ご 挨 拶

公益社団法人 日本水産学会

会長 塚本 勝巳


 2011年3月の東日本大震災と福島第一原発事故からの復興がまだ思うように進まないうちに、その5年後の今年4月には熊本大地震が発生し、多くの尊い命が失われました。亡くなった方々に追悼の意を表するとともに、被災された皆さまに心よりお見舞い申し上げます。日本を襲ったこれら2つの大災害によって、私たちは自分の住む国土の危うさと社会システムや科学技術の未成熟を再認識することになりました。また一方で、復興に向けた人々の絆の温かさとその重要性を感得いたしました。公益社団法人の日本水産学会は、これまでに特別委員会「東日本大震災災害復興支援検討委員会」を立ち上げ、東日本の復興支援に取り組んできました。今後は今回の熊本大地震も含め、日本を揺るがした未曾有の大災害からの復興に水産学の専門知識を活かして積極的に貢献いたします。
 うれしいニュースもありました。昨年日本から2人のノーベル賞受賞者が出たことです。微生物の研究から有用な抗生物質を発見し、多くの人々を救った医学・生理学賞の大村智博士とニュートリノの研究でノーベル物理学賞に輝いた梶田隆章博士です。受賞の知らせを聞いて大村博士は、「何か賞を取ろうと思って仕事をしているわけではなく、世の中の役に立とうと思って必死でやってきました」と受賞の喜びを語りました。また梶田博士は、「(私がやってきたのは)何かすぐに役立つようなものではなく、人類の知の地平線を拡大するような研究を、研究者個人の好奇心に従ってやっているような分野。そんな純粋科学にスポットをあてていただいたことは、非常にうれしく思っております」とコメントしました。どちらも等しく、社会に認められた大きな科学的業績ですが、それぞれ応用と基礎、向いている研究の方向が対照的です。こんなところにも意外な科学の本質とあり方を見るようで、大変興味深く思いました。
 社会における科学のあり方について思い出すのは、先年91才で亡くなった比較内分泌学の巨人Howard A. Bern博士の言葉です。新潟の山深い温泉を2人で訪ねたときのことです。露天風呂に浸かりながら、気持ちよさそうに眼を細めて私に話してくれました。「基礎の無い応用科学は、脆弱で未来はない。一方で、応用のない基礎科学は、自己満足でつまらないね」 つまり、多かれ少なかれ、あらゆる科学は基礎と応用の両面を合わせもつべきだということでしょうか。実学といわれる水産学にもやはり両面があり、基礎と応用の両方向に健全な発展をしていくことが大切かと思います。
 学会の起源は中世ヨーロッパです。神学を中心に秩序を重んじた中世の大学に反発し、もっと自由に様々な情報交換をしたいと考えた人たちが集まって出来たものが学会の原型だといわれています。最初の自然科学の学会は1660年に設立されたイギリスの王立科学アカデミーですが、そこは単なる学者のサロンであり、同好の士の集まりだったことは想像に難くありません。したがって、学会というものの起源や本質を考えるとき、私たちの水産学会がいつまでも楽しく自由に研究の面白さを語りあう場でありつづけてほしいと願っています。
 しかしまた一方で、時代と共に生じてきた社会における学問や学会の責任も果たす必要があります。自由な議論と学問の切磋琢磨を通じて得られる水産学の発展を基礎として、日本水産学会は人類の食料確保と地球環境の保全に貢献したいと考えています。そのために、関連産業や行政と連携し、水産・海洋に関する科学技術の進歩と普及に、会員の皆さまと力を合わせて専心努力するつもりです。これからも変わらぬご支援とご協力を、よろしくお願い申し上げます。