日本水産学会誌掲載報文要旨

水槽実験による Petersen 法の実用性の検討

北田修一(東水大),関谷幸生(日栽協),横田賢史(東水大)

 水槽実験により Petersen 法による個体数推定の精度を検討した。150 トン水槽に平均全長 109 mm のシマアジの人工種苗 1,200 尾収容し,全数の 5 % を左腹鰭,10% を右腹鰭切除して標識した。1 日 2 回のサンプリングを 9 回行い,2 回の合計を含め 27 回の個体数推定を行った。推定値の誤差は,標識率が 5 % の場合は標本抽出率が 10% 以上のとき,また,標識率が 10% の場合には,標本抽出率にかかわらず 1,200 尾±600 尾の範囲におさまった。推定法の仮定は,1 回のサンプリングを除き満たされていた。標識率および標本数と精度の関係を検討し,精度の良い推定には,方法の仮定が満たされることに加え,標識率に応じた大きい標本数が不可欠であることを明らかにした。

日水誌, 67 (2), 203-208 (2001)

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潮汐に伴うアサリ漁場底層水中の植物色素量と懸濁粒子量の変化

沼口勝之(中央水研)

 熊本県菊池川河口域のアサリ魚場において,潮汐に伴う底層水中の植物色素量(クロロフィル α,フェオ色素量)と懸濁粒子量およびセジメントトラップで採集した沈降粒子中の植物色素量と粒子束の変化について調べた。底層水中のクロロフィル α 量は,満潮から高潮時に増加し,干潮から低潮時に減少した。また,沈降粒子中のクロロフィル α 量も満潮から高潮時に増加し,干潮から低潮時に減少した。これらのことからアサリ魚場では満潮時に沖合から植物プランクトンが補給されていることが推察された。潮汐とアサリの摂餌活動の関係を調べた結果,アサリの消化盲嚢に含まれるフェオ色素量は満潮から高潮時に著しく増加した。アサリは,餌料が増加した満潮時から高潮時に活発に摂餌活動を行っていることが示唆された。また,アサリ魚場の底層水中にはクロロフィル α とフェオ色素を多く含む微細粒子が多いことが確認された。

日水誌, 67 (2), 209-216 (2001)

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皇居上道灌濠における三倍体および四倍体ギンブナ Carassius langsdorfii の雌性発生生殖とクローン性の証拠

間田康史,海野徹也,荒井克俊(広島大生物生産)

 皇居上道灌濠より得た三倍体と四倍体のギンブナを養成し,各々より成熟卵を得た。これらの卵をキンギョ精子で受精し,その子孫について,細胞核 DNA 量,性別,DNA フィンガープリント像を調べた。その結果,三倍体と四倍体の子孫は,各々三倍体雌と四倍体雌であり,子孫はいずれも母親と同一の DNA フィンガープリント像を示した。以上の結果は,皇居の三倍体,四倍体ギンブナはいずれも,非還元卵を産み,雌性発生によりクローンとして繁殖していることを結論した。

日水誌, 67 (2), 217-221 (2001)

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流水式海水電解装置による飼育排水の殺菌

笠井久会(北大院水),渡辺研一(日栽協厚岸),吉水 守(北大院水)

 流水式海水電解装置を用い,日本栽培漁業協会厚岸事業場の飼育排水を直接電気分解してその殺菌効果を検討した。生成次亜塩素酸濃度が 0.60 mg / L のときに 1 分間の処理で 99%, 1.28 mg / L では 99.9% 以上の殺菌率が得られた。同時に紫外線殺菌装置(1.0×105 μW・sec / cm2)とオゾン殺菌装置(TROs 0.5 mg / L, 1 min)の殺菌率を測定したが,ともに 99.99% であった。排水の一部 2.0 m3 / h を電気分解処理し,残りの 16.5 m3 / h の排水と混合処理した場合,残留塩素濃度 0.5 mg / L 以上,1 分間の処理で 99% 以上の殺菌率が得られた。

日水誌, 67 (2), 222-225 (2001)

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中層トロールシステムの網位置制御シミュレーション

胡 夫祥,東海 正,松田 皎(東水大)

