第 3 回ジョイントシンポジウム
「有明海の環境・漁業を考える」(報告)

日本水産学会水産環境保全委員会


日本水産学会、土木学会海岸工学委員会、日本海洋学会海洋環境問題委員会、日本水産工学会の共催による第3回ジョイントシンポジウム「有明海の環境・漁業を考える」は、去る5月26日(土)東京水産大学において開催され、一般市民を含め研究機関、民間企業、NGOなどから350名の参加があった。また、日本水産資源保護協会のご厚意により、水産サイドでの調査・研究の蓄積として貴重でありながら、現在では入手が困難になっている池末 弥著「有明海における水産業展望」(水産増養殖叢書昭和41年刊)および斉藤雄之助・須藤俊造共著「のり生産と河川流量―その調査方法―」(水産研究叢書昭和59年刊)のコピーを配布することができた。

シンポジウムは9時から17時30分まで開催され、その内容は以下の通りである。
1. 「開会挨拶・趣旨説明」 石丸 隆(東水大)
2. 「有明海の変遷と現状」
座長 日野明徳(東京大学)
「物理環境特性」 滝川 清(熊本大学)
「底生生物相の変化」 菊池泰二(九州ルーテル学院大学)
「赤潮発生の状況」 板倉 茂(瀬戸内海区水産研究所)
「漁業−アサリ」 堤 裕昭(熊本県立大学)
「漁業−ノリ」 藤田雄二(長崎大学)
3. 「有明海の再生に向けて」
座長 灘岡和夫(東京工業大学)
「有明海の調査と評価の現状」 磯部雅彦(東京大学)
「生態系の再生─物質循環からのアプローチ─」 松田 治(広島大学)
4. 「総合討論─これからの課題と展望」
司会 石川公敏(産業技術総合研究所)、清野聡子(東京大学)
  コメンテーター: 磯部雅彦(東京大学)、佐々木克之(中央水産研究所)、中田英昭(長崎大)、古谷 研(東京大学)

「2. 有明海の変遷と現状」では、地元水産試験場、大学等の過去の調査研究、標本に基づいた実証的なデータをもとに現在の有明海との比較がなされ、埋め立て等の人為的な改変の影響を明らかにするためにはどのような研究が必要であるかを中心に、調査の時間・空間的なスケールと情報の質の関係、同じ項目内での調査手法に起因する大幅な数値の相違にまで論議が至った。

「3. 有明海の再生に向けて」では、磯部氏から、今回のノリ不作問題に端を発して設置されたいわゆる「第三者委員会」において収集されたデータの紹介があり、潮汐を初めとする有明海独自の環境下でのノリ不作、珪藻赤潮の発生原因を特定するために新たにどのような情報を収集するべきか、特に最も重要な海域の物質収支を論じられるデータが皆無であることが指摘された。松田氏からは、沿岸環境問題に関してその発生から対策に至るまで「先達」的な存在である瀬戸内海での研究をもとに、有明海では環境の変化と生態系の変化は、相互に悪循環に陥る「環境劣化のスパイラル」状態にあること、反対に物質循環を通じて大きな環境保全・修復機能を持っている水産業が「有明海再生のシンボル」であることが紹介され、研究成果を政策に反映させるための取り組み方も示された。

「4. 総合討論─これからの課題と展望」は、「湾スケール(個々の地先ではなく有明海を一つの海と考える)」、「学の役割」、「有明海の再生」をキーワードに進められ、泥干潟と砂泥干潟の浄化機能、湾外の高潮位の影響、流動の把握、河川の流況変化の影響などに関する質疑・応答から、今後、諫早湾干拓の影響評価を含め、湾全体の物質循環を科学的に論議しシミュレーションの精度を上げるために流動構造の詳細な調査が必要であること、生物・化学的には量・濃度の記載ではなくフロー・収支としてとらえること、データ共有のシステムを考えるべきことなどに意見の集約をみた。