日本水産学会誌掲載報文要旨

懸垂法を用いたツノナシオキアミ Euphausia pacifica の側面方向ターゲットストレングス測定

福田美亮,向井 徹(北大院水),
澤田浩一(水研セ水工研),
飯田浩二(北大院水)

 側面方向からの超音波の入射角変化に伴うツノナシオキアミのターゲットストレングス(TS)の変化を,周波数 120 kHz で 23 個体,200 kHz で 21 個体測定した。DWBA 変形円筒モデルにより推定した側面方向 TS パターンは,実測値と一致した。また,21 個体について遊泳状態の体の屈曲を考慮して背方向 TS パターンの推定を行った結果,背方向最大 TS を体長(TL)の 2 乗で規準化した規準化最大 TS(TScm, max)と体長と波長の比 TL/λ との関係は,TScm, max=36.5 log TL/λ−91.4 となった。

日水誌,78(3), 388-398 (2012)

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瀬戸内海産イカナゴの死亡と再生産に及ぼす夏眠期における高水温飼育の影響

赤井紀子,内海範子(香川水試)

 夏眠期の水温条件(24, 26 および 28℃)が瀬戸内海産イカナゴの死亡および再生産へ及ぼす影響を飼育試験により調べた。試験開始 3 ヵ月後の累積死亡率はそれぞれ 3.0, 13.7 および 29.7% で,水温が高いほど死亡率が高くなる傾向が認められた。12 月後半にはいずれの水温区においても概ね順調に成熟したが,28℃ 区ではよう卵数および精巣重量が低い傾向にあった。従って,天然海域においても夏眠期の高水温はイカナゴの死亡および再生産に悪影響を及ぼしている可能性が示唆された。

日水誌,78(3), 399-404 (2012)

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ケガニ幼生の生残,発育および摂餌に及ぼす塩分の影響

神保忠雄(水研セ増養殖研),
浜崎活幸(海洋大),
芦立昌一(水研セ瀬水研)

 ケガニ幼生の飼育に適した塩分を明らかにする目的で,ふ化幼生を塩分 10〜45 psu で飼育した。生残率は 30〜35 psu で高値を示し,10 psu および 15, 45 psu では第 1 および 4 齢で全滅し,20 psu ではメガロパへの変態期で大量に減耗した。各齢期までの所要日数は 25 psu で最小を示したが,第 1 齢稚ガニまでの所要日数の変動係数は 25 psu で高かった。頭胸甲長は 40 psu で小さく,摂餌数は 25〜35 psu で多かった。以上の結果から,適正塩分は 30〜35 psu と結論付けた。

日水誌,78(3), 405-412 (2012)

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交雑アコヤガイ閉殻筋の一般成分と糖代謝酵素活性および真珠品質に及ぼす秋抑制の影響

曽根謙一,山下浩史(愛媛水研セ),
杉田 毅(水研セ増養殖研)

 秋挿核における真珠品質の向上を図るため,交雑 2 年貝を 50 日間抑制し,閉殻筋の一般成分含量と糖代謝酵素活性を測定するとともに挿核試験を行った。グリコーゲン含量は抑制区で 19 日目から減少した。一方,酵素活性は抑制区のグリコーゲン分解酵素と解糖酵素が調査の進行に伴い増大したが,TCA 回路内の MDH 活性は徐々に減少した。生産された真珠の品質は,5, 9, 15 および 19 日目の商品珠率が高かった。以上の結果から,グリコーゲン含量の測定により,挿核に適した貝の生理状態を判断できると考えられた。

日水誌,78(3), 413-420 (2012)

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琵琶湖におけるニゴロブナ Carassius auratus grandoculis の種苗放流効果

藤原公一(滋賀水試,海洋大),
松尾雅也(琵琶湖栽培漁業センター),
臼杵崇広,根本守仁(滋賀水試),
竹岡昇一郎,田中 満(琵琶湖栽培漁業センター),
北田修一(海洋大)

