他の要因の影響は不明であった。また近年のタイセイヨウサバの資源管理の問題点を指摘した。

日水誌,81(3), 408-417 (2015)

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チューニング VPA を用いた洞爺湖産ヒメマスの資源評価

蘇  宇,Emmanuel Andrew Sweke(北大院水),
傳法 隆,上田 宏(北大フィールド科セ),
松石 隆(北大院水)

 洞爺湖産ヒメマスは遊漁により多く漁獲されており,資源量変動も大きい。適切な資源管理の基礎知見を得るため,釣獲量調査結果,刺網調査結果および洞爺湖漁業協同組合の集荷重量を用い,釣獲量調査から得られた遊漁者の CPUE を資源量指数としたチューニング VPA により,1998-2012 年の洞爺湖産ヒメマスの資源量を推定した。その結果,1998 年の 8.31 t から 2002 年の 4.13 t に減少した後,増加に転じ 2009 年には 17.26 t となった。2010 年以降再び減少し,2012 年は 7.77 t と推定された。

日水誌,81(3), 418-428 (2015)

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東シナ海・黄海における底生魚類の群集構造の年変動

山本圭介(水研セ瀬水研,広大院生物圏科),
長澤和也(広大院生物圏科)

 1991-2007 年と 1991-1996 年の冬季に,それぞれ東シナ海と黄海で着底トロール調査を行い,底生魚類の群集構造と分布密度の年変動を調べた。東シナ海の黒潮系群集は 163 種,黄海の黄海冷水系群集は 56 種が認められた。両群集ともに浅海性魚類の分布密度が経年的に減少し,特に黒潮系群集では 1996 年から 2007 年に著しく減少した。平均種数と均等性指数も経年的に減少した。これらの群集構造の変化は,沿岸域から沖合域に高い漁獲圧が加えられたことが主な原因であると考えられた。

日水誌,81(3), 429-437 (2015)

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東京都秋川におけるアカザとカジカの食性

小川 拡(海洋大),片野 修(水研セ増養殖研),
横田賢史,Carlos Augusto Strussmann(海洋大)

 東京都秋川の河床に生息する国内外来種アカザと在来種カジカ大卵型の食性を 5 月から 1 月まで調査した。食性は餌動物の体積比と餌料重要度指数 IRI により解析した。両種ともに主要な餌として,カゲロウ目,トビケラ目,双翅目の幼虫を利用し,それらを摂食する割合は時期によって異なった。カゲロウ目に対する餌選択性は時期により種間で異なり,これは摂食戦略を反映した結果と考えられた。しかし,食性は両種ともに餌生物組成の季節変化に対応し,月によっては種間で大きく重複することから,餌を巡る競合が生じる可能性が示唆された。

日水誌,81(3), 438-446 (2015)

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2011 年東北地方太平洋沖地震により発生した津波による岩手県沿岸内湾域の底質変化

内記公明(岩手水技セ,岩大院農),
山田美和(岩大院農,岩大三陸),
加賀新之助(岩手水技セ),渡邊志穂(岩手水技セ),
神山孝史(水研セ東北水研),
加戸隆介,緒方武比古,難波伸由,林崎健一,
山田雄一郎(北里大海洋),
山下哲郎(岩大院農,岩大三陸)

 東北地方太平洋沖地震による津波が養殖場の環境へ与えた影響を把握するため,岩手県の 9 湾で含泥率(MC),化学的酸素要求量(COD),酸揮発性硫化物(AVS)を津波前後で比較し,変化を評価した。その結果,MC, COD, AVS の時空間分布は湾の地形的な特徴の違いに伴い変化し,開放的な地形の湾では減少し湾口に防波堤のあった湾では増加した。MC, COD, AVS の変化は数値シミュレーションの結果ともよく対応し,養殖場の環境を管理するための良い評価指標であった。

日水誌,81(3), 447-455 (2015)

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魚類筋肉ミオグロビンのメト化率測定法の検討

井ノ原康太(鹿大院連農),尾上由季乃(鹿大水),
木村郁夫(鹿大院連農)

 マグロ等の普通肉やブリ類,白身魚等の血合肉の鮮赤色はこれら刺身の重要な品質要素であり,色素タンパク質ミオグロビン(Mb)のメト化率は品質を表す重要な指標である。本研究では,マサバ,ゴマサバ,ブリ,マダイ,ミナミマグロの精製 Mb からデオキシ Mb,オキシ Mb,メト Mb を調製し,これらの可視部吸収スペクトルから 3 状態 Mb の等吸収点の波長(523-525 nm)と deoxyMb と oxyMb の等吸収点の波長(547-549 nm)を明らかにし,メト化率測定法を確立した。

日水誌,81(3), 456-464 (2015)

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サケ属魚類における卵重-卵径換算式の作成と卵サイズの地理的変異に関する予察的結果(短報)

岡本康孝,森田健太郎,大熊一正(水研セ北水研)

 これまでの研究で複数の指標が用いられてきたサケ属魚類の卵サイズを比較することを目的に,北海道から東北における 12 河川およびロシア連邦に位置するアムール川支流アニュイ川において採集されたサケ,カラフトマス,サクラマスを用いて,卵重-5% 中性ホルマリン溶液で固定した卵重,卵径-5% 中性ホルマリン溶液で固定した卵重の換算式を作成した。卵サイズは種ごとに河川間で有意に異なり,サケについては遡上距離が長い個体群ほど卵が小さい傾向が認められた。
日水誌,81(3), 465-467 (2015)

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2013 年北海道オホーツク海沿岸域における地まきホタテガイの高成長と餌料環境(短報)

三好晃治(網走水試),品田晃良,宮園 章(道中央水試),
桒原康裕,多田匡秀(網走水試),照本昴之(北大院環),
工藤 勲(北大院水)

 2013 年の北海道オホーツク海沿岸の地まきホタテガイ漁場では,貝柱重量ベースで過去平均値の 1.5 倍を上回る高成長を記録した。本研究では,約 20 年に及ぶホタテガイの成長と漁場の環境に関するモニタリング調査をもとに,2013 年のホタテガイの高成長要因を餌料環境から検討した。その結果,2013 年のオホーツク海沿岸の漁場では,3 月から 5 月頃にかけて大規模な植物プランクトンブルームが発生したことに加え,大型珪藻 Coscinodiscus wailesii の大量の輸送・増殖が確認され,ホタテガイにとって非常に恵まれた餌料環境であったことが推察された。

日水誌,81(3), 468-470 (2015)

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