日本水産学会誌掲載報文要旨

徳島産および韓国産ハモの体成分の比較

岡﨑孝博(徳島農水総技セ),吉本亮子(徳島工技セ),
上田幸男(徳島農水総技セ),浜野龍夫(徳島大院)

 価格差の要因を明らかにするために,徳島産および韓国産ハモの体成分を分析した。韓国産の脂質含量(7.7〜10.4%)は,徳島産(1.4〜3.0%)に比べて顕著に高かった。呈味に関与する遊離アミノ酸の含有量に有意差は見られなかった。体重 0.3〜0.8 kg の雌で比較したところ,韓国産は肥満度および比肝重量が高く,産卵期にすべて未成熟であったが,徳島産の一部は成熟していた。韓国産は,より低水温域に生息し,成熟開始年齢が高く,脂質を多く蓄えるため,旨味が強く,より高値で取引されると推察された。

日水誌,80(1), 2-8 (2014)

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イカ釣り操業船周囲におけるスルメイカの行動特性

四方崇文,持平純一(石川水総セ),
三木智宏(東和電機製作所),
渡部俊広(水研セ水工研)

 イカ釣り操業時のソナー画像と釣獲量の変化から操業船周囲におけるスルメイカの群れの動きを調べた。船上漁灯を用いた夜間操業時には,イカの群れは船体周囲を移動しながら徐々に船体に接近し,釣獲直前には船体前後に分布することが多く,船首および船尾に近い釣機ほど釣獲尾数は多かった。海中照度は船体左右に比べて船体前後で低かった。以上の結果から,イカの群れは周回しながら徐々に船体に接近し,照度の低い船体前後から船底下陰影部に入り,釣獲されると考えられる。

日水誌,80(1), 9-15 (2014)

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18S rRNA 遺伝子による広島湾潮間帯における海産自由生活性線虫類の遺伝的解析

辻野 睦,三好達夫,内田基晴(水研セ瀬水研)

 海産自由生活性線虫類を迅速に同定するために,広島県地御前干潟の線虫類について分子生物学的手法を検討した。96 検体の内 89 検体の 18S rRNA 遺伝子の部分配列が増幅され,97%以上の相同性で 22 の系統型(phylotype)に分けた。内 2 つの系統型はデータベースに登録されている種であると推定され,残り 20 の系統型については系統解析から目や科を推定するに留まった。分子生物学的手法は種数や多様性を求めるには有効であるが,種レベルでの組成変化を検討するためには塩基配列データの蓄積が必要である。

日水誌,80(1), 16-20 (2014)

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サワラ仔魚における耳石透明帯と不透明帯の形成時間

河野悌昌(水研セ瀬水研),高橋 誠(群馬県安中市),
島 康洋(水研セ西海水研)

 飼育下のサワラ仔魚について 24 時間にわたって 3 時間ごとに標本のサンプリングを行い,扁平石の透明帯と不透明帯が形成される時間帯を調べた。初生輪は 5 日齢に形成され,摂餌開始日と一致していた。透明帯の形成は05:00〜08:00 の間に始まり,日中から夜間にかけて継続し,不透明帯はその後夜間に形成された。この結果は耳石の最外縁に観察される日周輪の読み取り精度を向上させるための有効な情報であり,天然で採集されたサワラ仔魚の耳石日周輪解析を行う際に採集時間を考慮することによって,より正確な判断が可能となる。

日水誌,80(1), 21-26 (2014)

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福島県産海産物の放射性セシウム濃度による汚染状況の類型化

吉川貴志,八木信行,黒倉 壽(東大院農)

 福島第一原子力発電所事故に伴う水産物の放射性物質汚染について,品目別に汚染状況を把握するため,事故後に公表された福島県沖の海産生物の放射性セシウム濃度のデータを使い,97 品目について事故後 1 年目と 2 年目それぞれの放射性セシウム濃度の平均値と標準偏差を変数とし,クラスター分析を行った。汚染状況は,相対的に濃度が低く標準偏差も小さい類型,濃度が高いが 2 年目に低下傾向がみられた類型,初期は極めて高濃度であったが 2 年目にほぼ不検出水準となった類型,期間を通じて非常に濃度が高い類型の 4 つに分類された。

