日本水産学会誌掲載報文要旨

有明海におけるトラフグTakifugu rubripes 人工種苗の産卵回帰時の放流効果

松村靖治(長崎水試)

有明海において 1996〜2005 年に漁獲された親魚 1,584 尾を調査した結果,85 尾の耳石標識魚が得られた。標識を照合した結果,3 歳を主体とした 2〜8 歳の有明海放流魚であることが判明した。回収率は放流サイズで異なり 0〜0.41% と大きく変動した。von Bertalanffy の成長式をあてはめた結果,全長(Ltcm)と年齢(t 歳)の関係は,雄:Lt=63.3{1−exp [−0.247(t+1.90)]},雌:Lt=75.0{1−exp [−0.173(t+2.13)]} で表された。天然魚の GSI との比較結果から,放流魚は成熟しており,有明海に産卵回帰したものと考えられた。

日水誌,72(6), 1029-1038 (2006)

[戻る][水産学会HP][論文を読む]


七尾湾および富山湾で放流したハタハタ人工種苗の成育,産卵と移動

友田 努(水研セ能登島セ),堀田和夫(富山水試),
森岡泰三(水研セ北水研)

 ハタハタ人工種苗の生態を把握するため,2000 年 4 月に計 2 群 6,966 尾(平均全長 10.4 cm)を七尾湾と富山湾で標識放流した。2005 年 1 月までに計 123 尾(1.8%)が再捕され,再捕の 9 割強が産卵群と考えられる 2 歳以上の親魚であった。両放流群とも,過半数が富山湾内で再捕され,その他の多くが新潟,山形および秋田県沖で再捕された。本結果は,七尾湾,富山湾に放流した人工種苗が主に富山湾内に滞留し成育,産卵するものの,一部は北上し日本海北部系群や新潟周辺の地域群と交流していることを示すものである。

日水誌,72(6), 1039-1045 (2006)

[戻る][水産学会HP][論文を読む]


バイオテレメトリー手法によるアイゴとノトイスズミの行動解析

山口敦子(長大水),
井上慶一,古満啓介(長大院生産),
桐山隆哉(長崎水試),吉村拓(水研セ西海水研),
小井土隆,中田英昭(長大水)

 長崎県野母崎の藻場周辺で,ピンガーを装着したアイゴとノトイスズミを設置型受信機により 4 ヶ月半にわたって追跡した。二種ともに毎日のように藻場へ来遊し,日中活動することがわかった。夜間にはアイゴは藻場付近の深場に移動し,ノトイスズミは外海側へ移動すると推定された。アイゴでは約 20°C,ノトイスズミでは 16〜17℃に水温が低下すると受信回数は急激に減少した。しかし,冬季も藻場にとどまっていることが確認され,これらが食害を継続するものと推定された。近年の冬季における海水温上昇が,これらの活動期間を長期化させている可能性がある。

日水誌,72(6), 1046-1056 (2006)

[戻る][水産学会HP][論文を読む]


土佐湾沿岸域におけるアユ仔魚の分布および食性

八木佑太(高知大海洋研セ),
美藤千穂(西日本科技研),舟越 徹(かねふく),
木下 泉(高知大海洋研セ),
高橋勇夫(たかはし河川調査)

 2000〜2003 年の 4 期にわたり,土佐湾において,アユ仔魚の分布および食性を調査し,それらの生残要因の解明を試みた。仔魚は,河川水の影響を強く受け,水平的には距岸 3 km 以内に,鉛直的には主に表層に分布していた。仔魚は,主にカイアシ類ノープリウスで環境中に多い種類を摂餌していた。平均摂餌率は卵黄嚢期でも 40.8〜47.9% であり,発育が進むにつれ上昇した。これらのことから,接岸するまでの仔魚の生残にとって,沿岸近くでの集積程度と餌密度が重要であることが示唆された。

日水誌,72(6), 1057-1067 (2006)

[戻る][水産学会HP][論文を読む]


岩手県沿岸に出現する Alexandrium 属とその毒生産能

加賀新之助,関口勝司(岩手水技セ),
吉田 誠(熊本県大環共),緒方武比古(北里大水)

 岩手県沿岸の 8 湾において 1998 年〜2002 年の間 Alexandrium 属の出現種を同定するとともに,その培養株を用いて毒生産能を調べた。本海域ではこれまでも数種の Alexandrium の存在が確認されているが,本研究では新たに A. insuetum, A. ostenfeldii, A. pseudogonyaulax, A. tamutum, A. minutum の出現を認めることができた。新たに見いだされた種の毒生産能を調べたところ,A. ostenfeldii にのみ 7.5 fmol/cell 程度の GTX4 を主体とする毒成分の生産を認めた。しかし,本種の出現頻度および出現密度は低く,現状では本種が毒化の主原因となる可能性は低いと考えられた。一方,本研究の結果は既知有毒種の出現時期に形態上識別困難な無毒種が混在して計数される危険性を示し,毒化予測手法改善の必要性を示唆した。

日水誌,72(6), 1068-1076 (2006)

[戻る][水産学会HP][論文を読む]


真骨魚類 9 種の卵巣と脳におけるアロマターゼ活性の比較

佐々木俊博,朝比奈 潔(日大生物資源)

