日本水産学会誌掲載報文要旨

音響資源調査における航走減衰の発生と船速および気象・海象条件との関係

本田 聡(北水研),鈴木千洋,向井 徹,飯田浩二(北大院水)

 漁業調査船第三開洋丸において,海底の表面後方散乱強度(海底Sa)を測定し,航走方向と船速の組み合わせにより航走減衰が生じることを示した。風波を船首方向から受ける航走では,海底Saは船速の増加に伴い最大38kHzで1.3dB, 120kHzで0.7dB減衰した。一方,風波を船尾側から受けた航走では航走減衰は観察されなかった。本船を用いて音響資源調査を実施する場合,風波の方向を予測あるいは観察し,船尾側から風波を受ける形で航走することにより,航走減衰の影響を抑えることができる。
日水誌,69(4), 558-567 (2003)

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イセエビの摂餌活動の周年変化

小池 隆,山崎博貴,内田 誠(三重大生物資源)

 雄イセエビの摂餌行動および摂餌量を284日間連続測定した。これらの値の変化はイセエビの脱皮や水温変化によって著しく制約された。イセエビは,夏と秋の脱皮約1ヶ月前より摂餌量が減少し始め,脱皮直前には5〜17日間摂餌せず,脱皮後には2〜26日間以上摂餌しなかった。夏の脱皮後は摂餌量が急激に増加した。イセエビが摂餌した最低水温は11.8°Cであった。イセエビの摂餌量は水温の上昇とともに顕著な増加傾向が認められたが,水温が28°C以上となると減少傾向に転じた。
日水誌,69(4), 568-574 (2003)

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スプリットビーム方式と小型水槽を用いる小型生物のターゲットストレングスの測定方法

甘糟和男,古澤昌彦,樊 春明(東水大)

 オキアミ類のような小型生物のターゲットストレングス(TS)の姿勢特性を,小型水槽で精密に測定する方法を開発した。本方法では,70kHzのスプリットビーム方式音響計測システムと,ビデオカメラによる姿勢観測システムとを用いる。姿勢観測用窓を備えた小型水槽に,送受波器を下向きに設置し,TS測定と姿勢観測を同時に行う。物理モデル(銅円筒)のTS測定で精度を確認した上で,生きた小型エビのTS測定を行い,詳細なTSパターンを得ることができ,測定値と理論値がほぼ一致した。
日水誌,69(4), 575-583 (2003)

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夏季の日本海イカ釣り漁場における小型イカ釣り漁船の分布と漁船間距離

崔 淅珍(水工研),中村善彦(東水大)

夏季の日本海における小型イカ釣り漁船の集団操業実態を把握するため,船舶レーダーを用いて漁船分布を観測し,漁船間の最短船間距離を求めた。小型イカ釣り漁船の漁場占有面積と漁船間の最短船間距離は佐渡島北部沖で最大,津軽海峡と入口付近で最小であった。漁場別最短船間距離の累積度数分布をもとに集魚灯光の干渉割合を考慮した漁船間の適正操業距離と適正光源出力を試算した。小型イカ釣り漁船の光源出力上限値である180kWを使用した場合,他船の集魚灯出力に光学的に干渉される割合は津軽海峡と入口付近,大和堆,金沢港沖,奥尻海峡付近および佐渡島北部沖でそれぞれ100%,99%,62%,40%および34%と推定された。
日水誌,69(4), 584-590 (2003)

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宮崎県沿岸海域におけるクロウシノシタの産卵期

田代一洋(宮崎高水研),岩田一夫(宮崎水試),
延東 真(東水大),田原 健(宮崎栽協),佐藤昌子(宮崎東臼杵農振局)

 1991年,1992年,1996年および1997年に,宮崎県中部の水深30m以浅の砂泥海域で,小型底曳網により採捕されたクロウシノシタの雌230尾,雄226尾について,その産卵時期を調べた。卵巣の熟度係数の周年変化および卵巣成熟過程の組織学的観察を基に検討した結果,本種は多回産卵種で,産卵期は5〜10月,産卵盛期は6〜8月と推定された。生物学的最少形は体長214mm,全個体が成熟に達するサイズは体長240mmであった。また,1年を通した性比は雌雄ほぼ1:1であった。
日水誌,69(4), 591-595 (2003)

