Fisheries Science 掲載報文要旨

水産動物のカロテノイド(総説)

松野隆男(京都薬科大名誉教授)

 カロテノイドは黄~赤色の色素で,バクテリア,カビ,動植物から約650種が報告されている。これら色素は遊離,エステル,配糖体,硫酸エステル,カロテノプロテインとして存在する。近年,ビタミンAやβ-カロテンに抗腫瘍活性が認められ,海洋カロテノイドに対する関心が高まってきた。本稿では,海綿,腔腸,軟体,節足,棘皮,原索,および魚類から得られた117種のカロテノイドについて概説するとともに,それらの比較生化学的考察および代謝について述べる。
67(5), 771-783 (2001)
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台湾東海域におけるシイラの繁殖生態

呉 春基,蘇 偉成(台湾水試),川崎 健(東北大)

 台湾東海域に来遊するシイラの繁殖生態を明らかにするため,1996年9月から1997年9月までの期間に延縄,流し網,定置網で漁獲された1439尾の標本について,雌雄別に生殖腺重量,卵径,肝臓重量等を測定した。平均の性比は65%で,雌が優占していた。卵母細胞は直径1.0mm以上で完熟し,透明卵が認められた。個体当りの卵巣卵数は2.78×105~23.48×105であるが,バッチ抱卵数は卵巣卵数の5.3%~32.7%(平均23.1%)であった。最小成熟体長が雌雄ともに51cmと推定された。シイラの成熟,産卵様式は多峯連続産卵型と考えられる。本種は周年産卵を行っているが,盛期は2月~3月である。
67(5), 784-793 (2001)
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有害渦鞭毛藻Heterocapsa circularisquamaと細胞内細菌増殖における関係

牧 輝弥,今井一郎(京大院農)

 有害渦鞭毛藻H. circularisquamaは,大量の二枚貝を弊死させる赤潮を引き起こす。本藻の食胞内には細菌が観察され,混合栄養を営んでいると考えられた。しかし,本藻のクローン5株と無菌株を低栄養や低光強度条件下で培養しても,増殖速度と生存率に顕著な差異が認められず,細菌捕食の有効性を確認できなかった。H. circularisquama 5株の細胞内細菌群は,増殖のパターンによって3グループに分けられた。本藻への細胞内細菌の依存程度は様々で,生細胞に依存するものから本藻の死細胞を利用するものまで考えられる。
67(5), 794-803 (2001)
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カタクチイワシ網膜の集合桿体と光反射組織

Kamonpan Awaiwanont(鹿大水),Wisnu Gunarso(ボゴール農科大学),鮫島宗文(鹿大医),林 征一,川村軍蔵(鹿大水)

 カタクチイワシ網膜の錐体には長錐体と外節が二叉状の短錐体(short bifid cone)から成り,一個の長錐体は両側の短錐体外節と形態的単位を形成している。さらに,長錐体外節と短錐体外節はグアニンとヒポキサンチンから成る板状の光反射組織(retinal tapetum)で覆われていて,錐体を通過した光はretinal tapetumで反射して錐体を再刺激する構造になっている。錐体とretinal tapetumの位置関係は網膜運動反応にかかわらず一定である。桿体は集合体を成している(grouped rod)。集合桿体とretinal tapetumは夜行性や深海性の魚の網膜に見られるものであるので,カタクチイワシ網膜は薄暗い環境に適応した形態的特徴をもつといえる。
67(5), 804-810 (2001)
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アラハダカの耳石日周輪形成とその月周性

林  周,川口弘一,渡辺 光(東大海洋研),石田 実(中央水研高知)

 西部北太平洋で優占するアラハダカMyctophum asperumの耳石日周輪形成とその月周性を示した。稚魚37個体における耳石縁辺成長率の経時変化から,本種の耳石微細輪紋は,夜間の20:00頃から翌朝08:00頃にかけて形成されることを証明した。更に成魚11個体において変態以降に形成された日周輪幅は月齢に同調して変化し,満月前後の日周輪の間隔には,その前後の新月時に形成されたものより狭くなる傾向があった。これらの原因として,満月光による日周鉛直移動の抑制や餌料動物プランクトンの分散による成長の遅滞が考えられた。
67(5), 811-817 (2001)
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ニジマスの卵と精子の質および脂質組成に及ぼす必須脂肪酸(EFA)欠乏の影響

