公益社団法人 日本水産学会

会長 渡 部 終 五


 2011年(平成23年)の3月11日に東北地方太平洋沖に発生したマグニチュード9.0の大地震は大津波をもたらし,多くの方々が被災し,幾多の人命が奪われました。また,大津波による東京電力福島第一原子力発電所の電源喪失は放射性物質の大量放出をもたらし,周辺地域のみならず,東日本の広い範囲が大きな被害を受けました。皆様に心よりお見舞い申し上げます。この東日本大震災は,沿岸地域の水産業および関連産業にも壊滅的な損害を与えるとともに,放出された放射性物質は沿岸の魚介類のみならず,内水面の水生生物をも汚染し,この面でも水産業に大きな被害をもたらしました。この1000年に一度といわれる大災害に直面して,公益社団法人化したばかりの日本水産学会はこの1年,会員が一致協力して被災した水産学関係者,関係機関の復旧の支援を行うとともに,壊滅的な被害を受けた水産業および関連産業の復興支援に取り組んできました。会員の皆様のご尽力にあらためて厚く御礼申し上げます。日本水産学会は今期に特別委員会「東日本大震災復興支援検討委員会」を立上げ,復興支援にさらに積極的に取組む所存です。
 若年人口の減少などからわが国の学術団体の会員数は一般的に減少傾向にありますが,日本水産学会はほぼ一定の会員数を維持しており,水産学への関心の高さがうかがえます。あわせて,これまでの会員の努力がこのような日本水産学会の活性化に大きな役割を果たしたものと思います。一方,わが国の水産業に目を向けると,種々の問題が横たわっています。若い世代の魚食離れ,漁業従事者の高齢化,国際競争力の低下などです。日本水産学会がこれら水産業の抱える種々の問題になかなか迅速,適切に対応できていないことは,改善しなければならない大きな課題の一つです。食料の確保,環境の保全といった人類の福祉のための水産学の発展を担うのが日本水産学会の役割ですので,学術雑誌の刊行,産業界や官界との連携,水産教育,水産政策,国際交流,広報活動などを通して,諸問題の解決にあたりたいと思います。基礎学問の発展はもちろん水産学の発展に欠くべからざる所ですが,学問栄えて産業が衰退ということがないように,東日本大震災の復興への支援とともに,水産学の新たな発展のために会員のより一層のご努力を期待します。
 日本水産学会は今年で創立80周年を迎えます。日本水産学会の創立までは水産学関連学会は3団体あり,水産講習所(現,東京海洋大学)が設立した東京水産学会は1900年に機関誌「水産」を,北海道帝国大学水産専門部は1907年に「水産研究誌」を,一方,東京帝国大学農科大学水産学科は1910年に「水産学雑誌」を刊行していました。1932年,世界大恐慌の最中,上述の3機関の関係者などを集めて日本水産学会が設立されました。前述のように,日本水産学会は今年で創立80周年を迎えますが,東京水産学会の設立年からとなると100年以上にもなります。アメリカ水産学会の142周年には及ばないものの,日本水産学会は古い歴史をもち,過去に示した基礎科学の推進や社会貢献の実績はかけがえのないものです。日本水産学会は85周年で大規模な記念事業を予定していますが,本年,会員の負担にならない程度の何らかの80周年記念事業を行いたいと考えています。
 日本水産学会は現在,アメリカ水産学会,イギリス島嶼水産学会,韓国水産科学会,中国水産学会と国際学術交流を進めており,世界の水産学関連学会の連合体である世界水産学協議会でも日本水産学会は重要な役割を果たしております。四方を海に囲われ,古くから海の恵みを享受してきたわが国の日本水産学会会員が,世界の水産が抱える諸問題の打開にも積極的に関与することを期待します。