日本水産学会誌掲載報文要旨

ヒラメ Paralichthys olivaceus 白化クローンの変態期を中心とした黒色素胞発現過程

中村藍子(福井県大生物資源),鹿野隆人(ウィンザー大),
水田 章(兵庫淡路県民局),青海忠久(福井県大生物資源)

 白化クローンヒラメと通常発生ヒラメを用い,変態期を中心にした白化に伴う黒色素胞の発現過程を調べた。有眼側の正常着色部位では大型の黒色素胞に加え,拡散した小型の黒色素胞が H-stage 以降に新たに出現し急増した。一方,有眼側の白化部位では,H-stage 以降でも仔魚期から持ち越された大型の黒色素胞密度はほとんど増加せず,小型の黒色素胞が出現しないか出現しても凝集状態であったことから,正常な着色には小型の黒色素胞の出現とそれらの拡散が必要であると考えられた。

日水誌,71(5), 729-735 (2005)

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標識放流試験から見たトラフグ親魚の伊勢湾口部産卵場への回帰

中島博司(三重科技セ水),新田 朗(日本エヌ・ユー・エス)

 トラフグ親魚の産卵場への回帰性を明らかにするため,1996〜1998 年の産卵期に伊勢湾口部産卵場で漁獲された親魚を用いた標識放流試験を行った。標識魚の再捕場所は全て伊勢湾・熊野灘・遠州灘海域内であった。'96 年および '98 年放流群は翌年の産卵期に同じ産卵場でそれぞれ 4 尾と 1 尾が再捕された。また,'97 年放流群も 1 年後の産卵期に産卵場に近接する海域で 1 尾再捕され,トラフグの伊勢湾口部産卵場への回帰が強く支持された。さらに,アーカイバルタグ装着トラフグは,その推定位置からおおよそ熊野灘・遠州灘海域内に分布したと考えられた。

日水誌,71(5), 736-745 (2005)

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大村湾産有害渦鞭毛藻 Heterocapsa circularisquama の二枚貝への影響と増殖特性

山砥稔文,坂口昌生,松田正彦,岩永俊介(長崎水試),岩滝光儀,松岡數充(長大海セ)

 大村湾産 Heterocapsa circularisquama 株 5,000 cells/mL に暴露した場合に,アコヤガイ稚貝は 2〜3 日,アサリは 4〜6 日で 100% の個体が斃死し,本株の二枚貝に対する毒性が確認された。本株は 12.5〜30°C,塩分 16〜36 の範囲で増殖し,比増殖速度は高水温・高塩分ほど高く,最大値は 30°C,塩分 32 の時に 0.91 day−1 であった。本株は弱光の 10 μmol/m2/s でも増殖し,比増殖速度は光強度の増加とともに高くなり,80 μmol/m2/s で飽和した。本株の比増殖速度の光強度半飽和定数は 24.0 μmol/m2/s,閾値は 15.5 μmol/m2/s であった。鱗片観察による分布調査の結果,本種は大村湾,伊万里湾および橘湾に出現することが確認された。

日水誌,71(5), 746-754 (2005)

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広島湾江田島・倉橋島海岸における発泡プラスチック破片の漂着状況

藤枝 繁,佐々木和也(鹿大水)

 カキ養殖が盛んな広島湾江田島・倉橋島において,海岸に漂着する発泡プラスチック破片とその主な発生源である発泡スチロール製フロートの港内における不適切な使用および海岸漂着後の放置の実態について調査した。34 地点から 245,656 個の漂着物が回収され,そのうち 98.6% が発泡プラスチック破片であった。同破片は 98.5% が 10.0 mm 未満の微小破片で,漂着密度は 44,521.3 個/m2 であった。フロートは 58 港で 6,760 個が防舷物として使用されており,一港あたりの平均使用個数は 140.7 個/港,海岸漂着密度は 1.1 個/km であり,いずれの値も江田島で高かった。

日水誌,71(5), 755-761 (2005)