 中層トロール漁法では,常に目標魚群に対して網位置を迅速に制御しなければならない。本論文では,著者らが提案した中層トロールシステムの運動特性を求めるモデルに基づいて,東京水産大学の練習船神鷹丸に装備されている中層トロール網を例とした網位置の制御シミュレーションを行った。ワープ長または船速を制御入力とした網位置の動態は海上実験で捉えた現象をよく再現した。シミュレーションの結果を実操業に応用する例として,あるワープ長と船速における網位置から,ワープ長と船速を調整することで,探知された目標魚群の位置へ網をより迅速に制御する方法を示した。また,探索曳網中の初期ワープ長による制御出力(水深および制御時間)への影響が小さいことも確かめられた。本論文に示したシミュレーションの結果を図表にして利用することによって,大幅な操業効率の改善が期待できる。

日水誌, 67 (2), 226-230 (2001)

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層別 Petersen 法を用いたサクラマススモルトの個体数推定

宮腰靖之,隼野寛史,永田光博(道孵化場),
James R. Irvine (Pacific Biological Station, Canada)

 北海道北部を流れる増幌川において標識再捕によりサクラマススモルトの個体数の推定を試みた。調査期間中の標識尾数,再捕尾数それぞれを合計した数値を用いて計算した pooled Petersen 法による推定値は偏りを持ち,週ごとにデータを層別した層別 Petersen 法(ML Darroch 法)がより適切な推定値を与えた。スモルトの移動速度とトラップの採集効率の時期的な変化が pooled Petersen 法による推定値の偏りの原因と考えられた。

日水誌, 67 (2), 231-237 (2001)

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飼料中のタウリンがヒラメ稚魚の成長および魚体内のタウリン濃度に及ぼす影響

朴 光植,竹内俊郎(東水大),青海忠久(京大水実),横山雅仁(中央水研)

 沿岸魚粉をタンパク質源に必須,非必須およびタウリンの結晶アミノ酸を添加した試験飼料を用いて,平均体重 0.15 g(平均全長 26 mm)のヒラメ稚魚を 5 週間飼育した。その結果,タウリンが添加された全ての試験区は対照区に比較し優れた飼育成績を示した。一方,必須および非必須の両アミノ酸単独添加区は対照区と同等の成績しか示さなかったことから,ヒラメ稚魚の成長に対するタウリンの有効性が明らかになった。飼料中のタウリン含量が 20 mg / g 前後で魚体中のタウリン含量はほぼ最大値に達するとともにタウリン無添加区の魚体中シスタチオニン含量は,タウリン添加区に比較し著しく高い値を示していた。これらの結果から,飼料中へのタウリン添加は,ヒラメ稚魚の含硫アミノ酸代謝に何らかの影響を及ぼすこと,飼料中のタウリン要求量は 15−20 mg / g の範囲にあることが示唆された。

日水誌, 67 (2), 238-243 (2001)

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京都府沖合海域における標識再捕データによる成体雌ズワイガニの死亡係数の推定

山崎 淳,大木 繁(京都海洋セ),田中栄次(東水大)

1990 年,1995〜1997 年に成体雌の標識放流を行い,再捕データをもとに最尤法により死亡係数を推定した。1990 年放流群の全減耗係数(Zi)は 1.699 year−1, 1995〜1997 年放流群の Zi は 0.975〜1.181 year−1 と推定された。一方,操業が周年禁止されている保護区内に放流された群の Zi は 0.561 year−1 と低い値であった。1990 年と 1995〜1997 年放流群との Zi の差を混獲投棄による資源減耗を軽減するための底曳網の操業禁止区域の設定と絡めて考察した。

日水誌, 67 (2), 244-251 (2001)

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マアジ肉のかまぼこ形成能の季節的変動

大迫一史,山口 陽,清原 満(長崎水試),野崎征宣(長大水)

 多獲性のマアジのねり製品原料としての利用化学的特性を明らかにするため, 1998 年 11 月から 1999 年 12 月にかけて長崎沿岸域で中小型旋網漁船により漁獲されたマアジを供試し,落し身およびこれに清水晒とアルカリ塩水晒を行なったマアジ肉から調製したかまぼこ形成能の季節的変動を検討した。かまぼこ形成能は,産卵期とおよび産卵期直後と推定される 2〜6 月頃では低く,さらに坐りにくく戻りやすいという傾向を呈した。アルカリ塩水晒と清水晒肉は類似した坐りおよび戻り特性を示すが,前者の方が戻りの低減と 90°C加熱でのかまぼこのゲル形成が少し強かった。

日水誌, 67 (2), 252-260 (2001)

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養殖ハマチ中骨のレトルト処理によるコラーゲンのゼラチン化と軟化