Robert Vassallo-Agius,渡邉 武,吉崎悟朗,佐藤秀一,竹内 裕(東水大)

 ニジマスの卵と精子の質および脂質組成に及ぼすEFA欠乏の影響を調べるため,産卵前4ヶ月間,EFA欠乏飼料を与え,得られた卵と精子を対照区のものと掛け合わせた。その結果,EFA欠乏区の親魚5尾中2尾から得られた精子では活力が低いものがみられ,これらの精子で受精させた卵のふ化率は両区ともやや低い値となった。卵および精子の脂質組成や脂肪酸組成は飼料脂質を反映しており,脂質含量が高く,n-3高度不飽和脂肪酸(HUFA)含量が低かったEFA欠乏飼料区では脂質含量が高く,n-3 HUFAの割合が低かった。両区とも卵および精子の極性脂質の主成分はフォスファチジルコリンで,精子では次いでフォスファチジルエタノールアミンが多かった。また,脂肪酸ではエイコサペンタエン酸(20:5n-3)の割合が両区とも卵より精子で高かった。
67(5), 818-827 (2001)
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カタクチイワシEngraulis japonicusのミトコンドリアゲノム全塩基配列

井上 潤(東大海洋研),宮 正樹(千葉中央博),塚本勝巳,西田 睦(東大海洋研)

 カタクチイワシEngraulis japonicusのミトコンドリアゲノム全塩基配列を,ロングPCRのテクニックと計56の魚類汎用プライマーを用いて直接法により決定した。本種のミトコンドリアゲノムは全長16,675塩基対(bp)で,他の脊椎動物と同様に2個のリボゾームRNA遺伝子,22個の転移RNA(tRNA)遺伝子,ならびに13個のタンパク質遺伝子から構成されていた。また,遺伝子の配置も他の一般的な脊椎動物のものと一致した。tRNAPro遺伝子とtRNAPhe遺伝子の間にみられた1024 bpの非コード領域は,いくつかの保存的領域を含むことから,調節領域(D-loop領域)に相当すると考えられた。
67(5), 828-835 (2001)
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各種の薬剤添加餌料で養殖したブリの腸内細菌の薬剤耐性

森井秀昭,壱岐 隆(長崎大水),Manish S. Bharadwaj(長崎大海洋生産研)

 ブリへ各種薬剤を経口投与し,腸内細菌の薬剤耐性化の可否を検討した。腸内の生菌数は薬剤投与で著しく減少し,また細菌フローラは薬剤投与に関係なく主にコリネ型細菌,StaphylococcusおよびBacillusで構成された。これらフローラの各薬剤に対する耐性化の割合は薬剤投与および無投与試料間で意味ある違いは見られなかった。なお,フローラは大部分が各種薬剤に対し単剤および多剤耐性を示し,またその多くが多剤耐性菌であった。
67(5), 836-842 (2001)
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マイクロサテライトおよびミトコンドリアDNAマーカーによる日本,オーストラリア,ニュージーランド沿岸産ヒラマサの遺伝的分化について

Estu Nugroho(東北大院農),Douglas J. Ferrell(NSW Fisheries Research Institute, Australia),Peter Smith (NIWA, New Zealand),谷口順彦(東北大院農)

 日本,オーストラリア,ニュージーランド沿岸産ヒラマサの遺伝的分化と多様性を評価するため,それぞれの海域から採集した標本群についてマイクロサテライト(MS)およびミトコンドリア(mt)DNAマーカーを検出した。MS-DNAマーカーでは平均マーカーアリル数は16~25.7,平均ヘテロ接合体率は0.65~0.75で,遺伝的多様性は相対的に高かった。5つの制限酵素によるmt-DNAの切断パターンの組み合わせから,12のハプロタイプが検出された。日本の標本群と他の2標本群の間には,顕著な遺伝的差異が認められたが,オーストラリアとニュージーランドの2標本群間には有意差は検出されなかった。
67(5), 843-850 (2001)
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刺網のサイズ選択性に及ぼす細い網糸の影響

横田耕介(東水大),藤森康澄,塩出大輔(北大院水),東海 正(東水大)

