日本水産学会誌掲載報分要旨

一様流における養殖生簀用平面網地の流体力特性について

董 書闖,胡 夫祥(海洋大),熊沢泰生(ニチモウ),
塩出大輔,東海 正(海洋大)

 養殖生簀に使われているポリエチレン(PE)製の菱目と角目網地および金網を用いて水槽実験で流れに平行と直角な場合の抗力,および流れに傾けたときの PE 菱目網地と金網の抵抗を計測した。流れに平行な網地の抗力係数は PE 菱目網地,角目網地,金網の順に大きくなることと流れに直角な網地の抗力係数は PE 網地に比べて金網で 0.8-0.9 倍になることが確かめられた。さらに,PE 菱目網地および金網の抗力係数と揚力係数はレイノルズ数,網目係数と迎角の関数で表わすことができ,現場の生簀の挙動を予測するために利用できる。

日水誌,82(3), 282-289 (2016)

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太平洋道東沖マサバ資源調査に適した調査用流し網における目合の組み合わせ

佐藤愛美,東海 正(海洋大),
森 泰雄(JAFIC 道東),中明幸広(釧路水試)

 太平洋道東沖の資源調査に用いられる調査用流し網について,回復しつつあるマサバ資源のモニターに適した目合の組み合せを検討した。これまでの同調査結果を用いて目合別の選択性曲線を推定した。6・7 月と 9-11 月の調査時期間で選択性曲線に違いが認められ,胴での羅網過程を基に産卵後の肥満度の低下を要因としてその違いを考察した。また現在の目合の組み合せでは,尾叉長 300 mm 以上での採集効率の低下が著しく,大型個体の資源を過小評価する可能性がある。目合 82 mm と 106 mm の網を追加する改善策を提案した。

日水誌,82(3), 290-297 (2016)

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サケの雄親の回帰年齢が稚魚の初期成長に影響する可能性

安藤大成,下田和孝,隼野寛史,
宮腰靖之(道さけます内水試)

 サケの雌 5 尾(4 年魚)と雄 9 尾(3 年魚の雄 3 尾,4 年魚の雄 3 尾及び 5 年魚の雄 3 尾)を用いて総当たり交配を行い,稚魚の成長に影響する要因を雄親のサイズと年齢の違いから検討した。また,稚魚の体重に関する遺伝率の推定を行った。雄親の体重と稚魚の体重に明瞭な関係は見られなかったが,5 年魚の雄親から作出した稚魚の体重は 3 年魚や 4 年魚の雄親から作出した稚魚に比べて小さい傾向にあった。遺伝率は稚魚の成長に伴い高くなっていた。これよりサケの雄親の年齢は稚魚の成長に影響する要因の一つであると考えられた。

日水誌,82(3), 298-305 (2016)

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イセエビによるツマジロナガウニのサイズ選択的捕食

川俣 茂(水研セ水工研),田井野清也(高知水試),
宮地麻央(高知大農),中村洋平(高知大院黒潮)

 イセエビ(頭胸甲長 CL:59-93 mm)によるツマジロナガウニ(4 サイズ群:殻径 10-19,20-29,30-39,40-49 mm)の捕食を水槽実験で調べた。被食ウニの最大殻径は CL の増加に伴い増加した。サイズ群別のウニに対する捕食成功率(捕食個数/攻撃回数)は,CL に対して最小サイズ群でほぼ一様に高く(約 75%),最大サイズ群で低く(<11%),また中間の 2 サイズ群で CL の増加に伴い増加した。この結果は,大型(>40 mm)のウニでは大型イセエビでも捕食され難くなることを示唆する。

日水誌,82(3), 306-314 (2016)

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給餌水準を変えた飼育条件下におけるメガイアワビの生殖腺の体積変化

清本節夫(水研セ西海水研),村上恵祐(水研セ本部),
木村 量(水研セ本部),丹羽健太郎(水研セ増養殖研),
薄 浩則(水研セ増養殖研)

