日本水産学会誌掲載報文要旨

鹿児島湾産アカカマスの年齢,成長および年級群組成

増田育司,酒匂貴文,松下 剛,
白石哲朗,切通淳一郎,神村祐司,小澤貴和(鹿大水)

 鹿児島湾産アカカマス1631尾の耳石横断薄層切片をもとに,本種の年齢と成長を検討した結果,縁辺成長率の経月変化および優勢ないし劣勢年級群の経年出現状況から,用いた耳石輪紋(不透明帯内縁)は年輪であることが立証された。6月1日を誕生日と仮定して,輪紋数に応じて個体毎に年齢を割り振り,Bertalanffyの成長式を当てはめた結果,雄はLt=304.6{1−exp[−0.433(t+3.385)]},雌はLt=337.5{1−exp[−0.421(t+2.972)]}で表された。両式は有意に異なり,いずれの年齢においても雌は雄より大きい体サイズを示した。最高年齢は雄で11歳,雌で8歳であった。
日水誌,69(5), 709-716 (2003)

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同一環境下で継代飼育されたアユPlecoglossus altivelis 3品種間における温度適応力の差異

岡部正也(高知内水漁セ),関 伸吾(高知大農),
西山 勝(高知宿毛漁指),桑原秀俊(高知水試),佐伯 昭(高知内水漁セ),山岡耕作(高知大農)

 由来の異なるアユ3品種205〜220日齢魚を用い,異なる馴致温度に対する耐性温度を指標として温度適応力を比較した。耐性温度には品種間で明らかな差異が認められ,15〜23°Cに馴致した場合の臨界最高・最低温度の平均値は,海系29.7〜32.2°C, 2.5〜6.0°C,琵琶湖系28.7〜31.7°C, 2.3〜5.3°C,瀬戸川産人工陸封型29.7〜33.0°C, 1.7〜5.0°Cおよび初期致死温度から算出した温度耐忍領域は海系481°C2,琵琶湖系415°C2,瀬戸川産人工陸封型517°C2となった。これら3品種は,孵化後同一環境下で飼育してきたことから,アユの温度適応力には品種差が存在することが示唆された。
日水誌,69(5), 717-725 (2003)

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日本産アイナメ科魚類7種のmtDNAのPCR-RFLP分析による種判別

柳本 卓(北水研)

 日本周辺に分布するアイナメ科7種(アイナメ,クジメ,スジアイナメ,ウサギアイナメ,エゾアイナメ,ホッケ,及びキタノホッケ)のPCR-RFLP分析による種判別法を検討した。成魚筋肉からDNAを抽出し,PCR法にてミトコンドリアDNAの12S rRNA-16Sr RNAコード領域を増幅して塩基配列分析を行った。7種を判別できる制限酵素を検索し,PCR産物を制限酵素消化し電気泳動を行った。DdeI, DpnII, MspIの3種類の酵素の切断型から得られたハプロタイプの違いから,7魚種を遺伝子レベルで判別できることが示唆された。
日水誌,69(5), 726-732 (2003)

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実験水槽におけるブルーギルによるモツゴの捕食

片野 修,中村智幸,山本祥一郎(中央水研)

 水槽内でブルーギルに捕食されるモツゴの個体数および最大体長を調べた。初期標準体長が2.5〜7.9cmの生きたモツゴ15個体と,標準体長5.7〜14.3cmのブルーギル1個体を水槽に収容し,ブルーギルによるモツゴの捕食を10日間調べた。体長5.7cmの1個体を除くすべてのブルーギルがモツゴを捕食した。ブルーギルに捕食されたモツゴの最大体長および総重量はブルーギルの体長と相関し,1個体のブルーギルは最大で1日あたり5.8g(ブルーギルの体重の5.6%)のモツゴを捕食した。
日水誌,69(5), 733-737 (2003)

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第一卵割阻止処理によるサクラマスの四倍体誘起に伴う発生異常

