日本水産学会誌掲載報文要旨

動きのある物標による視覚刺激がマダイの摂餌行動に与える誘発効果

丘 明城(済州大),石崎宗周(鹿大水),
金 碩鍾(済州大),不破 茂(鹿大水)

 マダイの摂餌行動を Fernö の方法で評価し,3 物標(錘,疑似餌,スルメイカの短冊)が動いている場合(動餌)と止まっている場合(静餌)の摂餌行動の誘発効果を確認した。動餌と静餌の場合共に誘発効果は確認できたが,動餌では静餌より有意に効果的であった。8 秒周期で運動している 3 物標の誘発効果と静餌の効果には,それぞれ有意差があり,動餌と静餌の効果の差には物標間で有意差がなかった。また,摂餌行動の誘発への着色の効果が示唆された。

日水誌,79(2), 158-165 (2012)

[戻る][水産学会HP][論文を読む]


網走湖におけるシラウオ卵の分布特性

隼野寛史(道さけます内水試),田村亮一(道栽水試),
小出展久(道さけます内水試),
成 基百(大韓民国国立水産科学院内水面養殖研究セ),
工藤秀明,帰山雅秀(北大院水)

 網走湖においてシラウオ卵の分布を調べるため,湖岸の 11 か所に調査ラインを設定した。各調査ラインで水深別に底質を採取し,シラウオ卵の密度と底質の粒度組成を分析した。シラウオ卵は砂礫の底質上に分布し,卵分布密度は細粒砂よりも大きな粒径で高くなる傾向が見られた。しかし,底質が中粒砂であっても卵が分布しない調査定点も存在した。このことは底質以外にも,水温や湖水位などがシラウオ卵の分布に影響を及ぼしている可能性を示唆している。シルト・粘土が優占する底質にはシラウオ卵の分布は認められなかった。

日水誌,79(2), 166-174 (2012)

[戻る][水産学会HP][論文を読む]


カットスロートトラウト Oncorhynchus clarki における 2 型ビテロジェニン転写産物および蛋白質の卵発達に伴う発現変化

莚平裕次,水田紘子,羅 雯姝,盛田祐加(北大院水),
澤口小有美(水研セ北水研),松原孝博(愛媛大南水研),
平松尚志,東藤 孝,原 彰彦(北大院水)

 カットスロートトラウトの肝臓から 2 種のビテロジェニン(Vtg)cDNA(vtgAs および vtgC)をクローニングした。肝臓におけるこれら 2 型 vtg 発現量を測定したところ,両 vtg 発現は共に生殖腺体指数(GSI)と強い正の相関が見られた。同様に 2 型 Vtg 蛋白質の血中量を測定した結果,両 Vtg 量は GSI と正の相関を示したものの,GSI が 2 を超えた個体で血中量が一定の高値に維持される傾向が確認された。本研究により 2 型 vtg/Vtg の卵成長に伴う発現動態がサケ科魚類で初めて同一種において明らかとなった。

日水誌,79(2), 175-189 (2012)

[戻る][水産学会HP][論文を読む]


アサリの非対称殻模様出現頻度における地域差

張 成年,山本敏博,渡辺一俊(水研セ増養殖研),
藤浪祐一郎(水研セ東北水研),兼松正衛(水研セ瀬水研),
長谷川夏樹(水研セ北水研),岡村 寛(水研セ中央水研),
水田浩治(長崎県),宮脇 大(愛知水試),
秦 安史,櫻井 泉(道中央水試),
生嶋 登(熊本水研セ),北田修一(海洋大),
谷本尚史(京都海洋セ),羽生和弘(三重水研),
小林 豊,鳥羽光晴(千葉水総研セ)

 アサリ殻模様の非対称性は優性遺伝形質である。非対称型(A)頻度は北海道と関東周辺で高く(14.5〜28.1%),東北,浜名湖以西,中国で低かった(0〜9.9%)。千葉県盤州では A 型頻度が低いと考えられる地域のアサリが 2007 年まで放流されてきた。盤洲の 2005 年度標本では殻長 20 mm 未満で A 型が 22%,25 mm 以上で 0% であり大型グループで放流個体が多いことが示されたが,2011 年以降の標本ではサイズによらず A 型が 17.2〜20.3% 見られ,放流個体による遺伝的攪乱が限定的であることが示された。

日水誌,79(2), 190-197 (2012)

[戻る][水産学会HP][論文を読む]


水温・給餌回数・飼育密度の調整によるウナギ Anguilla japonica 仔魚期間の短縮

増田賢嗣,神保忠雄,今泉 均(水研セ増養殖研),
橋本 博(水研セ西海水研),小田憲太朗(水研セ開発セ),
松田圭史(水研セ増養殖研),照屋和久(水研セ西海水研),
薄 浩則(水研セ北水研)

 現行の飼育法のもとでは,ウナギ仔魚を育ててシラスウナギを得るためには天然より長い期間が必要である。本研究では,給餌頻度や飼育水温が仔魚の生残および成長に与える影響を解析した。その結果を基に高い飼育水温,高い給餌頻度,複数の水槽への分槽を取り入れた飼育条件を設定し,現行の基本的な飼育条件(対照)と比較して成長が促進されることを示した。その結果として,ふ化から変態完了までの日数が,対照の 303 日に対して 210 日となり,仔魚期が短縮されることを明らかにした。