平岡芳信,城 敦子,成田公義,平山和子,菅 忠明(愛媛工技セ)

 養殖ハマチの中骨を食することができる程度に軟化させるレトルト処理の条件を調べたところ, 120°Cで 40 分以上の加熱が必要であった。この処理で骨のコラーゲンはゼラチン化したが,Ca と P の含量は変化しなかった。また,骨内での分布も変化しなかったので,レトルト処理による軟化はゼラチン化が原因であると推定した。ハマチの骨は Ca 資源としてだけではなく,脂質含量が高く,この処理でも減少しないので DHA と EPA の供給資源にもなる。

日水誌, 67 (2), 261-266 (2001)

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多変量解析による魚醤油と大豆こいくち醤油の官能評価

舩津保浩,加藤一郎(富山食品研)

 醤油麹を用いて製造したマルソウダ魚醤油( FMS ),国内産魚醤油(しょっつる,いかいしる,いわしいしる( IS )),外国産魚醤油(ナンプラ,ニョクマム,パティス,魚露( Yui)および大豆こいくち醤油(SS)の官能評価点を多変量解析し,さらに,その評価点と各試料の色および化学成分との関係を追跡した。その結果,クラスター分析によると,FMS は SS との類似度は高いが,IS や Yui とのそれは低かった。主成分分析によると,FMS は風味の強さの点で SS と,また,風味の嗜好性の点で,他の魚醤油と異なっていた。さらに,色の濃さは,L*値と,塩味は食塩分と,味のバランスや香りの好ましさは,pH とそれぞれ相関関係が見られた。

日水誌, 67 (2), 267-273 (2001)

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ワニエソ筋原繊維の脱水に伴う水の状態変化とタンパク質変性に及ぼすアルギン酸ナトリウムの添加効果

本村 宏(大村城南高校),野崎征宣(長大水)

 褐藻類(ヒジキ,ワカメ,コンブ)から抽出したアルギン酸ナトリウム( Na−Alg)をエソ筋原繊維(Mf)に添加し,脱水に伴う Mf 中の水の状態と変性との関わりを比較検討した。
 その結果,Na−Alg は水分活性を低下させ,Mf 中の単分子層および多分子層収着水の増加効果を有すると同時に,Mf の脱水変性抑制効果を有し,抑制効果と水の状態との間には関連性を有することが認められた。このことから,Na−Alg は Mf 周囲の水を安定化することにより,Mf の脱水による変性抑制効果を発現していることが示唆された。

日水誌, 67 (2), 274-279 (2001)

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ホタテガイ生鮮貝柱の硬化発現の季節変化

木村 稔,成田正直,今村琢磨(網走水試),潮 秀樹,山中英明(東水大)

1997 年 6 月,9 月,11 月及び 1998 年 4 月に水揚げされたホタテガイの貝柱について,0°C 貯蔵中の硬化発生率,ATP 関連物質,L−アルギニンおよびオクトピンの変化を調べた。9 月のホタテガイでは,4 月のものに比べて ATP と pH の低下,硬化の発現,オクトピンの蓄積が著しく速かった。ホタテガイ貝柱は水揚げする時期によって,硬化による品質低下が異なることが明らかとなった。ホタテガイ水揚げ時の海水温度は,9 月では 18.8°C, 4 月では 4.4°C であった。このため,ホタテガイの棲息海水温度と貯蔵温度との差が貝柱の硬化に大きく影響していたと推定される。

日水誌, 67 (2), 280-285 (2001)

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ウナギおよびティラピアの死後変化に及ぼす即殺前加圧処理の影響

永井 慎(鹿大院連研),進藤 穣,御木英昌(鹿大水)

 水中の生きた魚に水面から 2〜5 ata(絶対圧)の空気圧を 50 分間加える加圧処理(PT)を行い,即殺後に PT が魚体の死後変化に及ぼす影響を検討した。ウナギおよびティラピアを PT(4.5 ata)した場合,酸素は常圧より 2.1 倍多く取り込んだ。即殺後の ATP 初期含量は,背肉で対照区より 1.4 倍多く,それぞれ 6.9, 4.1 μmol / g 存在した。そのため,ATP 含量は 5 °C で貯蔵した後も高濃度に保持され,最大硬直到達時間が両魚種とも対照区より 1.4 倍遅延し,それぞれ 78.0 h, 12.5 h となった。
 以上より,致死以前に生きた魚を加圧処理することで死後硬直が遅延することが認められた。

