日本水産学会誌掲載報文要旨

養殖ホタテガイの成長に及ぼす流れの影響

櫻井 泉(道中央水試),
下野 学,今野繁基(渡島東部水技指),
水野勝彦,成田伝彦(留萌南部水技指)

 垂下養殖したホタテガイの成長に及ぼす流向・流速の影響を北海道鹿部町沖と増毛町沖で調べた。鹿部では前縁を北北西に向けて垂下した貝の成長が最も大きく,後縁を北北西に向けて垂下した貝の成長が最も小さい値を示した。増毛では前縁を南西と北西に向けて垂下した貝の成長が最も大きい値を示した。一方,鹿部では南東〜南流,増毛では北東〜東南東流が卓越し,流速は両海域とも概ね 10 cm/s 以下で占められた。以上の結果から,特定方向の卓越流が存在すれば,垂下の向きによって養殖貝の成長に差が生ずることが示唆された。
日水誌,70(1), 1-7 (2004)

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異なる飼育水温がホシガレイ仔魚の発育と変態に関連した形態異常の出現に及ぼす影響

有瀧真人,太田健吾(水研セ宮古),
堀田又治,田川正朋,田中 克(京大院農)

 水温がホシガレイ仔魚の発育と変態に関連した形態異常の出現に及ぼす影響を検討するため,9°C〜21°C の 5 段階の水温で飼育実験を行った。変態完了直後の稚魚の形態を眼位と左右の体色から正常,白化,両面有色魚の 3 タイプに区分した。正常魚は 18°C 区,白化魚は 12°C 区,両面有色魚は 21°C 区において最も高い出現率を示した。仔魚期における変態後の左右の形質が水温によって大きな影響を受けることから,変態期の形態的左右分化は発育・成長や変態のタイミングと密接に関わる可能性が高いと判断された。
日水誌,70(1), 8-15 (2004)

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東シナ海産アカアマダイの水揚実態と Y/R 解析

山下秀幸(JAMARC)

 1996 年 4 月から 1999 年 3 月までの長崎魚市場の資料より,アカアマダイの水揚実態について分析した。日本の延縄漁船による水揚量の減少は漁船隻数の減少と資源の悪化による。中国船は 30 cm 以下の小型魚を中心に水揚げしており,長崎市場のアカアマダイ取扱量の大半を占めた。また,全長 30 cm 以下の小型魚は延縄船と中国船のいずれでも価格が低い。加入当たり漁獲金額(YP/R)解析から,これら小型魚を保護する方策をとることによって,水揚金額の増加が期待されることが明らかとなった。
日水誌,70(1), 16-21 (2004)

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サンゴ礁域に放流したスジアラ人工種苗の滞留,摂餌および被食に及ぼす囲い網による環境馴致効果

浜崎活幸,竹内宏行,塩澤 聡,
照屋和久(水研セ八重山)

 スジアラ種苗の放流実験を 2 回実施した。1 回目は平均全長 137 mm の種苗 2000 尾を,2 回目は平均全長 79 mm の種苗 900 尾をサンゴ礁域に設置した囲い網(400 m2)に収容して 7 日間環境に馴致し,同数の直接放流群(平均全長,1 回目:142 mm,2 回目:86 mm)と同時に放流した。第 2 回放流では,台風によって調査を十分に実施できなかったが,第 1 回放流調査では,放流種苗の摂餌個体率,肥満度および内臓重量指数の推移から,馴致放流群の方が環境への順応が速いと判断され,また被食頻度は低い傾向を示した。
日水誌,70(1), 22-30 (2004)

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ノリの色落ち原因藻 Eucampia zodiacus の増殖に及ぼす窒素,リンおよび珪素の影響

西川哲也,堀  豊(兵庫水技セ)

 室内培養実験から,20°C および 9°C 下における Eucampia zodiacus の窒素,リンおよび珪素濃度(S )と比増殖速度( μ)の関係を Monod の式から求めた。また窒素,リンおよび珪素の最小細胞内含量をそれぞれ推算した。E. zodiacus は窒素源のうち硝酸態,亜硝酸態,アンモニア態窒素およびグルタミンで高い増殖量を示した。また実験に用いた全ての無機態および有機態リンを増殖に有効利用できた。栄養塩に対する増殖特性から,E. zodiacus はノリの色落ち原因藻の中でも深刻な被害を発生させる種であることが示唆された。
日水誌,70(1), 31-38 (2004)

