日本水産学会誌掲載報文要旨

ベニズワイ Chionoecetes japonicus 雄の相対成長の変化と最終脱皮の可能性

養松郁子,白井 滋,廣瀬太郎(水研セ日水研)

 日本海の最上堆から隠岐島西部にかけて採集した 545 個体のベニズワイ雄について,鉗脚の相対成長,脱皮ステージ,生殖腺重量を測定した。鉗脚の相対サイズの大小は,甲幅,および鉗脚サイズの自然対数による主成分分析を行って区別した。その結果から,99% 以上の確率で正しく判別可能な二次判別式を得た。鉗脚が大きい雄には脱皮前の個体が出現しないことから,これらの個体は鉗脚が小さい個体に比べて脱皮頻度が低い,もしくは脱皮しなくなることが示唆された。また,鉗脚が大きくなった後に性成熟が開始することが示された。

日水誌,73(4), 668-673 (2007)

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日本海大和堆北東部におけるベニズワイの深度分布と移動

養松郁子,白井 滋(水研セ日水研)

 ベニズワイの深度分布様式を明らかにするために,日本海の大和堆北東部に水深 500〜2,000 m の範囲で定点を設け,着底トロールによりベニズワイを採集した。雌雄ともに水深 1,700 m 以上の水深帯に未熟な個体が高密度で出現した。これらは成長とともに浅場へ移動するが,雄が移動しながら脱皮して形態的に成熟するのに対し,雌は最終脱皮となる最終脱皮をした後に移動を開始することが示唆された。雌の抱卵量と水深の間に負の相関があり,この原因として,水深による繁殖可能な性比および成熟雄のサイズの違いが考えられる。

日水誌,73(4), 674-683 (2007)

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加入量当たり産卵資源量を用いた周防灘マコガレイの資源管理

井本有治(大分県東部振興局),
木村 博(山口水研セ内海研),
吉岡直樹(福岡水海技セ豊前研),
銭谷 弘(水研セ瀬水研)

 周防灘における「小型機船底びき網漁業対象種資源回復計画」対象魚種であるマコガレイについて,チューニング VPA および加入量当たり産卵資源量(SPR)を用いて資源状態を検討した。
 マコガレイ資源量は 1980 年以降減少し,産卵親魚量は 1996 年以降低位安定状態であった。1980〜2003 年における %SPR の平均は 17% であった。小型底びき網,刺網の努力量減少にともない,近年は資源管理上の下限とされている 20% を上回っているが,資源回復のためには努力量水準を現状以下とするか漁獲開始年齢を引き上げる必要がある。

日水誌,73(4), 684-692 (2007)

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有明海産スズキにおけるカイアシ類の寄生状況

生大塚 攻,仲達宣人(広大院物圏),
田中 克(京大フィールドセ),
上田拓史(高知大総研セ)

 2000 年 6 月〜2001 年 3 月の間に採集された有明海産スズキの鼻腔,口腔,鰓腔および鰓から 6 種の寄生性カイアシ類が発見され,Caligus tanago, Naricolax atypicus, Nothobomolochus lateolabracis の 3 種が優占した。大陸遺存種と考えられるものは出現しなかった。これらの寄生率,寄生数は宿主の繁殖期である 1〜3 月に高くなる傾向があった。N. atypicus は鼻腔に寄生し,寄生率は夏季にも高く,宿主サイズと正の相関を示した。

日水誌,73(4), 693-702 (2007)

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伊勢湾におけるあなごかごのマアナゴに対する網目選択性

沖 大樹(三重科技セ水),
原田真美,東海 正(海洋大)

 複数の目合のかごを同時に用いた操業結果をもとに,SELECT 解析法による網目選択性曲線マスターカーブを求めて,全長 250 mm 未満の伊勢湾産マアナゴの混獲回避に有効な目合を検討した。目合相対胴周長 R が 0.9〜1.8 の範囲で選択率が増加した。50% 選択全長(mm)は目合内径 12.6, 14.3, 16.1, 17.9, 20.2 および 27.8 mm でそれぞれ 224, 245, 266, 287, 313 および 367 mm であり,伊勢湾のあなごかごでは小型個体の混獲回避に 16.1 mm 目合が妥当と推察された。

日水誌,73(4), 703-710 (2007)

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八代海から単離した有害渦鞭毛藻 Cochlodinium polykrikoides の栄養塩利用特性と増殖動力学

金 大一(全南大),松原 賢,呉 碩津,
島崎洋平,大嶋雄治,本城凡夫(九大院農)