日水誌, 67 (2), 286-290 (2001)

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ウナギの死後変化に及ぼす高張生理食塩水の即殺前投与効果

永井 慎(鹿大院連研),井上裕基,進藤 穣,御木英昌(鹿大水)

 生きたウナギに高張生理食塩水( HS)を投与し,即殺後の死後変化におよぼす影響を調べた。HS 投与後に即殺する適切な時間は,血糖の存在とインシュリン値が最大に達した時から 2〜3 時間後と判断された。即殺後,筋肉ではグリコ−ゲン含量の減少に伴い,ATP 含量の減少抑制が 20 時間まで認められた。これより,死後硬直の遅延効果が示唆された。しかし,ATP 分解速度の違いが生じ,対照区との間に最大硬直到達時間の有意な差は認められなかった。よって,HS 投与が死後初期に ATP 再生を促し,死後硬直の遅延に影響すると考えられた。

日水誌, 67 (2), 291-295 (2001)

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石川県で製造された魚介類の糠漬け製品中の微生物フローラ

久田 孝,宮本浩衣,坂尻 誠,安藤琴美,矢野俊博(石川県農業短大)

13 の製造元で製造されている魚介糠漬け 36 製品について調べたところ,全体的に最優勢菌群は好塩性の乳酸球菌であった。しかし,その菌数は製造元あるいは製品によって大きく異なり,検出限界以下(<102 / g )〜 107 / g であった。好塩性あるいは耐浸透圧性の酵母菌数も製造元あるいは製品によって異なり,検出限界以下〜106 / g であった。これら糠漬け試料のうち 3 製品のみで,好気性球菌や酵母が乳酸球菌よりも優勢となっていた。糠漬け中の主な有機酸は乳酸であったが,その濃度も 0.1〜1.7 g / 100 g と製造元や製品によって異なった。揮発性塩基窒素(VBN)は糠漬け中に 50〜230 mg / 100 g であった。

日水誌, 67 (2), 296-301 (2001)

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バイオレメディエーション用栄養剤 Inipol EAP22 の海産生物 4 種に対する急性毒性(短報)

坂見知子,高柳和史(養殖研),白石 学(中央水研)

 流出原油のバイオレメディエーションに用いられる栄養剤 Inipol EAP22 の毒性を 4 種の海産生物について調べた。本薬剤に 96 時間暴露したときの LC50 は,ヒラメ仔魚 12 日齢で 31.8 ppm,20 日齢で 25.4 ppm,30 日齢で 182 ppm,シロギス稚魚で 224 ppm,海産橈脚類 Tigriopus japonicus で 53.6 ppm,アコヤガイで 638 ppm であり,仔魚の感受性が高いことが示された。

日水誌, 67 (2), 302-303 (2001)

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電解海水による飼育器具の消毒(短報)

渡辺研一(日栽協),吉水 守(北大院水)

 海水を電気分解して得られる次亜塩素酸を含む電解海水の,飼育器具類に対する消毒効果を調査した。ホース,バケツおよび長靴では, 0.5 mg / L の次亜塩素酸を含む電解海水に 30 分間浸漬することにより生菌数は 99.9% 以上減少し,十分な消毒効果が認められた。タモ網,注水ネットおよびキャンバス地では,同等の効果を得るのに 120 分間を要した。

日水誌, 67 (2), 304-305 (2001)

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マルソウダ魚醤油中のポリアミン量と重金属量(短報)

舩津保浩,川崎賢一(富山食品研),松永明信(富山衛研),
小長谷史郎(國学院短大)

 セミドレス形態のマルソウダから調製した魚醤油( FMS),落し身からの魚醤油(MMS)および残滓からの魚醤油(WS)中のポリアミン量と重金属量を,市販魚醤油(しょっつる,ナンプラ,ニョクマム,パティス,魚露(Yui))および大豆こいくち醤油(SS)のそれらの量と比較検討した。その結果,FMS, MMS および WS 中に検出されたポリアミンの量は,SS に比べて,プトレシン量とカダベリン量は多いが,その他は SS のものとほぼ同レベルであった。Yui 中のプトレシン量は,1156 mg / L と非常に多かったが,Yui 以外の試料では,ポリアミン量は 1000 mg / L を超えるものはなかった。また,いずれの魚醤油も重金属量は,SS におけるレベルとほぼ同じレベルにあった。

日水誌, 67 (2), 306-307 (2001)

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