 呼称目合(41, 46, 51 mm),網糸太さ(0.8号:直径0.16 mm, 3号:直径0.28 mm)の異なる6種類の刺網を用いて,ニジマスを対象に水槽実験を行った。呼称目合が同じでも,0.8号の網目内径は3号に比べて約2 mm大きかった。網目内径の違いによる影響を取り除くために,胴周長/網目内周長に対する選択性曲線を推定したところ,細い網糸の刺網は,網目内周長よりも小さい胴周長の個体をより多く漁獲した。細い網糸がより柔軟で,小型の魚体を保持し易い可能性がある。
67(5), 851-856 (2001)
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日本産コンブ属植物3種のRAPDマーカーの検出

四ツ倉典滋(北大理),川井唯史(道中央水試),本村泰三,市村輝宜(北大理)

 3種類(R1, R2, C2)のランダムプライマーを用いたRAPDで,マコンブ(戸井産),ホソメコンブ(小樽産),リシリコンブ(稚内産)を識別可能な再現性のあるRAPDマーカーが得られた。戸井産マコンブに見られたRAPDマーカーは異産地(恵山産,函館産,福島産)のものでも確認できた。乙部産ホソメコンブでも小樽産と同様の結果を示したが, 今回2年生ホソメコンブとして扱った厚田産のものは, マコンブとの間のRAPDマーカーは検出できたものの,リシリコンブとの間では検出できなかった。
67(5), 857-862 (2001)
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ウナギ稚魚における経口投与IgY血中移行量の成長に伴う変化

中村 修(北里大水),鈴木 譲(東大農水実),会田勝美(東大院農),八田 一(京都女子大)

 給餌開始前のシラスウナギにニワトリIgY(2.0 μg/0.1g 体重)を経口投与し,IgY血中濃度をELISAで測定した。さらに給餌開始の12, 25, 42日後に経口投与し,成長にともなう血中移行量の変化を調べた。その結果,給餌前では血中濃度が2.03 μg/mLまで上昇したが,給餌開始後,IgYの血中移行は顕著に減少し,42日後の投与ではほとんど検出されなかった。この間,消化管,特に胃の著しい発達が見られたことから,消化力の向上に伴い,タンパクの血中移行が減少するものと推察された。
67(5), 863-869 (2001)
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人為催熟に伴うニホンウナギ卵母細胞の微細構造の変化

萱場隆昭(道栽培セ),武田典子(道孵化場),足立伸次,山内皓平(北大水)

 人為催熟したニホンウナギの卵形成過程および卵母細胞の微細構造について観察した。催熟前の卵母細胞内には油球および多胞体が存在した。卵黄形成期になると,電子密度が高い卵黄球と繊維状,または格子状の構造を有する表層胞が観察された。また,卵膜には網状の内層が形成され,内層は卵黄形成の進行に伴って厚みを増し,核移動期には層状構造となった。一方,核移動期には卵黄球の電子密度が顕著に低下し,卵母細胞の透明化が観察された。そのため,ウナギ卵において吸水は核移動期から開始することが示された。
67(5), 870-879 (2001)
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ニホンウナギの成熟に伴う肝臓の形態変化および血中ビテロジェニン量の変化

奥村浩美,佐伯文博,松原 創,足立伸次,山内皓平(北大水)

 人為催熟したニホンウナギの成熟に伴うビテロジェニン(VTG)の動態を調べるため,抗ニホンウナギリポビテリン血清を用いた免疫組織学的観察によるVTG産生細胞の観察および血中VTG量の測定を行った。その結果,VTG産生細胞は成熟に伴い増加し続けた。また,成熟に伴い肝細胞中に脂肪滴が増加し,核移動には肝細胞の大部分を占めた。一方,血中VTG量は,成熟に伴い増加し,この変化は血中エストロジェン量とほぼ相関していた。以上のことから,肝細胞中の脂肪滴の異常な増加とVTGが産生され続けることは,ウナギの人為催熟による問題点であると推測された。
67(5), 880-887 (2001)
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沖縄海域に生息するアミアイゴの月齢同調卵巣発達と産卵に関する組織学的証拠

Harahap, A. P.,竹村明洋,仲村茂夫,Rahman, M. S.,高野和則(琉大・熱生研)

