日本水産学会誌掲載報文要旨

北海道石狩沿岸のガラモ場における魚類群集の食性

櫻井 泉,金田友紀,中山威尉,
福田裕毅(道中央水試),金子友美(日海生研)

 北海道石狩沿岸のガラモ場において,魚類の生息状況と食性を調べた。採集個体数と出現種数は春〜秋季に増加し,冬季に減少した。出現頻度の高かった魚種は,葉上性,底生性および浮遊性の多毛類,橈脚類,アミ類および端脚類を摂食していた。このうち,イソバテング,ハナイトギンポおよびカズナギでは餌種に大きな季節変化はなかったが,ムロランギンポ,クダヤガラ,アイナメおよびヨウジウオは成長に伴う餌種の変化がみられた。また,クロソイとエゾメバルは餌の現存量に応じて餌種を変えることが示唆された。

日水誌,75(3), 365-375 (2009)

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ハタハタ仔魚の外部栄養への転換,絶食耐性および絶食が仔魚の遊泳速度に与える影響

森岡泰三(水研セ北水研),
長倉義智(水研セ宮古栽セ),
村上直人,市川 卓,白藤徳夫,
福永恭平(水研セ北水研),渡邊精一(海洋大)

 ハタハタ仔魚の摂餌開始時期を調べ,絶食群と給餌群との間で卵黄吸収と体長,乾重量,遊泳速度,尾鰭の発達を比較した。さらに給餌飼育魚の日齢と飢餓耐性との関係を調べた。本種は 2 日齢に摂餌を開始するが 8 日齢まで主に内部栄養に依存しており,その後外部栄養への依存が増して 25 日齢前後に転換を果たすと推定された。卵黄の吸収完了期は飢餓耐性が最低となる。卵黄は飢餓耐性を保証する重要な要素であるものの,8 日齢を過ぎると絶食が成長,発育,遊泳速度に影響を与え始めるため,それまでに外部栄養を取り込むことが望ましい。

日水誌,75(3), 376-382 (2009)

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ハマチ Sariola quinqueradiata 養殖場における沈降粒子束

多田邦尚(香川大農),門谷 茂(北大院環境),
Veeraporn Suksomjit(香川大農),
広瀬敏一(香川大農),
一見和彦(香川大瀬戸内研セ庵治)

 ハマチ養殖場で計 21 回のセジメント・トラップ実験を行った。沈降粒子束は 2.52〜62.8 g/m2/day で,低水温期には暖水期よりも高かった。また,ドライペレット(DP)を使用した養殖場ではモイストペレット(MP)を使用した養殖場よりも沈降粒子束は低かった。さらに,ハマチが摂餌の際に飛び跳ねない方法で養殖された生簀の沈降粒子束は極めて小さかった。ハマチ養殖の際には,DP を用い,ハマチが摂餌の際に飛び跳ねない方法で養殖することにより,養殖場からの有機物負荷は軽減することができると考えられた。

日水誌,75(3), 383-389 (2009)

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線形モデルによるネット採集具の動特性の表現

米沢 崇,藤森康澄,清水 晋,木村暢夫,
三浦汀介(北大院水)

 水平曳きで用いられるネット採集具の動特性を,線形モデルを用いて分析した。まず FMT の操業データを用いて線形モデルを検証した。そして減衰係数や非減衰固有角周波数をネット採集具の仕様や操業条件の関数として表現し,ネット採集具の動特性を一般化した。その結果,通常想定される操業条件では過減衰となり,1 次系で近似できること,採集具の見かけ質量の値は動特性に対してはほとんど影響を与えないこと,採集具の水深変動の抑制にワープ倍率を小さく用いることが有用であることを示した。

日水誌,75(3), 390-401 (2009)

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船を考慮したネット採集システムの運動モデル

米沢 崇,藤森康澄,清水 晋,木村暢夫,
三浦汀介(北大院水)

 ネット採集システムの運動を,船の存在が考慮された形で表現することを試みた。このモデルでは従来,操作量として扱われることの多かった船速を状態量として扱うため,実システムにおける入出力関係をほぼ正確に表現できる。質点系モデルをラグランジュ方程式により記述し,システム要素のパラメータを仕様から求め当てはめた。北海道大学研究調査船うしお丸における FMT の実操業データを用いて検証をおこなったところ,モデルは曳網水深や船速の挙動を非常によく再現できることがわかった。

日水誌,75(3), 402-411 (2009)

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耳石日輪と 0 歳魚の体長別漁獲データから推定したクロマグロの産卵期別資源寄与率

伊藤智幸(水研セ遠洋水研)

 クロマグロ 0 歳魚資源への産卵期別寄与率を推定した。477 個体(尾叉長 17〜93 cm)の耳石日輪から推定した産卵期は,従来想定されたより長期の 3 月から 10 月までに及んだ。1993〜1997 年の日本の 0 歳漁獲魚は,月別体長組成と耳石日輪から推定した成長曲線との比較で 2 亜年級に分けられた。一つは 7 月上旬までに,おそらく台湾から南西諸島海域で生まれたもので,0 歳漁獲魚の多く(76%)を占めた。他方は 7 月中旬以降に,おそらく主に日本海で生まれたもので,0 歳漁獲魚の平均 24%,最大 40% を占めた。

日水誌,75(3), 412-418 (2009)

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耳石微量元素分析を用いた三重県加茂川におけるウグイの回遊履歴の推定

