日本水産学会誌掲載報文要旨

垣網への水中灯装着による定置網の漁獲の変化

舛田大作(長崎水試),熊沢泰生,武内要人(ニチモウ),
甲斐修也(長崎水試),松下吉樹(長大院水・環)

 定置網の垣網周辺で水中灯を点灯して魚群を滞留させ,明け方前に消灯して魚群を身網へ誘導することで漁獲増加を目指す実験を行った。長崎県対馬の大型定置網の垣網に消費電力 55 W の水中灯を取り付け,点灯日と非点灯日を繰り返す試験を 2007〜2009 年の間に 157 日実施した。その結果,点灯時の一日の総漁獲量は,非点灯時よりも多くなった。2007 年はウルメイワシ,2008 年はケンサキイカとブリ類,2009 年はマサバが漁獲物中の優占種で,点灯時のこれらの種の漁獲量は,非点灯時の漁獲量より有意に多くなった。

日水誌,78(5), 870-877 (2012)

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中型まき網漁業における集群量に基づく投網の意思決定

松下吉樹,東野 透(長大院水・環)

 中型まき網漁業の灯船のスキャニングソナー画像を解析して,魚群反応の画素数から漁獲結果を予測する実験式を得た。この式を用いて集魚中の魚群に投網した場合に期待される漁獲量(期待漁獲量)を算出し,投網したときと投網しなかったときの期待漁獲量を比較したところ,期待漁獲量の増加とともに投網する確率が高くなった。漁労長は期待漁獲量が 1.5 トン以上の集魚で必ず投網し,50% の確率で投網を行う期待漁獲量は 1.3 トンであった。期待漁獲量が 1.3 トンと 1.5 トン以上の集魚回数はそれぞれ全体の 32% と 24% であった。

日水誌,78(5), 878-884 (2012)

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琵琶湖におけるアユ仔稚魚の成長速度の変動と環境要因

酒井明久(滋賀水試),
矢田 崇,井口恵一朗(水研セ中央水研)

 2008〜2010 年生まれの琵琶湖産アユを対象に,耳石輪紋間隔から仔稚魚期の成長速度の変動を推定し,これと環境要因との関係を調べた。同じ発育段階の仔魚で比較すると,成長速度と水温および動物プランクトン密度との間にはそれぞれ正の相関関係が認められた。ふ化から 12 月までの平均成長速度は,アユの産卵数が多い年ほど低かった。アユ仔稚魚の成長速度の変動には水温,動物プランクトン密度およびアユ自身の生息密度の影響が示唆された。アユ仔稚魚の成長速度の高低は,漁期当初の小型定置網の漁獲量に影響を与えた。

日水誌,78(5), 885-894 (2012)

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カイヤドリウミグモ Nymphonella tapetis 地域集団の遺伝的分化と分類学的位置

張 成年,丹羽健太郎(水研セ増養殖研),
岡本俊治,村内嘉樹,平井 玲,日比野 学(愛知水試),
涌井邦浩,冨山 毅(福島水試),
小林 豊,鳥羽光晴(千葉水総研セ),
狩野泰則(東大大気海洋研)

 2007 年に千葉県で突如発生した寄生性のカイヤドリウミグモ Nymphonella tapetis は愛知県,福島県でも確認された。これら 3 海域で採取した 110 個体の COI 塩基配列(562 bp)を決定した。個体間の塩基置換率は低く(0.2±0.07%),3 標本間で遺伝子型頻度に有意差は無かったことから,ごく最近に少数の同祖群から派生した個体群と考えられた。18S rDNA 配列による系統解析では,本種はトックリウミグモ属 Ascorhynchus より派生した分類群であることが示された。

日水誌,78(5), 895-902 (2012)

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レーザー式プランクトンカウンター(Laser Optical Plankton Counter, LOPC)による動物プランクトン群集に対する種別計測に関する検討

山下由起子(長大院水・環),
藤森康澄,向井 徹,清水 晋(北大院水)