 沖縄海域におけるアミアイゴ雌の月齢同調卵巣発達と産卵リズムが組織学的に明らかにされた。5月から7月に本種の生殖腺体指数(GSI)は高値を示し,卵巣内には卵黄球期や成熟期にある卵母細胞が確認されたため,産卵期であると考えられた。産卵期に月周にあわせてアミアイゴを毎週採集した結果,新月時にGSIが高くなった。卵母細胞は新月に向かって発達し,新月直後の卵巣内は未熟な卵母細胞で占められた。以上の結果から,アミアイゴは新月に同調した産卵が沖縄海域では少なくとも3回あると考えられた。
67(5), 888-893 (2001)
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ネズミイルカの遊泳速度と酸素消費率

大谷誠司(総研大),内藤靖彦,加藤明子(極地研),河村章人(三重大)

 ネズミイルカPhocoena phocoenaの遊泳行動と酸素消費量を飼育下において同時に測定した。ネズミイルカは水槽内でも野外と同様に,昼夜を問わず遊泳しており,その速度範囲は0.5-4.2 m/sで,平均遊泳速度は0.8-0.9 m/sであった。遊泳時の酸素消費率は,遊泳速度の3乗に比例して増加しており,最小移動コストは1.3-1.5 m/sの時に2.39-2.43 J/kg/mであった。しかし,野外においては酸素消費量の少ない遅い速度で遊泳し,常に有酸素代謝を行っていた。このことが水面で休息をとることなく連続して潜水することを可能にしていると考えられた。
67(5), 894-898 (2001)
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パラオ産海綿Phyllospongia dendyi由来の生物活性を有する新規ブロモフェノール

服部忠正,紺野 彩,足立恭子,志津里芳一(海洋バイオ研)

 bromophenol化合物には様々な活性を有することが現在までに報告されている。我々は,パラオ産海綿Phyllospongia dendyiからアオサ胞子に対する付着および発芽阻害活性物質として4つの新規および1つの既知のbromophenolを単離した。新規物質はNMRとMSにより構造決定を行った。5つの化合物において,アオサ胞子に対する付着および発芽阻害活性のIC50は0.02-0.05 p.p.m.であった。さらに,すべての化合物が種々の藻類に対して0.5~5.0 p.p.m.で抗微細藻活性を有することがわかった。
67(5), 899-903 (2001)
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長時間運動時とその回復時におけるコイの筋肉および肝膵臓の酵素活性および代謝中間体濃度の応答

杉田 毅,示野貞夫,中野伸行,細川秀毅,益本俊郎(高知大農)

 コイは長時間運動により著しく疲労し,筋肉と肝膵臓のグリコーゲン含量は減少し,血清のグルコースおよび乳酸の含量は,肝膵臓のG6PaseおよびFBPaseの活性とともに増大した。また,筋肉のPFK活性は減少したが,AMP, ADP, ATPなどの濃度は本活性を賦活する濃度域に変化した。その後3時間の休息によって,各成分は安静時のレベルに回復しなかった。以上の結果から,運動時には筋肉で解糖生成した乳酸は肝膵臓で糖新生されて筋肉に移行しているし,休息時には肝膵臓の糖新生が筋肉成分の修復に寄与しており,糖代謝の臓器相関が示唆された。
67(5), 904-911 (2001)
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スルメイカ鰓トランスグルタミナーゼの精製と性質

埜澤尚範(北大院水),趙 舜榮(韓国江陵大),関 伸夫(北大院水)

 スルメイカ鰓組織に高濃度に存在する組織型トランスグルタミナーゼを収率12.6%, 14.1倍に精製した。本酵素はCa2+依存型チオール酵素で,分子量はSDS-PAGEにより94 kDaと推定された。本酵素はNaCl濃度依存的に活性が増大し,10 mM CaCl2, 0.7 M NaClで最大活性を示した。反応至適pHおよび温度は,それぞれ8.0および20℃であった。本酵素はCa2+非存在下ではpH 7.5-9.0および40℃以下で殆ど失活が見られなかった。以上の結果,特に,本酵素が生理的塩濃度以上のCa2+およびNaClで活性化する事から,本酵素は,組織の損傷時に海水や体液と接触して活性化する可能性が示唆された。
67(5), 912-919 (2001)
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スケトウダラすり身とコイアクトミオシン肉糊の加熱ゲル形成に及ぼすpHの影響

倪 少偉,埜澤尚範,関 伸夫(北大院水)

