日本水産学会誌掲載報文要旨

鹿児島湾におけるマダイの資源評価と放流計画

宍道弘敏(鹿児島水技セ),滝本鮎子(海洋大),
小畑康弘(水研セ瀬水研),
浜崎活幸,北田修一(海洋大)

 天然魚と放流魚を含めた包括的な資源管理方策を検討するため,コホート解析により 1990〜2002 年の鹿児島湾内マダイ資源尾数を推定した。その結果,放流魚資源は減少傾向を,天然魚資源は横ばい傾向を示した。放流魚漁獲量(CH)が 50 t 程度を越えると天然魚漁獲量が減少する傾向がみられたことから,本湾においては 50 t 程度の CH が期待される毎年 700〜800 千尾の放流規模が適切と考えられた。資源動態モデルによる 2017 年までの漁獲量予測の結果,放流を継続し,かつ放流技術を改善し添加効率を高めることにより漁獲量を増加できると算定された。

日水誌,78(2), 161-170 (2012)

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音響手法を用いた来留見ノ瀬周辺におけるガラモ場の分布推定

南 憲吏(京大フィールド研セ),濱野 明(水大校),
東条斉興(マリノフォーラム 21),中村武史(水大校),
安間洋樹(北大),宮下和士(北大フィールド科セ)

 山口県来留見ノ瀬のガラモ場は,周辺の沿岸生態系において重要であり分布の把握が求められている。本研究は,音響手法により同海域(12 km2)のガラモ場の分布推定を試みた。推定されたガラモ場は,来留見ノ瀬から北西および南南東の方向に分布し,総面積は 1.94 km2(高さ 0.50〜2.24 m)であった。特に南南東の領域の内側は繁茂しており,沿岸生態系における重要性が高いと考えられた。本手法は分布推定の有効な手段であり,現存量の広域評価なども今後に期待できると考えられた。

日水誌,78(2), 171-179 (2012)

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ダイニーマ綟網の流体力特性

熊沢泰生(ニチモウ(株)),胡 夫祥(海洋大),
木下弘実(ニチモウ(株)),東海 正(海洋大)

 目合と網糸直径の異なる高強力ポリエチレン(ダイニーマ)を材料とする綟網の流体力特性を回流水槽実験によって調べた。流れに直角に置かれたダイニーマ綟網の抗力係数 CD90 は,ナイロンおよびクレモナ綟網に比べてそれぞれ 8 % と 25% 小さく,流れに平行な場合の綟網の抗力係数 CD0 は材質による差がほとんどない結果を得た。また綟網の CD90CD0 はレイノルズ数と網目係数を変数とした実験式で,流れに任意な角度に置かれた綟網の抗力係数と揚力係数は,CD90CD0 と迎角 θ を変数とした実験式で表すことができた。

日水誌,78(2), 180-188 (2012)

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酸素電極法とパルス変調クロロフィル蛍光法を用いた鹿児島産ホンダワラ属(ヒバマタ目)藻類 5 種,マメタワラ,ヤツマタモク,ヒジキ,コブクロモク,キレバモクの光合成・温度特性

土屋勇太郎(鹿大水),
Gregory N. Nishihara(長大海セ),寺田竜太(鹿大水)

 鹿児島産ホンダワラ属 5 種の光合成を 10〜36℃ の温度で測定した。純光合成速度はそれぞれ 20〜24℃ で最高値を示し,マメタワラとヤツマタモク,ヒジキは 16〜28℃ ,コブクロモクとキレバモクは 16〜24℃ で最高値と有意差のない速度を示した。呼吸速度はいずれも高温で増加した。光化学系IIの電子伝達速度はそれぞれ 28〜30℃ で最高値を示し,32℃ 以上で減少した。生育地の夏季の水温環境(約 29℃)では,電子伝達の阻害はないと示唆されるが,それ以上の水温では光合成活性の低下の可能性が考えられた。

日水誌,78(2), 189-197 (2012)

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mtDNA データに基づく北太平洋と南大西洋のアカイカ集団の遺伝的差異

若林敏江(水研セ国際水研),
和田志郎(水研セ増養殖研),
越智洋介(水研セ開発セ),
一井太郎,酒井光夫(水研セ国際水研)

