日本水産学会誌掲載報文要旨

全周型スキャニングソナーによる表層魚群の体積散乱強度の計測方法

湯  勇,古澤昌彦(東水大),青山 繁(古野電気),
樊 春明(東水大),西森 靖(古野電気)

 計量魚群探知機による表層魚群の資源調査は,魚群が船に対して逃避行動を示すなどの問題があり,結果の信頼性が低い。そこで,計量用のソナーの開発が期待される。本研究は,その第一歩として,市販の漁業用全周型スキャニングソナーの定量化を試みる。定量化ソナーシステムを構成し,標準球を用いてソナーの較正を行い,表層魚群の観測実験を行った。受信系から生のエコー信号をコンピュータに取り込み,後処理で,表層魚群のエコーを追跡し,生の体積散乱強度(SV)を求め,調査船の航走海域における表層魚群の生の SV の分布を表示した。本研究により,ソナーによる表層魚群計測の有効性と,本格的な計量用ソナーの開発の可能性が確かめられた。

日水誌,69(2), 153-161 (2003)

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アカアマダイ漁獲鮮魚から採取した精巣精子の運動活性と冷蔵保存

藤浪祐一郎,竹内宏行,津崎龍雄(日栽協宮津),太田博巳(養殖研)

 漁獲され,死亡したアカアマダイ雄成魚の精巣精子の採取方法,運動活性,冷蔵保存方法を検討した。精巣を細かく切断する方法とホモジナイズする方法で精子を採取したところ,後者では運動精子比が有意に低下した。精子を種々の濃度の NaCl 溶液で希釈すると,450 mM で最も高い運動精子比が得られた。この溶液中では 20 分後でも精子は運動を持続していた。冷蔵保存は pH を 6.0〜8.5 に調整した人工精漿で精巣精液を 50 倍以上に希釈し,4 °C で保存する方法が適していた。

日水誌,69(2), 162-169 (2003)

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モノクローナル抗体を用いた浮遊性魚卵の同定

大西庸介,池田知司(KANSO),広石伸互(福井県大生物資源),沖山宗雄(東大海洋研)

 モノクローナル抗体(単抗体)法による魚卵同定の有効性を確認することを目的とし,マダイ卵を抗原として作製した単抗体(MT-1)を用いて,マダイの種内,類縁種間,および野外採集卵に対する反応性を調べた。MT-1 は親魚の異なるマダイ卵に対し全て陽性反応を示し,類縁種のヘダイ,クロダイ,キダイに対しては陰性反応を示した。また,野外で採取したマダイを除く 8 種類の浮遊性魚卵に対し全て陰性反応を示し,マダイの産卵期を過ぎた 7 月に採取した浮遊性魚卵に対しては全て陰性反応を示した。
 以上,MT-1 はマダイ卵に特異的に反応することを確認し,単抗体法は従来同定の困難であった浮遊性魚卵の同定に適用可能な技術であることを明らかにした。

日水誌,69(2), 170-177 (2003)

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日本の主要な漁港におけるサメ類の種別水揚げ量の推定

松永浩昌,中野秀樹(遠洋水研),石橋陽一郎,中山健平(NUS)

 日本におけるサメ類の種別・漁法別水揚量を明らかにする目的で,主要な漁港で市場伝票整理に基づくサメ類の水揚量調査を行なった。製品重量では 1992〜98 年の漁法全体で年平均 19,600 トン,延縄で 15,000 トンの内,ヨシキリザメが 11,600 トン(59%),11,000 トン(73%)であった。更に生体重量に換算した結果,全漁法で年平均 28,700 トン,延縄 23,400 トンとなり,同様にヨシキリザメが 18,800 トン(66%),17,800 トン(76%)であり,何れの場合も 6〜8 割程度がヨシキリザメで占められていた。ヨシキリザメ以外ではネズミザメ,アオザメが 10% 前後,オナガザメ類が 5 % 程度と,比較的多く水揚されていた。また,これら主要種の水揚量が減少しているような傾向は見られなかった。

日水誌,69(2), 178-184 (2003)

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皇居道灌濠における雌性発生ギンブナクローンの識別と分布

前田克明,西村大介,前村浩隆(広大院生物圏),森島 輝(北大院水),
張 全啓(中国海洋大),海野徹也,中川平介(広大院生物圏),荒井克俊(北大院水)

 1996-1998 年の皇居の上,中および下道灌濠で得たギンブナ 201 個体は三倍体(196)と四倍体(5)であり,それらの内,性判別を行った個体はすべて雌であった。DNA フィンガープリント分析の結果,7 クローン( I - VII )が識別され,他に 8 個体が個体特異的パターンを示した。各クローンの出現頻度は年と濠により異なったが,クローン I が最も優占的であった。三倍体クローン I と VI は広島県黒瀬川のクローン 8 と 6 と各々同一であった。三倍体クローン I と四倍体個体の DNA フィンガープリントは酷似し,四倍体は三倍体から生じたものと示唆された。