日水誌,79(2), 198-205 (2012)

[戻る][水産学会HP][論文を読む]


人工ふ化放流河川におけるサケ野生魚の割合推定

森田健太郎,高橋 悟,
大熊一正,永沢 亨(水研セ北水研)

 サケ資源はほとんどが放流魚で維持されていると考えられているが,これまで野生魚(自然産卵由来)の寄与率は調べられていない。本研究では,耳石温度標識による大量放流が行われている北海道の 8 河川において,サケ野生魚の割合を推定した。ウライで捕獲されたサケに占める野生魚の割合は,調査河川全体で計算すると 28.3±1.2%,放流魚の全数が標識されている河川に限定すると 15.9±0.6% と推定された。野生魚の割合は河川や年級群によって大きく変動したが(0〜50%),野生魚も十分に資源に貢献しうると考えられた。

日水誌,79(2), 206-213 (2012)

[戻る][水産学会HP][論文を読む]


クロマグロ幼魚に寄生していた吸虫ディディモゾイド科 Didymocystis wedli の奄美大島海域における消長および伝搬性

武部孝行(水研セ西海水研),佐伯 悠(日大生物資源),
升間主計(水研セ日水研),二階堂英城(水研セ西海水研),
井手健太郎(水研セ増養殖研),塩澤 聡(水研セ西海水研),
間野伸宏(日大生物資源)

 クロマグロ幼魚(ヨコワ)の鰓に寄生していた Didymocystis wedli の消長および伝搬性について調べた。日本海で採捕したヨコワを奄美海域に搬入し,寄生虫検査した結果,搬入直後の全ての検体で本寄生が観察された。その後,寄生率は減少し,搬入から 5 か月以後には確認されなかった。また,同一または隣接生簀網で飼育されていた同虫未寄生のヨコワおよびクロマグロ,周辺海域に生息する他魚種においても寄生は確認されなかったことから,ヨコワの搬入が奄美海域に同虫の感染を伝搬させる可能性は低いものと考えられた。

日水誌,79(2), 214-218 (2012)

[戻る][水産学会HP][論文を読む]


魚肉からの ATP 関連化合物抽出法の簡便化

胡 亜芹(浙江大),張 佳琪(浙江大,北大院水),
蛯谷幸司(道中央水試,北大院水),
今野久仁彦(北大院水)

 K 値による魚肉の鮮度評価のため,魚肉からの ATP 関連化合物(Nuc)の抽出法を改良し,簡便化した。10 倍量の 5% 過塩素酸(PCA)による一回抽出で,ほぼ定量的に Nuc を抽出できた。変性魚肉が入ったままの Nuc 抽出液を,前もって決定しておいた一定量の 1 M KOH を加えることで pH 2〜3.5 に調整した。静置上澄みをポアサイズ 0.45 μm の膜を通すことで Nuc 分析試料とした。さらに 20 mM リン酸緩衝液を加えることで中和し,保存性を向上させた。

日水誌,79(2), 219-225 (2012)

[戻る][水産学会HP][論文を読む]


組織学的手法による日本周辺海域におけるカツオ産卵個体の観察(短報)

芦田拡士(水研セ国際水研),増田 傑(静岡水技セ),
御所豊穂(和歌山農水セ),
千歳倫之,立原一憲(琉球大理),
田邉智唯(水研セ国際水研),鈴木伸洋(東海大院)

 日本周辺海域においてカツオの産卵個体群が存在することを,組織学的手法により明らかにした。産卵個体は与那国島では 4〜6 月,串本沖では 6〜8 月に出現した。2 月にのみ標本が得られた沖ノ鳥島周辺海域では 38.5% が産卵個体であった。これらの事から,カツオは日本周辺海域においても産卵を行い,夏季には本州太平洋沿岸域の串本沖まで産卵場を拡大することが示唆された。

日水誌,79(2), 226-228 (2012)

[戻る][水産学会HP][論文を読む]


鳥取県沖合で漁獲されるハタハタの脂質含量と脂肪酸組成(短報)

石原幸雄(鳥取水試,鳥大院連農学),
渡辺文雄(鳥大院連農学)

 鳥取県沖合で沖合底びき網により漁獲されるハタハタの食品としての特徴を調べるため可食部の粗脂肪含量および脂肪酸組成を調査した。その結果,粗脂肪含量は,平均約 10% であり雄では体長が大きくなるにつれ高くなる傾向が見られた。また,産卵に関与しない回遊群の漁獲であるため生殖腺が発達しておらず筋肉中に脂肪を蓄えていると考えられた。脂肪酸組成については,オレイン酸が最も多く,雌雄について脂肪酸の種類および割合は同じであり,イコサペンタエン酸やドコサヘキサエン酸の割合は,青魚と同等か,それ以上であった。

日水誌,79(2), 229-231 (2012)

[戻る][水産学会HP][論文を読む]