 全世界の亜熱帯から温帯域に広く分布するアカイカの,南北大洋間の遺伝的差異を明らかにすることを目的に,北太平洋と南大西洋で採集された各 50 個体を用い,mtDNA 16S rRNA 領域(506 bp)の塩基配列分析を行った。その結果,13 種類のハプロタイプが検出され,北太平洋標本群と南大西洋標本群では共通するハプロタイプをもたず,3 つのサイトにおいて異なる塩基の固定がみられた。Exact test の結果は p<0.001 で有意差が認められ,両集団間に遺伝的分化が見られることが確認された。

日水誌,78(2), 198-203 (2012)

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鹿児島湾に生育する一年生アマモ局所個体群間の遺伝的分化

島袋寛盛,堀 正和(水研セ瀬水研),
吉満 敏,徳永成光,猪狩忠光,
佐々木謙介(鹿児島水技セ),
仲岡雅裕(北大フィールド科セ),
川根昌子,吉田吾郎,浜口昌己(水研セ瀬水研)

 鹿児島湾に生育する一年生アマモ群落の種子分散動態を明らかにすることを目的とし本研究を行った。鹿児島湾内の 5 か所の局所個体群を対象に,草体の形態計測と 7 領域のマイクロサテライトマーカーによる DNA 解析を行った。その結果,形態は場所間で大きな差異が確認され,環境に応じて形態が変化することが確認された。個体群間の遺伝的分化指数(Fst)は 0.112 から 0.415 であり,10 km 程度しか離れていない近接局所個体群でも 0.3 以上の値を示した。これは局所個体群間の遺伝的な分化が進んでいることが示唆された。

日水誌,78(2), 204-211 (2012)

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ミトコンドリア DNA 分析から推測されたアカイカの遺伝的集団構造について

黒坂浩平(水研セ開発セ,海洋大),
柳本 卓(水研セ中央水研),
若林敏江(水研セ国際水研),
重信裕弥(水研セ中央水研),
越智洋介(水研セ開発セ),稲田博史(海洋大)

 アカイカは北太平洋の沖合域で最も重要な漁業対象種の一つであり,適切な資源評価を行う上で,その基礎的な集団構造に関する情報を得ることは重要である。そこで,mtDNA の ND1 から 16SrRNA 遺伝子領域の塩基配列分析を行い,海域間の比較を行った。対照としてインド洋のアカイカを用いた。インド洋と北太平洋のアカイカ集団には有意な遺伝的な変異が認められた。一方,北太平洋の採集位置間には有意な遺伝的差異はなかった。今後,より変異性の高い領域を使って集団構造解析をする必要がある。

日水誌,78(2), 212-219 (2012)

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干潟の炭素・窒素循環におけるスナガニ類の役割

大園隆仁(宮崎海洋高・鹿大院連合農),
三浦知之(宮崎大農)

 宮崎港一ツ葉入り江でスナガニ類の炭素・窒素摂取量を求め,干潟の物質循環における役割を検討した。ハクセンシオマネキ,チゴガニ,コメツキガニは,各 3500, 1500, 20750〜26750 m2 の広さに生息し,砂団子排出量が各最大 944, 486, 2266 g m−2 d−1 であった。底質は,炭素・窒素量が 5.0 mg Cg−1, 0.5 mg Ng−1 以下で,砂団子との差分が 5〜80% であった。3 種の摂取量は,各最大 3.36, 0.18, 1.67 g Cm−2 d−1, 0.416, 0.024, 0.086 g Nm−2 d−1 と算出され,入り江全体では 13 kg Cd−1, 1.4 kg Nd−1 程度と推定された。

日水誌,78(2), 220-229 (2012)

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隠岐諸島西方海域におけるベニズワイ雌の成長

養松郁子(水研セ日水研),
廣瀬太郎(水研セ開発セ),
白井 滋(東京農大生物産業)