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陸奥湾におけるマガレイ卵・仔魚の空間分布

伊村一雄,高津哲也,南條暢聡,木村 修,
高橋豊美(北大院水)

 初期生活史の解明のために,陸奥湾でマガレイ卵・仔魚と餌生物の空間分布を調べた。発生前期,中期,後期の卵,卵黄期仔魚(A-B 期)はそれぞれ水深 30-40, 10-20, 1-20, 20-40 m に多く出現した。前屈曲期仔魚(C-D 期)は主に 20 m に出現し,初期餌料であるかいあし類ノープリウス密度が高い 10-20 m よりも若干深かった。仔魚の 20 m への集中は着底に適さない水域への輸送を防ぐ役割を果たすであろう。さらに発育の進んだ仔魚(E-G 期)は平均分布水深が深く(24 m 以深),着底へ向けての移動と考えられた。
日水誌,70(1), 39-47 (2004)

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マグロ延縄の表層付近での沈降運動

幅野明正,安樂和彦,松岡達郎,東 政能(鹿大水),
清水弘文(水研セ西海水研石垣),
井上喜洋(水研セ水工研)

 マグロ延縄の枝縄基部(幹縄)と先端部に高分解能深度計を装着し,枝縄の表層での沈降運動特性を実海面で計測した。投縄直後,先端部の沈降は基部よりも高速だった。投縄 36〜112 秒後に先端の沈降は減速し始め,その後幹縄と等速となった。先端部の沈降過程は,投縄直後から枝縄が伸びきるまでの独立な落下,幹縄に拘束されつつ沈降する減速落下,幹縄から懸垂状態となった拘束落下の 3 段階から成り立つと考えた。このモデルは,枝縄を伸ばした投縄では,針が一定水深に到達するのにより長い時間を要することを示す。
日水誌,70(1), 48-53 (2004)

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イトマキヒトデ幽門盲のう由来ホスホリパーゼ A2 アイソザイムの基質特異性

岸村栄毅,林 賢治(北大院水)

 イトマキヒトデの幽門盲のうから前報で単離したホスホリパーゼ A2(PLA2I)と電荷が異なるアイソザイム(PLA2II)を単離した。PLA2IIは N-末端 5 残基のアミノ酸配列が SVYQF であり,1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリンから主にオレイン酸を遊離させた。PLA2II活性の最適 pH および最適温度はそれぞれ pH 9.0 および 50°C 付近にあり,また,PLA2IIは 1 mM 以上の Ca2+ により賦活された。PLA2IIは基質の脂肪酸特異性を示さなかったが,ホスファチジルエタノールアミンよりもホスファチジルコリンをよく分解した。
日水誌,70(1), 54-59 (2004)

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衛生管理型標津漁港の細菌学的調査

笠井久会,杉山絵美,吉水 守(北大院水)

 水産食品の衛生管理の向上を図るうえで,漁獲から加工場までの衛生管理は重要である。まず漁港で利用されている海水の実態を把握する必要があると考え,北海道東部の標津漁港の港内および沖合い海水の水質,一般細菌数およびその種類を調査した。水質面では港内外で大差は見られず,各定点の生菌数は漁港内では 102〜104 CFU/mL の範囲で測定された。漁港内の細菌叢は Pseudomonas, Alteromonas, Vibrio, Moraxella およびグラム陽性桿菌が観察された。大腸菌は港内外で観察されたが,他の衛生細菌は検出されなかった。
日水誌,70(1), 60-65 (2004)

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飼育下でのマアナゴ葉形仔魚の変態と水温(短報)

渡辺哲理,福井 篤,鈴木伸洋,魚谷逸朗(東海大海洋)

 マアナゴ葉形仔魚(全長 97〜128 mm)の変態と水温の関係を調べた。実験開始から変態完了までの平均日数(M )は水温 20°C では 19 日,15°C では 28 日,10°C では 94 日で,水温の低下とともに延長した。水温 7°C では,100 日以上でも,体は縮小せず,葉形仔魚の形態のままであった。しかし,水温 7°C の後に 15°C あるいは 20°C へ上昇させると,全ての個体が変態した(M, 25 あるいは 17 日)。また,水温 7°C 一定でもチロキシン溶解海水(濃度 6 ppm)で飼育すると,全ての個体が変態した(M, 110 日)。
日水誌,70(1), 66-68 (2004)

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