水産学進歩賞 |
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小田達也氏「赤潮生物の毒性因子に関する生理学的および生化学的研究」
小田氏は,赤潮生物が産生する毒性因子に関する数多くの新知見を発表してきた。特に,シャトネラ赤潮では,原因藻の活性酸素産生酵素系が哺乳類の白血球の酵素系に類似していることや,細胞内の抗酸化物質によって原因藻自身が生産する活性酸素の毒性を低減させていることなどを,また,ヘテロカプサ赤潮では,原因藻が光依存性溶血毒素を産生することなどを明らかにした。さらに,赤潮対策として,魚類の生理学的状態を可能な限り正常に保つことが有効であることなどを提唱した。これら一連の研究は水産学の発展に寄与するばかりでなく,創薬などの応用が期待される。 |
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笠井亮秀氏「沿岸生態系における流動環境と物質循環に関する研究」
笠井氏は,沿岸域の物理現象とそれが海洋環境や生態系に及ぼす影響を,現場観測に数値シミュレーションを併用した手法を駆使して研究を進めてきた。特に内湾生態系の物質循環機構を,物理学・化学・生物学的なアプローチで,包括的に解明しようとしてきた点が高く評価される。一例を上げると,栄養塩収支やフラックスの変動を組み込んだ貧酸素水塊の形成機構や安定同位体分析によって分別評価した沿岸域における有機物のフローに関する研究は,学際的アプローチの成果であり,笠井氏の特筆すべき業績と言える。またマイワシなやマアジが大きな資源変動を繰り返す要因解明にも取り組み,笠井氏が開発したモデルが資源評価や予測にも用いられているところから水産業への貢献も大きい。 |
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古丸 明氏「二枚貝の細胞遺伝学的研究と育種技術開発」
水産上重要な二枚貝類の生理,生態,養殖技術については比較的多くの研究がなされてきたが,遺伝・育種に関する知見は乏しかった。この様ななか,古丸氏は二枚貝類の染色体と核型,受精と初期発生について精力的な研究を行い,雌雄同体のシジミ類が卵核を放出して,精子核のみで雄性発生により繁殖することなど多くの新知見を得た。さらに,アコヤガイの閉殻力が軟体部肥満度などの経済形質と相関する遺伝形質であることを解明し,優良系統育種の基礎を固めるとともに,真珠生産における挿核手術後の回復措置を技術化し,生産の向上に貢献した。以上の成果は二枚貝類の遺伝・育種研究の進歩に大きく貢献し,今後の発展が期待される。 |
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長島裕二氏「フグ類の体内におけるテトロドトキシンの動態に関する研究」
フグ毒に関する研究はわが国の研究者が先導的な役割を果たしてきたが,フグの毒化機構については明快な解がなかった。長島氏は,魚介類に含まれる自然毒,有害元素などを対象として食品衛生化学の観点から精力的に研究を推進し,水産食品の安全性確保に努めてきた。中でもフグ毒テトロドトキシン(TTX)については斬新なアイデアで研究を展開し,TTXのフグ類体内動態を明らかにするためのin vitro実験法を構築して,TTXトランスポーターの関与を提唱した点は高く評価され,今後の発展が期待される。また,TTXの蛍光HPLC検出法やTLC-質量分析法などを開発して,TTX研究の進展に大きく貢献し,これらの成果は,水産業や食品衛生行政に寄与するものである。 |
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良永知義氏「天然および養殖魚介類の寄生虫病に関する研究」
魚介類にとって病原性のある寄生虫の研究は,魚介類養殖を産業として展開するうえで極めて重要である。そのうえ,時には天然資源の動向をも左右するために,産業及び行政上の,ニーズは極めて高い。しかし,これら寄生虫に関する研究はこれまでに十分な蓄積がなされておらず,効果的な対策をとることができなかった。良永氏は,海産魚の白点病,アニサキス,ヒラメのネオヘテロボツリウム,アサリのパーキンサス原虫など広範囲な動物群を含む病原寄生虫の生理生態学的研究を進め,水産養殖現場のニーズに真正面から応えるとともに,基礎研究としても重要な知見を蓄積してきた。 |
