日本水産学会誌掲載報文要旨

日本海沖合漁場におけるイカ釣り漁業用青色 LED 漁灯の性能評価

四方崇文,山下邦治,白田光司,町田洋一(石川水総セ)

 調査船に LED 灯を装備してスルメイカを対象にしたイカ釣り操業を行った。メタルハライド(MH)灯 78 灯による操業を基準に比較したところ,LED 灯単用操業では漁獲量は大きく減少したが,LED 灯 216 灯と MH 灯 24 灯の併用操業では漁獲量の減少が小さく,漁灯点灯のための燃油消費は大幅に減少した。以上より,両灯を併用することで漁獲量をある程度維持しつつ燃油節減できることが分かった。MH 灯に比べて LED 灯は船体近くの限られた範囲にのみ光を放射しており,配光の違いが漁獲性能を左右すると考えられた。

日水誌,78(6), 1104-1111 (2012)

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仙台湾におけるアカガイ Scapharca broughtonii 貝桁網の漁獲効率の推定

田邉 徹,渡邊一仁,鈴木矩晃,小野利則(宮城水技セ)

 本研究では,貝桁網漁船が通常使用しているアカガイ Scapharca broughtonii 桁網の漁獲効率を,操業実験試料から標識貝を用い DeLury 法で求めた漁具能率と,漁場面積及び掃過面積の比により推定した。仙台市荒浜沖アカガイ漁場に設定した試験区に標識アカガイを放流し,翌日貝桁網を用いて標識貝を採捕した。漁獲効率として 0.54 を得たが,これは 60〜70 年代のアカガイ桁網の漁獲効率よりも著しく高く,アカガイ資源管理における漁獲効率の再考が必要である。

日水誌,78(6), 1112-1117 (2012)

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東北地方太平洋沖におけるサメガレイの成長様式および漁獲物の年齢構成

稲川 亮,服部 努(水研セ東北水研八戸),
渡邊一仁(宮城水技セ),
成松庸二,伊藤正木(水研セ東北水研八戸)

 耳石薄片法により東北地方太平洋沖のサメガレイを年齢査定して,年齢―全長関係と漁獲物の年齢構成を調べた。303 個体の年齢査定の結果,雄では 1〜15 歳,雌では 1〜22 歳が出現し,成長式はそれぞれ TL=39.5(1−e−0.474(t+0.172)),TL=52.6(1−e−0.366(t−0.003))で示された。漁獲物の全長組成は 39 cm と 49 cm にピークを持つ二峯型であり,年齢分解の結果,小さい峯は 6〜10 歳の高齢の雄,大きい峯は 6〜16 歳の高齢の雌が大部分を占めることが明らかになった。

日水誌,78(6), 1118-1126 (2012)

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北海道太平洋側の大陸斜面域漁場における海底表面の起伏と底生魚類の分布

濱津友紀(水研セ北水研)

 漁業が海洋生態系に及ぼす影響を明らかにするため,北海道太平洋側大陸斜面域の底魚漁場において,深海ビデオカメラを用いて海底表面の起伏を観察し,起伏の程度と底生魚類の分布の関係を調べた。イラコアナゴ,ソコダラ類,キチジ,スケトウダラ,ゲンゲ類,コブシカジカ,カレイ類などの魚類が観察された。キチジは地形・地質的な起伏が大きい場所を選好し,底層水温が高く地形・地質的な起伏の大きな調査点で分布密度が高かった。キチジの生息環境を良好に維持するためには,起伏に富む海底を保全することが必要であると思われた。

日水誌,78(6), 1127-1134 (2012)

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東京湾での周年採集によるアサリ幼生の鉛直分布の特徴

鳥羽光晴(千葉水総研セ),山川 紘(海洋大),
庄司紀彦,小林 豊(千葉水総研セ)

 東京湾の沿岸域と湾中央域で 2001 年 5 月から 2003 年 12 月にアサリ幼生の鉛直分布を調査した。沿岸域では小型幼生は表中層に,大型幼生は底層にそれぞれ多く分布した。同様の鉛直分布は水温 3 区分(15.1〜20.0, 20.1〜25.0, 25.1〜30.0℃)および塩分 2 区分(25.1〜30.0, 30.1〜35.0)でそれぞれ共通していたことから,沿岸域ではアサリ幼生の鉛直分布位置は成長に伴って深くなり,水温と塩分の影響は小さいと推定した。湾中央域では幼生の大きさと分布深さの関係は明瞭でなかった。

日水誌,78(6), 1135-1148 (2012)

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人工アユ種苗の遊漁資源としての特性評価:同一環境で継代飼育された 2 系統間の比較

三浦正之,坪井潤一,岡崎 巧,大浜秀規,
芦澤晃彦(山梨水技セ)

 受精直後から同一の環境で飼育された 2 系統(YD 系:鶴田ダム湖由来,YS 系:駿河湾由来)の人工アユ種苗について,河川放流後の捕獲調査から種苗特性を評価した。その結果 YD 系の方が友釣りで釣られやすく,特に漁期の初期に釣られやすかった。また,YD 系の方が成熟が早く,漁期が短かった。河川での冷水病症状の有無についても系統間で差がみられ,YS 系の方が症状の保有率が低く,感染実験でも死亡率が低かった。本研究で,同一環境下で飼育されたアユでも,系統間で放流後の種苗特性が異なることが明らかになった。

