日本水産学会誌掲載報文要旨

我が国のアサリ漁獲量激減の要因について

松川康夫,張 成年,片山知史(水研セ中央水研),
神尾光一郎(東京久栄)

 我が国のアサリ Ruditapes phillipinarum の総漁獲量は,1960 年には 10 万トンであった。その後,一部に漁場の埋め立てによる減少があったにも関わらず,1982 年には 14 万トンまで増加したが,1984 年から激減して,1994 年にはわずか 3 分の 1 程度(5 万トン)になり,その後もこの水準が続いている。著者らはアサリの生態や資源に関する報告を総括し,1984 年以降のアサリ漁獲量の激減の主要因を過剰な漁業活動,すなわち親貝と種貝用の稚貝に対する過剰漁獲と結論づけた。それ以外にも,周年の過剰操業による底質擾乱は,稚貝の生残率低下を助長した可能性が高いと考えられる。

日水誌,74(2), 137-143 (2008)

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シマアジ胚発生に及ぼす低酸素と高二酸化炭素の影響

澤田好史(近大水研),樋口和宏(近大院農),
芳賀 穣(海洋大),浦 和寛(北大院水),
石橋泰典(近大院農),
倉田道雄,宮武弘史,片山茂和(近大種苗セ),
瀬岡 学(近大水研)

 体節形成期シマアジ胚への低酸素・高二酸化炭素環境の影響を明らかにした。溶存酸素(DO)濃度 0 % の極端な低酸素,溶存二酸化炭素(DCD)濃度 120 mg/L の高二酸化炭素は,体節分節異常を誘導した。DO 25% の中庸の低酸素のみでは体節分節異常誘導はなかったが,DCD 120 mg/L の高二酸化炭素が併発すると分節異常が誘導され,その誘導率は DO 100%,DCD 120 mg/L の場合より高い傾向にあった。したがって,低酸素環境と高二酸化炭素環境が併発する場合,体節分節異常誘導の相乗的効果が認められる。

日水誌,74(2), 144-151 (2008)

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計量魚群探知機による冬季の北海道東部太平洋海域におけるスケトウダラ Theragra chalcogramma 未成魚の分布

志田 修(道栽水試),
三宅博哉,金田友紀(道中央水試),
石田良太郎(釧路水試),
宮下和士(北大フィールド科セ)

 冬季の道東太平洋海域におけるスケトウダラ分布と海洋環境の関係を調べるため,計量魚群探知機による音響資源調査を行った。スケトウダラは主として水深 150〜400 m,水温 2〜4℃ の大陸棚外縁部から大陸斜面域に分布し,水温 2℃ 未満の沿岸親潮水に覆われた大陸棚水域に魚群は観察されなかった。これらの結果から,沿岸親潮水の大陸棚への流入に起因する水温などの環境変化により,スケトウダラ未成魚が大陸棚から沖合方向へ分布をシフトすると考えられる。また,このような分布変化は未成魚期の生残に影響を与えると推測される。

日水誌,74(2), 152-160 (2008)

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新開発の測定器によるエチゼンクラゲ Nemopilema nomurai の傘径組成の測定

安田 徹(安田水産事務所),
豊川雅哉(水研セ中央水研)

 エチゼンクラゲを船上に取り上げないで,傘径を迅速に測定するための測定器を開発し,福井県美浜町の定置網で,傘径の変化を調べた。直接測定した場合と傘径の分布を比較したが,1 回の測定日を除いて平均値に有意差は認められなかった。本測定器を用いることで,エチゼンクラゲの傘径測定の時間と労力が大幅に節約された。傘径の変動を解析したところ,出現初期の 9 月上旬に最大で,それ以降は小さくなる傾向が得られた。

日水誌,74(2), 161-165 (2008)

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福岡県筑前海産褐藻アカモク Sargassum horneri の成熟と粘質多糖量の変化