阪尾寿々,藤本貴史,田中 稔(北大院水),
山羽悦郎(北大フィールド科セ),荒井克俊(北大院水)

 染色体操作において第一卵割阻止処理胚の生残率は極端に低いことが知られている。本研究では四倍体誘起個体が死亡する原因を細胞学的に解明することを目的とした。通常受精後10°Cの水温条件下で培養し,第一卵割を阻止する目的で受精後5時間から7時間に,700kg/cm2,7分間の圧力処理を施した。処理胚では,初期卵割期に分裂異常,胞胚期に無核細胞,発眼期に異数体およびモザイク個体の出現が認められた。これらの異常胚出現が四倍体誘起胚の生残率を低下させる原因であると考えられた。
日水誌,69(5), 728-748 (2003)

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琵琶湖アユ沖すくい網漁業の漁船規模に階層性を考慮した場合の漁業管理に関する理論的研究

劉  穎,桜本和美,北原 武,鈴木直樹(東水大)

 琵琶湖のアユ沖すくい網漁業を例とし,漁船規模に関し,馬力数の低い方から順に階層1,階層2および階層3の3階層が存在する場合の漁業管理問題を理論的に検討し,純利益を非協力動的ゲーム問題の解として求めた。シミュレーションにより上記解の挙動を調べた結果,(1)初期資源尾数が低いときは階層1の純利益が多く,初期資源尾数の増加に伴いより高い階層の純利益が増加する,(2)推定された10年間の初期資源尾数に対する総純利益は階層2が最も多い,(3)階層3の漁業者数が増加するにしたがい,全体の純利益は減少する,等がわかった。
日水誌,69(5), 749-756 (2003)

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人工種苗生産ブリ仔稚魚におけるタウリン含量の変化および天然稚魚との比較

松成宏之,竹内俊郎(東水大),村田裕子(中央水研),
高橋 誠,石橋矩久(日栽協),中田 久,荒川敏久(長崎水試)

 異なる餌料系列を用いた種苗生産過程におけるブリ仔稚魚および飼育に用いたワムシ,アルテミア,天然コペポーダ,冷凍天然コペポーダ,配合飼料のタウリン含量および天然稚魚におけるタウリン含量との違いを調べた。その結果,人工種苗生産過程におけるブリ仔稚魚のタウリン含量は,餌・飼料中のタウリン含量の影響を受けること,特に開口時までに多くの遊離アミノ酸が減少するのに対して,タウリンは開口後のワムシ給餌期に大きく減少すること,また人工種苗生産稚魚は天然稚魚に比べて,タウリン含量が著しく少ないことが明らかとなった。
日水誌,69(5), 757-762 (2003)

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ヒラメ網膜S電位のスペクトル相対感度と応答潜時

Dusit THANAPATAY,袋谷賢吉(富山大工)

 ヒラメの明順応網膜における1相性および2相性S電位応答のスペクトル相対感度特性を測定し,緑錐体および青錐体のスペクトル吸収特性並びに感度特性と比較した。また,S電位の応答潜時を調べた結果,1相性および2相性S電位の過分極応答の潜時に比べ,2相性S電位の脱分極応答の潜時の方が長かった。さらに,網膜組織を調べ,ヒラメの錐体モザイクは正方型で付加錐体がないことが分かった。以上の結果を基に,ヒラメの錐体視物質および錐体と水平細胞の神経回路について考察した。
日水誌,69(5), 763-769 (2003)

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東京湾海底におけるごみの組成・分布とその年代分析

栗山雄司,東海 正,田畠健治,兼廣春之(東水大)

