日本水産学会誌掲載報文要旨

木曽三川感潮域のヤマトシジミの漁獲量の変動

水野知巳(三重水技振セ),関口秀夫(三重大生物資源)

 1996〜2002 年の木曽三川のヤマトシジミの漁獲資料を河川別に整理し,日間 CPUE の年平均値を新規加入量の指標として,漁獲量と新規加入量の変動を検討した。揖斐・長良川と木曽川の漁獲量と CPUE は,毎年春季から夏季に増大し,夏季から冬季に減少した。揖斐長良川の年間漁獲量は新規加入量の減少と対応して,減少傾向を示した。木曽川の年間漁獲量は変動が大きいものの減少傾向は見られず,各年の新規加入量が漁獲量を規定していると考えられた。

日水誌,72(2), 153-159 (2006)

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諫早湾に出現する有害赤潮鞭毛藻 4 種の増殖に及ぼす水温,塩分の影響

山砥稔文,坂口昌生(長崎水試),
岩滝光儀,松岡數充(長大海セ)

 諫早湾産有害赤潮鞭毛藻 4 種について,水温と塩分に対する増殖応答実験を行った。Chattonella antiqua は 15〜32.5℃,C. marina は 12.5〜32.5℃, Heterosigma akashiwoCochlodinium polykrikoides は 10〜32.5℃ で増殖した。増殖可能な塩分範囲は 4 株に共通して,16〜36 であった。最大比増殖速度とそれを与える水温・塩分の組み合わせは,C. antiqua は 0.99 day<;>−1<;>(30℃,塩分 32),C. marina は 0.83 day−1(30℃,塩分 24),H. akashiwo は 1.14 day−1(25℃,塩分 24),C. polykrikoides は 0.56 day−1(27.5℃,塩分 32)であった。これら 4 株は既知の他海域産株に比べ,より高水温側に耐性限界を持つと考えられた。

日水誌,72(2), 160-168 (2006)

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ヒラメ Paralichthys olivaceus の発育初期における環境ストレスに対する耐性の変化

嶋田幸典(福井県大生物資源),
鹿野隆人(ウィンザー大),
青海忠久(福井県大生物資源)

 ヒラメの初期発育過程に伴う淡水,高塩分,高水温,およびホルマリン耐性実験を行い,発育に伴う半数致死条件の変化を調べた。各種環境ストレスに対する耐性は孵化後 1 日齢で最高値を示し,およそ孵化後 10 日齢までに最低値を示した。この原因として,口や鰓蓋の形成により,各種環境ストレスに対して高い感受性を示すようになったと考えられたが,発育に伴う各種環境ストレス耐性は,異なる変化傾向を示した。

日水誌,72(2), 169-173 (2006)

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ソウハチに対する刺網の網目選択性

若山賢一,藤森康澄(北大院水),
板谷和彦,村上 修(道中央水試),
三浦汀介(北大院水)

 ソウハチに対する網目選択性を求めるために,8 種類の目合で構成される底刺網を用いて,北海道石狩湾において漁獲実験を行った。選択性曲線の推定には SELECT モデルを用いた。ソウハチの全漁獲尾数は 957 尾で,選択性の推定には絡みによる漁獲を除いたデータを用いた。選択性曲線として正規,対数正規,二峰性正規の 3 種類の関数を適用し,最尤法によりパラメータと相対漁獲強度を推定した。各関数のうち,二峰性正規の適合度が最も高く,同選択性曲線において最大値を得る目合相対体長(体長/目合)は 1.87 と推定された。

日水誌,72(2), 174-181 (2006)

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飼育水温および飼育密度がアユの胸腺の発達に与える影響

原 日出夫(神奈川水技セ内水試),
山本充孝(滋賀県農政水産),
村木誠一(富山県農林水産),
三輪 理(水研セ養殖研)

 飼育水温および飼育密度がアユ Plecoglossus altivelis altivelis の胸腺の発達に与える影響について,琵琶湖産,富山県人工産および神奈川県人工産の計 3 つの由来の異なるアユを用いて検討した。その結果,アユの胸腺の発達は低水温飼育(約 15℃)と比べ高水温飼育(約 20℃)により抑制されることが確認された。しかし,0.58〜10.95 kg/m3(試験終了時)の飼育密度は胸腺の発達に影響を与えなかった。

日水誌,72(2), 182-185 (2006)

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日長および水温条件の制御によるブリの 12 月産卵

浜田和久,虫明敬一(水研セ五島)

 12 月におけるブリの採卵を目的に,10 日間の短日処理(8L16D)と 80 日間の長日処理(18L6D)を組み合わせた日長および最低水温を 19℃ に維持する水温の両条件で制御することにより,雌親魚の卵黄形成の促進を図った。その結果,両条件無処理の対照区と比較して卵巣卵径の有意な増大が認められ,ホルモン(HCG)を用いて産卵を誘発したところ,3 年連続して 12 月に雌 1 尾当たり 8.7〜100 万粒の採卵に成功した。また,得られた仔魚の活力,成長および生残率も通常の 4 月下旬の産卵期の仔魚と比較して差はなかった。

日水誌,72(2), 186-192 (2006)

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リン制限下における Alexandrium catenella の増殖の動力学および麻痺性貝毒生産

松田篤志,西島敏隆,深見公雄,
足立真佐雄(高知大農)

 リン制限下での A. catenella の増殖動力学及び麻痺性貝毒生産を半連続培養試験で明らかにした。最大比増殖速度,最小細胞内リン含量(q0P)はそれぞれ 0.79 day−1,0.28 pmol/cell と算出された。単位細胞あたりの総毒量は,リン制限が厳しくなるにつれて高くなり,細胞内リン含量が q0P に近いときに 92.3 fmol/cell と最も高くなった。リン制限は細胞内の総毒量を上昇させる環境要因の一つとして重要であり,二枚貝に蓄積される毒量の増大に影響を及ぼしている可能性がある。

