日本水産学会誌掲載報文要旨

赤潮プランクトン 3 種の有機態リン利用特性とアルカリフォスファターゼ産生能

山口晴生(愛媛大連合農),
西島敏隆,西谷博和,深見公雄,足立真佐雄(高知大農)

 赤潮原因種 Karenia mikimotoi および Skeletonema costatum はリン酸モノエステル利用能とアルカリフォスファターゼ(AP)産生能を有し,Heterosigma akashiwo はこれらの能力を欠くことが明らかになった。前 2 種の AP 活性はそれぞれ最大 115 および 0.273 fmol/cell/min であり,いずれも活性は極めて高いことがわかった。これらのことから,海水中の有機態リンが赤潮の発生に対して有意に寄与していることが示唆された。

日水誌,70(2), 123-130 (2004)

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日本海能登半島近海産ホッコクアカエビの群構造と性転換

貞方 勉(石川水総セ)

 本種の理論的な最適性転換年齢は,5 歳位と求められた。一方,実際の性転換年齢は,4 歳から 6 歳まで幅が認められた。しかも,年級群別にみた性転換の開始年齢は,4 歳の場合と 5 歳の場合があり,僅かに年変化が認められた。ここで,性転換サイズは,交尾・産卵海域における平均頭胸甲長が小さい年ほど,小さい傾向にあった。すなわち,本種の性転換サイズは,漁業あるいは資源の加入量の影響を受けた群構造に対応して変化する可能性が高い。その際,性転換サイズの小型化は,性転換年齢の低下をもたらすと推察される。

日水誌,70(2), 131-137 (2004)

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耳石微細構造からみた三浦半島周辺海域におけるメバルの初期生活史

水沢政彦,青木一郎,由上龍嗣(東大院農),
歌川憲一(東大総研博),三谷 勇(神奈川水総研)

 耳石にみられる日周輪と着底マークを用いて佐島と金田湾に生息するメバル稚魚の初期生活史を調べ比較した。主産出時期は佐島では 2 月,金田湾では 1 月であった。浮遊期間は,佐島で 28〜68 日,金田湾で 51〜109 日と推定され,浮遊期間は金田湾で長かった。底生生活に移行する推定体長は,佐島で 9.1〜19.5 mm,金田湾で 12.0〜26.1 mm であり,後者で大きかった。浮遊期および底生期の成長速度は佐島の方が有意に高かった。浮遊期の成長速度と浮遊期間の間には地点内でも地点間でも負の相関関係が認められた。

日水誌,70(2), 138-144 (2004)

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マツカワ Verasper moseri における三倍体および雌性発生二倍体の誘起

森 立成,齊藤節雄(道中央水試),
岸岡稚青,荒井克俊(北大院水)

 マツカワ Verasper moseri の育種基盤の確立を目的に,紫外線による精子の不活化および染色体倍数化のための好適染色体操作条件を検討した。マツカワ精子は,紫外線照射強度 10 mJ/cm2 以上で不活化された。三倍体誘起の最適低温処理条件は−1.5°C,受精後 9 分,持続時間 90 分間であった。第二極体放出阻止型雌性発生二倍体では低温処理で−1.5°C,受精後 3〜9 分,60〜90 分間,圧力処理で 650 Kg/cm2,受精後 7 分,持続時間 6 分間であった。同様に,圧力処理による第一卵割阻止型雌性発生二倍体誘起では,受精後 150〜240 分において孵化仔魚が得られた。

日水誌,70(2), 145-151 (2004)

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飼育照度の異なる人工マダイ稚魚の放流直後の行動

山田徹生,加治俊二,渡辺 税,長谷川恵美子,
福永辰廣(水研セ伯方島)

 中間育成時の水面照度について,低照度で育成された実験群と高照度で育成された対照群の人工種苗マダイ 2 群を天然海域に同時に放流し,放流後の行動と個体数変化を調べた。マダイの行動型は,群がり型と単独型に分けられた。単独型個体において,実験群は対照群に比して個体数および分布の広がりにおいて常に優勢であった。この 2 育成群の差は,放流マダイ稚魚の行動が群がり型から単独型に変化する過程で,縄張りを獲得できた個体とそうでない個体の個体数の差として,放流後 4〜5 日の期間に表れたものと考えられた。

日水誌,70(2), 152-158 (2004)

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大阪湾における底質重金属濃度と底質環境との関係

長岡千津子,山本義和,江口さやか(神戸女学院大),
宮崎信之(東大海洋研)

 2000 年 4 月に大阪湾全域において表層泥を採取し,重金属濃度(Hg, Cd, Cu, Zn, Pb, Ni, Mn, Cr, Fe),および,粒度組成(泥・砂・礫),強熱減量,COD,硫化物について分析を行った。Mn 以外の重金属元素は湾奥部や湾東部において濃度が高く,海水の交換が良い明石海峡,紀淡海峡付近で低い傾向を示した。底質重金属(Mn を除く)濃度と粒度組成,強熱減量,硫化物には強い相関性が認められたことから,底泥の重金属濃度は重金属負荷量以外に,粒度や有機物によっても大きく影響をうけることがわかった。