 東京湾南西部を中心とした海域に堆積するごみを1995〜2000年にかけて小型底曳網により調査した。6年間の調査で計26,940個(1,691kg)のごみが回収され,そのほとんどが買い物袋,包装袋などのプラスチック製品および飲料缶などの生活用品であった。調査の結果,底曵網により回収されるごみの量は,年々減少する傾向がみられ,1995年の338個/km2から2000年の185個/km2へと半減していた。ごみの減少は底曳網による海底清掃などの効果によるものと考えられた。回収した飲料缶の製造年組成を調べ,Virtual Population Analysisによって海中における飲料缶の残存率をアルミ缶およびスチール缶についてそれぞれ0.47および0.38と推定した。
日水誌,69(5), 770-781 (2003)

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フグ卵巣ぬか漬けの微生物によるフグ毒分解の検討

小林武志,木村 凡,藤井建夫(東水大)

 石川県特産のフグ卵巣ぬか漬けでは,有毒卵巣がぬか漬け後に食用となるので,その減毒への微生物関与の可能性を検討した。ぬか漬け製造中の桶の液汁を採取し,これにフグ毒を添加して貯蔵を行い,その毒性を測定すると共に,ぬか漬けの微生物185株をフグ毒培地に各々接種し,培養後の培地の毒性を測定した。また,フグ毒培地にぬか漬けを直接接種,培養して,毒性変化を調べ,毒分解活性を有する微生物を増菌して分離しようと試みた。しかし,一連の実験では,微生物関与と考えられる明確な毒性低下を確認できなかった。
日水誌,69(5), 782-786 (2003)

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破断試験法で評価した市販かまぼこの部位による物性の違い

塚正泰之,萩原智和,安藤正史,
牧之段保夫(近大院農),川合哲夫(大阪府大院農)

 市販かまぼこの部位による物性の違いを破断試験で測定した。直径0.3cmのプランジャーを用いて0.7cm間隔で測定した場合,周りの測定痕が物性値にほとんど影響しないことを確認した。かまぼこの部位による物性の違いを7種類の市販かまぼこで測定した結果,全てのかまぼこでスライス面の上下方向で,多くの物性値に有意差が認められ,左右方向,スライス片間では,数種のかまぼこに特徴的な差が認められた。かまぼこ間の物性の違いを主成分分析で比較した結果,第1主成分は破断時の物性,第2主成分は噛み始めの物性を示した。
日水誌,69(5), 787-695 (2003)

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トカゲエソの貯蔵中に生成するホルムアルデヒドがかまぼこの品質に及ぼす影響

平岡芳信,菅 忠明,黒野美夏,平野和恵,
松原 洋,橋本 照,岡 弘康(愛媛工技セ),関 伸夫(北大院水)

 トカゲエソとグチのトリメチルアミンオキシド(TMAO)関連化合物の変化について調べた。トカゲエソ肉中にはTMAOが約25mmol/kg,グチ肉中には53mmmol/kgと多量に含まれていた。トカゲエソの場合は,氷蔵中に分解されて,ホルムアルデヒドを生成したが,グチの場合はホルムアルデヒドを生成しなかった。しかし,トカゲエソ肉もグチ肉も,ホルムアルデヒドを添加するとゲル形成能が失われた。
日水誌,69(5), 796-804 (2003)

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瀬戸内海中央部における流れ藻随伴幼稚魚の出現種の変化により確認されたタケノコメバルからクロソイへの魚種交替(短報)

栩野元秀,山本昌幸,山賀賢一,藤原宗弘(香川水試)

 1997-98年の流れ藻随伴幼稚魚の調査ではクロソイが5, 6月の優占種となったが,タケノコメバルの採集は無かった。1962-63年にはクロソイは採集されず,6月はタケノコメバルが優占していた。このことは,二つの調査が実施される間に二種の増減が起こったことを示した。また,それぞれ二種の前後に随伴する魚種やその出現順は同様であり,二種の大きさ,食性も類似していた。したがって,これら二種の間に1960年代から1990年代にかけて魚種交替が生じたこと,かつ二種の生態には共通点が多いことが明らかとなった。
日水誌,69(5), 805-807 (2003)

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