 スケトウダラすり身肉糊はpH7, Ca2+存在下で弾力性のある強いゲルを形成したが,アクトミオシンでは低かった。EGTA存在下ではいずれもpHにかかわらず弱いゲルであった。アクトミオシンでは非プロテアーゼによる戻りが強くおきた。コイのアクトミオシン・ゾルの加熱ゲル形成はpH7より6で多少硬いゲルが形成されたが,微生物トランスグルタミナーゼによる坐り導入ではpH7で強いゲルを形成した。これらの結果から,ゲル形成の至適pHは肉糊中のトランスグルタミナーゼとアクトミオシンのコンフォメ-ションに及ぼすpHの影響によって決定される可能性が高いことを推測した。
67(5), 920-927 (2001)
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グラミスチンの脂質との相互作用および抗菌活性

横田 博,長島裕二,塩見一雄(東水大)

 ヌノサラシおよびアゴハタの体表粘液から単離した4成分のグラミスチンについて,脂質との相互作用および抗菌活性を調べた。グラミスチンの溶血活性はリン脂質で阻害されること,グラミスチンはホスファチジルコリンのリポソ-ムに封入した蛍光物質を漏出させることから,膜のリン脂質と結合して膜溶解を引き起こすことが判明した。一方,グラミスチンはグラム陰性および陽性の各種細菌に対して広い抗菌スペクトルを示し,パルダキシンやメリチンと同様に細胞非特異的膜溶解ペプチドに分類された。
67(5), 928-933 (2001)
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マダコの主要アレルゲンとしてのトロポミオシンの同定およびそのIgE結合エピトープ解析

石川 勝,鈴木ふみ,石田真巳,長島裕二,塩見一雄(東水大)

 マダコの主要アレルゲン(Oct v1)を精製し,部分アミノ酸配列からトロポミオシンと同定した。Oct v1のリシルエンドペプチダーゼ分解で得られたペプチドを競合ELISAに供したところ,IgE結合エピトープは3成分のペプチド(77-112, 148-160, 269-280)に含まれることが判明した。これらIgE結合エピトープは,軟体動物および甲殻類のアレルゲン(トロポミオシン)ですでに報告されているエピトープの一部と一致した。
67(5), 934-942 (2001)
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ドチザメ筋原線維とその構成タンパク質のATPaseに及ぼす尿素およびトリメチルアミンオキシドの影響

加納 哲,北村雅也,堀江悠太,笠間勇輝,丹羽栄二(三重大生物資源)

 Ca2+およびMg2+-ATPase活性を指標にドチザメ筋原線維の尿素耐性に及ぼすトリメチルアミンオキシド(TMAO)の影響を調べた。両活性は尿素により0.6 Mまでは影響を受けないかあるいは活性化されたのに対し,TMAO添加により活性は50%以下に低下した。さらに尿素とTMAOを2:1で共存させた場合においても,TMAOのみのときと同様に抑制傾向を示し,TMAOはドチザメ筋原線維ATPase活性の尿素耐性を低下させることが示された。
67(5), 943-947 (2001)
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種々の魚種の背部普通筋中へのピンク筋介在割合の違いがそれらの5′-IMP分解酵素活性に及ぼす影響

矢田 修,槌本六良,王  勤,Paula Andrea Gomez Apablaza, Abdul Jabarsyah,橘 勝康(長大海研)

 魚類背部普通筋へのピンク筋介在の違いが5′-IMP分解酵素活性に及ぼす影響について検討した。5′-IMPとρ-NPP分解活性はそれぞれpH 8.0とpH 5.0付近でピークを呈した。pH 7.0での5′-IMP分解活性は,ピンク筋介在割合とに(細胞数:r=0.579, p<0.05.面積:r=0.660, p<0.05),また,32℃K値上昇率とにも(r=0.887, p<0.001)正の相関を認めた。従って背部普通筋へのピンク筋介在の違いによる5′-IMP分解活性の違いは,同一棲息水温における魚種のK値変化の差違に影響を及ぼすと考えられた。
67(5), 948-955 (2001)
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海洋細菌Pseudomonas sp. F6株のカルシウム依存性菌体外グルロン酸リアーゼ:精製と性質

宮崎正俊,小幡順子,岩本佳子,小田達也,村松 毅(長崎大水)