日水誌,70(2), 159-167 (2004)

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飢餓中のサクラマス当歳魚の肝臓におけるトリグリセリドおよびグリコーゲン含量の変動

三坂尚行,水野伸也,宮腰靖之,竹内勝巳,
鷹見達也,笠原 昇(道孵化場)

 河川生活期のサクラマス幼魚の飢餓の指標を検索するため,春季の天然及び孵化場産並びに冬季の天然の当歳魚を用い,それぞれ給餌群と絶食群に分け,肝臓中のトリグリセリド(TG)およびグリコーゲン(GC)含量の変化を分析した。季節や魚の違いに関わらず,TG 含量は緩やかに減少した。絶食群の TG 含量の値が給餌群の値よりも有意に低くなるとき,死亡する魚が出現する傾向にあった。そのため TG 含量は,生死に関わる飢餓の指標となる可能性が考えられた。一方 GC 含量は季節により動向が異なり,飢餓の指標とするにはそれを考慮すべきと考えられた。

日水誌,70(2), 168-174 (2004)

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海洋乱流がキハダマグロ仔魚の生残に与える影響

木村伸吾(東大海洋研),中田英昭(長大水),
Daniel Margulies,Jenny M. Suter,
Sharon L. Hunt(全米熱帯マグロ委員会)

 キハダマグロ仔魚の生残に対する乱流の影響を調べるため,水槽実験を行った。乱流強度は,仔魚を入れた水槽でエアーストーンにより生じさせた気泡の量を変えることによって設定した。その結果,仔魚の生残が良くなる最適な乱流強度が,キハダマグロ仔魚に存在することが分かった。この乱流強度は乱流エネルギー散逸率に換算して 1〜2×10−8 m−2 s−3 程度であり,このことは赤道域に位置するキハダマグロ産卵場の表層混合層内が,仔魚の生残に適した環境であることを示している。

日水誌,70(2), 175-178 (2004)

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奄美大島の河川におけるリュウキュウアユ遡上個体の出現状況

岸野 底(鹿大連農),四宮明彦(鹿大水)

 リュウキュウアユ遡上個体の河川での出現状況を明らかにするため,1994 年春季に奄美大島の川内川と役勝川で流程ごとの定点で調査した。中流域では小型個体(平均標準体長:34 mm)が出現し,平均遡上速度は 220 m/日と遅かった。中流域での体長,日齢は,瀬の数に左右され,瀬の流速が遡上に影響すると考えられた。中流域から上流域への移行域では大型個体(73 mm)が出現したが,遡上速度は 125-128 m/日とさらに遅かった。肥満度,成長速度は中流域の個体と比較し著しく高いため,断続的に遡上したと考えられた。

日水誌,70(2), 179-186 (2004)

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イカ乾製品の褐変に及ぼすリボースの影響

大村裕治,岡崎恵美子,山下由美子(水研セ中央水研),
山澤正勝(日水研),渡部終五(東大院農)

 冷凍スルメイカを 5°C で 12 時間解凍後,5〜15°C で 6 時間保存し,80°C, 20 分間煮熟して凍結乾燥後,粉末化したイカ乾製品褐変モデルを 35°C で 30 日間貯蔵して,褐変による色調変化とリボースおよびグルコース含量の変化を調べた。リボースは急速に減少し,色差計で測定した褐変指標 b*値も急速に上昇し,b*値とリボース含量との間には高い相関が認められた。一方,グルコースも漸減したが,b*値との相関は認められなかった。以上の結果より,リボースがイカ乾製品の褐変に深く関与していることが確認された。

日水誌,70(2), 187-193 (2004)

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スケトウダラすり身加熱ゲルの戻りに及ぼす豚プラズマ成分の影響

谷本昌太,山下民治(広島食工技セ),
関 伸夫(北大院水)

 豚プラズマ(PP)とその成分のスケトウダラすり身加熱ゲルの戻りに及ぼす影響を調べた。PP は,0.2% 以上の添加で戻りを抑制し,またミオシン重鎖(MHC)の分解を抑制した。5 分画した PP 成分の中で 2 画分が戻りおよび MHC の分解を抑制した。この画分を混合して加えた場合は,PP の場合と同様に戻りと MHC の分解を抑制した。以上の結果から,PP の戻り抑制効果は,主にプロテアーゼインヒビターを含む 2 画分の成分による MHC の分解抑制であることが示唆された。

日水誌,70(2), 194-199 (2004)

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海洋細菌に存在するホスファチジルグリセロールの立体異性体(短報)

藤島裕典,蒲野淑子,田岡裕佳子,
澤辺智雄,板橋 豊(北大院水)

 海洋細菌の細胞膜を構成するリン脂質の主要成分であるホスファチジルグリセロール(PG)の立体構造をキラル高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて分析した。その結果,30 株中 16 株から,従来海洋細菌には見いだされていない 1,2-ジアシル-sn-グリセロ-3-ホスホ-3′-sn-グリセロール( R, R 配置)異性体が,全 PG 中 0.4〜6.5% の比率で検出された。

日水誌,70(2), 200-202 (2004)

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