日本水産学会誌掲載報文要旨

魚類 I 型コラーゲンの構造と起源(総説)

木村 茂(東水大)

 魚類の I 型コラーゲンは主要な細胞外マトリックス成分として皮膚,骨,鱗,筋肉などに広く分布する。多くの硬骨魚類は脊椎動物に共通のα1( I )とα2( I )のほか,ユニークな第三のサブユニットを含むα1( I )α2( I )α3( I )ヘテロ分子を持つことが特徴的である。最近,ニジマス I 型プロコラーゲンは全一次構造が解明され,高等脊椎動物のそれと良く類似したアミノ酸配列を保持しており,α3( I )はα1( I )から分岐したことが判明した。さらに,最下等の魚類である円口類の体幹部に広く分布する繊維性コラーゲンは真皮の I 型コラーゲンと遺伝的に異なり,無脊椎動物コラーゲンの特徴を示す。それ故,「 I 型コラーゲンの起源は原始脊椎動物の真皮に出現した繊維性コラーゲンである」と考えられる。

日水誌,68 (5), 637-645 (2002)

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回転ドラム追従実験によるティラピアの近赤外光感知能力の測定およびその系統差

小林龍太郎,遠藤雅人,吉崎悟朗,竹内俊郎(東水大)

 本研究ではティラピアOreochromis niloticusの近赤外光に対する感受性の測定を試みるとともに,その系統差を明らかにするために,回転ドラム追従実験装置を用いた実験を行った。供試魚は異なる2系統各200尾で,照射光は可視光と波長限界700, 750, 780, 800 nmの5種類を用いた。その結果,全ての個体が可視光下および波長限界700 nmの光で感受性を示した。しかし,波長限界800 nmの光では全個体が感知不可能であった。感知できる最も長波長側の波長限界は1系統が750 nmであったのに対し,もう一方の系統は780 nmであり,同一種において系統差のあることが明らかとなった。

日水誌,68 (5), 646-651 (2002)

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鹿児島県の海岸における発泡プラスチック破片の漂着状況

藤枝 繁,池田治郎,牧野文洋(鹿大水)

 海岸に漂着散乱する発泡プラスチック破片の実態を明らかにするため,鹿児島県68海岸の砂を採取し,その中に含まれる漂着人工物の個数を求めた。漂着埋没物の総回収量は80,655個で,その99.9%がプラスチック類であった。また全体の92.6%を発泡プラスチック破片が占め,その9割が0.3〜4.0 mmの微小破片であった。同破片の漂着は65海岸で確認され,鹿児島湾中央部東海岸で最も多く平均290.4個/L,続いて同湾奥部海岸で平均176.1個/Lであった。漂着分布の特徴より,この破片の主な発生源は海上や海岸で大量に使用,放置されている発泡プラスチック製漁業資材であると推察した。

日水誌,68 (5), 652-658 (2002)

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男鹿半島沿岸におけるスギモク群落の季節変化と生産力

中林信康(秋田水振セ),谷口和也(東北大院農)

 1993年8月から1994年8月まで,男鹿半島沿岸水深1〜3mにおけるスギモク群落の季節変化と生産力を調べた。スギモクは9月に越年する付着器から細い糸状の葉が発芽し,冬季には緩やかに,春季には急速に生長して翌年6月に全長が52cm,現存量が5,974g湿重/ m2と当歳期での極大に達する。当歳の葉は9月にかけて著しく枯れ,換わって密な鱗片状の葉をもつ枝を12月まで形成する。1月には全長が53cm,現存量が6,503g湿重/ m2と満1歳期での極大に達するとともに,枝の先端に生殖器床を形成する。卵の放出は4月に水温が8°C以上になって行われる。卵放出後,鱗片状の葉をもつ枝は徐々に枯れて,約2年を経た11月にすべて枯死脱落する。スギモク群落の年間純生産量は層別刈り取り法によって10,478.8g湿重/ m2と計算された。

日水誌,68 (5), 659-665 (2002)

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ウバガイPseudocardiumsachalinenseの成長に及ぼす生息密度の影響

堀井貴司(釧路水試),村上 修(網走水試),櫻井 泉(道央水試)

 ウバガイの卓越年級群が1989年に北海道登別沖で発生した。本年級群が高密度に生息していた主要分布域は海岸線に沿って約4kmにわたっており,調査期間中ほとんど変化しなかった。1990年の生息水深帯は3〜13mであったが1994年には7〜13mに狭まった。本海域においてウバガイの成長可能な生息密度の限界は15〜16 kg/ m2と推定された。高密度による本種の殻成長と軟体部歩留りの低下は,4歳時に2〜3 kg/ m2以上の生息密度になるような環境下におかれていた場合に生じると考えられた。

日水誌,68 (5), 666-673 (2002)

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ドコサヘキサエン酸高蓄積性ラビリンチュラ類の分離と栄養強化飼料としての利用

林 雅弘(宮崎大農),松本竜一(南九大園芸),吉松隆夫(九大院農),
田中悟広(ナガセケムテックス),清水 昌(京大院農)