 海洋細菌Pseudomonas sp. F6株の菌体外グルロン酸リアーゼを精製し,性質を明らかにした。36 kDaの精製酵素の至適pHは7.5で40-80℃の加熱処理(15分)で約70%の残存活性を保持したが100℃で消失した。このパターンは共存タンパク質により変化した。6 M塩酸グアニジンおよび8 M尿素による変性を含め,酵素タンパク質の変性状態からの回復が観察された。b構造(円偏光二色性スペクトル)を持ち,100 mMの CaCl2により約9倍(EGTA処理酵素を対照)活性を高めたが,NaClにはその効果は認められず,活性中心に Ca2+が関与していることが示唆された。
67(5), 956-964 (2001)
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冷蔵中の魚肉軟化への金属プロテアーゼの関与

久保田光俊,木下政人(京大院農),久保田賢(高知大農),山下倫明(中央水研),豊原治彦・坂口守彦(京大院農)

 冷蔵中の魚肉の軟化に関わるタンパク質分解酵素を検索する目的で,各種プロテアーゼ阻害剤の影響をヒラメを用いて検討した。生体の尾部血管へ阻害剤溶液を注入し,4℃保存中の筋肉の軟化を即殺時から6時間後の剪断強度の低下として調べた。その結果,金属プロテアーゼ阻害剤が有意な軟化抑制効果を示した。セリンプロテアーゼ阻害剤も有意ではないが抑制傾向を示すこと,システインプロテアーゼ阻害剤は無効であることなどがわかった。これらの結果は,冷蔵中の筋肉軟化現象には主に金属プロテアーゼが関与している可能性を示唆した。
67(5), 965-968 (2001)
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フローサイトメトリーによる練り製品表面の細菌数の迅速測定

遠藤英明,長野嘉之,任 恵峰,林 哲仁(東水大)

 練り製品(カマボコ)表面に成育する細菌の迅速測定をフローサイトメトリー(FCM)を用いて行った。まず,カマボコ表面に付着しているEscherichia coliを脱落させるため,超音波振動エネルギーを利用した。その結果,約3分の超音波処理でほとんどの菌体を脱落できることが明らかとなった。また,用いたカマボコ試料は,製品の破片などの細菌以外の粒子を含んでいる可能性があるため,細菌とそれら粒子を識別するためにpropidium iodideを用いた。その結果,FCMスキャッタグラムを解析することにより,それらを識別することが可能であった。さらに,カマボコ貯蔵下における細菌数の計測に本法を適用したところ,平板培養法で得られた結果との間に良い相関を示した。FCMの1検体あたりの測定所要時間は1分であり,試料の調製を含めても30分以内で測定が可能であった。
67(5), 969-974 (2001)
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アユ,ブリおよびニジマス肝臓ホスファチジルコリンの脂肪酸ハイドロパーオキサイド位置異性体の組成

Janthira Kaewsrithong,潮 秀樹,大島敏明(東水大)

 アユ,ブリおよびニジマス肝臓ホスファチジルコリンハイドロパーオキサイド(PC-OOH)から調製したハイドロキシ脂肪酸トリメチルシリル誘導体の組成を,選択イオン検出法を用いたガスクロマトグラフィー/質量分析法で分析した。ハイドロキシ脂肪酸のモル含量は既報のPC-OOHのモル含量とよく一致していたことから,ハイドロキシ脂肪酸異性体の含量はPC-OOHのハイドロパーオキシ基の含量を反映するものと考えた。ハイドロキシ脂肪酸量から換算したアユ肝臓中の10-hydroperoxy octadecanoic acid, 12-hydroperoxy eicosanoic acidおよび14-hydroperoxy docosanoic acidの含量はブリおよびニジマス肝臓のそれよりも有意に高く,魚類組織中のハイドロパーオキサイド異性体の含量と組成の相違が魚のにおいの違いに影響することが示唆された。
67(5), 975-982 (2001)
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アラハダカの成長(短報)

林  周,渡辺 光(東大海洋研),石田 実(中央水研高知),川口弘一(東大海洋研)

 西部北太平洋で優占するアラハダカMyctophum asperumの稚魚37個体と成魚11個体において耳石日周輪を計数し,既往知見から最大到達体長を仮定して変態期以降における本種の成長式