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魚体を網目通過させるための目合と縮結の必要十分条件

夏目雅史(道中央水試),松石 隆(北大院水)

 魚体を網目通過させるためには,網目内周長を最低でも最大胴周長と同じにする必要がある。最大胴周長を最大体高Dmと最大体幅Wmから計算される楕円周長とみなし,魚を網に羅網させることなく逃がすために最低限必要な目合Lnと網地に接する程度の十分な大きさの目合Ls,およびそのときの内割縮結Si,外割縮結Soを導いた。Lnは楕円周長の半分としてLn=(p/4)(1.5(Dm+Wm)−√DmWm), Lsは最大体高と最大体幅の合計値としてLs=Dm+Wm, Si, SoはSi=1−√Wm/(Dm+Wm), So=√(Dm+Wm)/Wm−1で表された。体長30cm前後のホッケを測定した結果,各々平均で,Ln=94.7mm, Ls=119.0mm, Si=0.376, So=0.604であった。
日水誌,69(4), 596-601 (2003)

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ババガレイ飼育仔稚魚の形態発育および成長

有瀧真人(日栽協宮古),田中 克(京大院農)

 飼育したババガレイ仔稚魚を用い,ふ化から変態完了期までの連続した外部形態変化および体各部の相対成長を観察した。平均水温13.9°C(9.2-21.1°C)で飼育すると浮遊生活期は85日間,変態期は40日間に及んだ。変態期仔魚の外部形態には,突出した腹部や眼,最大25mmに達する全長,頭部に存在する巨大な棘,高い体高など浮遊適応と推察される特徴が観察された。また,本種は大形で発育が進んだ仔魚でふ化することや長期に及ぶ変態期,眼の移動が着底への移行と一致しないなど特異的な初期生活を送ることが明らかとなった。
日水誌,69(4), 602-610 (2003)

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ポケット網実験から推定したカタクチイワシシラスに対する船曳網の網目選択性

斎浦耕二(徳島県水産課),東海 正(東水大)

 徳島県でシラスを漁獲対象とする船曳網のコッドエンドには目合260経のモジ網が使用されている。船曳網の数カ所にポケット網を装着し,曳網実験を5回実施した。カタクチイワシはコッドエンドから最も多く逸出していた。SELECTモデルを拡張してコッドエンドとポケット網の採集結果から網目選択性曲線を推定した。50%選択は漁獲量が多くなると網目から抜けにくい傾向が認められた。通常の操業では50%選択は10mm以下であり,漁獲対象としているシラスの全長に対して260経は小さく適正な目合に改善する必要がある。
日水誌,69(4), 611-619 (2003)

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曳航式深海用ビデオカメラを用いたキチジの生息密度推定法

渡部俊広,渡辺一俊(水工研),北川大二(東北水研八戸)

 曳航式深海用ビデオカメラを用いて,金華山から小名浜沖の水深約440m〜700mの海域に24箇所の調査点をもうけて,2001年5月から6月の日中にキチジを観察し,生息密度を推定した。合計30回の観察を行い,延べ1,650分の映像記録を得た。総観察面積は86,160m2,キチジの総観察個体数は253個体であった。それぞれの調査点における1,000m2当たりの観察個体数は,0〜11個体であった。曳航式深海用ビデオカメラを用いたキチジの観察から生息密度を推定できることを確認した。
日水誌,69(4), 620-623 (2003)

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奄美大島の役勝川におけるリュウキュウアユの遡上生態

岸野 底,四宮明彦(鹿大水)