 飽食から無給餌までの 4 段階の給餌水準でメガイアワビを飼育し,生殖腺と中腸腺の体積,及び,足部湿重量を測定した。生殖腺の体積は 10 月に最大となり,給餌水準を反映した。中腸腺の体積と足部湿重量は実験開始後 11 月まで減少したが,その後,給餌区では給餌水準に応じて増加し,無給餌区ではほとんど増加しなかった。無給餌区においても生殖腺体積が増加し産卵も確認されたことから,蓄積された栄養のみで成熟が可能であると考えられた。

日水誌,82(3), 315-320 (2016)

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東日本大震災後の宮城県雄勝湾における垂下式養殖ホタテガイの水深による成育の違いと生産性の評価

長澤一衛,高橋大介,伊藤直樹,高橋計介,
尾定 誠(東北大院農)

 震災後の養殖生物の成育と生産性の評価を目的とし,復興過程における雄勝湾の海洋環境調査と,垂下養殖されたホタテガイの成育状況・生産量の調査を実施した。その結果,垂下連の上層(水深 5-11.5 m)と下層(水深 11.5-18 m)の個体で,餌料環境を反映したと考えられる成長差,いわゆる下層部の小型化が観察された。この下層部の成長停滞は,湾全体の生産量の増加によるものと考えられ,現在の雄勝湾の餌料環境では,増加する養殖施設数(収容数)に対して最良の成育を保障できない水準に移行していることが示唆された。

日水誌,82(3), 321-329 (2016)

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大阪湾における底質環境とマクロベントス群集―2003 年と 2011 年

辻野 睦,阿保勝之(水研セ瀬水研),
樽谷賢治(水研セ西水研)

 近年栄養塩低下が認められる大阪湾において 2003 年と 2011 年に,底質環境とマクロベントスを調査した。底泥の酸揮発性硫化物含量(AVS)は湾奥と湾中央部で 2011 年に低下したが,全有機炭素量(TOC)および全窒素(TN)については変化が認められなかった。マクロベントス現存量の分布および高次動物群組成に顕著な変化はなかった。秋季における湾最奥部の密度は,2003 年に対し 2011 年は半減した。2011 年には一部海域において種数が増加したが,近年の水質変化がマクロベントス群集の種組成に明瞭な変化を及ぼすまでにはいたっていないと考えられた。

日水誌,82(3), 330-341 (2016)

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ヒラメ肉低温貯蔵中の二相的な IMP 分解

呉 依蒙(北大院水・上海海洋大,中国),
張 佳琪(北大院水・浙江大,中国),
石 奇立(北大院水・上海海洋大),
蛯谷幸司(北大院水・道網走水試)
今野久仁彦(北大院水)

 0℃ 貯蔵中のヒラメ肉での IMP 分解は,初期は緩やかに,後期は急激に進行した。クロラムフェニコール(CP)添加で後期の急激な低下は消失し,初期の速度が保たれた。CP 添加の影響は10, 20℃ では認められなかった。魚肉の IMP 分解総活性は 0℃ 貯蔵後期に大きく上昇したが,CP 添加区では認められなかった。CP 添加で貯蔵後期の腐敗臭の発生は消失したので,貯蔵後期の急激な IMP 減少は腐敗原因菌由来の酵素による分解が関与していると結論した。

日水誌,82(3), 342-348 (2016)

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キダイ酢漬け魚肉の低温貯蔵に伴うドリップ生成に対する食塩の抑制効果と塩漬魚肉中の筋原繊維タンパク質の変化

奈須亮耶,松川雅仁,大泉 徹,加納竜一,
大田慎司(福井県大海洋生資)

 キダイ酢漬け魚肉のドリップ(D)生成に対する NaCl による抑制効果を塩漬魚肉中の筋原繊維(Mf)の生化学的性状の変化と関連づけて検討した。塩漬における NaCl 撒布量と塩漬時間に依存して酢漬け魚肉からの D の生成量は減少した。塩漬魚肉の SDS-PAGE 図型と Mf 回収量および Ca-ATPase 活性に塩漬による変化は見られなかった。一方,塩漬に伴い Mf 中のミオシンとアクチンの NaCl 溶解性は低下した。以上のことから,塩漬による D 生成の抑制は Mf の不溶化を伴う構造変化と関連して起こることが示唆された。

日水誌,82(3), 349-357 (2016)

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