日本水産学会誌掲載報文要旨

胚盤移植による生殖系列キメラ

長井輝美,大谷 哲,斎藤大樹(北大院水),
前川真吾,井上邦夫(神戸大),
荒井克俊(北大院水),山羽悦郎(北大 FSC)

 ゼブラフィッシュを用い,胚盤移植を試み,同法の発生への影響および生殖系列キメラの作出への有効性を検討した。胞胚期の胚盤全体,胚盤上部,または胚盤下部を他胚の動物極へ移植した。全ての移植群で,正常な頭部・背方構造を持つ個体が得られたが,胚盤下部を移植した胚では頭部構造を欠く個体の出現頻度が高かった。胚盤全体または胚盤下部を移植した胚から発生した多くの個体(10/11)の生殖隆起にドナー胚盤に由来する PGCs が認められ,本種での生殖系列キメラ個体の作出に,胚盤移植法が有効であることが明らかとなった。

日水誌,71(1), 1-9 (2005)

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RAPD 分析による琵琶湖フナ属魚類の種・亜種判別およびヨシ帯に出現するフナ仔稚魚の季節変化

鈴木誉士,永野 元,小林 徹,上野紘一(近大農)

 琵琶湖産フナ仔稚魚の種および亜種判別に有効な RAPD マーカーを検討し,ヨシ帯に出現するフナ仔稚魚の種組成,季節変化およびヨシ帯内の分布を調査した。RAPD マーカーによってフナ仔稚魚を種・亜種レベルで明確に判別することができた。計 9 回の調査(4 月 ~ 7 月)で合計 973 個体の仔稚魚が採集された。1 回目の調査では 868 個体の主に上屈前期仔魚が採集され,ゲンゴロウブナ(G)およびギンブナ(H)はヨシ帯一面に,ニゴロブナ(N)は中央部から岸近くに出現した。それ以降の調査では,個体数は激減し,上屈期および上屈後期仔魚が岸近くに分布しており,その多くが N であった。

日水誌,71(1), 10-15 (2005)

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逸失した状態におけるベニズワイガニ籠のサイズ選択性

渡部俊広(水研セ水工研)

 隠岐諸島西方の海域で,商業ベニズワイガニ籠と円形脱出口をつけた商業籠による長期浸漬(約 6 ヶ月間)漁獲試験を行い,逸失時の商業籠の漁獲サイズ選択性を推定した.選択性曲線は,多項分布の尤度を用いた SELECT モデルによって求めた.商業籠の 50% 選択甲幅は 100.8 mm,選択性スパンは 3.4 mm であった.甲幅 99 mm 以下の個体は,商業籠から脱出できるため,雌についてはゴーストフィッシングが生じる可能性はない.しかし,籠に入った甲幅 103 mm 以上の雄については,籠内に保持されたまま死亡する可能性がある.

日水誌,71(1), 16-23 (2005)

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船曳網コッドエンドに使用されるモジ網のカタクチイワシシラスに対する網目選択性の推定

斎浦耕二(徳島県水産課),東海 正(海洋大)

 徳島県でカタクチイワシシラスを漁獲する船曳網のコッドエンドに使用される 260 経モジ網は細かく目合拡大が必要である。260 と 240, 220 経モジ網より作成した口径 1.3 m,全長 5.7 m の円錐形ネットにカバーネットを装着し,網目選択性を求めた。目詰まりのない状態で 240 と 220 経の l50 値は,全長 10.5 ~ 12.5 と 11.0 ~ 14.3 mm だが,漁獲が多いと目詰まりして l50 値は 10 mm 以下となる。船曳網のコッドエンド末端部は口径 1.3 m,全長 16 m の目詰まりし難い円柱形である。そのため,実際の操業での目詰まり状況を把握し,適正な目合を決定する必要がある。

日水誌,71(1), 24-32 (2005)