日水誌,80(1), 27-33 (2014)

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出荷戦略と漁労作業の特徴を反映したマコンブ養殖漁業経営体の分類

藤井陽介(北大水),山下成治(北大院水)

 本報はマコンブ養殖漁業経営体の漁労作業の特徴が出荷戦略によって異なることを明らかにするため,北海道福島地区の 72 経営体を対象に出荷製品と漁労作業の対応関係を検討した。2004〜2009 年の製品売上高のデータをもとに,主要出荷製品 3 種の生産額を用いて経営体を分類し,さらに経営体を 9 件選出し工程分析を行った。結果,経営体は 3 類型に分類され,各類型で,全漁労作業中で最も作業時間と人員が配分される作業が,出荷製品の特徴を反映し異なっていることが明らかになり,出荷製品と漁労作業が対応することが示された。

日水誌,80(1), 34-44 (2014)

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琵琶湖における届出制によるビワマス引縄釣遊漁の現状把握

菅原和宏,井出充彦,酒井明久,鈴木隆夫,
久米宏人,亀甲武志,西森克浩,関 慎介(滋賀県農政水産部水産課)

 琵琶湖でのビワマス引縄釣遊漁の現状を把握するために,2008 年 12 月から遊漁者に対して琵琶湖海区漁業調整委員会指示により届出と採捕報告書の提出を義務付けた。2011 年 9 月までの結果を集計したところ,届出者数は年々増加していた。採捕報告書の提出率は約 90% であった。釣行日数と総採捕尾数は冬期に少なく,夏期に多い傾向を示した。毎年約 1 万尾が採捕され,そのうち 41.4〜67.3% は再放流されていた。遊漁者による採捕量は 6.6〜8.6 t と推定され,漁業者による漁獲量は 23.2〜45.8 t であった。

日水誌,80(1), 45-52 (2014)

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瀬戸内海西部における市場でのハモの魚体測定方法(短報)

亘 真吾(水研セ瀬水研),
村田 実,馬場俊典(山口水研セ),
樋下雄一(大分水研),三代和樹(大分県東部振興局),
尾田成幸(福岡水海技セ),
石谷 誠(福岡県農林水産部)

 瀬戸内海西部ではハモの漁獲量が増加傾向にあるが,市場に出荷される際,活魚や後頭部を切断した活締めで扱われ,全長の計測が困難であるため,資源解析の基礎的情報となるサイズ測定がほとんど実施されてこなかった。そこで,市場の取扱実態を考慮したハモの測定方法を検討した。活魚の場合は,背鰭前長(吻端から背鰭起部までの長さ),活締めの場合は下顎長(下顎の先端からその最後端までの長さ)を計測することで,全長や体重を精度よく推定できることを明らかにした。また,市場での取扱実態を考慮した測定方法についても考察した。

日水誌,80(1), 53-55 (2014)

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低水温期におけるクエ Epinephelus bruneus とマハタ E. septemfasciatus の成長量および摂餌量の変化(短報)

井上誠章(水研セ増養殖研),
岩崎隆志(水研セ西海水研),
加治俊二(水研セ増養殖研)

 ハタ類の種苗生産技術は確立されつつあるが生理・生態の基礎的な知見は不足している。そこで本研究では,クエとマハタ稚魚の秋〜冬季の低水温期の成長量および摂餌量等を計測して比較した。また,クエについては上記試験の後に個体識別し,水温が上昇する春季まで調査を継続した。この結果,同日齢のマハタはクエよりも低水温期の成長は大きく,クエおよびマハタの摂餌量はそれぞれ飼育水温が 18℃ および 16℃ を下回ると急激に減少することが示された。また,クエでは体重の大きい個体ほど低水温期の成長も大きいことが示された。

日水誌,80(1), 56-58 (2014)

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