 フィルター法によって全国各地の海水等からドコサヘキサエン酸(DHA)高蓄積性ラビリンチュラ類の分離を試み,12株の分離株を得た。各分離株の脂質含量,脂肪酸組成を分析したところ,脂質含量は乾燥細胞中13.7-23.0%,総脂肪酸中のDHA含量は21.5-55.4%であった。これら分離株を生物餌料用栄養強化飼料として利用するため,水中分散性と生物餌料への給餌試験を行ったところ,多くの株が水中で凝集性を示し,ワムシやアルテミアの斃死が認められた。しかし,分離株のうちKY-1株については高いDHA蓄積性を示し,水中分散性も良好であった。さらにKY-1細胞中のDHAはワムシ・アルテミアに短時間で移行することが確認され,生物餌料用栄養強化飼料として好適な性質を備えていることが示された。

日水誌,68 (5), 674-678 (2002)

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北海道渡島支庁におけるホタテガイPatinopecten yessoensis養殖業の目標生産量およびその配分システム

本多 剛(金沢大自然研),木俣 昇(金沢大工)

 近年,北海道渡島支庁におけるホタテガイ養殖生産量の増大に伴って,価格が減少し,同養殖経営が逼迫しているのが現状である。そこで,総目標生産量を設定し,この養殖協調の経営策を検討する。まず,総目標生産量は2通りの方法で設定した。次に,これらを各漁業協同組合の実績を考慮し,かつ公平な基準で配分する。ここで,この配分法として協力ゲーム的なCG原理を採用する。CG原理に基づく配分は,既得権が少ない者にも多い者にも総目標生産量に応じて妥当な配分結果を導くことを示す。

日水誌,68 (5), 679-684 (2002)

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魚の移動による資源分布の季節変化を考慮した永年禁漁区の評価:東シナ海黄海のマダイPagrus majorとキグチLarimichthys polyactisについての検討

白井靖敏,原田泰志(三重大生物資源)

 永年禁漁区の有効性を齢構成のある資源動態モデルを用いて評価した。CPUE分布の季節変化を説明する禁漁区内外の移動率の上限と下限を設定し,それぞれに対応したYPRとSPRを計算した。その結果,若齢から高い漁獲係数で漁獲されている場合に,永年禁漁区によるYPRやSPRの減少抑制効果が大きいこと,移動率の設定の相違が及ぼす影響は資源の半分程度が含まれる大きさの禁漁区の場合に最も大きいこと等が示された。資源分布の季節変化の情報だけに頼らない正確な移動率の推定が必要である。

日水誌,68 (5), 685-694 (2002)

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PCBsおよびダイオキシン類(ポリ塩化ジベンゾ-p-ダイオキシン,ポリ塩化ジベンゾフラン,コプラナPCBs)による宇和海沿岸堆積物の汚染

久保田彰,染矢雅之,渡部真文,田辺信介(愛媛大沿岸環境研セ)

 PCBsおよびダイオキシン類による宇和海沿岸域の汚染実態とその歴史的推移を,それぞれ表層堆積物と堆積物コア試料の分析により明らかにした。表層堆積物の汚染レベルは,日本の他海域に比べ明らかな低値を示した。堆積物コア試料の分析結果では,PCBsによる汚染レベルは低減傾向を示した。同様に,表層堆積物のPCDDs/DFs汚染レベルも,1968年に採取された試料に比べ明らかな低値を示した。以上の結果から,宇和海沿岸環境は,ダイオキシン類やPCBs汚染の少ない魚介類を生産する場として適切であると結論された。

日水誌,68 (5), 695-700 (2002)

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凍結貯蔵中の乳化すり身の解乳化に及ぼすポリオール類の抑制効果

岡崎惠美子(中央水研),夜久俊治(東和化成工業),福田 裕(中央水研),
酒井 徹,南部正一(東和化成工業)

 約30%のイワシ油を含有するスケトウダラの乳化すり身に0-12%の各種ポリオール(糖アルコール)を添加し,−30°Cで2ヶ月貯蔵後,解凍時の離油量に対する各種ポリオールの抑制効果を検討した。解凍時に遊離する液体を集めて乾燥し,ついでこれをヘキサンで抽出して,それぞれを粗離油量および離油量とした。その結果,粗離油量および離油量とポリオール類の添加量との間に高い負の相関が認められた。またポリオール(mol/ kg)の乳化すり身に対する1モルあたりの解乳化抑制効果(K)は分子量および-OH基数に依存的に強くなる傾向を示した。これらの結果を基にポリオールの添加による魚油の乳化安定性化作用について考察した。

日水誌,68 (5), 701-705 (2002)

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負走光性マダイ稚魚の光馴致と光による誘導(短報)

川村軍蔵,安樂和彦,中原真弥,重里憲広(鹿大水)

 負の走光性をもつマダイ稚魚を,光に集まるよう馴致し,さらに光で誘導することを水路の囲い網内で試みた。供試魚は事前に300 Hz断続音に馴致された2600尾で,馴致音で水中光源に誘導して光源近傍で摂餌することを学習させ,さらに馴致音を与えずに光源に集まることを学習させた。供試魚は通算39回の訓練で光源に集まる学習を完成した。誘導実験では,光馴致魚は時間差をおいて点灯する水中光源間を移動し,移動する水中光源によく追随した。これによって,本来負の走性を示す刺激に魚が集まることを学習させ得ることが実証された。

日水誌,68 (5), 706-708 (2002)


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