黒田理恵子,上田京子,木村太郎,
赤尾哲之(福岡工技セ生食研),
篠原直哉,後川龍男,深川敦平,
秋本恒基(福岡海洋技術セ)

 これまでに我々は,福岡県産のアカモク Sargassum horneri についてフコイダン含有量の季節変動を検討し,フコイダン含量の変化と生殖器床の出現に密接な関係があることを示唆した。今回さらに詳細な検討を行った結果,フコイダンは大部分が生殖器床に含まれること,そして生殖器床の生長時期に増加し,配偶子の放出時期以降は減少していくことが明らかとなった。また,アカモクのフコイダンについて,糖組成及び硫酸基の量を解析した結果,雌雄間では顕著な違いが無いことが確認された。

日水誌,74(2), 166-170 (2008)

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ヒラメ天然魚における無眼側体色異常のパターンと出現頻度

冨山 毅,水野拓治,渡邉昌人,藤田恒雄(福島水試),
川田 暁(福島種苗研)

 ヒラメ人工放流魚の特徴として知られる無眼側体色異常は,天然魚でも生ずる場合がある。福島県の 4 つの市場において水揚げされたヒラメ天然魚について,体色異常状況をのべ 54 回調査した。観察した天然魚 10970 尾のうち,体色異常を呈したものは 130 尾,そのうち市場で放流魚として扱われたものは 29 尾であった。特に,尾部付近や胸鰭付近に黒化部分が生ずる場合が多かった。これらの天然魚を放流魚と区別するには,天然魚に生ずる体色異常の特徴の把握と背鰭鰭条数の計数が有効であった。

日水誌,74(2), 171-176 (2008)

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中国におけるドジョウ倍数体の分布に関する研究

李 雅娟(大連水産学院),
印  傑(湖北省水産科学研),
王 嘉博,袁  旭,魏  傑,
孫 効文(大連水産学院),荒井克俊(北大院水)

 日本のドジョウ集団では自然三倍体と自然二倍体クローンが低頻度で出現するが,中国産における倍数体ドジョウの分布には不明な点が多い。本研究では,染色体観察および DNA 量フローサイトメトリーにより検出した三倍体および四倍体と二倍体間で赤血球核径が異なることが分ったことから,赤血球測定を含め,中国 29 地点から得た合計 762 個体の倍数性判定を行った。その結果,6 地点で三倍体が 3.3〜6.7% の頻度で,また,4 地点で四倍体が 3.3〜16.7% の頻度で出現することが判明した。

日水誌,74(2), 177-182 (2008)

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マイクロサテライト DNA による鹿児島湾のマダイ天然魚と放流魚の遺伝的変異性の評価

宍道弘敏(北薩地振),
北田修一,坂本 崇,浜崎活幸(海洋大)

 3 種類のマイクロサテライト DNA マーカーを用いて,鹿児島湾の湾奥と湾央及び東シナ海と志布志湾から天然魚 4 標本及び湾内漁獲の放流魚 1 標本を用い集団遺伝学的解析を行った。全ての標本は HW 平衡にあり,天然魚 4 標本をまとめても HW 平衡にあった。湾奥と放流標本では他と比べアリル頻度に差があった。湾奥と湾央標本の平均へテロ接合体率及び平均アリル数は他の研究例と大差ない値を示した。湾奥標本のアリル頻度の差異は放流魚との交雑の影響を示唆するが,各群が相互に交流しているため,遺伝的多様性は保たれていると考えられた。

日水誌,74(2), 183-188 (2008)

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霞ヶ浦(西浦・北浦)における Microcystis 属の形態種組成と栄養塩濃度の関係

本間隆満,小松伸行,根岸正美(茨城霞環セ),
中村剛也,朴 虎東(信大理)

 Microcystis 属の形態種組成と窒素・リンの関係について西浦と北浦において検証した。Microcystis 属の対数増殖期においてリン制限(DIN:DIP>7)であった西浦では M. aeruginosa 1 種,窒素制限(DIN:DIP<7)であった北浦では M. aeruginosa, M. ichthyoblabe, M. viridisM. wesenbergii が観察された。これらの結果は,Microcystis 属の形態種組成が湖水中の窒素・リン濃度を反映している可能性を示唆する。

