日本水産学会誌掲載報文要旨

調査用着底トロール網によるズワイガニの採集効率の推定

服部 努,伊藤正木,柴田泰宙,矢野寿和,成松庸二(水研セ東北水研)

 着底トロール網の下部に補助網を取り付けた試験網を作成し,ズワイガニの甲幅と採集効率の関係を調べたところ,採集効率は甲幅が大きいほど高かった。一般化線形混合モデルを用い,甲幅−採集効率の関係を混合ロジスティックモデルに当てはめた結果,雌雄を区別しないモデルが選ばれた。得られたロジスティック曲線は 0.664 で頭打ちとなり,甲幅 70 mm を超えると 5 割以上が入網すると推測された。採集効率を一定として面積−密度法で資源量を推定した場合,相対的に小型個体で過小評価,大型個体で過大評価になると考えられた。

日水誌,80(2), 178-184 (2014)

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北太平洋産ミンククジラの精巣における季節的変化

井上聡子(海洋大院),木白俊哉(水研セ国際水研),
藤瀬良弘(日鯨研),中村 玄,加藤秀弘(海洋大院)

 北太平洋産ミンククジラの精巣において,4 月から 10 月にかけての季節的変化を検討した。精巣重量の変化には 268 個体を使用し,うち 70 個体(各月 10 個体)の精巣組織を観察した。分析の結果,精巣重量は体長 7 m 以上の個体でのみ 7 月頃から増加が認められた。精細管直径は 5〜6 月に縮小した後,徐々に拡大した。精母細胞など発達した精細胞は 7 月に最も減少し,その後増加した。これらのことから,ミンククジラの精子形成は 5 月から 6 月にかけて停滞し,8 月には次の繁殖期に向け準備が始まるという季節的変化が示唆された。

日水誌,80(2), 185-190 (2014)

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サケの産卵時期が脊椎骨数の変異に及ぼす影響

安藤大成(道さけます内水試・東北大院農),
神力義仁(道さけます内水試道南),
下田和孝,安富亮平,佐々木義隆,宮腰靖之(道さけます内水試),
中嶋正道(東北大院農)

 北海道の千歳川と漁川において,サケの産卵時期と脊椎骨数の変異との関係を調査した。親魚の脊椎骨数は,早い時期に遡上する群のほうが遅い時期に遡上する群より多かった。同様の傾向は千歳川で異なる時期に採卵し,同一環境下で飼育した幼魚でも見られた。また,漁川では早い時期(1 月,2 月)に採集した稚魚の脊椎骨数の方が遅い時期(4 月)に採集した稚魚より多かった。これより,サケの脊椎骨数は遡上時期により変異し,その変異にはもともと遺伝的要因が関与していることが示唆された。

日水誌,80(2), 191-200 (2014)

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アイゴによるアラメおよび数種のホンダワラ類の被食過程と群落構造の関係

野田幹雄,大原啓史,村瀬 昇,池田 至,山元憲一(水大校)

 アラメとヤナギモクの混生域を伴うガラモ場とアラメ優占群落でのアイゴによるアラメとホンダワラ類の被食過程を明らかにするために,主に標識藻体を対象に周年調査した。ガラモ場のアラメの被食は軽微であったが,ヤナギモクは 12 月に主枝・葉が消失した。一方,優占群落のアラメは 7 月から被食を受け 11 月には側葉の消失した藻体が出現した。ジョロモクは 8 月から被食を受け 11 月に主枝の大半が消失した。対照的にヨレモクの被食は軽微で 11 月には藻体が著しく生長した。海藻種と群落構造により藻体の被食過程に大きな差異があった。

日水誌,80(2), 201-213 (2014)

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カキヘルペスウイルス 1 型変異株感染症の情報流通状況の検証とその問題点

高岸奈々絵,良永知義(東大院農)

 カキヘルペスウイルス 1 型変異株感染症の海外での発生を受け,農林水産省は都道府県水産担当部署に注意喚起文書を発信し,カキ養殖業者および関係者への周知を依頼した。しかし,周知状況が不明であったため,聞き取りとアンケートにより調べた。その結果,この疾病の内容を把握していた養殖業者は 3 割弱と低かった。これは,漁業協同組合が養殖業者へ周知しなかった場合があったことや,過去に発生した貝類の重大疾病に対する漁協や養殖業者の認識が低く,受け取った内容を十分に理解できなかったことに原因があると考えられた。

日水誌,80(2), 214-221 (2014)

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有害珪藻 Asteroplanus karianus の有明海佐賀県海域における出現動態と各種環境要因との関係

松原 賢,横尾一成,川村嘉応(佐賀有明水振セ)

 ノリの色落ち原因珪藻 Asteroplanus karianus の出現動態と環境要因との関係を調べるため,2007 年 12 月から 2012 年 3 月に有明海佐賀県海域で,植物プランクトン組成および各種環境要因を調査した。また,高水温および低水温条件下における本種の増殖および発芽特性を室内試験で調べた。その結果,本種は冬季にのみ赤潮を形成することが確認された。また,本種の増殖速度は低水温よりも高水温条件下で高いことが確認されたが,底泥中の休眠期細胞が発芽に要する時間は低水温条件下で短いことが示唆された。

日水誌,80(2), 222-232 (2014)

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天然個体の移植によるアマゴ集団再生の試みとその遺伝的検証

宮原寿恵,山田英幸(三重大院生資),
佐藤拓哉(神戸大院理),
原田泰志,河村功一(三重大院生資)

 隔離支流において絶滅したアマゴ集団の再生を目的として,同一水系内の他支流から個体を導入し,集団再生過程の遺伝的モニタリングを行った。移植後,個体数は順調に増加し,2 年後には安定状態に達した。ヘテロ接合度と血縁度は移植時の状態がほぼ維持されていたが,アリル組成においてはレアアリルを中心としたアリルの減少が認められた。本試験において,アマゴのような渓流魚では少数の親魚による短期間での集団再生は可能であるものの,長期的な遺伝的特徴の保持には他集団との個体交流が重要であることが示唆された。

日水誌,80(2), 233-240 (2014)

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