石崎大介(三重大院生資),大竹二雄(東大海洋研),
佐藤達也,淀 太我,吉岡 基,
柏木正章(三重大院生資)

 ウグイの回遊生態を明らかにすることを目的として,耳石 Sr:Ca 比を用いた回遊履歴推定を行った。飼育水の塩分を変化させる飼育実験から,高塩分環境で耳石(礫石)の Sr:Ca 比が上昇することが明らかとなった。また,三重県加茂川における産卵蝟集魚 94 個体のうち 93 個体が降海履歴を持つ事が明らかとなり,耳石半径と標準体長との回帰式より,降海時の体長は例外的な 2 個体を除いて 18〜152 mm と逆算された。さらに,年齢と体長組成に関する周年調査に基づき,これらの個体は当歳あるいは 1 歳で降海したと推定された。

日水誌,75(3), 419-424 (2009)

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実験池におけるオオクチバスの釣られやすさに見られる個体差

片野 修(水研セ中央水研)

 オオクチバスの釣られやすさに見られる個体差について実験池で調べた。1 日おきに 10 回調査したところ,1 回に釣られるバスの数は日ごとに減少した。個々のバスが実験期間を通して釣られた回数には 0〜8 回と大きな差があり,同じ個体が 1 日に 2 回釣られることも 3 例認められた。釣られた記録から,65 尾のオオクチバスのうち 34 尾は,用心深い個体(8 尾),学習する個体(10)尾,釣られやすい個体(16 尾)に分けられた。オオクチバスでは,釣られる危険に対する学習と用心深さや釣られやすさの個体差の両方が認められる。

日水誌,75(3), 425-431 (2009)

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陸奥湾におけるミネフジツボの繁殖・幼生分布・付着・初期成長

加戸隆介,鈴木潤也,鈴木祐二,
難波信由,小河久朗(北里大海洋生命)

 水産物としての利用が模索されているミネフジツボの養殖にむけた基礎的知見として,陸奥湾における本種の繁殖・幼生分散・付着・初期成長を調べた。本種は年 1 回の繁殖期をもち,卵巣の発達が先行するものの,成熟は精巣が早かった。成体は冬から春に植物プランクトンやデトリタスを摂食し,4 月頃までに卵黄が蓄積,夏期も発達は続き,秋に成熟して 12 月中旬に幼生を孵化させた。幼生は陸奥湾の東湾に滞留し,3 月頃までに付着が終了した。付着は全水深に及び,夏に成長は鈍化するが,付着後 2 年で殻底長径は 40〜45 mm に達した。

日水誌,75(3), 432-442 (2009)

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EPMA (Electron Probe Micro Analyzer)による塩分濃度の異なる水域で採集されたヤマトシジミ貝殻の Sr/Ca 比

古丸 明,尾之内健次,柳瀬泰宏,
成田光好(三重大院生資),
大竹二雄(東大海洋研沿岸セ)

 貝殻中 Sr 含量と生息地の塩分との関係を明らかにするため本研究を行った。小川原湖,宍道湖,神西湖,揖斐川産ヤマトシジミと壱岐産マシジミ貝殻の Sr/Ca 比と塩分との関係を調べた。高塩分神西湖産,宍道湖産 Sr/Ca 比の平均値は 8.06±0.30, 6.84±0.21 であった。一方,低塩分の小川原湖産では 3.68±0.18,淡水産マシジミでは 1.65±0.11 と値が低かった。これらの結果から,産地不詳シジミ類の貝殻 Sr/Ca 比から環境塩分の大まかな推定が可能であり,産地判別への利用が期待される。

日水誌,75(3), 443-450 (2009)

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ブリ属魚類由来 Streptococcus dysgalactiae の薬剤感受性(短報)

西木一生(宮崎大農),野本竜平(東大院農),
米村輝一朗,中西健二(宮崎水試),
平江多績,村瀬拓也(鹿児島水技セ),
伊丹利明,吉田照豊(宮崎大農)

 ブリ属魚類由来ランスフィールド C 群レンサ球菌症原因細菌 Streptococcus dysgalactiae のエリスロマイシン(EM),リンコマイシン(LCM),フロルフェニコール(FF),オキシテトラサイクリン(OTC)およびアンピシリン(ABPC)に対する薬剤感受性を調査した。調査の結果,EM, LCM, FF および ABPC に対して耐性と考えられる株は検出されなかった。OTC には,多くの株が耐性化しており,耐性遺伝子 tet(M)が耐性株から検出された。

日水誌,75(3), 451-452 (2009)

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水産練り製品中の脂質過酸化由来有毒アルデヒド,4-ヒドロキシヘキセナール及びマロンアルデヒド含量の変動(短報)

境  正(宮崎大農), 山口 徹(山口商店),
河原 聡(宮崎大農)

 水産練り製品製造中の脂質酸化の変動を明らかにするため,ちくわ及びかまぼこ中の 4-ヒドロキシヘキセナール(HHE)とマロンアルデヒド(MA)含量を測定した。スケソウダラより作成した冷凍すり身から,ちくわは焼きにより,かまぼこは蒸しにより作成した後,0℃ にて 2 日間貯蔵した。加工前後及び貯蔵期間中,ちくわ及びかまぼこの HHE 含量は有意ではないが増加した。加工後ちくわの MA 含量は有意に増加し,かまぼこの MA 含量は有意に減少した。貯蔵 2 日目にちくわの MA 含量は有意に減少し,かまぼこのそれは有意に増加した。

日水誌,75(3), 453-455 (2009)

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