日水誌,74(2), 189-198 (2008)

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スケトウダラ冷凍すり身構成成分が加熱ゲルの物性に及ぼす影響

北上誠一,村上由里子(すり身協会),
小関聡美,加藤 登(東海大海洋),
新井健一(すり身協会)

 冷凍すり身の構成成分が二段加熱ゲルの物性に及ぼす影響について検討した。①すり身に水分または糖を添加すると加熱ゲルの破断強度(BS)とゲル剛性(Gs)の最大値は減少した。②タンパク質濃度が同じ加熱ゲル間では糖の増加(6.1→24.5%)により Gs 最大値は変わらずに BS 最大値は減少した。③タンパク質と水分濃度が同じ加熱ゲル間では糖の減少(7.7→3.7%)により BS と Gs の最大値は変らなかった。以上の結果は二段加熱ゲルの物性をその構成成分組成の調節で設定できることを示す。

日水誌,74(2), 199-206 (2008)

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清水さばの脂質含量と生態形質の季節変動―旬の解明の一考察―

五十川章子(高知大農),
山岡耕作(高知大院黒潮圏),森岡克司(高知大農)

 2005 年 12 月から 2006 年 11 月の間に漁獲した清水さばの成魚を,3 サイズに分け(400 g 以上 600 g 未満:中,600 g 以上 900 g 未満:大,900 g 以上:特大),それらの生態形質および背肉の脂質含量を測定した。産卵期は,メス個体の生殖腺熟度指数から 2 月中旬から 6 月頃と推測された。脂質含量は,中サイズでは成熟期に,特大サイズでは産卵期に減少し,いずれのサイズにおいても産卵終了後にそれらの含量が増加した。すなわち,全てのサイズで秋(9 月〜11 月)から冬(12 月〜2 月)に高い脂質含量を示した。このことから,清水さばの旬は秋から冬であると推察された。

日水誌,74(2), 207-212 (2008)

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水産練り製品中の脂質過酸化由来有毒アルデヒド,4-ヒドロキシヘキセナール含量(短報)

境  正,中村康宏(宮崎大農)

 市販の水産練り製品であるかまぼこ,ちくわ,おびてんおよびはんぺんの脂質過酸化由来有毒アルデヒド,4-ヒドロキシヘキセナール(HHE)含量および脂質過酸化の指標としてマロンアルデヒド(MA)含量を測定した。
 測定した半数以上のかまぼこに HHE は検出されなかった。ちくわの HHE 含量は製品間に差が認められた。イワシを含む製品中の MA 含量は含まないものに比べ高かった。エビを添加したおびてんの HHE 含量は他のものに比べ低かった。病人食として製造・販売されているはんぺんに HHE は検出されなかった。

日水誌,74(2), 213-215 (2008)

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ホタテガイ Patinopecten yessoensis 中腸線からのイオン交換法を用いたカドミウム回収方法の検討(短報)

齊藤貴之,古川崇博,蒲田博隆(八戸工業高専),
玉田正男(日本原子力開発機構高崎),
中居久明(青森県工総研セ八戸)

 ホタテガイ Patinopecten yessoensis 中腸腺からのカドミウム(Cd)除去法として,Cd イオンのリンゴ酸処理による溶出とイミノ二酢酸型グラフト重合捕集材による回収を組み合わせた処理法の最適化を検討した。操作因子は溶液の循環速度,温度,固液比(溶液体積に対する中腸腺質量の比)とした。操作因子を変化させて除去率を評価した結果,循環速度 38.8 mL/min では 50℃ 以上にすることで固液比に関わらず 24 h で 98% 以上の Cd を除去できることが明らかにされた。

日水誌,74(2), 216-218 (2008)

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