日本水産学会誌掲載報文要旨

調査用流し網のマサバに対する選択性について

矢野綾子,東海 正(海洋大),
川端 淳(水研セ中央水研)

 1984〜2002 年に三陸〜道東沖で行われた調査用流し網で漁獲されたマサバの目合別尾叉長組成データから,合算条件に従い 37 のデータセットを得てマサバに対する流し網の選択性曲線マスターカーブを求めた。また別に採集されたマサバ標本の胴周長 4 か所(目の中心,鰓蓋後縁,背鰭基部前端,最大胴周)を計測し,尾叉長に対する関係式を求めた。推定した選択性曲線の最適体長を持つマサバの各部胴周長を網目内周長と比較すると,流し網の漁獲は鰓蓋後縁から背鰭基部前端での鰓がかりや背鰭前端での刺しであると示唆された。

日水誌,78(4), 681-691 (2012)

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日本産アマモ Zostera marina の分布南限群落における季節的消長と光合成特性

河野敬史(鹿大水),
Gregory N. Nishihara(長大海セ),
寺田竜太(鹿大水)

 鹿児島湾の日本産アマモ分布南限群落で群落の垂直分布構造と季節変化,光合成活性を明らかにした。群落は水深 2〜2.5 m に見られ,草体は冬から春に伸長し,夏までに枯死流失した。純光合成速度は 20℃ で最高値を示し,12〜24℃ で最高値と有意差がなかった。一方,28℃,32℃ では呼吸速度が増加し,純光合成速度は有意に低下した。光化学系Uの電子伝達速度は 30℃ で最高値を示し,それ以上で減少した。生育地の個体では電子伝達の阻害は見られないが,呼吸速度の増加で純光合成速度は低下する環境と考えられた。

日水誌,78(4), 692-704 (2012)

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流下する砂礫が放流されたアユ Plecoglossus altivelis の定着におよぼす影響

坪井潤一,芦澤晃彦(山梨水技セ),
熊田那央,有馬智子(筑波大生命),
阿部信一郎(水研セ増養殖研)

 放流されたアユの定着阻害要因を明らかにするため,投網による捕獲と投網の着水地点の環境測定を行い,アユのマイクロハビタットについて解析を行った。その結果,アユにとって以下の 3 つが忌避要因であることが明らかになった。1)巻き上がる砂の粒径が大きい,2)長径 65 mm 以上の石が少ない,3)砂やトビケラの巣で表面が覆われている石の割合が高い。また,これらの要因はいずれも流下する砂礫の重量と相関がみられた。今後,砂礫の流下量を考慮したアユ種苗放流場所の選定がなされるべきである。

日水誌,78(4), 705-710 (2012)

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本栖湖に密放流されたコクチバス Micropterus dolomieu の根絶

大浜秀規,岡崎 巧,青柳敏裕,加地弘一(山梨水技セ)

 刺網及び水中銃等による採捕と潜水観察の結果から,本栖湖におけるコクチバス駆除の効果を検証した。1997 年から 2004 年にかけて刺網で 68 個体,水中銃等で 18 個体のコクチバスを採捕した。刺網の CPUE は 1997 年の 0.36 から徐々に減少し,2002 年には 0 となった。刺網による推定年間採捕率は常に 50% 以上あった。コクチバスの再生産がなかったこと,生息情報をフィードバックさせた刺網での採捕率が高かったこと,速やかに駆除を開始したことなどから,根絶に成功したと考えられた。

日水誌,78(4), 711-718 (2012)

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有害赤潮藻ヘテロカプサの分布域北上現象―佐渡島加茂湖での赤潮によるマガキの大量死―

近藤伸一,中尾令子(新潟水海研),
岩滝光儀(長大海セ),
坂本節子,板倉 茂(水研セ瀬水研),
松山幸彦(水研セ西海水研),
長崎慶三(水研セ瀬水研)