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養殖マガキの酸素消費量および濾過水量の季節変化

赤繁 悟,平田 靖,高山恵介,空本季里恵(広島水試)

 養殖マガキの酸素消費量(OCR:mgO2/h/個体)と濾過水量(FR:L/h/個体)を止水条件下で季節的に測定し,マガキの大きさ(乾燥肉重量 Wd, g)に対するアロメトリー式 OCR(又は FR)=aWbd で表した。OCR の係数 a は水温 t の上昇で増大したが,係数 b は 0.75±0.10(平均±S.D.)で水温により変動せず,OCR=(0.072t−0.64)W0.75d であった。FR の係数 b は 0.96±0.24 で水温により変動せず,係数 a は産卵期を除いて水温上昇で増大し一次回帰式をあてはめた場合には FR=(0.70t−6.6)Wd と,また産卵期には FR4.9Wd となった。

日水誌,71(5), 762-767 (2005)

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マイクロサテライト DNA 分析によるアユ継代種苗の遺伝的変異性と継代数の関係

池田 実,高木秀蔵,谷口順彦(東北大院農)

 アユ継代種苗の遺伝的変化を検討するため,F4 から F31 のマイクロサテライト DNA の変異性を野生集団と比較した。その結果,種苗の変異性(A:平均アリル数および He:平均へテロ接合体率)は野生集団に比べて明らかに低かった。変異性と継代数は強い負の相関を示し,He が直線で近似され,A は指数曲線で近似された。このことから,継代数の増加に伴い He は直線的に減少し,A はさらに急激に減少することが示唆された。種苗間の継代数の差と FST 値の間には強い正の相関がみられ,変異性の低下によって分化の増大がもたらされていると考えられた。また種苗内ではホモ接合体過剰が特徴的にみられ,近親交配が生じていることも示された。

日水誌,71(5), 768-774 (2005)

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努力の有効度の変化を考慮した拡張 DeLury 法

山下紀生(東水大),長谷川雅俊(静岡水試)

 新たに始まった漁業では,漁場に関する漁業者の知識が乏しいために,漁期が進むにつれて CPUE が増加することがある。努力の有効度の漁期内変化を考慮した拡張 DeLury 法を開発し,その手法を静岡県下田市白浜地区におけるアワビ類の漁獲統計(1982〜97 年)に適用した。努力の有効度の増加パターンに複数の数理モデルを想定した。最尤法によりパラメータを推定し,AIC を用いてモデルの選択を行った。AIC が最小のモデルは,努力の有効度が直線に従い増加するモデルであった。さらに,モデルの修正についても議論した。

日水誌,71(5), 775-781 (2005)

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ヒラメ Paralichthys olivaceus 仔稚魚の真の両面有色型黒化の発現過程における無眼側皮膚の超微細構造

芳賀 穣(メリーランド大),屶網 慶,竹内俊郎(海洋大)

 真の両面有色の発現過程を明らかにするため,主に F〜G ステージ(全長 8.0±0.75 mm)で構成されるヒラメ仔魚を全トランスレチノイン酸(atRA)に 5 日間暴露して,真の両面有色型黒化を誘起後,約 4 日毎に皮膚を採取し,透過型電子顕微鏡で皮膚の微細構造を調べた。孵化後 30 日前後で atRA 区ではメラノファージが見られず膠原繊維層板下に幼体型黒色素胞が見られた。孵化後 40 日目以降,対照区では無眼側皮膚の膠原繊維層板下に虹色素胞のみが見られたが,atRA 区では黒色素胞,黄色素胞および虹色素胞が見られた。

日水誌,71(5), 782-790 (2005)

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Y/R を用いた紀伊水道東部海域シラス漁業の最適な漁業管理方策と禁漁効果の評価

安江尚孝,内海遼一(和歌山農水総技セ),森山彰久(東大海洋研)