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まぐろ延縄の釣針沈降特性に及ぼす枝縄構成の影響

胡 夫祥,志賀未知瑠,横田耕介,塩出大輔,
東海 正,酒井久治,有元貴文(海洋大)

 海鳥類の偶発的捕獲の回避を目的として,まぐろ延縄漁船現用の枝縄 30 数種類を調査し,その内の 10 種類と,釣元素材,釣元先端へ付加する錘重量を変えた枝縄の投縄後の釣針沈降特性を調べた。現用の枝縄における深度 10 m までの釣針平均沈降速度は 0.16 m/s ~ 0.23 m/s であり,鳥嚇しラインの有効範囲である船尾から 150 m 以内で釣針が深度 10 m 以上に沈むものはなかった。一方,釣針の沈降速度は釣元にフロロカーボンを使用した場合では約 1.6 倍に,釣元先端に 45 gw の錘を付加した場合では約 2 倍に改善された。

日水誌,71(1), 33-38 (2005)

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東シナ海産アカアマダイに対する底延縄と立延縄の漁獲物体長組成および漁場利用について

山下秀幸(水研セ)

 東シナ海でアマダイ類を対象とする底延縄と立延縄について,水揚物の銘柄組成を尤度比検定で比較した。また,聞取りにより操業漁場を調査した。さらに,両漁法を用いた操業実験による漁獲物体長組成を,尤度比検定により漁法別と操業水域別とで比較した。その結果,水揚物には漁法による差がみられたが,それは漁法による漁獲特性の違いによるものではなく,両者の漁場が異なっていることに起因することが示唆された。今後,水域別の漁獲物体長組成の特徴をより明確にすることにより,本漁業の資源管理の推進に資することが期待される。

日水誌,71(1), 39-43 (2005)

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東シナ海の着底トロール調査における漁獲物の昼夜差について

水谷高教,原田泰志(三重大生物資源),
山下秀幸(水研セ開発),
山本圭介,依田真里,檜山義明(水研セ西海水研)

 着底トロール調査船曳網による漁獲物の昼夜差を東シナ海の小海域内の 8 か所での昼夜それぞれ 1 回,計 16 回の曳網結果から検討した。漁獲量,個体数は,ケンサキイカを除くイカ類等では夜に多く,キダイ,ケンサキイカ等では昼に多かった。体長はマアジ,ヒラツメガニ♀で夜に大きく,サラサハギ,ヒラツメガニ♂では昼に大きかったが,いずれの種でも昼夜の差は大きくなかった。平均出現種数は夜に多かった。また,昼夜半々の回数曳網することにより,同一の曳網回数でより多くの種をとらえられる可能性が示された。

日水誌,71(1), 44-53 (2005)

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コタマガイに対する桁網袋網の網目選択性

金 仁 台鉉,朴 倉斗(韓国国立水産科学院),東海 正(海洋大)

 コタマガイに対する桁漁具袋網の網目選択性を求めるために,目合 24, 30, 41, 47 mm の袋網に目合 13 mm のカバーネットを装着した操業実験を行った。目合 mに対する殻長 l の比 R(=l/m) に対する網目選択性曲線のマスターカーブは r(R)=1/[1+exp (−8.63R+5.13)] で求められた。また,現在,韓国の桁網漁船の船上で用いられている棒間隔 12.5 mm のフルイ装置の 50% 選択殻幅は棒間隔とほぼ等しい 12.7 mm であった。この船上篩装置で商品サイズ殻長 35 mm 以上を選別するには棒間隔の拡大が必要である。この出荷サイズ未満のコタマガイを曳網中に網外に出す方法を,袋網の目合拡大とその他の方法を含めて検討した。

日水誌,71(1), 54-59 (2005)

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刺網浸漬時間帯によるコクチバスの選択漁獲

本多直人,藤田 薫(水研セ水工研)

