日本水産学会誌掲載報文要旨

東京湾あなご筒漁業におけるマアナゴの入筒時刻の計測

吉田空久(海洋大院),内田圭一,宮本佳則(海洋大),
南場敬志(海洋大院),柿原利治(海洋大)

 延縄や籠網などの受動的漁具では,漁具の浸漬時間や操業時間帯などの時間的要素が漁獲の成否に与える影響が大きい。本研究では,東京湾のあなご筒漁業を対象として,1 尾目のマアナゴが入筒した時刻を計測する装置を開発した。開発した計測器は,室内実験で動作検証を行った上で,実海域での計測実験を行った。延べ 192 件のうち 85 件の実験筒でマアナゴの入筒時刻を計測できた。夜行性と考えられているマアナゴであるが,日中の漁具投入にも関わらず,漁具投入後 1 時間以内に 35%,さらに全体の 63% が日没前に入筒していた。

日水誌,79(1), 2-9 (2013)

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北海道噴火湾におけるアカガレイ Hippoglossoides dubius の成長様式

岩川浩大,高橋豊美,髙津哲也,稲垣祐太,
中谷敏邦,前田辰昭(北大院水)

 噴火湾産アカガレイの 3 つの卓越年級群 (1989,1991,1995 年級群) の成長様式を調べた。雌雄ともに成長は,3 歳までの若齢期はベルタランフィ式で,以降は線形式に切換えたモデルが良好な適合を示した。3 歳以降の線形な成長は,主餌料がクモヒトデ類や小型甲殻類から栄養価の高い魚類や甲殻類十脚目に転換するためと考えられた。採集時の全長よりも,中高齢魚の耳石輪紋径から逆算した全長の方が小型の全長を示したのは,耳石と全長の成長の季節的差と,刺網によって成長の良い個体ほど早期から漁獲されるためかもしれない。

日水誌,79(1), 10-19 (2013)

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鹿児島湾における藻場の分布と特性

田中敏博,吉満 敏,今吉雄二(鹿県水技セ),
石賀好恵,寺田竜太(鹿大水)

 鹿児島湾内 230 地点で海藻・海草類の調査を行い,ガラモ場やアマモ場(アマモ,コアマモ)の分布を明らかにした。また,ガラモ場を構成する主要なホンダワラ属海藻 10 種については,各種の分布を整理した。その結果,ガラモ場を 159 地点で確認し,アマモ場を 41 地点で確認した。温帯域に広く分布するヒジキ,イソモクやヤツマタモク,マメタワラは湾内各地に広く見られたが,亜熱帯から暖温帯に広く分布するトサカモクやフタエモク,コブクロモク,キレバモク,コナフキモク,シマウラモクは湾中央部や湾口部に多く見られた。

日水誌,79(1), 20-30 (2013)

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多回産卵魚ホンモロコの産卵時期・産卵回数・産卵数

藤岡康弘(琵琶湖博),田口貴史(滋賀県大環境),
亀甲武志(滋賀水試)

 コイ科のホンモロコの繁殖形質とそれに及ぼす親の誕生時期の影響を検討するため,産卵時期の異なる天然卵から育てた 5 組の親を用いて調査を行った。産卵は 4 月から 7 月までの水温 10.5℃ から 25.9℃ の範囲で行われ,この間に 1 尾あたりの平均産卵数は 3,000〜4,000 粒,産卵のあった平均日数は 1.5 から 3.5 日であった。5 月上旬までに生まれた 3 組の親は 20℃ 未満で総産卵数の 8 割以上を産卵したが,5 月下旬以降に生まれた 2 組では 7 割以下と少なく,親の誕生時期の影響が示唆された。

日水誌,79(1), 31-37 (2013)

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食塩水処理とヘッドスペースの調節によるレトルト殺菌にともなうウシエビ組織の脆弱化の抑制

竹内友里,高橋英史(東洋食品研究所)

 レトルト殺菌によるエビ組織の脆弱化を抑制する方法を検討した。脆弱化の原因はレトルト時にエビから流出したドリップによるエビ筋肉中のコラーゲンのゼラチン化であると推測した。レトルト殺菌前に 4% 食塩水中で加熱することにより,エビ筋肉中の水分含量が低下し,パウチ中のドリップが減少した。また,パウチ内にヘッドスペースを設定すると,エビ筋肉とドリップの接触が防止された。これらを通じて,レトルト殺菌によるエビ筋肉中のゼラチン化が抑制され,テクスチャが改善されることが示された。

日水誌,79(1), 38-47 (2013)

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オホーツク海のホタテガイ赤橙色貝柱における一般成分および赤色色素の同定と抗酸化作用について

成田正直(網走水試),眞岡孝至(生産開発科学研),
蛯谷幸司(道中央水試),西野輔翼(立命館大)

 ホタテガイの赤燈色貝柱における成分分析および色素の同定を行い,その抗酸化作用を調べた。赤燈色貝柱の一般成分,遊離アミノ酸は通常貝柱と有意差がみられなかった。MS および NMR スペクトルの結果から,赤燈色貝柱の主な色素はペクテノロンと同定した。ペクテノロンは,アスタキサンチンよりはやや弱いが,β-カロチンより強い抗酸化作用を示し,有用なカロテノイドと考えられた。

日水誌,79(1), 48-54 (2013)

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バナメイエビ若齢体と亜成体の視感度と時間分解能の違い(短報)

松田圭史,マーシー・ワイルダー(国際農研セ)

 網膜電図からバナメイエビ若齢体と亜成体の視感度と時間分解能を調べた。感度曲線からそれぞれの閾値の存在範囲は 11.48-12.48 log photons cm−2 s−1 と 10.48-11.48,亜成体の飽和値は 15.38-15.48 であった。それぞれの相対感度の指標となる平均 K 値は 14.41,13.61,平均 D レンジは 2.86,3.29,感度曲線の平均傾きは 0.52 radian,0.44 でありすべて有意差が見られた。時間分解能曲線の傾きから亜成体が有意に高い時間分解能を持つことが示された。

日水誌,79(1), 55-57 (2013)

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X 線 CT 三次元イメージによるクルマエビの筋肉構造(短報)

竹内友里,高橋英史(東洋食品研究所)

 独特の食感を有するボイルしたクルマエビについて,これを X 線 CT で観察したところ,腹部は 3 つの筋群(前斜筋,中央筋および横断筋)が絡み合って形成された特徴的な構造を有していることを見出した。すなわち,中央筋が前部前斜筋と後部前斜筋を束ね,それらを横断筋が保持した複雑な構造を有しており,このことが独特の食感に起因すると推察した。

日水誌,79(1), 58-60 (2013)

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