 絶滅が危惧されるリュウキュウアユの遡上期の生態を明らかにするため,1994年と1996年に鹿児島県大島郡住用村の役勝川で,遡上個体の出現期間,体長,日齢および発育段階を調査した。遡上期間は1月下旬から5月下旬までの4ヶ月間であった。平均体長(±標準偏差)は35.2±3.36mm,平均日齢は83.7±15.4日であった。外部形態は,黒色素胞の少ないシラス型後期仔魚から,櫛状歯が出現し始めた稚魚まで多様な発育段階を示した。この結果はアユと比較して,より小型,若齢,早い発育段階を示しており,これらの特徴は遡上前の海域生活期間の短さに関連していると考えられた。
日水誌,69(4), 624-631 (2003)

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マダイの視力の照度による変化と網膜順応状態

塩原 泰(海洋産業研究会),有元貴文(東水大)

 マダイの視力とその照度による変化を学習法により求めた。最小視認閾によるマダイの視力は500lxで0.24であった。照度を段階的に減少させたところ,視力はこれにともない減少し,1lxで0.10となった。さらに照度を0.1lxに減少させたが,視力は1lx時と同じ0.10であった。網膜の順応状態を調べたところ色素指数では,1lxと0.1lxの間で明順応から暗順応に変化していた。これらから,マダイの網膜で機能的な視細胞は1lxと0.1lxの間で錐体から桿体に移行することが示唆された。
日水誌,69(4), 632-636 (2003)

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スルメイカ外套膜筋の加熱ゲル形成に及ぼすグルコン酸ナトリウムの影響

桑原浩一,大迫一史(長崎水試)

 グルコン酸ナトリウム(グルコン酸Na)が,イカ肉から調製した加熱ゲルに及ぼす影響を明らかにするため,食塩およびソルビトールの場合と比較検討した。90°C直接加熱ゲルおよび予備加熱後90°C加熱した二段加熱ゲルの破断強度は,グルコン酸Naを添加したゲルが,最も高い値を示した。しかし,いずれのゲルにおいてもミオシン重鎖(HC)の多量化は確認されず,HC残存量と破断強度には正の相関が認められた。グルコン酸Na添加ゲルでは,自己消化が抑制されHC含量は高く,そのため,ゲル物性は向上することが明らかとなった。
日水誌,69(4), 637-642 (2003)

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歯骨による琵琶湖産オオクチバスおよびブルーギルの種判別と体長の推定(短報)

高橋鉄美,中井克樹,亀田佳代子(琵琶湖博物館)

 琵琶湖に生息するオオクチバスとブルーギルをカワウの胃内容物から種判別する方法を提唱する目的で歯骨の形態観察と計測を行った。両種は歯骨の背面に単尖頭の歯が2列以上あること,歯骨側面の管状の側線が5個の孔で開口すること,歯骨高が歯骨長の30%以上であることから他の琵琶湖および周辺水域に生息する真骨魚類と区別できた。またオオクチバスでは歯骨高が歯骨長の41.6%より低いのに対し,ブルーギルでは44.0%より高いことから識別できた。両種の歯骨長・高と体長の関係式も求めた。
日水誌,69(4), 643-645 (2003)

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ヒトデ幽門盲のうのカルボキシペプチダーゼBの簡易精製法(短報)

岸村栄毅,林 賢治(北大院水)

 ヒトデAsterias amurensisの幽門盲のうのカルボキシペプチダーゼBの簡易精製法を検討した。ヒトデ幽門盲のうのアセトン粉末より調製した粗酵素液を10mM Tris-HCl緩衝液(pH8.0)に透析した後,同緩衝液で平衡化したDEAE-セルロースカラムに負荷した。カルボキシペプチダーゼB活性画分は,30mM NaClを含む10mM Tris-HCl緩衝液(pH8.0)により段階的に溶出された。次いで,得られた活性画分をセファデックスG-50によるゲルろ過に供した。この2段階のカラムクロマトグラフィーにより,ヒトデカルボキシペプチダーゼBは電気泳動的にほぼ単一に精製され,その活性回収率は約40%を示した。
日水誌,69(4), 646-648 (2003)

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