 八代海から単離した Cochlodinium polykrikoides の窒素とリンの利用性及び増殖動力学を調べるため,バッチ培養と半連続培養実験を行なった。C. polykrikoides は窒素源として無機態窒素の他に尿素と glycine の有機態窒素を利用することができた。一方,リン源として無機態と有機態リンの両方を利用できた。半連続培養実験から得られた最大増殖速度(μ′m)と最小細胞内含量(Q0)は,それぞれ窒素制限下で 0.48 day−1 と 5.25 pmol cell−1,リン制限下で 0.54 day−1 と 0.37 pmol cell−1 であった。このことから,八代海から単離した C. polykrikoides は増殖競合に有利な生理特性を有していると考えられた。

日水誌,73(4), 711-717 (2007)

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カマキリ Cottus kazika 養成親魚の卵質評価指標と異常採卵の特徴

田原大輔(福井県大生物資源),
岩谷芳自(福井県内水総セ)

 カマキリの養成親魚から搾出した卵を,卵および油球の性状,卵径の分布から 4 つに分類し,それぞれの分類の発眼率から卵質評価を行った。油球数は過熟の指標として有用であり,また,搾出した卵に含まれる過熟卵の割合が高くなると,発眼率およびふ化率は低下したことから,過熟卵率によりその後の発眼率およびふ化率を推定できることが示唆された。受精卵が得られない異常な採卵では,未排卵の卵母細胞および濾胞内過熟卵を含む卵巣組織が搾出されていた。この異常な採卵事例は,人工および天然養成親魚のいずれにおいても認められた。

日水誌,73(4), 718-725 (2007)

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メダカビテロジェニンアッセイによる下水高度処理のエストロゲン様物質低減効果の評価

江口さやか,菅原志穂美,中川加奈子,三谷直子,
大沼良子,松岡須美子(神戸女学院大人間科学),
平井慈恵(国環研),山本義和(神戸女学院大人間科学)

 下水高度処理がエストロゲン様作用低減に有効かを調べるため,処理水に雄メダカを 2 週間曝露し,血漿・肝臓のビテロジェニン(VTG)濃度と処理水中のエストロゲン濃度を ELISA 法で測定した。活性汚泥処理水曝露区のメダカからは成熟雌に匹敵する VTG 濃度が検出されたが,礫間接触処理水曝露区では定量限界値以下だった。エストロゲン類は,活性汚泥処理だけでは処理不足だったが,礫間接触処理を加えることで,メダカへの最小影響濃度付近にまで低下した。これらのことから礫間接触処理はエストロゲン様作用低減に有効といえる。

日水誌,73(4), 726-733 (2007)

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静水圧下での食塩無添加によるナマコ内臓の自己消化法

岡崎 尚(広島食工技セ)

 塩辛の新しい製造方法を開発する目的で,静水圧処理によるナマコ内臓の自己消化を食塩無添加で行った。60 MPa の静水圧処理によって,微生物はナマコ内臓に発育しなかった。ナマコ内臓の静水圧処理条件は 30°C で 24 時間とし,この条件では全遊離アミノ酸,全窒素およびホルモール態窒素の濃度は生のものの 7 倍,4 倍および 5 倍高い値であった。静水圧処理した内臓に食塩 5 % を加え,通常処理したものと比較すると,静水圧処理は通常処理よりもうま味およびあと味で優れていた。

日水誌,73(4), 734-738 (2007)

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福岡県大島産アカモク Sargassum horneri 中に含まれる多糖類の季節変動

木村太郎,上田京子,黒田理恵子,
赤尾哲之(福岡工技セ),
篠原直哉,後川龍男,深川敦平,
秋本恒基(福岡水海技セ)

 フコイダンやアルギン酸は生体内で免疫の賦活化など様々な生理活性を有することが知られている。本論文では福岡県大島産のアカモク Sargassum horneri についてフコイダン,アルギン酸含有量の季節変動を検討した。その結果,アルギン酸はアカモクの成長過程にかかわらず一定の含有量であった。これに対しフコイダンは未成熟のアカモクにはほとんど含まれていないのに対し,成熟期には劇的に増加することが明らかとなった。これはフコイダンが生殖器床の出現と密接に関係しているためと考えられる。

日水誌,73(4), 739-744 (2007)

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サヨリの脊椎骨数に認められた雌雄差について(短報)

辻 俊宏(石川水総セ)

 本州日本海側中部沿岸域及び北海道サロマ湖で漁獲されたサヨリの脊椎骨数を比較した。延べ 9 回,合計 600 尾の標本採集を行い,各試料の性,尾叉長及び脊椎骨数を調べた。水域毎に雌雄間で脊椎骨数を比較すると,いずれの水域においても雄は雌よりも約 1 個多く,平均値に有意差(p<0.05)が認められた。一方,水域間では脊椎骨数に有意差は認められなかった。このように脊椎骨数に雌雄差が認められる魚種は非常に稀である。

日水誌,73(4), 745-748 (2007)

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