 加茂湖は,新潟県佐渡島に位置するマガキ養殖で有名な汽水湖である。2009 年秋に初めて,同湖において貝類斃死原因渦鞭毛藻ヘテロカプサによる赤潮が発生し,養殖マガキの大量斃死が起きた(被害額 1.9 億円)。本種の由来および侵入経路は不明だが,大型台風による海水の大規模擾乱が赤潮発生の引き金になったと考えられる。それ以前のヘテロカプサの発生北限は福井県小浜湾であったこと,翌 2010 年にも再度本種による赤潮が発生したことから,本件は有害藻類分布域の高緯度地域への拡大を示す典型的な事例であるといえる。

日水誌,78(4), 719-725 (2012)

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醤油麹を用いて製造したニギス魚醤油および蒲鉾製造ロス醤油の発酵初期に起こるタンパク質の分解について

舊谷亜由美(水研セ中央水研),
舩津保浩(酪農大食と健康学類),
小善圭一,原田恭行(富山食研),
高野隆司((株)梅かま),
矢野 豊,里見正隆(水研セ中央水研)

 醤油麹を用いたニギス魚醤油では,発酵開始から 7 日目以内にもろみの液化が進行し,タンパク質量が減少した。一方,蒲鉾製造ロスが主原料の醤油もろみでも,発酵開始から 1 日以内に液化が進行し,タンパク質量が減少したことから,魚醤油の発酵初期には自己消化酵素よりも麹由来のタンパク質分解酵素が強く作用することが示唆された。原料タンパク質の差異は分解産物の内訳や挙動に影響を及ぼすことが示された。すなわち,低分子のタンパク質成分の分子量分布やそれらの消長および遊離アミノ酸の総量と組成が異なることが明らかとなった。

日水誌,78(4), 726-735 (2012)

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カツオ血合肉の鮮度及び洗浄回数が洗浄肉の品質に与える影響

小泉鏡子,平塚聖一,青島秀治(静岡水技研),
加藤 登(東海大海洋)

 鮮度の異なるカツオ血合肉から洗浄回数を変えて洗浄肉を調製した。鮮度が低下した血合肉の洗浄肉は a*値,脂質含量,総アルデヒド量が高く,洗浄回数を増やしても鮮度良好な血合肉の洗浄肉より高かったことから,原料鮮度が低下すると,洗浄により洗浄肉の着色及び臭気を改善することは困難であった。また,血合肉の水溶性タンパク質は低 pH 条件下で不溶化が促進された。血合肉を原料とするすり身の着色及び臭気の改善には,脂質の除去及び魚肉の pH を高く保つことによる水溶性タンパク質の変性抑制が重要であると考えられた。

日水誌,78(4), 736-741 (2012)

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我が国の漁業協同組合の財務・経営分析

有路昌彦,松井隆宏(近大農)

 我が国の漁協は,沿岸漁業の経営に関し極めて重要な役割を担っている。経済事業だけでなく資源管理も行う共同体的管理組織としての一面があるため,漁協の経営は,我が国の沿岸漁業の経営に繋がる。しかし,全漁連のデータを用いた財務分析の結果,漁協の経営状況は全国的に厳しい状態にあり,労働生産性が低く,人件費と業績がほとんど連動していないことが明らかとなった。このような問題の改善のためには,事業モデルの見直しや,経営環境の変化に対応できるような人事制度,マネジメント体制が必要であり,早急な経営指導が望まれる。

日水誌,78(4), 742-748 (2012)

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スルメイカ肝臓に含まれるビタミン B12 化合物の同定と含有量(短報)

石原幸雄(鳥取水試,鳥取大院連合農学),
宮本恵美(長崎国際大健康管理学),
竹中重雄(阪府大院生命環境科学),
薮田行哲,渡辺文雄(鳥取大院連合農学)

 クロマグロ肝臓にビタミン B12 が多量に含有されている理由を明らかにするために主要な餌料であるスルメイカの肝臓に含まれるビタミン B12 化合物を同定し,その含有量を測定した。その結果,スルメイカ肝臓には多量のビタミン B12(61.2±25.6 μg/100 g)が含まれており,LC/ESI-MS/MS 分析の結果から生理的に不活性なシュードビタミン B12 は含まれていなかった。以上のことから,クロマグロ肝臓に含まれる多量のビタミン B12 は主に餌料であるスルメイカの肝臓に由来し,生物濃縮の作用により高濃度に蓄積された可能性を示唆している。

日水誌,78(4), 749-751 (2012)

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