日本水産学会誌掲載報文要旨

全周ソナーによる表層魚群量計測における海面・海底残響の影響軽減

湯  勇,古澤昌彦(海洋大)

 全周ソナーを用いた表層付近の魚群量などの計測では,海面・海底残響の影響を受け,計測誤差を生じ易い。そこで,これらの残響の影響を軽減する方法を開発する。まず,ソナーにおける海面・海底残響のソナー方程式を導き,海面・海底方向の指向特性と等価指向角の特性を解明した上で,千葉県館山湾で残響の表面散乱強度を計測した。次に,魚の計測における信号対残響比および信号対雑音比の特性を明確にした。これらの結果から,適切なビーム俯角と距離範囲でエコー積分を行えば,表層魚群の調査で残響の影響を軽減できることを示した。

日水誌,70(6), 853-864 (2004)

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千葉県館山湾におけるアオリイカ狩刺網の漁獲特性

秋山清二,貝原智志,有元貴文(海洋大)

 千葉県館山湾におけるアオリイカ狩刺網の操業方法と漁獲物を調査した。操業には内網目合 85 mm,外網目合 360 mm の三枚網が使用された。漁場は水深 4〜12 m のアマモ場であった。操業過程は投網,駆集,揚網の 3 過程に分けられた。2002 年と 2003 年の 363 回の操業で,アオリイカ 1491 個体,その他 996 個体が漁獲された。個体数比の投棄率は 17% であった。アオリイカの平均外套背長は 28.0±5.8 cm であった。外套背長 16 cm 以下の個体は漁獲されなかった。アオリイカの 95% は袋状になった内網で漁獲された。

日水誌,70(6), 865-871 (2004)

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ノリの色落ち原因藻 Coscinodiscus wailesii の増殖に及ぼす窒素,リンおよび珪素の影響

西川哲也,堀  豊(兵庫水技セ)

 室内培養実験から,20°C および 9°C 下における Coscinodiscus wailesii の窒素,リンおよび珪素濃度と増殖速度の関係を Monod の式から求めるとともに,最大細胞収量から各栄養塩の最小細胞内含量を推算した。さらに,C. wailesii の形態別窒素,リン源の利用特性を明らかにした。本種は有機態リンを増殖に有効利用できないが,一細胞当たりの栄養塩消費量が大きく,海域の栄養塩を大量に消費することが示唆された。また本種のブルーム終息には,現場海域のリン酸態リンまたは珪酸態珪素濃度の低下が大きく関与していると考えられた。

日水誌,70(6), 872-878 (2004)

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オペレーティングモデルを用いた ABC 算定ルールの検討

平松一彦(水研セ遠洋水研)

 ABC 算定ルール 2-2 を,オペレーティングモデルを用いたシミュレーションによって検討した。オペレーティングモデルはプロダクションモデルを基礎とし,資源の確率的な変動と資源量指数の観測誤差を仮定した。結果は算定ルール 2-2 は得られる漁獲量も少なく,管理に失敗する可能性も高いことを示している。資源量指数のトレンドや水準を用いた管理も検討したが,ルール 2-2 より安全で漁獲量も多かった。対象資源に対応したオペレーティングモデルを作成し,シミュレーションにより不確実性に頑健な管理方法を開発する必要がある。

日水誌,70(6), 879-883 (2004)

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鹿児島湾におけるヨツトゲシャコの産卵期および食性

大富 潤(鹿大水),横村泰成,浜野龍夫(水大校)

 鹿児島湾の小型底曳網漁船に同乗して採集したヨツトゲシャコ Squilloides leptosquilla を用いて,産卵期および食性を調べた。生殖腺指数の解析結果より,本種の雌の成熟サイズは頭胸甲長 10 mm で,産卵期は 5〜9 月,産卵盛期は 7〜9 月と推定できた。胃内容物の観察により,本種は肉食性捕食者で主にエビ類を捕食することがわかった。特に,鹿児島湾における水産上の有用種であるナミクダヒゲエビ Solenocera melantho を捕食している個体の出現頻度が高かった。

日水誌,70(6), 884-888 (2004)

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一次元養殖場分布モデルによる伝染病リスク評価

横田賢史,渡邊精一(海洋大)

 一次元の養殖場分布モデルを用いてシミュレーションにより養殖場における伝染病の伝播を再現しリスク評価を行った。養殖場間の流通を(1)隣接養殖場間の相互流通,(2)隣接養殖場間の一方向的な流通,(3)ランダムな流通の 3 つのタイプに分け,防疫策として 3 つの流通停止の方法を設定した。数値結果から流通(3)を避ける事,および病死魚発見後は早期に流通を停止する事が有効であることが示された。流通の早期停止が不可能な場合は全養殖場間の流通停止,未感染の養殖場間流通を先に停止することで伝播を抑制できることが明らかになった。

