日本水産学会誌掲載報文要旨

長崎県沿岸に生息するヒラメ Paralichthys olivaceus の遊泳行動の時空間変動

中塚直征(長大院水環),安田十也(水研セ西海水研),
勝又博子(長大院生産),古川誠志郎(長大海セ),
栗田 豊(水研セ東北水研),河邊 玲(長大海セ)

 ヒラメの遊泳行動の時空間的な変化を調べるために,大村湾と東シナ海で深度・温度記録計を用いた行動調査を実施した。その結果,ヒラメの活動率は,両海域ともに季節的に変化した。1 月の東シナ海の活動率は大村湾より 39 倍高く,海域による違いも見られた。このような行動の変化は刺網の影響面積に影響を及ぼすことが分かった。ヒラメの遊泳行動に関する知見は資源量の変動を正確に推定する際に役立つものと考えられる。

日水誌,80(3), 339-348 (2014)

[戻る][水産学会HP][論文を読む]


飼育したケガニ幼生の走光性,鉛直分布,体密度と外部形態の発育に伴う変化

市川 卓(水研セ北水研),
那波洋子,浜崎活幸(海洋大),
村上恵祐(水研セ本部)

 ケガニの種苗生産では,幼生の沈降死現象が問題視されている。沈降死防除技術を開発する基礎として,幼生の走光性,鉛直分布,体密度,外部形態を調べた。ふ化ゾエアは正の走光性を示し,以後は負の走光性が強くなった。特に,620 nm 以上の長波長で負の反応が強かった。ふ化当日の幼生は縦型容器内で浮遊したが,以後は沈降した。幼生の体密度は海水比重より大きく,沈下抵抗に関わる体の突起状部位は発育に伴い縮小した。ケガニ幼生は明条件下では沈降しやすいことから,暗条件や長波長を利用した飼育方法を検討する必要性を指摘した。

日水誌,80(3), 349-359 (2014)

[戻る][水産学会HP][論文を読む]


比較放流実験によるニシン稚魚の最適放流条件の推定

大河内裕之(水研セ東北水研),
中川雅弘(水研セ西海水研),
山田徹生(水研セ瀬水研),
藤浪祐一郎(水研セ東北水研)

 本州でのニシン稚魚の最適放流条件を知るため,岩手県宮古湾を実験海域として,採卵時期が 1 ヶ月異なる平均全長 50 mm と 60 mm の稚魚群を 1998-2003 年に放流し,2000-2006年に産卵回帰した親魚の回収率を推定した。得られた回収率は 0.01-0.87%であり,中期採卵群より前期採卵群で高く,同じ採卵群であれば 60 mm 群より 50 mm 群が高かった。放流全長に関係なく早期に放流した群ほど回収率が高い傾向があった。春季の水温上昇に伴うニシン放流稚魚への捕食圧の増加が,回収率決定の主要因と考えられた。

日水誌,80(3), 360-370 (2014)

[戻る][水産学会HP][論文を読む]


海洋環境からのアルギン酸リアーゼ生産放線菌の分離とリアーゼの精製

今田千秋,阪田 圭,寺原 猛,小林武志(海洋大院)

 日本近海の海底堆積物および陸土壌から分離した 605 株の放線菌についてアルギン酸リアーゼ(A.L.)活性を調べた。その結果,18 株の有望株が得られ,これらの株について 16S rDNA の塩基配列から近縁種と性状の比較を行った。このうち大槌湾の水深 100 メートルから分離した Micromonospora sp. OB40608 株が最も高くしかも安定した活性を有していたため,A.L. を培養液上清から単離精製し,諸性状を明らかにした。本酵素の分子量はポリアクリルアミドゲル電気泳動(native-PAGE)で調べた結果,114 kDa であり,至適温度は 50℃ で,至適 pH は 7.0 であった。

日水誌,80(3), 371-378 (2014)

[戻る][水産学会HP][論文を読む]


異なる野生ニホンメダカ集団間にみられるストレス感受性の違い(短報)

古野真央,杉本圭太,小森麻衣(近大理工),
加川 尚(近大理工,近大院総合理工)

 南日本集団および北日本集団に属する野生メダカ(南および北ニホンメダカ)を用いて,種々のストレス負荷に伴うホルモン応答を調べた。熱ストレスに伴って脳内副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)mRNA の発現量はいずれのニホンメダカにおいても増加した一方,血中コルチゾル濃度上昇は南ニホンメダカにのみ認められた。拘束ストレスに伴う CRH mRNA の発現増加および血中コルチゾルの濃度上昇も,南ニホンメダカにのみ認められた。ニホンメダカのストレス感受性は北日本集団と南日本集団との間で異なることが示された。

日水誌,80(3), 379-381 (2014)

[戻る][水産学会HP][論文を読む]