日水誌,69(2), 185-191 (2003)

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コイの遊泳時の心拍数変化と回復過程

伊東裕子,秋山清二,有元貴文(東水大)

 回流水槽を用いてコイに強制遊泳させ,遊泳時の心拍数変化とその後の回復過程について検討した。遊泳速度 1 BL/s では大きな心拍数変化はなかったが,2〜5 BL/s では遊泳時に急激に増加し,最大で平常時の 2.7 倍に達した。しかし,遊泳速度を速めても心拍数の増加割合がさらに増すことはなかった。遊泳後の心拍数は,低速条件では早い段階で平常時レベルまで回復したが,3 BL/s 以上では回復に時間のかかる個体が認められた。遊泳時間を 60 分に延長しても,全体的に遊泳時間 10 分の場合と同様の心拍数変化を示した。

日水誌,69(2), 192-196 (2003)

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若狭湾西部海域で漁獲されたアカアマダイの精巣重量と精巣精子の運動活性

藤浪祐一郎,竹内宏行,津崎龍雄(日栽協宮津),太田博巳(養殖研)

 成熟期に採捕されたアカアマダイの雄成魚を用い,全長と精巣重量,および精巣精子の運動活性の関係について調べた。調査した全長 35 cm 以上の成魚全 57 尾の平均全長は 39.2±0.3 cm,精巣重量は 1.52±0.09 g,精巣精子の運動精子比は 52.4±1.9% であった。精巣重量は,全長との間に正の相関を持つことが認められたが,精巣精子の運動精子比と全長との間には負の相関が認められた。全長と精巣重量,全長と精巣精子の運動精子比のそれぞれの関係式から,受精可能な精子を最も効率的に採取できる親魚の全長は 42.0 cm と推定された。

日水誌,69(2), 197-200 (2003)

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新潟県沿岸海域におけるオニオコゼ Inimicus japonicus の年齢と成長および産卵期

渡辺憲一,貝田雅志,花田利香子,伊藤 東(新潟県立海洋高)

 新潟県上越沿岸海域で採集された 292 個体を実験材料として用いて,オニオコゼの年齢と成長の関係を明らかにするとともに産卵期を推定した。後翼状骨に形成された輪紋は年 1 回形成される年輪であることから,輪紋を用いて年齢査定し,各輪紋形成時における計算全長を算出した。これをもとに von Bertalany の成長式を雌雄別に導いたところ,全長,体重ともに雌の方が雄よりも成長の良いことが明らかになった。また,生殖腺熟度指数 GSI の月別変化から産卵期間は 6 月から 8 月であると推定された。

日水誌,69(2), 201-207 (2003)

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二倍体―四倍体モザイクアマゴにおける卵のサイズと倍数性(短報)

山木 勝(宇和島水産高,北大院),荒井克俊(北大院)

 高水圧処理による第 1 卵割阻止(受精 4〜7 時間後,650 kg/cm2, 6 分間)により生じた二倍体―四倍体モザイクアマゴが産生する卵のサイズと倍数性の関係について調査した。対照とした二倍体の発眼卵の直径は 5〜6 mm(平均 5.9 mm)であったのに対し,モザイク個体においては 4〜10 mm であった。モザイク雌 2 個体の卵を二倍体雄の精子で受精させたところ,二倍体以外に三倍体が出現した。三倍体は,直径 7 mm 以上の大型発眼卵で特に高い頻度で見られた。以上の結果は,モザイクアマゴが産生する大型卵は四倍体細胞由来の二倍体の可能性が高いことを示唆する。

日水誌,69(2), 208-210 (2003)

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貝類リゾチームの体内分布(短報)

宮内浩二,松宮政弘,望月 篤(日大生物資源)

 貝類におけるリゾチームの生物学的意義を解明する一環として,部位の分別が可能な 6 種について,リゾチームの体内分布を検討した。活性はほとんどの部位に認められたが,いずれの種においても消化器官で強く,他の部位の約 2-4 倍以上の活性が検出された。ヤマトシジミの消化器官,ヒザラガイ消化管およびウチムラサキ中腸腺で活性が高く,特にヤマトシジミ消化器官での値はニワトリ卵白リゾチームに匹敵した。このことから,貝類リゾチームは主に消化器官に存在し,腸内細菌相の制御および生体防御の両者に深く関与していることが示唆された。

日水誌,69(2), 211-213 (2003)


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