日水誌,70(6), 889-895 (2004)

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秋元湖におけるコクチバスの生殖周期

山家秀信,棟方有宗,会田勝美,伏谷伸宏(東大院農),北村章二(水研セ中央水研日光)

 福島県秋元湖に生息するコクチバスの生殖腺周期を調査した。雄では 4〜7 月と 9〜12 月において精子又は精細胞がみられたが,GSI の低い 8 月には精母細胞が多く観察された。雌では 4〜6 月と 10〜12 月において周辺仁期と卵黄球期の卵母細胞がみられ,GSI の低い 7〜9 月には卵黄球期の卵母細胞の割合が減少した。testosterone と 17,20β-dihydroxy-4-pregnen-3-one の血中量は,雌雄共に 5 月にピークを示した。本種は春から初夏にかけてが主な繁殖期であるが,秋以降も一定の成熟度を保つことがわかった。

日水誌,70(6), 896-901 (2004)

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長野県浦野川における魚類の種組成と食物関係

片野 修,中村智幸,山本祥一郎,阿部信一郎(水研セ中央水研)

 浦野川において魚類の種組成,個体密度,成長率および食物関係について調査した。合計で 14 種,7,052 個体の魚類が採集された。オイカワがもっとも優占し 40% 以上の個体数を占め,ついでドジョウ,ウグイ,カマツカが多かった。これらの魚種は 6 月から 8 月にかけて正の成長を示した。大半の魚はユスリカなどの水生昆虫を捕食していたが,オイカワだけは底生藻類を主食としていた。浦野川の調査区においてはナマズなどの魚食性魚類がほとんど生息しておらず,その生態的地位が空白となっている。したがって,オオクチバスなどの外来魚食魚の侵入が危惧される。

日水誌,70(6), 902-909 (2004)

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鹿児島湾におけるヒラメ人工種苗の放流効果

厚地 伸(鹿児島水試),増田育司(鹿大水)

 鹿児島湾におけるヒラメ人工種苗の放流効果を検討するために,鹿児島市中央卸売市場魚類市場において放流魚の混獲率を調査した結果,1989 年から 2002 年の間で 18.9〜49.2% であった。魚体測定および年齢査定結果から体重階級別の雌雄割合および age-weight-key を作成し,市場における体重組成を年齢分解した。結果,放流群の放流後 7 年間の累積回収率は 1.51〜3.52% であり,水揚げ回収金額を種苗放流経費で割った投資効率は 0.97〜1.17 と推定された。コホート解析の結果,近年は鹿児島湾におけるヒラメの産卵親魚量および加入量の減少が顕著であった。

日水誌,70(6), 910-921 (2004)

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数種有機酸塩が示したスルメイカ肉の自己消化抑制作用による加熱ゲル形成能の向上

桑原浩一,大迫一史(長崎水試),今野久仁彦(北大院水)

 クエン酸 Na,酒石酸 Na およびグルコン酸 Na が,イカ肉の加熱ゲル形成能に及ぼす影響を検討した。これらの添加により,ミオシンの分解が抑制され,高い破断強度が得られた。また,3 種の中ではクエン酸 Na が最も高い効果を示した。金属プロテアーゼが作用していると考えられる 5°C において,3 種の有機酸 Na 塩は,EDTA と同等の抑制作用を示した。クエン酸 Na は,35°C に保持した場合においても,EDTA と PMSF を加えセリンプロテアーゼも抑制した場合と,同程度の抑制作用が認められた。それゆえ,各種プロテアーゼを含むイカ肉加熱ゲルの物性を向上するには,クエン酸 Na が非常に効果的な添加物であると判断した。

日水誌,70(6), 922-927 (2004)

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サケいずしの熟成過程における化学成分と微生物相の変化

佐々木政則(釧路水試),川合祐史,吉水 守(北大院水),信濃晴雄(道工技セ)

 シロサケ肉を主原料としていずしを製造し,原料の前処理過程(水晒し,仮酢漬け)と樽漬込み後,低温(5°C 前後)熟成過程における化学成分と微生物相を観察した。いずしは漬込み 35 日以降に食用可能となり,44 日後にいずし特有の風味が生成した。いずしの有機酸は酢酸主体であり,熟成中の pH は 5 以下を維持した。熟成中に生菌数の著しい増加はなかったが,漬込み 14 日以降に一般細菌では Bacillus 属が優勢となり,35 日以降,乳酸菌では Leuconostoc mesenteroides subsp. cremoris が,酵母では Debaryomyces hansenii が優勢種となった。

日水誌,70(6), 928-937 (2004)

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