 2005 年〜2011 年の夏季に隠岐島西方海域の水深 200〜2000 m で桁網による採集を行い,ベニズワイ雌の深度分布様式と成長を調査した。2005 年に水深 1000 m 以浅と 1700 m 以深にそれぞれ甲幅組成の異なる未成体群が存在し,この 2 群は成長が異なることが示唆された。甲幅組成を分解した結果,未成体 5 齢と成体 2 齢が認められ,最小は第 6 齢と推定された。第 7 齢以降,深い水深ほど各齢期の平均甲幅が小さく,脱皮あたりの成長量が小さい可能性が示唆された他,成熟脱皮の主齢期にも差があることが示唆された。

日水誌,78(2), 230-240 (2012)

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ダイオキシン類低減油を用いたマダイ飼育の試み

本領智記(近大水研),
山本浩志,熊西敦則,廣瀬秀樹(植田製油),
澤田好史(近大水研)

 ダイオキシン類含有量を低減した魚油(CT; 3 pg-TEQ/g)と従来の魚油(MD; 18 pg-TEQ/g)を飼料に用いてマダイへのダイオキシン類蓄積量を比較した。その結果,成長や餌料評価指数に差は認められず,マダイ筋肉中の総ダイオキシン類毒性等量は,開始時の 0.14 pg-TEQ/g に対し,終了時には MD 区で 0.30 pg-TEQ/g へ増加した。一方,CT 区では 0.07 pg-TEQ/g となり有意に減少した。よって低減油はマダイ筋肉中のダイオキシン類蓄積量を低減できることが明らかとなった。

日水誌,78(2), 241-245 (2012)

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河川から間欠的に供給される栄養塩によるノリ色調の回復

高木秀蔵,清水泰子,草加耕司(岡山水研),
藤沢節茂,藤原宗弘(香川水試),
渡邉康憲(水研セ北水研),藤原建紀(京大院農)

 備讃瀬戸のノリ漁場に届く河川からの DIN の到達状況と,ノリの色調(a* 値)を調べ,ノリの色調維持に必要な条件を調べた。その結果,海域の DIN が 1 μM 程度であっても河川水から間欠的に DIN 供給が行われ,DIN の標準偏差が 2 μM 以上の場所ではノリの色調は維持されていた(a* 値>6)。このとき DIN>7 μM の時間は 1.6 時間・日−1 以上あり,室内での培養実験とほぼ一致した。また,移植した色落ちしたノリは,約 14 日間で元々そこにあるノリと同じ色調に回復した。

日水誌,78(2), 246-255 (2012)

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2009 年冬―春季の渡島半島西部から津軽海峡におけるキタオットセイ Callorhinus ursinus の来遊状況(短報)

堀本高矩(北大院水),
三谷曜子(北大フィールド科セ),
小林由美(北大院水),服部 薫(水研セ北水研),
桜井泰憲(北大院水)

 キタオットセイの渡島半島西部〜津軽海峡の海域への来遊状況を明らかにするために,混獲・漂着情報の収集と目視調査を行った。2009 年 2〜4 月に,キタオットセイ,クラカケアザラシ,ゴマフアザラシ,トドの混獲・漂着を確認した。収集されたキタオットセイは全てオスであり,来遊個体の性比が偏っている可能性がある。目視調査では,距岸 2.4〜27.9 km でキタオットセイ延べ 212 群 353 頭を発見した。本種は,主要な来遊海域の日本太平洋側では,外洋域に分布しているが,本海域では,距岸数 km に定常的に分布していた。

日水誌,78(2), 256-258 (2012)

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養殖ワカサギ腸内細菌の N-アシルホモセリンラクトン生産能(短報)

陳 家輝,小川真幸,相良和之,糸井史朗,
杉田治男(日大生物資源)

 養殖ワカサギの腸内容物,飼育水,配合飼料の細菌叢を調べるとともに,オートインデューサーである N-アシルホモセリンラクトン(AHL)の生産能を測定した。その結果,腸内容物からは 8 属 17 種が検出され,Aeromonas 属や Lactococcus lactis subsp. lactis が優占した。AHL 生産菌はいずれも Aeromonas 属であり,腸管内容物に 1.7×105〜2.0×107 CFU/g 存在することから,ワカサギにおける日和見感染に重要な役割を演じていることが示唆された。

日水誌,78(2), 259-261 (2012)

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