 動物プランクトンの種別分布量を把握するため,曳航型レーザー式プランクトンカウンター(LOPC)のデータ解析法を検討した。2007 年 4 月昼間に北海道噴火湾の 12 点においてリングネットに装着した LOPC を鉛直曳航した。採集物のカイアシ類と端脚類の体サイズは一部重複したが,LOPC の検出粒子のサイズ組成は種別湿重量組成と同様の変化傾向を示した。LOPC を用いた種別計測のためには,動物プランクトンの種ごとの検出粒子の計測特性を明らかにする必要があると考えられた。

日水誌,78(5), 903-912 (2012)

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標識放流からみた瀬戸内海東部海域におけるハモの分布と移動

岡﨑孝博,上田幸男(徳島農水総技セ),
浜野龍夫(徳島大院)

 紀伊水道外域を含む瀬戸内海東部海域で 1988〜1992 年,2009〜2010 年に体重 44〜3,200 g のハモ 3,117 個体を標識放流した。3 個体を除く 359 個体(11.5%)が同海域で 1,112 日以内に再捕された。放流海域に留まるハモが多いが,一部は 4〜12 月に外域から紀伊水道,大阪湾へ北上後,紀伊水道および外域に南下した。この結果,ハモの分布域は外域を含む瀬戸内海東部海域と考えられる。また長期的な水温の上昇によるハモの移動パターンの変化,あるいは個体サイズによる移動パターンの違いが示唆された。

日水誌,78(5), 913-921 (2012)

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屋外池における野生メダカ Oryzias latipes の繁殖行動

小林牧人,頼経知尚,鈴木翔平,清水彩美,
小井土美香,川口優太郎,早川洋一(国際基督教大),
江口さやか,横田弘文,山本義和(神戸女学院大)

 本邦の絶滅危惧種にも指定されているメダカを保全するためには,その生息環境だけでなく繁殖生態についても知見を得ることが重要である。本研究では屋外池で自然繁殖している野生メダカを対象に繁殖生態を調べた。メダカでは,雌が産卵後に卵をしばらく腹部に保持し,それらを基質に産み付ける。今回の観察で,野生下において「産み付け行動」の初の観察・記載に成功し,数種の基質を特定した。基質の特定および存在場所は,今後のメダカの保全において,繁殖場所の確保という点で重要な知見になると考えられた。

日水誌,78(5), 922-933 (2012)

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mtDNA-COT領域のシーケンス分析によるヤマトシジミの地域集団構造

飯田雅絵,菅野愛美,木島明博(東北大院農)

 ヤマトシジミ種内の地域集団構造を調べるため,東アジアから採取したヤマトシジミおよび対照群において mtDNA-COT領域のシーケンス分析を行った。その結果,ヤマトシジミ種内では,1)ロシア・北海道・本州日本海側グループ,2)太平洋側グループ,3)朝鮮半島北東グループ,4)朝鮮半島南西グループの 4 つの明確なクラスターに分かれ,地理的分化による地域集団構造が示唆された。一方,利根川と桑名の 2 地域から採取したサンプルは地理的関係を反映しておらず,過去の移植放流の影響が推測された。

日水誌,78(5), 934-944 (2012)

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異なる餌料で養殖したアワビ F1 交雑種の肉質の比較

原田恭行(富山食研),熊谷敬之(入善漁協),
小善圭一,横井健二(富山食研)

 コンブ,塩蔵ワカメ,配合飼料をそれぞれ単独に給餌して養殖したアワビ筋肉の肉質を,物理・化学分析,官能検査により評価した。遊離アミノ酸総量に差は認められなかったが,コンブ区でグリシン含量が多い傾向にあり,疎水性アミノ酸が少なかった。破断強度はワカメ区が弱い傾向にあった。官能検査の結果,甘味は,コンブ区が好ましく,遊離アミノ酸組成の影響があると考えられた。歯ごたえは,ワカメ区が好ましい傾向にあり,破断強度の弱さの傾向に一致した。これらの結果は,養殖アワビの肉質が餌により影響を受けることを示唆した。

日水誌,78(5), 945-950 (2012)

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クロアワビの消化酵素活性と消化管内容液細菌叢モニタリングのための消化管内容液採取法

丹羽健太郎(水研セ増養殖研),
青野英明(水研セ東北水研),
澤辺智雄(北大院水)