日水誌,72(2), 193-200 (2006)

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VPA と着底トロール調査による資源量から推定された東北海域におけるマダラの漁獲効率

上田祐司,成松庸二,服部 努,伊藤正木,
北川大二(水研セ東北水研),
富川なす美(宮城水研開セ),松石 隆(北大院水)

 東北海域におけるマダラ資源に VPA を適用して得られた資源量推定値をもとに,トロール調査に基づく面積密度法による資源量推定に必要な漁獲効率を推定した。1 歳と 2 歳の漁獲効率はそれぞれ 0.54, 0.12 と大きな差がみられた。1 歳魚については調査範囲が生息域を網羅していることから,漁獲効率はトロール網の前にいた個体の入網率を反映した値であると考えられる。2 歳魚以上では,着底トロール調査が困難な岩礁域等にも生息することから,漁獲効率は入網率に加え,網との遭遇率の影響も受けていることが示唆された。

日水誌,72(2), 201-209 (2006)

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鹿児島湾産キュウシュウヒゲ(ソコダラ科)の繁殖特性

大富 潤,坂田竜一(鹿大水)

 鹿児島湾の水深 115〜227 m の水域で採集したキュウシュウヒゲ Coelorinchus jordani の時系列標本を用いて,生殖腺指数および卵巣の観察により繁殖特性を調べた。卵巣内に吸水卵を有する個体を成熟個体とし,雌の成熟サイズを肛門前長 35 mm と推定した。生殖腺指数および成熟個体の出現率の季節変動より,本種の産卵期はほぼ周年にわたり,春と秋に弱いピークがあることがわかった。湾内では産卵は少なくとも水深 115 m 以深の広範囲で行われると推察されたが,成熟個体の出現率は 200 m 以浅で有意に高かった。

日水誌,72(2), 210-216 (2006)

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鹿児島湾産キュウシュウヒゲ(ソコダラ科)の個体群構造,肥満度および相対成長

大富 潤(鹿大水)

 鹿児島湾産キュウシュウヒゲ Coelorinchus jordani の性比,体サイズ組成,肥満度および相対成長を調べた。体サイズは,雄よりも雌のほうが有意に大きかった。本種は 200 m 以深の深場よりも 200 m 以浅の浅場のほうが大型の個体が多く,成長に伴って分布の中心が浅場に移ることが示唆された。また,深場よりも浅場で雌が相対的に多かった。肥満度には季節変化がみられ,雌雄による違いはみられなかった。肛門前長−全長関係は雌雄で異なったが,雌雄ともに頭胴部と尾部の比較長における二次性徴はみられなかった。

日水誌,72(2), 217-222 (2006)

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サケいずしの化学的,微生物学的性状に及ぼす熟成温度の影響

佐々木政則(釧路水試),
川合祐史,吉水 守(北大院水),
信濃晴雄(道工技セ)

 5, 10, 15 および 20℃ の 4 温度区を設定し,積算温度 280℃・日に達するまでサケいずしを熟成させた。熟成温度が高くなると,製品の歩留りと pH は低下し,総酸・VB-N・遊離アミノ酸・一般細菌数・乳酸菌数は増加傾向を示した。製品いずしの優勢微生物種は,乳酸菌では 4 温度区とも Leuconostoc mesenteroides,酵母では 5℃ 区で Saccharomyces cerevisiae であったが,10, 15 および 20℃ 区では酵母は検出されなかった。高温短時間熟成した製品の官能評価は低く,高品質のサケいずしを製造するためには低温で長時間熟成する必要があると考えられた。

日水誌,72(2), 223-230 (2006)

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サケいずしの化学的,微生物学的性状に及ぼすスターター微生物接種の影響

佐々木政則(釧路水試),
川合祐史,吉水 守(北大院水),
信濃晴雄(道工技セ)

 熟成いずしの優勢種として分離した酵母 Saccharomyces cerevisiae IZS-Sc1 株と乳酸菌 Leuconostoc mesenteroides subsp. cremoris IZS-Lmc1 株をいずしの漬込み時に接種し,5, 10, 15 および 20℃ で,積算温度 280℃・d まで熟成させた。スターター接種によって,いずし熟成期間の短縮傾向が観察され,5℃ 区では製品いずしの酵母と乳酸菌数の 93〜100% を接種菌が占め,官能的評価は高かった。しかしながら,10, 15 および20℃ 区の製品いずしではスターター非接種の場合と同様に酵母は検出されず,官能的には熟成過多となった。熟成温度別の製品いずしの化学的性状は,スターター非接種のものと類似していた。

日水誌,72(2), 231-238 (2006)

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消毒したシオミズツボワムシ複相単性生殖卵の短期冷蔵保存(短報)

小磯雅彦,手塚信宏(水研セ能登島),
桑田 博(水研セ本部),渡辺研一(水研セ古満目)

 消毒したシオミズツボワムシ複相単性生殖卵の短期冷蔵保存の可能性を検討した。グルタールアルデヒドを用いて消毒した卵の 5℃ での冷蔵過程における生菌数の推移,未ふ化卵率,ふ化率およびふ化後の増殖率を調べた。3 日間冷蔵保存した卵は,消毒直後と同程度の生菌数を維持し,7 割以上が大量培養の元種として利用可能であった。その卵からふ化したワムシの増殖率も通常の卵と遜色ないことがわかった。消毒卵が短期冷蔵保存できることで,その有効性や利用頻度が向上すると考えられる。

日水誌,72(2), 239-240 (2006)
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