日水誌,78(6), 1149-1158 (2012)

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枯れ茎の刈り取りと切り口の冠水に伴うヨシ Phragmites australis の出芽遅延と成長阻害

藤原公一(滋賀水試)

 冬季の枯れ茎の刈り取りが,琵琶湖のヨシの出芽と成長へ及ぼす影響を検討した。春季に切り口が冠水すると,地下茎への酸素供給の遮断が原因と考えられる新芽の成長阻害が確認された。それに対してヨシは酸素を得るため速やかにシュートを水面へ伸ばしたが,これは風波で折れやすく天然水域では機能しにくいと考えられた。一方,枯れ茎の風波からの新芽保護機能が確認された。さらにヨシの出芽と成長にとってヨシのリター由来の腐葉土の重要性が確認された。以上から,出芽期の冠水域での枯れ茎の刈り取りは避けるべきと結論された。

日水誌,78(6), 1159-1169 (2012)

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北海道えりも岬以東海域におけるマツカワ Verasper moseri の年齢と成長

敷島良也,髙津哲也,高橋豊美,二宮正光(北大院水),
坂井伸司(根室水技指),
一ノ瀬寛之(根室水技指標津支所),
森岡泰三(水研セ北水研厚岸),佐々木正義(釧路水試)

 えりも岬以東海域で刺網と定置網,桁網で採集したマツカワの成長特性を明らかにした。無眼側耳石の外縁は,4〜7 月には不透明帯を持つ個体の割合が増加し,8〜12 月には減少していた。透明帯外縁を指標として年齢群に分けたところ,夏季に全長が著しく増加したが,11〜5 月にはほとんど成長しないことが判った。4 月 1 日を年齢起算日とし,全長を von Bertalanffy 式に当てはめた。えりも岬以西海域に比べて本海域の方が成長が速い要因として,夏季に成長に適した 20℃ 以下の水温に保たれることが考えられた。

日水誌,78(6), 1170-1175 (2012)

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人工ダム湖である奥津湖における栄養塩の変化

高木秀蔵,近藤正美(岡山水研),
土江清司(苫田ダム管理),藤原建紀(京大院農)

 人工ダム湖である奥津湖の流入部,湖内,流出部において,水温,プランクトンの発生状況および TN, TDN, DIN, TP, TDP, DIP, DSi の測定を行った。湖内では,夏季に水温躍層が発達した。一年を通じて渦鞭毛藻類を中心とした浮遊性の藻類が表層域に発生していた。流出水の栄養塩濃度は,流入水よりも低かった。浮遊性の藻類が表層の栄養塩を消費し,栄養塩濃度が低下した表層水が放水されていた。流入量と比較して,年平均で TN は 27.8%,TP は 21.2%,DSi は 18.9% がダム湖内で除かれていた。

日水誌,78(6), 1176-1186 (2012)

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東日本大震災で岩手県沿岸域に放置された底刺網の状態とゴーストフィッシングの実態(短報)

後藤友明(岩手水技セ)

 東日本大震災により岩手県地先の沿岸域に放置された底刺網 4 張りを回収し,漁具の状態とゴーストフィッシングの実態を評価した。回収された漁具は,設置位置からの大きな移動は認められなかったが,多くの付着物や網成りの低下が見られていた。回収された刺網によってカレイ類とカジカ類が優占する魚類と甲殻類が合計 10 種 55 個体・8,717 g 採集された。漁具間の罹網個体数に差は認められず,震災からおよそ 3 ヶ月経過した回収時においてもカレイ類やカジカ類を中心とする底魚類の罹網と死亡が繰り返されていることが示唆された。

日水誌,78(6), 1187-1189 (2012)

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定置網によるウ類の混獲(短報)

秋山清二,下村友季子(海洋大)

 千葉県内の大型定置網 1 か統を対象にウ類の混獲実態を調査した。2011 年 4 月から 2012 年 3 月の 1 年間にウミウ 44 個体とカワウ 12 個体が混獲された。これらのウ類はすべて金庫網内で死亡していた。ウミウは冬季にのみ混獲され,カワウは冬季と夏季に混獲された。胃内容物調査の結果,ウミウからは魚類 9 種 156 個体,カワウからは魚類 6 種 21 個体が出現した。餌重要度指数(IRI)は両種ともカタクチイワシが最も高く,以下,トウゴロウイワシ,サバ類,キビナゴ,マアジ,カマス類が上位を占めた。

日水誌,78(6), 1190-1192 (2012)

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生食用サンマ加工食品からのアニサキス幼虫の検出(短報)

小川和夫,巖城 隆,荒木 潤(目黒寄生虫館),
伊藤直樹(東北大院農)

 根室に水揚げされたサンマのフィレ内のアニサキス寄生の有無を目視で検査した。その結果,フィレ 1 枚あたり 0.9% の寄生が認められた。虫体の形態観察とミトコンドリア Cox2 遺伝子の解析によってヒトのアニサキス症の主原因となっている Anisakis simplex sensu stricto(狭義の A. simplex)と同定された。これによって,サンマ加工食品の生食によるアニサキス感染のリスクが初めて確認された。フィレ内の虫体は目視で発見できるので,加工や調理の際に確実に取り除くことが推奨される。

日水誌,78(6), 1193-1195 (2012)

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