 アワビ消化液の非致死的な消化管内容液(DF)の採取方法を開発した。この方法により採取した DF と解剖により採取した消化盲嚢ホモジネート(DH)との間で多糖類分解酵素活性と細菌叢を比較した結果,DF のアルギン酸リアーゼ,セルラーゼおよび β-1,4-マンナナーゼの比活性は DH のそれらに比べていずれも高いこと,また,DF の生菌数は DH よりも低い値を示すが,細菌種の組成は類似していることが明らかになった。本法は,アワビの消化生理の動態解析に有用と考えられる。

日水誌,78(5), 951-957 (2012)

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輸送および放流過程の異なるニシン稚魚が受けるダメージ:行動の変化,体成分の変化および耳石障害輪形成

瀧谷明朗(道中央水試),福士暁彦(釧路水試)

 ニシン種苗が輸送過程や放流過程で受けるダメージを明らかにするため,直接放流群と中間育成後放流群の 2 群を同日放流した。種苗の輸送後や放流後には成長の停滞,トリグリセリドの急減や酸性プロテアーゼ活性の急増および耳石障害輪形成が認められた。放流初期には遊泳水深帯や摂餌行動に異常が観察された。種苗のダメージの回復までに,輸送は 5 日前後,放流は 10 日以上を要した。耳石障害輪形成率の顕著な違いから直接放流群は中間育成後放流群に比べより強いダメージを受けたことが示唆された。

日水誌,78(5), 958-965 (2012)

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水晒し工程におけるトランスグルタミナーゼの挙動に関する免疫学的研究

酒井清悟(京大院農),
久保田光俊,石田貴之(日水中研),
前川真吾(京大院情報),
豊原治彦(京大院農)

 水晒し工程におけるトランスグルタミナーゼの挙動を明らかにする目的で,抗トランスグルタミナーゼ抗体を用いてスケトウダラなど各種魚肉すりみに対してウエスタンブロット分析を行った結果,すべての魚種においてトランスグルタミナーゼと思われるバンドが検出された。しかし,これらのすりみのミオシン重合能には顕著な違いがあったことから,魚種により坐りの程度が異なる原因は,トランスグルタミナーゼの有無ではなく,基質であるミオシンにおけるリシンとグルタミンの存在様式や重合反応機構の違いが原因であると推測された。

日水誌,78(5), 966-972 (2012)

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ミトコンドリア DNA 分析によるカラフトマス Oncorhynchus gorbuscha 集団構造の年級群間比較(短報)

山田 綾,越野陽介,工藤秀明,阿部周一,
荒井克俊,帰山雅秀(北大院水)

 カラフトマス O. gorbuscha は 2 年間におよぶ一回産卵型の生活史を持つため,奇数年級群と偶数年級群とに分けられ,各年級群間において遺伝的隔離が生じると考えられている。カラフトマス集団における遺伝的差異に関する研究は様々な方法で行われてきたが,日本系カラフトマスを対象とした研究は少ない。本研究では,2008 年および 2009 年に北海道知床半島ルシャ川に遡上したカラフトマスのミトコンドリア DNA(ND5 領域および COI 領域)を用いて年級群間比較を行った。その結果,年級群間で有意な差が検出され,遺伝的分化が起きていると考えられた。

日水誌,78(5), 973-975 (2012)

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日本海の中深層底棲魚に捕食されたズワイガニ属幼生と稚ガニの水深分布について(短報)

小西光一(水研セ中央水研),
養松郁子(水研セ日水研),
廣瀬太郎(水研セ開発セ),
南 卓志(福山大生命工)

 深海性のズワイガニ属では変態・着底前後のデータに乏しい。これを補完する間接的データとして,日本海沿岸域の 6 地点において,水深 400〜1,500 m で採れた中深層底棲魚の消化器官内容物を検鏡し,ベニズワイガニとズワイガニのメガロパ幼生および第 1〜4 齢稚ガニを確認した。今回の調査では,ほぼ 900 m までは両種が見られ,これより深い場所ではベニズワイガニのみであった。メガロパ幼生や稚ガニの出現水深は成体の分布より範囲が広いが,捕食者である底棲魚が大型で行動範囲が広いことが要因の一つとして考えられた。

日水誌,78(5), 976-978 (2012)

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