 刺網によりコクチバスを効率的に漁獲して在来魚の混獲を軽減するために,コクチバスと在来魚が刺網に羅網しやすい時間帯を青木湖で調べた。魚の羅網時に生じる網の動きを時系列で記録できる振動検知器を底刺網に取り付けて,個体毎に羅網時刻を測定した。コクチバスの全漁獲尾数の 86% が日出から日没に羅網し,青木湖に生息する在来魚のフナは 92%,コイは 91% が日没から日出に羅網した。日出から日没に刺網を設置することにより,コクチバスを漁獲し,フナやコイの混獲を減らすことが可能である。

日水誌,71(1), 60-67 (2005)

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かつお節の品質に及ぼす漁獲法の影響

吉岡立仁,荻野目 望((株)にんべん),
内田直行(日大生物資源)

 一本釣カツオおよびまき網カツオを原料魚として製造したかつお節の品質を,製造中の粉末の発生量,製品の嵩,腰の強さ,およびイノシン酸含量を指標として比較した。また,筋組織を組織化学的に分析した。その結果,一本釣カツオを原料魚とした節は,いずれの品質指標においても有意に優れており,エオシン陽性成分の筋細胞内残留率が有意に高かった。この細胞内残留率と品質指標との間に関連性が認められ,かつお節製品組織の筋細胞内に残留するエオシン陽性成分の存在状態は,かつお節の品質を決定する大きな因子であることが示唆された。

日水誌,71(1), 68-73 (2005)

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ドコサヘキサエン酸富化スピルリナ Spilurina platensis の調製と脂質特性

雪野繼代(鹿大院連農),林 雅弘(宮崎大農),
井上良計(シクロケム),今村純子(備前化成),
長野直樹,村田 寿(宮崎大農)

 機能性食品として広く利用されているスピルリナについて,高付加価値化を目的としてドコサヘキサエン酸(DHA)の富化を検討した。スピルリナ培養液に各種 DHA 源を添加したところ,魚油や DHA エチルエステルは細胞内に取り込まれなかったが,遊離脂肪酸型 DHA は細胞内に取り込まれ,総脂肪酸中の DHA 含有率は 70.2% に達した。細胞内の DHA は主としてモノグリセリド,ジグリセリドを中心とする中性脂質に取り込まれていたが,少量の遊離脂肪酸が残存した。DHA の一部はグリセロ糖脂質やリン脂質中にも取り込まれていた。

日水誌,71(1), 74-79 (2005)

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クロマグロ仔魚の成長に伴う比重変化(短報)

坂本 亘,岡本杏子,上土生起典,
家戸敬太郎,村田 修(近大水研)

 クロマグロ仔魚は孵化直後から開鰾直後までの初期減耗が著しい。粘性と比重の異なる海水を上下 2 層成層状態にし,麻酔したクロマグロ仔魚を沈降させて,仔魚の 2 層内沈降速度比をもとに孵化直後から開鰾後の 9 日まで比重を測定した。産出した直後は浮上していた卵は,孵化直後 0 日齢では平均比重は 1.028 となり,9 日目には 1.032 となった。成長に伴い比重は増加していくことが示された。

日水誌,71(1), 80-82 (2005)

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ホタテ貝殻によるエゾアワビ当歳貝量評価(短報)

干川 裕(道中央水試),高橋和寛(道中央水試),
津田藤典(道中央水試),町口裕二(水産庁)

 エゾバフンウニの放流時にシェルターとして使われているホタテガイの貝殻製リングを用いて,エゾアワビ当歳貝の生息量評価の可能性を検討した。貝殻リング当り平均で 1.79 個体(2002 年)および 1.58 個体(2003 年)の当歳貝が付着しており,枠取り採集による稚貝数が多い場所では貝殻リング上の付着稚貝数も多かった。枠取り採集に比べ,貝殻リングでは平均付着数が増加するに伴い変動係数が低下する傾向が認められ,少ない誤差で生息量を評価できる可能性が示唆された。

日水誌,71(1), 83-85 (2005)

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