 琵琶湖におけるニゴロブナの種苗放流効果を評価するため,条件を変えて放流し,刺網で再捕された ALC 標識魚を調査した。回収率と費用便益比(B/C)は 6 月の大規模ヨシ帯への体長 16.5 mm 仔稚魚放流が 9.6% と 12.0, 10 月の沖合への 83.9 mm 稚魚放流が 12.7% と 2.2 と高く,ヨシ帯外への仔稚魚や沖合への 58.8 mm 以下稚魚の放流の B/C は 1.0 未満であった。本種資源の増大には減少したヨシ帯の回復が不可欠で,当面の補完策としてヨシ帯に依存しない約 85 mm 稚魚の沖合放流が重要と考えられた。

日水誌,78(3), 421-428 (2012)

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ヒラメ人工種苗で見られた重度の脊椎骨癒合個体の遺伝的解析

澤山英太郎(まる阿水産),
高木基裕(愛媛大南水研セ)

 ヒラメ人工種苗に出現した短躯個体について,60 日齢にサンプリングし,形態的な特徴の把握とマイクロサテライト DNA を用いた遺伝的な検討を行った。短躯個体は 1.7% の頻度で出現し,短躯個体の特徴を軟 X 線写真から調べたところ,椎体の重度の癒合が確認された。脊椎骨の癒合箇所から短躯は大きく 3 種類に分けられた。DNA 親子鑑定を行ったところ,4 遺伝子座により 99.3% の個体の親子関係が判別できた。また,短躯個体にはメス親魚とオス親魚 1 個体ずつが有意に関与しており,一部の短躯個体で遺伝要因の関与が示唆された。

日水誌,78(3), 429-438 (2012)

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養殖クビレズタに付着したオヨギイソギンチャクの除去

伊藤龍星(大分県水産振興課),
上城義信(大分県日出町)

 2008 年 3 月,大分県の陸上養殖施設にオヨギイソギンチャクが大量発生し養殖クビレズタに付着した。除去方法として,淡水(水道水)および食酢海水溶液への浸漬を試みた。淡水は浸漬時間を 1, 2, 4, 10, 15 分間,12 時間,48 時間,対照の 8 区,5% 食酢海水溶液は 1, 2, 3, 5 分間,対照の 5 区,10% 食酢海水溶液は 0.5, 1, 2, 4 分間,対照の 5 区とした。オヨギイソギンチャクが全数死亡し,かつクビレズタに影響のない浸漬時間は,淡水で 15 分間,5% 食酢海水溶液で 5 分間,10% 食酢海水溶液で 1 分間であった。

日水誌,78(3), 439-443 (2012)

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生息域を異にする涸沼川水系産ヤマトシジミ Corbicula japonica のエキス成分および潮汁の食味の比較

岡本成司(茨城水試,東大院農),
山口洋子,小山寛喜,中谷操子(東大院農),
米田千恵(千葉大教育),
渡部終五(東大院農)

 ヤマトシジミの食味に及ぼす塩分の影響を明らかにするため,涸沼および涸沼川下流域で採取した試料のエキス分および潮汁の食味を比較して,水質環境との関係を調べた。涸沼川下流の塩分は潮汐の影響を強く受けて涸沼に比べて高く,軟体組織中の D-, L-アラニン含量は涸沼川産の方が涸沼産よりも高い値を示した。一方,潮汁の遊離アミノ酸総量は涸沼産の方が涸沼川産に比べて高く,官能検査では涸沼産の方が涸沼川産より先味および後味で強い傾向が認められた。

日水誌,78(3), 444-453 (2012)

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漁獲ストレスを受けたゴマサバの短期蓄養によるストレス回復

保 聖子(鹿児島水技セ),
杉田 毅(水研セ増養殖研),
鶴田和弘(鹿児島水技セ),
福田 裕(水大校),木村郁夫(鹿大水)