 紀伊水道東部海域のシラス漁業について,最適な解禁日を決定する方法と,2004 年 3 月 26 日から 4 月 7 日まで行われた禁漁の効果を Y/R を用いて検討した。実際の 4 月 8 日に漁業を開始した場合,効果は漁獲重量で 1.60 倍と試算された。理想的な場合は 4 月 9 日に漁業を開始する場合であり,その効果は漁獲重量で 1.61 倍となって,実際の場合と理想的な場合はほぼ一致した。今後もこの漁業管理を続けていくことが有効と考えられた。

日水誌,71(5), 791-796 (2005)

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有明海におけるトラフグ Takifugu rubripes 当歳魚の漁業実態

松村靖治(長崎水試)

 トラフグ当歳魚の漁業実態を把握するため,全市場を対象とした漁獲統計資料の解析並びに標本船調査を行った。当歳魚は主に釣りと延縄によって有明海 4 県で漁獲され,1991〜1995 年および 1999〜2002 年の間に漁獲尾数:21〜88 千尾,漁獲重量:3〜20 トン,漁獲金額:8〜47 百万円と年により大きく変動した。漁場は 9 月に沿岸浅海域で形成され始め,魚体が成長しながら徐々に沖合へ移動南下し 12 月に終漁した。CPUE からみた資源水準は,他の産卵場である八代海および博多湾で再生産された当歳魚の漁獲量の変動傾向と一致した。

日水誌,71(5), 797-804 (2005)

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有明海におけるトラフグ Takifugu rubripes 人工種苗の当歳時の放流効果と最適放流方法

松村靖治(長崎水試)

 有明海において 1991〜1995 年と 1999〜2002 年に放流サイズおよび放流海域別に 35 群の耳石標識放流を行い,市場調査により放流効果を明らかにした。回収率は放流サイズが大きくなる程高まる傾向を示し(0.01〜22.3%),放流海域別にみると島原市地先より諫早湾・有明海湾奥域がより高かった。利益率は諫早湾・有明海湾奥放流における全長 75 mm 放流が最も高かった。放流の効果は有明海 4 県(福岡県,佐賀県,熊本県,長崎県)で認められ,受益割合は放流場所で大きく異なった。

日水誌,71(5), 805-814 (2005)

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テトロドトキシン添加飼料投与による養殖トラフグ Takifugu rubripes の毒化

本田俊一(長大院生産),荒川 修,高谷智裕,橘 勝康(長大水),八木基明(長崎市水産セ),谷川昭夫(長崎加工団地協),野口玉雄(日冷検)

 無毒養殖トラフグに種々のテトロドトキシン(TTX)添加飼料を与える 60 日間の飼育試験を計 5 回実施した。ナシフグ残滓から抽出した粗毒を投与された試験魚は,低用量では皮や肝臓に微量の毒を,高用量では皮と内臓に少量,肝臓と卵巣に多量の毒を蓄積した。毒蓄積率は,水槽飼育の当歳魚で 2 割未満,網生け簀飼育の 2 年魚では 3 割程度で,一旦蓄積した毒は投与を止めても長期間各組織に保持されていた。精製 TTX の投与では,毒の蓄積は粗毒と同程度であったが,ナシフグ残滓を直接投与した場合は,総じて高濃度の毒蓄積がみられた。

日水誌,71(5), 815-820 (2005)

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夏秋季に瀬戸内海に分布するカタクチイワシの産卵間隔および産卵数に及ぼす水温,肥満度の影響(短報)

銭谷 弘,河野悌昌,塚本洋一(水研セ瀬戸内水研)

 瀬戸内海安芸灘において 2000 年と 2002 年にカタクチイワシの主産卵期である 6〜7, 10 月に採集した親魚をもとに,夏秋季に瀬戸内海に分布するカタクチイワシの産卵間隔,体重当たり 1 回当たり産卵数(相対産卵数)に及ぼす水温,肥満度の影響を検討した。排卵痕の有無により求めた産卵間隔は 1.0〜2.7 日で,水温の上昇,肥満度の増加にともない短くなる傾向があった。相対産卵数の平均値は 58.5〜302.0 粒 g−1 で,水温の上昇,肥満度の減少にともない減少する傾向があった。

日水誌,71(5), 821-823 (2005)

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