水産学奨励賞 |
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糸井史朗氏「分子生物学的技術を応用した水生生物の生態学的研究」
近年の分子生物学的技術の発展にはめざましいものがある。糸井氏は,この技術を幅広く魚類と細菌の生態解明に適用して,分子生態学という新しい学問分野の創生に取り組んでいる。魚類ではメジナ類やムツ類を対象に近縁種間の分子生物学的種判別手法を確立し,種ごとの分布と集団構造の特性を解明した。細菌については,培養法では多くの海洋細菌が検出できないことを明らかにし,遺伝子分析技術の有効性を示すとともに,魚類腸管内や循環飼育濾材の細菌叢とその動態を明らかにした。これらの研究成果は生物多様性の保全から養殖環境管理まで,広く水産分野への応用に貢献するものである。 |
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岩田容子氏「ヤリイカ類の繁殖生態に関する研究」
岩田氏は,ヤリイカ類の大型ペア雄と小型スニーカー雄の2型に着目して,行動学,形態学,遺伝学的な観点から研究を進め,繁殖行動,繁殖器官の大きさと形態,受精成功率などにおいて2型間に明瞭な差異を認め,その差が種間で異なることを明らかにした。とくに精子形態に2型が存在し,それぞれの受精様式と受精成功率が異なるという知見は,全動物分類群の中で,機能する精子2型が同一種内に存在する世界初の報告である。この成果は,電子版サイエンスなどで紹介され世界的にも注目されている。これらの研究は生態学的な意義にとどまらず,イカ類資源の保全と持続的利用のための基礎として今後の展開が期待される。 |
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木下滋晴氏「ミオシン重鎖遺伝子の発現様式に基づく魚類筋形成の解析」
魚類の筋肉は速筋(普通筋)と遅筋(血合筋)が形態上,明確に分離するなど,いくつかの点で他の脊椎動物とは性質が異なり,筋発生,筋成長の謎を解く格好のモデルとして注目されている。木下氏は,魚類筋肉を対象に,筋形成と,筋肉の主要タンパク質ミオシンの重鎖サブユニット(myosin heavy chain, MYH)のコード遺伝子MYHの発現との関係を,トランスジェニック技術を用いて明らかにした。さらに,個々のMYHの発現制御機構に関する先駆的な知見をも得た。これらの成果は,肉質の改善や,高成長系統の選抜育種による効率的な魚類養殖などの資となるもので,これからさらに発展することが期待される。 |
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竹内 裕氏「精原細胞の異種間移植法を用いた水産有用海産魚類における代理親魚技術の確立」
サケ科魚類において開発・確立された精原細胞移植による代理親魚技術を大型食用海産魚に応用するため,主にニベとマサバを用いて,サケ科に比較すると,小型でハンドリングストレスに脆弱な海産魚仔魚腹腔内への同種および異種精原細胞の移植技術を検討し,ホストの生殖腺内に,ドナー由来の生殖細胞を生着させる技術を開発した。そして,この手法により,実際にブリ精子のマアジでの,トラフグ精子のクサフグでの生産が可能であることを実証した。以上の成果は海産魚における発生工学の確立と代理親魚技術の水産応用に大きく貢献し,今後の発展が期待される。 |
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筒井繁行氏「魚類体表粘液レクチンの多様性に関する研究」
レクチンとは糖と結合するタンパク質の総称で,細菌,植物,動物に様々なタイプが広く分布する。筒井氏は,トラフグの粘液からパフレクチンと名付けたレクチンを精製して構造決定し,この成分がユリ目植物のみで知られていた分子と相同性を示すユニークなレクチンであることを明らかにした。また,パフレクチンによる飼育水中の菌の排除という機能の推定も行った。その後,ヒイラギ,アナゴ,ガンギエイ,マゴチなどの粘液から次々とユニークな活性を示すレクチンを同定し,魚類の生体防御機構の解明に大きく貢献した。今後のますますの発展が期待される。 |