SL=85.0e-1.886e(-0.010D)


(D:変態終了からの日齢,SL:標準体長,mm)を求めた。本種の成長速度は変態直後で0.24 mm/日,最大で0.30 mm/日であり,仔魚から稚魚への変態後成魚(体長75 mm)になるまで,およそ9ヶ月かかることを明らかにした。これは同属のススキハダカM. nitidulumで報告されいていた成長速度より約4倍速い。
67(5), 983-984 (2001)
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サイロイドホルモンによるアワビ浮遊幼生の変態誘起(短報)

深澤博達,平井宏和,堀 秀成(静岡県大薬),Rodney D. Roberts (Cawthron Institute),糠谷東雄,石田均司,辻 邦郎(静岡県大薬)

 アワビ浮遊幼生の変態を既知神経作動薬および他の動物の変態に関与するホルモンが誘起するかどうか,クロおよびメガイアワビを用いて検討した。その結果,アワビ幼生変態誘起についてこれまで報告の無い神経作動薬,histamine, diphenhydramine, atropine, l-dopa, reserpineおよび,昆虫,甲殻類の脱皮ホルモンである20-hydroxyecdysoneには活性が認められなかった。それに対し,サイロイドホルモンであるthyroxine(T4)および3,3′,5-triiodo-L-thyronine(T3)にGABAと同等の顕著な変態誘起活性が認められた。この結果から,これらサイロイドホルモン作動によるアワビ幼生の変態機構が存在する可能性が考えられた。
67(5), 985-987 (2001)
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ホタテガイ・キャッチ筋トロポミオシンアイソフォームのcDNAクローニング(短報)

長谷川靖(室蘭工大・応用化学)

 ホタテガイ・キャッチ筋からPCRにより,3種類のトロポミオシンアイソフォーム(TM-1, TM-2, TM-3)をコードするcDNAを得た。これらのcDNAはいずれも5′,3′の非翻訳領域を含む926 bpからなっており,284個のアミノ酸をコードしていた。TM-1の推定されるアミノ酸配列は,すでに報告されているホタテガイ横紋筋・トロポミオシンの配列と完全に一致し,TM-2, TM-3の配列はそれぞれ92%, 95%の高い相同性を示した。これらの結果から,TM-1~TM-3がいずれもトロポミオシンアイソフォームをコードするcDNAであること,さらにキャッチ筋には少なくとも3種類のトロポミオシンアイソフォームが存在していることが明らかになった。
67(5), 988-990 (2001)
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マダイ筋肉におけるコラーゲン分解の季節変動(短報)

東畑 顕,田中正隆,豊原治彦(京大院農),田中秀樹(養殖研),豊原容子(華頂短大生活),村田道代(奈良教大),坂口守彦(京大院農)

 マダイ筋肉におけるコラーゲン分解の季節変動を検討するために,非タンパク態,ペプチド態および遊離のハイドロキシプロリン(Hyp)含量を測定した。その結果,いずれも雌雄とも有意に変動し(p<0.05),非タンパク態Hyp含量は雄では6, 11月,雌では9月に高く,雌雄とも4, 5月に低いことが明らかとなった。また,ペプチド態Hyp含量は雌雄とも11月に,遊離のHyp含量は雄では6, 11月に,雌では3, 9月に高値を示した。
67(5), 991-993 (2001)
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フィリピン,パナイ島,サピアン湾におけるDinophysis caudataおよびD. milesの発生と下痢性貝毒のミドリイガイへの蓄積(短報)

A. N. Marasigan(フィリピン大・水),佐藤 繁(北里大・水),福代康夫(東大・アジアセ),児玉正昭(北里大・水)

 フィリピン,パナイ島のサピアン湾において,Dinophysis属渦鞭毛藻の発生状況を1993年1月から12月にかけて調べたところ,下痢性貝毒(DSP)の原因種であることが指摘されているD. caudataとともにD. milesが同様の発生パターンで高密度に出現することを認めた。両者の天然細胞からはokadaic acidおよびdinophysistoxin-1が検出され,両者の発生量が最大となった7月に採集したミドリイガイからは安全消費の基準値を越えるokadaic acidが検出された。この結果はD. caudataばかりでなくD. milesも熱帯域のDSPの原因種となり得ることを示すものである。
67(5), 994-996 (2001)
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