 蓄養サバ流通品を調査した結果,氷蔵 9 h 後でも筋肉の ATP 濃度は高く維持され高品質を示した。そこで,まき網で漁獲されたゴマサバを短期蓄養した場合の品質に与える影響を検討するため,漁獲ストレスの影響とその回復について検証した。生け簀で 20 分間の強制運動をさせた後,72 h 蓄養し,体内代謝変化を測定した。強制運動により血漿コルチゾル濃度や筋肉乳酸濃度は上昇するが,蓄養により低下し,肝臓グリコーゲン濃度も回復した。一方,筋肉 ATP 濃度は,強制運動直後でも高い値を示し,蓄養による変化は認められなかった。

日水誌,78(3), 454-460 (2012)

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ATP による魚類筋原線維タンパク質の冷凍変性抑制

緒方由美,進藤 穣,木村郁夫(鹿大水)

 高鮮度水産物を凍結処理した場合,その品質は非常に良い状態で保たれる。しかしながら,高鮮度水産物で凍結耐性が高いことに関する科学的な研究はほとんど行われていない。本研究では高鮮度魚肉中に存在する ATP に着目し,ATP の筋肉タンパク質冷凍変性に及ぼす作用について検討した。ATP 濃度を維持できる筋原線維溶液モデル系を構築し,各濃度の ATP 存在下での冷凍変性速度を測定した結果,ATP による筋原線維タンパク質の冷凍変性抑制効果を確認した。その効果は,ATP 濃度と凍結貯蔵温度に依存し魚種差を示した。

日水誌,78(3), 461-467 (2012)

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日本の水産物流通における非対称価格伝達

阪井裕太郎,中島 亨(東大院農),
松井隆宏(近大院農),
八木信行(東大院農)

 本研究では,水産物の流通システムについて,広く流通する 6 魚種を対象に,非対称価格伝達分析の手法を用いて,価格形成の面から分析した。魚種,流通段階,期間の 3 視点から分析した結果,消費地市場において,マイワシやカツオに関しては非競争的環境に,またマダイやサンマに関しては財の性質に,それぞれ起因する市場の歪みが生じている可能性が示唆された。小売市場においては,腐敗特性をはじめとする水産物の財の性質によって,特にサンマ以外の魚種で,小売店に不利な形で価格形成が行われている可能性が示唆された。

日水誌,78(3), 468-478 (2012)

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炭素・窒素安定同位体比に基づく紀伊水道におけるタチウオの栄養段階(短報)

土居内 龍,安江尚孝,武田保幸(和歌山水試)

 炭素・窒素安定同位体比に基づき紀伊水道産タチウオの栄養段階を推定した。肛門前長 25〜502 mm のタチウオ 59 個体は,δ13C が−17.8〜−15.2‰, δ15N が 13.8〜19.4‰ であった。栄養段階は 2.6〜4.2 と推定され,主に 3 と 4 に位置づけられた。栄養段階は肛門前長 250〜299 mm の階級までは成長に伴って上昇し,これ以降は上昇しなかった。成長に伴う栄養段階の上昇は,動物プランクトンからエビ類や魚類への食性の変化を反映し,その後の魚食性の進行は栄養段階の上昇を伴わないものと推察された。

日水誌,78(3), 479-481 (2012)

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カツオ冷凍ロイン製品の副産物を原料としたすり身製造法の開発(短報)

青島秀治,平塚聖一,小泉鏡子(静岡水技研),
池谷幸平((株)南食品),
鈴木悠介,加藤 登(東海大海洋)

 カツオ冷凍ロイン製品製造時の副産物であり,血合肉や夾雑物を多く含む削り粉から事業規模でのすり身製造方法について検討した。考案した凍結細片洗浄法による晒し肉の一般成分は水分 81.7%,粗脂肪含量 1.3%,粗タンパク質含量 16.9% で,既存赤身魚の晒し肉とほぼ同等であった。削り粉すり身のゼリー強度は 50〜60 g・cm と小さく,二段加熱による弾力増強効果もみられなかったが,凍結細片洗浄法により削り粉から事業規模でのすり身製造が可能であることが明らかとなった。

日水誌,78(3), 482-484 (2012)

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