 アンドロゲンをエストロゲンに転換する酵素である P450 アロマターゼの活性を卵黄形成期の真骨魚類 9 種の卵巣と脳で比較した。組織の cell free homogenate を調製し,[1β-3H]androstenedione を基質として incubate し,遊離したトリチウム水のカウントから活性を求めた。卵巣ではアゴハゼ,シロウオ,マハゼ,ニジマスで高い活性が得られ,ギンザケがそれに次ぎ,クサフグ,アミメハギ,イソギンポ,メダカで弱かった。脳では魚種間で大きな違いは認められなかった。また,活性は前 5 者で卵巣の方が高く,後 4 者で脳の方が高かった。

日水誌,72(6), 1077-1081 (2006)

[戻る][水産学会HP][論文を読む]


SSBL 方式とピンガー同期方式を組み合わせたバイオテレメトリー方式の開発

朴 柱三(全南大),古澤昌彦(海洋大)

 標識のみのピンガーを装着した海洋生物の瞬時の行動を船から詳細に追跡できる新たなバイオテレメトリー方式を開発した。この方式では,方位を知る SSBL (Super Short Base Line) 方式と距離を知るピンガー同期方式とを組み合わせて,受波器に対する海洋生物の瞬時の位置を知る。信号対雑音比を最大にする設計方法を適用し,さらに受波器のアレイの構成を工夫し,高精度または広範囲に魚を追跡することを可能とした。本方式を可能とする試作システムを作り,水槽で性能試験を行なうと共に,実際の魚の追跡実験を行い,本方式の有効性と実用性を確かめた。

日水誌,72(6), 1082-1092 (2006)

[戻る][水産学会HP][論文を読む]


魚油乳化によるすり身加熱ゲルの物性向上効果

岡崎惠美子(水研セ中央水研),野田誠司(東京都食技セ),
福島英登,福田 裕(水研セ中央水研)

 タンパク質・水・魚油の比率が異なる種々のすり身乳化物を高速攪拌により調製し,それらの加熱ゲルの物性を調べた。タンパク質量が一定で魚油<09-64>水分比率が異なる乳化物,およびタンパク質<09-64>水分比率が一定で魚油量が異なる乳化物から調製した一連の加熱ゲルはともに,魚油比率の増加に伴い加熱ゲルの破断強度が高くなった。乳化加熱ゲルの割断面の走査型電子顕微鏡による観察結果から,魚油粒子はすり身乳化物中と同様に直径数 μm の大きさで単分散しており,加熱中および加熱後のゲル中においても安定であることが推察された。

日水誌,72(6), 1093-1098 (2006)

[戻る][水産学会HP][論文を読む]


加圧処理が活魚の活力持続性に及ぼす影響

永井 慎(名城大生薬セ),御木英昌(鹿大水)

 高温下で加圧処理による麻酔が活魚の活力に及ぼす影響について検討した。28℃下で加圧処理したティラピアとヒラメは,減圧後すべて麻酔状態となった。それぞれの初期血中酸素含有量は,10.5 および 18.0 μL/mL と高濃度に保持され,4℃での生存時間は,6 および 9 時間と対照区より 2 倍延命した。長期冷蔵による疲労により遊泳不能となったティラピアも再度の加圧処理により遊泳可能となった。したがって,高温下での加圧処理による麻酔は,活魚の延命効果および再度の加圧処理による回復効果を示すことが明らかとなった。

日水誌,72(6), 1099-1102 (2006)

[戻る][水産学会HP][論文を読む]


ズワイガニの硬ガニおよび水ガニの品質評価手法に関する検討

原田和弘,大谷徹也(兵庫農水技総セ)

 ズワイガニの硬ガニと水ガニの品質を評価する手法を検討した。生きた状態で硬ガニと水ガニの特性を比較する場合,肥満度と歩脚長節腹面の b*値を測定する方法が有効であることが示唆された。解剖する場合には,歩脚長節の水分,背甲の強熱減量および肝膵臓の色調と,その成分(とくに粗脂肪)により判別可能であることが分かった。背甲の強熱減量の違いは甲殻の厚み(おもにクチクラ層)に,また,肝膵臓の色調(L*値および b*値)は脂肪蓄積量に関連のあることが推測された。

日水誌,72(6), 1103-1107 (2006)

[戻る][水産学会HP][論文を読む]


ベニズワイ雌の成熟脱皮と初産(短報)

養松郁子,白井 滋(水研セ日水研)

 ベニズワイ雌の成熟脱皮から初産にかけての過程を調べることを目的として,2002 年及び 2003 年夏季に着底トロールによってベニズワイを採集し,計 548 個体の雌を調査した。形態的に未熟な雌および成熟脱皮を終えたばかりの成熟形の雌の卵巣はすべて未熟であったことから,ベニズワイ雌の卵巣の発達は成熟脱皮後に開始することが明らかになった。また,貯精嚢中の精子の有無を調べた結果,成熟脱皮直後に交尾が行われることは少なく,卵巣が発達して初産を行うまでの間の不特定の時期に初回交尾が行われることが示唆された。

日水誌,72(6), 1108-1110 (2006)

[戻る][水産学会HP][論文を読む]